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エピローグ
あれから、私とリゼルはちょっとした有名人になってしまった。
サイラスと私たちのことは、当然貴族中の噂になった。そこから噂が噂を呼び、まるで物語のように人々に語られるようになった。
最近では吟遊詩人が私たちのことを唄ったり、芝居にまでなっているらしく、庶民の間でも話が広まっていると聞いた。
リゼルが街に遊びに行くと、アイドルのように周りに人だかりができるらしい。そしてそのリゼルの影響が思いもよらぬところに出た。
「今回は大変だったからな、俺からの餞別だ。お代はいらねえよ」
私が回復した次の日、ヴェインがリゼルに新しい眼鏡を持って来てくれた。それは細い紫色のフレームで、リゼルの紫の瞳にとても合っていた。
リゼルも気に入ってそれを掛けて街へ出かけるので「リゼル様の眼鏡かっこいい!」とブームになっているらしい。
吟遊詩人や芝居の中でもリゼルは母親想いの賢い子とされているので、眼鏡を掛けているのは賢い証だと今までと真逆の反応が生まれた。
驚くべきことに、メアリーまでもが眼鏡を掛けたいと言い出しだ。
「以前は眼鏡に対し、奥様に大変失礼なことを申し上げてしまいました」
と、丁重に謝罪されたことには驚いた。
一緒にヴェインの店に行き、赤いフレームの可愛い眼鏡を選んであげると「世界はこんなに輝いていたのですね」と、とても喜んでいた。
眼鏡を掛けて以降、メアリーはメイドとして今まで以上の仕事をしてくれた。将来はメイド長に、とメイドたちが話しているのも聞く。
メアリーのように眼鏡が欲しいと、皆ヴェインの店に殺到しているらしい。
「目が悪くないのに眼鏡売ってくれってやつまでいるんだぜ。大衆ってのはこうも簡単に手のひら返しやがるのか」
と言いつつ、ヴェインは嬉しそうだった。
そして、そんな賢いリゼルを育てた私も神格化されているという。母親が家事や育児をすることは大事なのだと、貴族の中で子育てをする母親が増えているらしい。
賢い子を育てた母として育児論を教えてほしい、講演会を開いてくれと何度か頼まれた。断ろうと思ったが、リゼルの後押しもあって何度か引き受けている。
前世の世界では当然の育児に対しての話をしただけなのだが、こちらの貴族社会では斬新なものだったようで評判は上々だ
お陰で孤立していた貴族社会にも居場所ができた気がする。話してみれば、中には陰口や噂好きな夫人ばかりではない。お互いの育児や家事の相談や情報交換をして、今はママ友として仲良くしている。
リゼルは友人としてアルフレッドとステラとも交流は続けているようだ。社交界にも積極的に参加し、同年代の友達もたくさんできたようだった。
今日は私とリゼルの予定はなく、久しぶりに一緒に街へ買い物に出ることにした。
「母上、帽子を被って行った方がいい。母上は有名人なんだから、騒ぎになったら大変だろう」
「大丈夫よ。有名なのはリゼルの方でしょう」
「いいや、母上は立派な母親だとみんな言っている。貴族だけじゃない、平民の間でも母上は理想の母親だと言われてるんだぞ」
もし本当にそうだとすれば、それは私の手柄じゃない。リゼルが立派に育ってくれたからこそだ。
「母上は本当にすごいよ。サイラス相手に命がけで俺を守ってくれた」
「子供のためにならなんだってできるのよ。母は強し、なの」
すっかり私の背を追い越したリゼルの頭に手を伸ばし、その銀の髪を撫でた。
「も、もう子供じゃないんだから。恥ずかしい……」
「いいじゃない。いつまでもリゼルは、世界一大切な私の可愛い息子よ」
恥ずかしがりつつも、リゼルは大人しく頭を撫でさせてくれた。
「大きくなったわね、リゼル」
「母上のお陰だ」
ニコッと笑い、リゼルが「さて!」と背筋を伸ばした。
「そろそろ行こう。母上と行きたいケーキ屋があるんだ。今大人気だって聞いたから、早くいかないと売り切れる」
「ありがとう、楽しみだわ」
リゼルが私に手を差し出した。手を繋ぎたいのかと思って握ると、リゼルが不満そうにあいた片手で眼鏡を押し上げた。
「そうじゃない。エスコートしているんだ」
「あら、そうだったの。ごめんなさいね。でも、久しぶりに手を繋ぎましょうよ」
「もー、今日は俺がカッコよく母上をリードするつもりだったのに、これじゃ格好付かない」
そう言いながらも、リゼルはそのまま手を繋いでくれた。
「そうだわ。帽子じゃなくて、眼鏡で変装しましょう。私用の眼鏡もヴェインが作ってくれたのよ。リゼルと同じ紫のフレーム」
「本当か!? やった! 母上とお揃いだ!」
その笑顔は、彼が初めて笑いかけてくれたあの時と同じだった。
リゼルもいつかは親離れしてしまうだろう。
でももう少しだけ、私だけの可愛い息子でいてね。
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ありがとうございました😊
ご感想ありがとうございます!
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一気読みしました。とても良かったです。
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アステリのパイのくだりで泣きそうになりました。農家さんの気持ちがうれしかった。それをリベルが…
その後の対応も含め、とても大事なシーンでしたね。
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