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第15話 行方不明
しおりを挟むリゼルをプレデビューに送り出してから、帰って来るまで胸騒ぎがして止まらなかった。
アンブローズさんとヴェインには「心配し過ぎだ」と宥められたが、そういう2人も不安そうにしていた。
それでもなんとか話し合いを済ませ、リゼルの帰りを待つ。あまりにも心配する私を気にかけて、2人ともリゼルが帰ってくるまで待つと言ってくれた。
しかし、いつまで経ってもリゼルが帰って来ない。外はもう日が暮れかかっていた。
「やっぱりおかしい。遅すぎます」
「初めてのパーティーなんだろう? 遅くまではしゃいでるんじゃないか?」
「いえ、パーティ自体は夜更けまで続きますが、プレデビューの子供たちはティータイム頃までしか出席を許されていないんです」
これが本当にただのプレデビューならば、アルフレッドと意気投合してパーティ―後にお喋りしているのでは……と思わなくもないが、あそこにはサイラスがいる。嫌な予感がする。
「やっぱり私、様子を見てきます!」
「あ、ちょっと!」
「今から屋敷に行くのかの?」
止めるヴェインとアンブローズさんを置いて、自室に戻ってケープを掴んだ。廊下に出ると、ちょうどメアリーがいた。
「メアリー、馬車を出すよう伝えてちょうだい。リゼルを迎えに行くわ」
「お、お待ちください奥様。お客様がいらっしゃっています」
「お客? どなた?」
「アルフレッド様です」
アルフレッド!?
慌てて玄関フロアへ出ると、アルフレッドが立っていた。どこか沈んだ表情をしている。
「アルフレッド、どうしたの?」
「突然申し訳ありません。僕、リゼルに謝りたくて……」
「え、でもリゼルはまだ帰っていないのよ。様子を見に行こうと思っていたの」
「リゼルは僕より先に帰りましたが」
アルフレッドが涼やかな目を丸くした。
リゼルはもう帰ってる? どういうこと?
とにかく、アルフレッドをアンブローズさんたちのいる応接室に通し、今日の話を聞いた。
リゼルと剣術の模擬試合をしたこと、負けたリゼルが周りにバカにされてキレてサイラスを突き飛ばしてケガをさせたと。
聞いてて眩暈がしてきた。あれほど挑発には乗るなと言っておいたのに。
「俺の眼鏡を踏みつけやがっただと!? ったく、ろくでもねえ親父だな。俺でもぶん殴ってやりたくなる」
「ヴェイン殿、落ち着きなされ。アルフレッド坊ちゃんの前じゃぞ」
「どうせマーウッド卿は最初からリゼルを怒らせるつもりだったんだろ。大方、たいしたケガでもないくせに大げさに包帯とか巻いて出てくるぞ」
「……先程父上が医師の診察を受けましたが、しばらくは車椅子が必要になると」
ほら見たことか、とヴェインが呆れたように両腕を広げた。
ヴェインの推測は当たっているだろう。サイラスが本当に親切でリゼルのプレデビューに付き合ってくれたわけがない。挑発してリゼルを怒らせようとするくらいは予想していたから、絶対にそれに乗るなと言っていたのに。
でも今はそんなことを考えてる場合じゃない。
「アルフレッド、ありがとう。あとは私たちでリゼルを捜すから、あなたは家に戻って」
「僕もリゼルを捜します!」
「ありがとう。でも大丈夫よ」
まだ何か言いたそうなアルフレッドをムリヤリ帰し、私たちは再び顔を見合わせた。
ふう、とヴェインが息を吐き出す。
「これはもう完全に間違いないな。あんたの旦那、リゼルの父親を殺したのはサイラスだ」
この5年間、私は夫の死について調べていた。夫は持病もなかったのに突然の急死、そして前日にサイラスと言い争っていた。
それだけの根拠しかなかったが、サイラスの周辺を徹底的に調べ上げた。ヴェインとアンブローズさんの人脈にはとても助けられた。貴族社会と繋がっている2人がいなければ、辿り着けなった真相。
夫・レナードが死ぬ前、何者かが毒薬を秘密裏に入手していた。何人もの手に渡って依頼主がわからないようしていたらしいが、それがサイラスの使者だと判明したのは最近のことだ。
伯爵の地位となった兄への逆恨みだと思っていたのだが、リゼルを攫ったとなると話が変わってくる。伯爵の地位を自分のもの、もしくはアルフレッドに継がせようとしているのかもしれない。
つまり、リゼルを殺すつもりだ。
「リゼルが危ないわ! すぐ助けに行かないと」
「待てよ。助けにってどこに?」
「きっとサイラスの屋敷よ」
「お待ちなさい、シルヴァリー夫人。サイラスの屋敷ということは、アルフレッドの家じゃろう。本当にリゼル坊ちゃんに危害を加えるつもりなら、もっと人知れぬ場所で隠蔽すると考えるが」
確かにアンブローズさんの言う通りだ。もしリゼルの誘拐監禁、ましてや殺害がバレたら伯爵の地位どころじゃない。自宅とは離れた場所でやるだろう。
でも、それなら一体どこに? サイラスの屋敷から離れていて、人目につかないような場所。
ふっ、と頭に前世で読んだ原作のラノベが蘇った。
「教会……」
え? とアンブローズさんとヴェインが顔を上げた。
「森の中に教会があるはずです。リゼルが監禁されているならそこに」
「森に教会なんてあったか?」
首を傾げるヴェインに、アンブローズさんが思い出すようにこめかみをトントンと叩いた。
「あったはずじゃ。小さな古い教会じゃから、最近はミサでも結婚式でも使う者は滅多におらんがの」
「そこです! すぐ行きましょう!」
「でも、なんでそんな場所あんたが知ってるんだ?」
ヴェインの疑問に、アンブローズさんも同じように不思議そうな顔をしている。
言えない。まさか原作ラノベではリゼルが攫ったステラを監禁していた場所だからなんて。
でもリゼルがサイラスに代わり、ステラがリゼルに代わったのだとすれば監禁場所はそことしか思えない。
「遠い昔にそこで結婚式を挙げたことのある知人から聞きました。リゼルがいる確証はありませんが、母親の勘と言うことで信じていただけないでしょうか」
腑に落ちない顔をしていたヴェインだったが、アンブローズさんが助け船を出してくれる。
「他に手がかりもない。夫人を信じましょうぞ」
「では、すぐに」
「俺も行く」
「えっ、ヴェインも?」
サイラスのことについて調べ始めた当初、面倒事に巻き込まれたくないとヴェインは言っていた。しかし私の説得に折れてくれ、なんとか協力してくれるようになった。
それなのに、着いて来てくれるなんて。
「そりゃ俺なんかが行っても役に立つとは思えないけどよ」
「いいえ、ありがとう。心強いわ」
「爺さんは待ってろ。さすがに足手まといになるからな」
「そうした方が良いようじゃな。代わりにこれを」
アンブローズさんが何か革袋をヴェインに渡した。
「役立つ薬が入っておる。使い方はのう……」
薬の手解きを受けたヴェインが、わかったと頷いた。
「行くぞ。馬の手配をしてくる」
と、ヴェインが部屋を飛び出して行った。
「アンブローズさん、いろいろありがとうございました」
「いや、まだまだ礼を言われるようなことはしとらんよ。それより、夫人にはこれを」
アンブローズさんに小瓶に入った液体を渡された。
「これは?」
「もし使える隙があったら使いなされ。これは……」
耳打ちされた言葉に、私はその小瓶を握りしめた。
「……わかりました。ありがとうございます」
「くれぐれも気を付けて。無茶はなさるな。あなたもリゼル坊ちゃんも、みんな無事でないといかんからの」
アンブローズさんに何度もお礼を言って、私はヴェインと共に森の教会へ向かった。
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