孤独な腐女子が異世界転生したので家族と幸せに暮らしたいです。

水都(みなと)

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第一章

第30話 懐かしい味

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 サディさんを誘い出して、お父さんと行ったお店は街の中心地からだいぶ離れたご飯屋さん。
「ご飯屋さん」なんて言っても、前世の日本でいうところの「料亭」だ。
 着物のような服を着た女将さんが丁寧に出迎えてくれ、畳敷きの部屋の障子を開けると、日本庭園に似た庭が広がっていた。
 料亭というか、むしろ旅館。
 こんな店を貸し切りなんて、相変わらず財力がすごい。

「サンリーブル国風の店か。アル、たまには良いとこ見つけるね」
「リリアが気に入ってた店なんだ。外国に旅した気分になれて良いだろう。一度アリシアも連れてきたかったんだ」

 お父さんたちにとっては外国に見えるこの雰囲気は、私にとっては懐かしい故郷の風景。
 いや、こんな豪邸には住んだことないけど。

 料理がくるまで、襖を開けて隣の部屋にも行ってみた。
 畳の上をゴロゴロ寝転がると気持ちいい。絨毯とは違う感覚と匂い。最高、持って帰りたい。
 床の間もあって、高そうな壺や掛け軸が飾ってある。横の襖をそっと開くと、布団が入っていた。ここ、本当に旅館にも使われてるのかも。

「こらこら、アリシア。少し大人しくしてなさい。汚したり壊したら大変だぞ」
「でも、あんなにはしゃいでるアリシアちゃん珍しいね。よっぽどここが気に入ったんじゃない?」

 異世界には慣れてきたけど、やっぱり日本の雰囲気が恋しかった。
 サディさんが『サンリーブル国』って言ってたけど、日本と似たような国なのかな。

「お父さん、お庭見て来てもいい?」
「もう食事がくるだろうから、少しな。服を汚さないように気をつけなさい」
「はあい」

 庭には砂利が敷き詰められ、歩くとザリザリと音がした。
 大きな石に囲まれた池には赤や白の鯉が泳いでいて、すぐ横には松の木があった。
 和む。癒される。
 やっぱり私、心は日本人のままなんだな。

 お父さんとサディさんは並んで縁側に腰掛けていた。
 バリバリ洋風のルックスをした2人が和室を背に座ってると、まるで異世界から日本に来た人みたい。

「この店、リリアさんが見つけたの?」
「妊娠して王都に戻ったときに偶然な。この雰囲気が静養になるようだったから、俺も何度か一緒に来たよ。いつか3人で来られたらと、言ってたんだが」
「そっか」

 ここからならギリギリ2人の声が聞こえる。
 池の鯉を見ている振りをしながら、いつものようにお父さんたちの声に耳をそばだてた。

「……アリシアに言われた。お母さんが死んだのはお父さんのせいじゃない。そう思ってたらお母さんが悲しむって」
「その通りだろ。俺も今まで100万回は言ったからな。ったく、アリシアちゃんの言うことじゃないと聞かねえんだから」
「悪い……」

 私なんかよりサディさんはずっとお父さんの近くにいたのに。
 近すぎて、届かない思いもあるんだ。

「リリアさんはさ、アリシアちゃんはもちろん、アルも幸せになることを望んでるよ。絶対」
「ああ、そうだな……ようやく俺も、前を向ける気がするよ」

 私もアシストしたけど、やっぱりお父さんの傍にいてお父さんを引っ張って行けるのはサディさんだけ。
 お父さんもやっと、そのことに気づいたはず。

「アリシアから聞いたんだが、サディが魔法をリリアに習ったのは……俺のため、なのか?」

 足をぶらぶらとさせていたサディさんがピタッと動きを止めた。それから、プッと吹き出す。

「まあね。リリアさんがパーティーを抜けたら、アルを守ってやれるのは俺だけだろ」
「お前は本当に、俺のことを考えてくれてるんだな」
「感謝しろよ」
「感謝してるよ」

 お父さんとサディさんが微笑み合った。
 なにこの良い雰囲気!
 立ち止まっていたお父さんが顔を上げれば、ずっと隣にいてくれたのは生涯のバディ。ここから2人で共に歩んでいく未来が始まって……

「お待たせいたしました。お食事をお持ちいたしました」

 女将さんの声に現実に引き戻された。

 部屋に戻って、座布団の上に座る。私の横にお父さん、テーブルを挟んで向かい側にサディさんだ。
 ご飯とお味噌汁、お刺身に天ぷら、茶わん蒸し、うどんまである。前世でだって、こんな豪華な和食食べたことない。
 お味噌や醤油、お出汁の味が身体に染み渡る。今の身体は和食初体験のはずなのに、口いっぱいに懐かしさを感じた。
 これがお袋の味。……前世のお母さん、料理なんてほとんどできなかったけど。

「ミソシルやテンプラは前にも食べたことあったけど、こんなにおいしいのは初めてだよ」
「サンリーブル料理は繊細だからな。ここのシェフはサンリーブルで長年修行し、本物の味が出せる。その辺で食べられるものとはレベルが違う」
「って、リリアさんが言ってたの?」
「……まあ、な」
「だよねー。アルがそんな繊細な舌持ってるわけないもん」

 ケラケラ笑い合う2人の会話を聞きながら、私はもくもくと箸を進めた。今だけは腐女子の萌えより食欲が勝つ。
 これから「好きな食べ物は?」と聞かれたら、絶対「サンリーブルの料理!」と答えよう。私、和食好きだったんだなぁ。

「アリシア。ハシで大丈夫か? スプーンとフォークを持って来てもらおうか」
「平気。ちゃんとお箸使えてるよ」
「アリシアちゃん、初めてなのに上手だね。さっきからセイザもしてるし、サンリーブルのマナー完璧じゃない。誰に教わったの?」

 う……いきなり順応しすぎたかもしれない。
 でも座布団があれば正座しちゃうし、箸があれば自然に使っちゃう。たどたどしくした方がいいこと忘れてた。

「で、でも、サディさんもお父さんもお箸使うの上手だね!」
「僕は何度か使ったことあるからね。アルは大丈夫? スプーンとフォーク頼む? 女将さーん!」
「頼むな! 普通に使えてるだろうが!」

 お父さんとの食事は楽しい。サディさんも一緒だともっと楽しい。
 ずっと3人で、こうして過ごしていけたらいいのにな。


 楽しい食事はあっという間に終わり……と思ったら、次はデザートがあるらしい。
 また和風のデザートかな。どうしよう、こんなに食べたら明日から和食以外受け付けなくなりそう。

「そういえばさ」とサディさんが湯呑の緑茶を飲みながら言った。

「この前、騎士団長にお見合いススメられたんだよね」

 お見合い!?
 と驚いたのは私だけで、お父さんは平然とうなずく。

「俺も何度も言われてる。お前のとこは子供もいるんだし、母親がいないと困るだろうってな」
「お父さんお見合いするの!?」

 思わず割り込んだ私に、お父さんが笑って頭を撫でてくれる。

「しないよ。再婚なんてするつもりはない。母親がいないと、なんて大きなお世話だ。お父さんはリリアの分までアリシアを愛してるからな」

 よかった。
 私のために新しいお母さんを、なんて困る。お父さんが本当に再婚したいならいいけど……いやよくないけど!
 でも心配いらない。お父さんとサディさんはもう相思相愛になったようなものなんだから。

「騎士団長からの話だから断りにくい上に、あの人しつこいんだよな。上手く断れたか?」
「来週会うことになったんだ」

 数秒間、部屋の時が止まった。

「……はっ!? 会うって、見合いするのか!?」
「うん。もう何度もススメられてて、毎回断るのも悪いから」
「いやいやいや、そんな気持ちで受けるもんじゃないぞ。その気がないなら、相手にも失礼……」
「まったく気がないわけじゃないよ。そろそろ俺もいい歳だし、結婚考えるのも悪くないかなって。騎士団長がススメる人なだけあって、しっかりした人みたいだし」

 お父さんが口を開けたまま固まってしまった。
 それは私も同じ。

 お見合い!? なんで!? サディさんはお父さんが好きなんじゃないの!?
 お父さんがずっとお母さんのことを想ってるから今まで遠慮してたのかと思ったけど、でもお父さんはやっと前を向けるようになって、だったらもう何も問題ないはずじゃない!

「失礼いたします。デザートをお持ちいたしました」

 女将さんが出してくれた抹茶アイスが、やたらと苦く感じた。

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