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四章 -近づく関係-
氷室 誠 四章③
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早希の部屋に行くために階段を上がっていると扉が開いているのか、早希の大きな声が響いてきた。俺は、相変わらず元気なやつだと少し感心する。
「それで、ここでね、主人公とヒロインがドーンってぶつかってね!主人公のハートがズキューンって感じになるの!!どう?面白いでしょ!?」
半開きの扉を足で開けながら部屋に入ると、早希が自分の漫画を身振り手振りを使いながら透に説明していた。
「おい、早希。せっかく透は頭が良いんだからアホ語で洗脳すんな」
早希は興奮すると幼稚園児レベルまで思考が退化するのでとりあえずストップを入れる。
「お兄ちゃんは黙ってて!女の花園の真っ最中なんだから。ねえ?透ちゃん」
「ふふっ。いいよ、私は楽しいから」
「それ日本語としておかしいからな?それと、透も甘やかすなよ。とりあえず、アイスと飲み物持ってきたから食べよう」
透は相当心が広いようで、俺が来るまで早希のアホアホトークをずっと聞いてくれていたようだ。
「わーい、アイスだ!」
さっきまで熱心に説明をしていた早希は、アイスを見た途端にそちらに興味を移した。
だが、アイスに伸ばしかけた手を掴み一度止める。
「最初はお客さんからだろうが。透はどれがいい?」
冷凍庫にあったのはフルーツバーのアイスだったのでレモン、オレンジ、桃の三種類をとりあえず持ってきた。
個人的には桃が一番好きだが、他のも好きなので別にどれでも良かった。
「…………じゃあ、私はこれかな」
透は少し俺達の顔を窺った後、レモン味のものを取った。オレンジは早希が好きなはずなので丁度良かったかもしれない。
「さすが透ちゃん!!気が合うね~。私、オレンジ大好きなの」
早希は当然俺の好きな味を知っているので迷わず、自分のアイスを取り食べ始める。
「……うん。気が合うね」
俺もアイスを取ろうとした時、ふと透の方を見ると、一瞬だが透の表情が陰ったような気がした。
でも、早希に絡まれつつ、今はさっきまでと同じように楽しそうに話している。
俺の、勘違いだったのだろうか。母さんがほとんど表情を変えない、もしくは変えても瞬くほどの間なので個人的にはその辺は鋭いつもりでいるが。
「まぁ、いっか。楽しそうだし」
早希の怒涛のトークを完全に聞き流しながら、俺はまるで姉妹のように楽しそうに話す二人を眺めた後、早希の部屋にある漫画を読み始めた。
◆◆◆◆◆
「お兄ちゃん!お兄ちゃんったら!」
呼ばれる声に顔を上げると結構な時間が経っていたようで二人がこちらを見ていた。
どうやら、過去最高傑作とやらは読み終えたらしい。
「どうした?」
「せっかく来たんだし、お兄ちゃんの部屋にも行こうってなったの」
「ああ、そういうことか。じゃあ、行くか。ゲームくらいしか無いけど」
立ち上がり、伸びをした後、自分の部屋に向かって歩き出す。
そういや、特に片付けてもないけどと思いながらも、まあいいかとそのまま案内する。
「ここが、俺の部屋だな」
そう言って自分の城に案内する。といっても他人にとっては普通の部屋だが。
「ここが、誠君の部屋か」
早希は見慣れているので後ろで欠伸をしているが、透はこの部屋が興味深いようでキョロキョロと周りを見渡していた。
「そんなに見るほど面白いもんじゃないとは思うが」
「ううん。すごく、楽しいよ。それに、なんか、見てると安心する」
「そうか?よくわからんが」
「うん。とっても誠君らしい、素敵な部屋だと思う」
ソフト系オタクらしい部屋ってことだろうか。感想は人それぞれ違うので何と言われても気にしないけど。
「とりあえず、ゲームでもする?」
「うん。でも初めてだけど大丈夫かな?」
俺のゲーム機のスイッチを勝手に押していた早希は透がゲームが初めてだと聞くと目を輝かせた。
「透ちゃんゲーム初めてなんだ~。じゃあ、私が色々教えてあげるよ」
「ほんと?ありがとう」
「任せて」
早希はそう言ってニヤッと笑うと、格闘ゲームのディスクを選んで差し込む。
「あっお前。いつも俺にボコボコにされてるから自分より弱い奴をカモにしようとしてるだろ」
「ちがうもーん」
「嘘つけ」
「ちゃんと教えるもーん。ね、透ちゃん。それならいいよね?」
「いいよ。あんまりよくわからないし」
「ありがとう。へっへっへっ」
明らかに三下の悪党のようなゲスイ顔をする早希と聖母のような優しい笑みを浮かべた透が対照的で、俺は人の格というものはなんて残酷なのだろうと天を仰いだ。
案の定というか早希は説明が下手クソ過ぎたので俺が代わりに透に教えていく。
「これが、弱攻撃で、こっちが強攻撃、で移動はこれ、逆向きにするとガード。必殺技とかはこの説明書の通りリズムよくボタンを押してくと出る。なんとなくわかるか?」
斜め後ろから覗き込むようにしてボタンを指しながら教えていく。
「う、うん」
もしかしたら、初めてゲームを触る人には難しかったのかもしれない。過度の集中からか、透は体をこわばらせ、さらには顔も赤くさせながらキャラをたどたどしく動かす。
「とりあえず、一回やってみるか?」
「…………あと一回だけ教えて貰ってもいい?同じ風に」
「わかった。じゃあ、もう一回な」
先ほどと同じように、透に教え、それが終わると透の体はかなり熱を放っていた。
クーラーが効いているはずなのに、とても暑そうだ。可哀想なので設定温度を少し下げようとリモコンを取った時、何故かニヤニヤする早希と目が合った。
「どうした?」
「別にー。お兄ちゃんもなかなかやるなーと思って」
「は?もともとゲーム得意だろうが」
「いや、そうじゃなくて……まっお兄ちゃんにはまだ早かったか。やれやれ」
やれやれを本当に言っている奴を初めて見たような気がする。
「ほら、アホ言ってないでお前もコントローラー持て。最初くらいは手抜いてやれよ?」
「わかってるよ」
たぶん、集中して本気出しちゃうんだろうなと思いつつ念のために伝えておく。
最悪、後で俺がやる時に上手く調整すればいいかと思いながら。
「じゃあ、透ちゃんいくよ」
「よろしくね」
そして、ゲームが始まった。案の定早希はゲームに集中しているようでマジモードだ。普通に三ラウンドあるうちの一つ目を勝ってしまった。
だが、このままストレート勝ちかなと思っていた次のラウンドは透の動きが各段によくなっていき、僅差とはいえ押し勝つ。
「すごいな。要領がいいというかなんというか」
「ふふっ。ありがとう」
「く・や・し・い!早く次やろ次!」
最後のラウンドが始まると、透のキャラの動きは更に洗練されたようで、相手キャラの体力ゲージをどんどん削っていき、やがてK.O.した。
「ほんとすごいわ。こいつ弱いは弱いけど、それなりにこのゲームやってるのに」
早希は正面からぶつかるばかりで搦手を一切つかわないので弱いが、それでも長くやってるだけあってそれなりにはできるのだが。
目の前で灰になっている早希を見つつ、透を見ると少し得意げな顔をしていた。
「ふふっ。楽しいね」
しばらく呆然としていた早希は、急に俺の方を向き涙目で泣きついてきた。
「兄えもーん。透ちゃんが意地悪するの。仇を討ってよ~」
「はいはい。わかったから離れろ。暑いし」
「ちゃんとメッタメタのギッタギタにしてね」
「なぁ。それジャイアンの台詞じゃなかったっけ?まぁ、いいや。じゃあ、次は俺とやるか」
「うん。よろしくね、先生」
「ああ、よろしくな、弟子よ」
冗談を言いあいつつ、俺はコントローラーを握った。
先達として、ゲームの楽しさと厳しさを同時に彼女に教えてやろうと思って。
「それで、ここでね、主人公とヒロインがドーンってぶつかってね!主人公のハートがズキューンって感じになるの!!どう?面白いでしょ!?」
半開きの扉を足で開けながら部屋に入ると、早希が自分の漫画を身振り手振りを使いながら透に説明していた。
「おい、早希。せっかく透は頭が良いんだからアホ語で洗脳すんな」
早希は興奮すると幼稚園児レベルまで思考が退化するのでとりあえずストップを入れる。
「お兄ちゃんは黙ってて!女の花園の真っ最中なんだから。ねえ?透ちゃん」
「ふふっ。いいよ、私は楽しいから」
「それ日本語としておかしいからな?それと、透も甘やかすなよ。とりあえず、アイスと飲み物持ってきたから食べよう」
透は相当心が広いようで、俺が来るまで早希のアホアホトークをずっと聞いてくれていたようだ。
「わーい、アイスだ!」
さっきまで熱心に説明をしていた早希は、アイスを見た途端にそちらに興味を移した。
だが、アイスに伸ばしかけた手を掴み一度止める。
「最初はお客さんからだろうが。透はどれがいい?」
冷凍庫にあったのはフルーツバーのアイスだったのでレモン、オレンジ、桃の三種類をとりあえず持ってきた。
個人的には桃が一番好きだが、他のも好きなので別にどれでも良かった。
「…………じゃあ、私はこれかな」
透は少し俺達の顔を窺った後、レモン味のものを取った。オレンジは早希が好きなはずなので丁度良かったかもしれない。
「さすが透ちゃん!!気が合うね~。私、オレンジ大好きなの」
早希は当然俺の好きな味を知っているので迷わず、自分のアイスを取り食べ始める。
「……うん。気が合うね」
俺もアイスを取ろうとした時、ふと透の方を見ると、一瞬だが透の表情が陰ったような気がした。
でも、早希に絡まれつつ、今はさっきまでと同じように楽しそうに話している。
俺の、勘違いだったのだろうか。母さんがほとんど表情を変えない、もしくは変えても瞬くほどの間なので個人的にはその辺は鋭いつもりでいるが。
「まぁ、いっか。楽しそうだし」
早希の怒涛のトークを完全に聞き流しながら、俺はまるで姉妹のように楽しそうに話す二人を眺めた後、早希の部屋にある漫画を読み始めた。
◆◆◆◆◆
「お兄ちゃん!お兄ちゃんったら!」
呼ばれる声に顔を上げると結構な時間が経っていたようで二人がこちらを見ていた。
どうやら、過去最高傑作とやらは読み終えたらしい。
「どうした?」
「せっかく来たんだし、お兄ちゃんの部屋にも行こうってなったの」
「ああ、そういうことか。じゃあ、行くか。ゲームくらいしか無いけど」
立ち上がり、伸びをした後、自分の部屋に向かって歩き出す。
そういや、特に片付けてもないけどと思いながらも、まあいいかとそのまま案内する。
「ここが、俺の部屋だな」
そう言って自分の城に案内する。といっても他人にとっては普通の部屋だが。
「ここが、誠君の部屋か」
早希は見慣れているので後ろで欠伸をしているが、透はこの部屋が興味深いようでキョロキョロと周りを見渡していた。
「そんなに見るほど面白いもんじゃないとは思うが」
「ううん。すごく、楽しいよ。それに、なんか、見てると安心する」
「そうか?よくわからんが」
「うん。とっても誠君らしい、素敵な部屋だと思う」
ソフト系オタクらしい部屋ってことだろうか。感想は人それぞれ違うので何と言われても気にしないけど。
「とりあえず、ゲームでもする?」
「うん。でも初めてだけど大丈夫かな?」
俺のゲーム機のスイッチを勝手に押していた早希は透がゲームが初めてだと聞くと目を輝かせた。
「透ちゃんゲーム初めてなんだ~。じゃあ、私が色々教えてあげるよ」
「ほんと?ありがとう」
「任せて」
早希はそう言ってニヤッと笑うと、格闘ゲームのディスクを選んで差し込む。
「あっお前。いつも俺にボコボコにされてるから自分より弱い奴をカモにしようとしてるだろ」
「ちがうもーん」
「嘘つけ」
「ちゃんと教えるもーん。ね、透ちゃん。それならいいよね?」
「いいよ。あんまりよくわからないし」
「ありがとう。へっへっへっ」
明らかに三下の悪党のようなゲスイ顔をする早希と聖母のような優しい笑みを浮かべた透が対照的で、俺は人の格というものはなんて残酷なのだろうと天を仰いだ。
案の定というか早希は説明が下手クソ過ぎたので俺が代わりに透に教えていく。
「これが、弱攻撃で、こっちが強攻撃、で移動はこれ、逆向きにするとガード。必殺技とかはこの説明書の通りリズムよくボタンを押してくと出る。なんとなくわかるか?」
斜め後ろから覗き込むようにしてボタンを指しながら教えていく。
「う、うん」
もしかしたら、初めてゲームを触る人には難しかったのかもしれない。過度の集中からか、透は体をこわばらせ、さらには顔も赤くさせながらキャラをたどたどしく動かす。
「とりあえず、一回やってみるか?」
「…………あと一回だけ教えて貰ってもいい?同じ風に」
「わかった。じゃあ、もう一回な」
先ほどと同じように、透に教え、それが終わると透の体はかなり熱を放っていた。
クーラーが効いているはずなのに、とても暑そうだ。可哀想なので設定温度を少し下げようとリモコンを取った時、何故かニヤニヤする早希と目が合った。
「どうした?」
「別にー。お兄ちゃんもなかなかやるなーと思って」
「は?もともとゲーム得意だろうが」
「いや、そうじゃなくて……まっお兄ちゃんにはまだ早かったか。やれやれ」
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「ほら、アホ言ってないでお前もコントローラー持て。最初くらいは手抜いてやれよ?」
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たぶん、集中して本気出しちゃうんだろうなと思いつつ念のために伝えておく。
最悪、後で俺がやる時に上手く調整すればいいかと思いながら。
「じゃあ、透ちゃんいくよ」
「よろしくね」
そして、ゲームが始まった。案の定早希はゲームに集中しているようでマジモードだ。普通に三ラウンドあるうちの一つ目を勝ってしまった。
だが、このままストレート勝ちかなと思っていた次のラウンドは透の動きが各段によくなっていき、僅差とはいえ押し勝つ。
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最後のラウンドが始まると、透のキャラの動きは更に洗練されたようで、相手キャラの体力ゲージをどんどん削っていき、やがてK.O.した。
「ほんとすごいわ。こいつ弱いは弱いけど、それなりにこのゲームやってるのに」
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目の前で灰になっている早希を見つつ、透を見ると少し得意げな顔をしていた。
「ふふっ。楽しいね」
しばらく呆然としていた早希は、急に俺の方を向き涙目で泣きついてきた。
「兄えもーん。透ちゃんが意地悪するの。仇を討ってよ~」
「はいはい。わかったから離れろ。暑いし」
「ちゃんとメッタメタのギッタギタにしてね」
「なぁ。それジャイアンの台詞じゃなかったっけ?まぁ、いいや。じゃあ、次は俺とやるか」
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