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プロローグ
しおりを挟む黒いドレスに身を包み、黒いベールを被る。そのベールの先では、夫が眠る棺が運ばれていた。
シルヴァリー夫人と呼ばれた私は、結婚後1年も経たず、未亡人となってしまった。
没落貴族だった私は、運良くレナード・フォン・シルヴァリー伯爵に見初められ結婚した。夫にはまだ8歳になったばかりの息子がいて、どうかあの子の母親になってほしいと頼まれた。
もちろん「喜んで」と応えた私だが、正直息子のことなどどうでも良かった。私は両親から聞かされた没落する前の貴族暮らしに憧れていた。聞けば聞くほど、なぜ本来貴族令嬢であるこの私が貧乏暮らしをしているのかと、腹立たしさと世間への憎しみを抱いていた。
なんでもいい、私に相応しい地位を手に入れたかった。継母など息子をいじめるのではと周りには警戒されたが、いじめるのも面倒なほど息子のことはどうでも良かった。
結婚した当初「私を本当のお母様だと思ってね」と心にもないことを言う私の本心を見透かしたように、息子の薄紫の瞳は冷たかった。
それが「ロゼッタ・シルヴァリー」という、前世で私が読んでいたラノベのキャラクターだと、今この瞬間思い出した。
呆然とパニックを繰り返す私を、周りは夫が急死したからと思ってくれたようだった。実際、夫の死は青天の霹靂でまだ受け止めきれないでいることは事実だ。
しかし、そのショックにより思い出してしまった。ここはあのラノベの世界だと。
葬儀の傍ら、私から離れたところでじっと棺を見つめている少年。まだ幼い顔立ちを残す銀髪の少年は私の継子、リゼル・フォン・シルヴァリー。
ラノベの中では、所謂悪役令息だった。ヒロインに一方的に目をつけ、有無を言わさず攫って地下室に監禁した。それまでも多数の女性を攫っては自分の好きなようにし、気に入らなければ殺すということを繰り返していた。
そんなリゼルは物語のヒーローであるアルフレッドによって断罪。火炙りにより処刑された。
生前の私は、悪役が大好きだった。アニメでもラノベでもゲームでも、とにかく悪役推し。悪ければ悪いほど良い!
生前最後の私の最推しはリゼル推しだった。女に酷いことをするなど、なんて最低なやつだ。同情の余地はまったくない。最高だ。
しかし、処刑台の炎の中で死に絶える直前「なぜ、皆俺を侮辱する……!」と呟いた言葉が妙に胸に残った。本人のしたことを考えれば、処刑は妥当だ。同情はできない。
よく悪役が悪の道に進んでしまった過去など描写されることも多いが、リゼルは何も語られなかった。本人のセリフからも、過去篇や作者による裏話もなかった。
何が彼をこうさせてしまったのか。彼を救う手立てはなかったのか。そんなことを考えて、二次創作でも書こうかと思っていた。
それを書くまでもなく、私は突然の病により死んでしまったのだが。
だが、まさかリゼルの過去がこうして明らかになるとは思わなかった。恐らく父親の突然の死と、継母から冷たい態度を取られ続けたことが原因で歪んでいってしまったのだろう。
ラノベの挿絵で見たリゼルより、今の彼はずっと小さい。なんてあどけなく可愛らしいのだろう。推しという気持ちよりも、母性本能がムクムクと湧いてきた。
今ならば違う未来に導くことができるかもしれない。どうにかしてあげたいという、イチ読者としての願いが叶う。
それ以上に、この可愛い息子があんな惨たらしい処刑をされるなど考えたくもなかった。
この子を悪役令息になどさせない。
リゼルは、私が守る。
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