孤独な腐女子が異世界転生したので家族と幸せに暮らしたいです。

水都(みなと)

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第一章

第34話 本当の気持ち

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 サディさんの家は、レンガ造りの一軒家だった。
 まるでドールハウスみたいなオシャレな外観に、屋根の上には煙突が見える。
 ここでメイドさんやコックなども付けず、1人で暮らしてるらしい。

「お父さん、頑張ってね。私、外で待ってるから」
「あ、ああ……」

 お父さんを励まして、家の陰に隠れた。窓の下に屈んで、ドギマギしてるお父さんをそっと覗く。
 お父さんは不安気な顔で小さく息を吐き出してから、「よしっ」と気合を入れた。

 家の扉を叩くと、少ししてサディさんが顔を出した。

「あれ、アルじゃん。どうしたの急に」
「いや、ちょっと……話があって」
「なんだよ改まって。まあいいや、入んなよ」

 サディさんに招き入れられ、お父さんが家の中に入った。
 今度は背伸びをして窓を覗き込む。板張りの部屋は茶色や黒のシックな家具が並んでて、奥には暖炉が見える。

「なんか飲む? って、紅茶くらいしかないけど」
「別に、なんでも……」

 お父さんがギクシャクと椅子を引いてテーブルに着いた。そわそわして落ち着きがない。
 紅茶を運んできたサディさんが、お父さんの向かいに座る。

「アリシアちゃんは? お留守番?」
「あ、ああ。家にいる」

 ここにいるけどね。

 サディさんがお父さんに「関係ない」なんて言って不穏な空気になったのに、今日は全然そんなことない。
 にこやかにお父さんと話してて、この前のことが噓みたいだ。お父さんはあんなに気にしてたのに。

「で、話ってなに?」

 なかなか切り出さないお父さんをサディさんが促す。

「あ、いや、その……騎士団長から、何か言われたか?」
「お見合いのこと? 『また紹介してやるから』って言われてるから、そのうち声が掛かるかもね」
「……そう、だよな」
「俺のお見合いのこと、すっごい気にするじゃん。なんで?」

 サディさんの顔つきが変わった。お父さんの肩には、見てわかるほどにチカラが入ってる。

「……お前の見合い話を聞いてから、何故か胸の奥が燻ってるようだった。お前は生涯のバディで、幸せになってほしいと思ってたはずなのに。どうしてこんな気持ちになるのかわからなかった。でも、アリシアに言われて気づいたよ」

 顔を上げたお父さんが、サディさんを強い瞳で射抜いた。

「俺は、サディが好きだ」

 言えた! お父さん!
 思わず足元がよろける。つま先立ちはキツいけど、キューピットとしてちゃんと見届けなくちゃ。
 サディさんはというと、大きく目を見開いていた。

「は……なに言って……」
「俺は、今まで自分の気持ちを自覚してなかった。でも気づかなかっただけで、ずっと前からお前を好きだったんだと思う。騎士学校の頃から、旅の間も魔王を倒してからも、リリアが亡くなったときも、それから今も、ずっと傍で支えてくれた、サディを」

 サディさんは黙り込んで、何も言わなかった。
 しばらくの沈黙の後、お父さんが立ち上がる。

「突然悪かった。返事とか気にしなくていいからな。俺は気持ちが伝えられただけで十分だから」

 そう言って、そそくさとお父さんは帰ろうとしてる。
 ちょっと! 気持ちが伝えられただけで十分とか、なに言ってんの! そこが大事なのに!

 お父さんが出て行こうとした瞬間、サディさんがドンと後ろから扉に手をついた。
 背中越しの、壁ドン。

「告白するだけして返事も聞かないとか、ズルいんじゃないの?」
「いや、だって……」
「こっち向けよ」

 サディさんがお父さんの肩を掴んで、強引に振り向かせた。サディさんはじっとお父さんを見据えてるけど、お父さんは視線を床にさまよわせてる。
 お父さんの方が少し背が高いはずなのに、すごく小さく見えた。

「なんで返事聞かないの?」
「急にこんなこと言われたって困るだろ。サディは別に俺のこと……」
「アルって、俺のこと全然わかってないよね」
「っ、それは……」
「言いたいこと言えて満足? 本当に俺のこと考えるなら、その気持ち胸に秘めて黙ってようとか思わないわけ?」

 サディさんの目が冷たい。背筋が凍りそうだ。
 違うの、サディさん! けしかけたのは私で、お父さんは悪くないの!
 どうしよう。私めちゃくちゃ余計なことしちゃったかも。これでお父さんとサディさんの友情にヒビが入ったりしたら、私……

「俺はずっと、そういう気持ちだったんだけど?」

 え? と私とお父さんの声が揃う。

「俺はアルなんかよりずっと前から、アルのことが好きだったよ。でもアルはそんな風に俺を見てないことはわかってたから、黙ってたのに」
「え……え? だってお前、騎士学校の頃から女好き……」
「男だらけの中でゲイの噂立てられたら最悪だろ」
「でも、リリアと俺の仲を取り持って……」
「リリアさんと一緒になることがアルの幸せなら、俺はそれで良かったんだ。アルが幸せでいてくれることが、俺の幸せだから」

 サディさん……。
 やっぱりずっと前から、お父さんへの気持ちを胸にしまってきたんだ。お父さんのために。

 サディさんが俯いていたお父さんの顎を掴んで、顔を上げさせた。顎クイ。

「せっかく身を引いてやってたのに、そっちから迫ってきてさ。自分からきたら、もう逃げらんねえからな」
「に、逃げるつもりはない。俺はサディが好き……ッ!?」

 突然、サディさんがお父さんを抱きしめた。
 私は耳を窓にくっつけるようにして、必死に聞き耳を立てる。

「俺がずっと言えなかったこと。簡単に言ってんじゃねえよ」
「……悪かった。サディの気持ち、ずっと気づかなくて」
「アルに気づいてもらおうなんて思ってなかったよ。けどこれからは、隠す必要もないよな」

 ふっ、とサディさんの表情が緩む。
 少し身体を離して、お父さんを見つめた。

「好きだよ、アル。もう離せないから、覚悟しろよ」

 お父さんが、こくんとうなずいた。

 待って。この感じ、キスするんじゃない!? ヤダどうしよう! 腐女子としては絶対見たいけど、でもお父さんのキスシーンなんて娘が見ちゃダメな気がする!
 見たい、見ちゃダメ、どうすればいい!? どうしたらいいの!?

 私が窓の外でパニクってる間に、サディさんとお父さんの唇が、重なっていた。

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