28 / 111
第一章
第28話 オルゴール
しおりを挟む翌日、今度はおやつを持って来てくれたマドレーヌさんを捕まえた。
もちろん、お母さんの話を聞くため。
「私は奥様がこのお屋敷にいらしてからしか存じませんが」
「それでいいの。お母さんのこと、なんでもいいから教えて」
この屋敷に暮らすようになったのは、お父さんが勇者となり、程なくして私が生まれた頃。
「私を始め、メイドもコックも山ほど屋敷におりましたが、奥様はお嬢さまのお世話をすべてご自分でなさっていました。ですが、産後の肥立ちが悪いようでしたので、微力ながら私も少々お手伝いさせていただきました」
「お母さん、そんなに具合が悪かったの?」
「奥様は気丈に振る舞っておりましたので、ほとんどの者は気が付かないようでしたが。私が気づいたときにも最初はお認めにならず、ようやく『誰にも言わないで。特にアルバートには』と強くおっしゃっておりました」
だから、お父さんはお母さんの体調に気づかなかったんだ。
心配させたくない気持ちはよくわかる。私もそういうタイプだったから。
でも『気づいてやれなかった』って言うお父さんの顔を見たら、言ってあげて欲しかったなと思う。勇者になったばかりでお父さんは忙しかったんだろうけど、わかっていたらきっともっとお母さんの傍にいたはずだから。
マドレーヌさんが潤んだ瞳で私を見つめた。
「お母さまは、お嬢さまのことをとても愛しておられましたよ」
私の両手を、マドレーヌさんが優しく包み込んでくれた。
「そうです。お嬢さま、お母さまのお部屋に入られてみませんか」
「お母さんの部屋!?」
「私が掃除する以外では誰も出入りしておりませんので、お母さまの遺されたそのままになっておりますよ」
「お父さんも、入ってないの?」
「ええ……あれから1度も」
お母さんの部屋。私の記憶にはまったくない。
思い出せるものがあるとも思えないけど、でもお父さんの心を慰められる何かが見つかるかもしれない。
「私、お母さんのお部屋行ってみたい」
「きっと、お母さまもお喜びになられますよ」
マドレーヌさんに連れて行ってもらったのは、入ったことのない角部屋だった。
扉を開けると、柔らかな陽の光がレースのカーテンから射し込んでいた。部屋にはアンティークのような机や椅子、キャビネットが置かれている。その上には細々とした小物が並んでいた。
そして部屋の正面には、額に飾られた大きな肖像画が飾られていた。親子3人、私たちの絵だ。
凛々しくも優しそうな顔つきのお母さんが、生まれたばかりに見える私を抱いている。その横に立つお父さんが、お母さんの肩に手を乗せて愛しげに私を見つめていた。
幸せな、家族の一コマ。
ここが、お母さんの部屋。
「机の引き出し、開けてもいい?」
「ええ、もちろん」
飾りのついた引き出しを開ける。万年筆や羊皮紙、髪飾り。お母さんが使っていたものが入ってる。
と、奥にクリーム色の箱が入っていた。そっと取り出すと、薔薇のカメオと華やかな装飾の宝石箱のようなものだった。
「まあ、それは……!」
マドレーヌさんが両手で口元を押さえた。
「そのオルゴールは、お母さまがお嬢さまに送られたものです」
「私に……?」
そっと開くと、中には3つの四つ葉のクローバーの飾りが入っていた。大きなクローバー2つと、それに守られているような小さなクローバー。
よく見ると、箱の後ろに小さなネジがあった。これ、もしかして……。
何度かまわすと、クローバーがゆっくり回転し始めた。それと同時に、メロディーが流れる。
オルゴールが奏でる懐かしい音色。
懐かしい? 何の曲か全然わからないのに。少なくとも前世の世界にあった曲じゃない。
ということは、赤ちゃんの頃の私が聞いた曲。お母さんに聞かせてもらった、オルゴールの音色だ。
「懐かしいですね」
マドレーヌさんが目を閉じて、オルゴールの曲に耳を傾けていた。
「いつもお嬢さまが眠るとき、お母さまがこのオルゴールを子守歌に流していらっしゃったのですよ」
「うん、覚えてる……気がする」
肖像画のお母さんの顔、オルゴールの音色。
それからこの部屋に残る、微かなぬくもり。まるで私を、抱きしめてくれているようだ。
「お母さん……」
13
あなたにおすすめの小説
異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
親友面した女の巻き添えで死に、転生先は親友?が希望した乙女ゲーム世界!?転生してまでヒロイン(お前)の親友なんかやってられるかっ!!
音無砂月
ファンタジー
親友面してくる金持ちの令嬢マヤに巻き込まれて死んだミキ
生まれ変わった世界はマヤがはまっていた乙女ゲーム『王女アイルはヤンデレ男に溺愛される』の世界
ミキはそこで親友である王女の親友ポジション、レイファ・ミラノ公爵令嬢に転生
一緒に死んだマヤは王女アイルに転生
「また一緒だねミキちゃん♡」
ふざけるなーと絶叫したいミキだけど立ちはだかる身分の差
アイルに転生したマヤに振り回せながら自分の幸せを掴む為にレイファ。極力、乙女ゲームに関わりたくないが、なぜか攻略対象者たちはヒロインであるアイルではなくレイファに好意を寄せてくる。
ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします
未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢
十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう
好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ
傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する
今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった
【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです
ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。
女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。
前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る!
そんな変わった公爵令嬢の物語。
アルファポリスOnly
2019/4/21 完結しました。
沢山のお気に入り、本当に感謝します。
7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。
2021年9月。
ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。
10月、再び完結に戻します。
御声援御愛読ありがとうございました。
追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす
yukataka
ファンタジー
王国随一の名門ハーランド公爵家の令嬢エリシアは、第一王子の婚約者でありながら、王宮の陰謀により突然追放される。濡れ衣を着せられ、全てを奪われた彼女は極寒の辺境国家ノルディアへと流される。しかしエリシアには秘密があった――前世の記憶と現代日本の経営知識を持つ転生者だったのだ。荒廃した辺境で、彼女は持ち前の戦略眼と人心掌握術で奇跡の復興を成し遂げる。やがて彼女の手腕は王国全土を震撼させ、自らを追放した者たちに復讐の刃を向ける。だが辺境王ルシアンとの運命的な出会いが、彼女の心に新たな感情を芽生えさせていく。これは、理不尽に奪われた女性が、知略と情熱で世界を変える物語――。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる