人の心が読める少女の物語 -貴方が救ってくれたから-

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五章 -触れ合う関係-

透スペシャル

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 透の準備が終わり、店を開店すると思った以上にお客が入り始め、昼のピーク時には行列ができるほどになっていた。


「ビールが三、コーラが一、それに焼きそば四、ホタテが二ですね?お代は五千六百円になります。はい、ありがとうございます」

 
 注文を復唱する際、遥さんと透に聞こえるように少し大きめの声を出すと二人が動き出すのが見えた。
 最初はぎこちなかったが、だんだんとお互いの連携が取れてきたのが実感できてちょっと楽しい。 
 
 そして、俺が厨房から見える位置に伝票をピンでとめると、透が確認のためにこちらに近づいてくる。


「透!」

「ん?なに?」


 最初はもっと明瞭に聞こえていたようだが、やはり混み合ってくると雑音が多く混じるようになって聞こえづらいのだろう。厨房の奥から何度か伝票を確認しに来ていたのが見えた。

 だから、俺は自分の胸のあたりを指で指し示しながら伝える。


「なんなら、こっち見てもいいからな」


 誰かに聞こえてもいけないので、ぼかしながらそう言うと、一瞬キョトンとしたような透は、だんだんとその意味が分かってきたのかこちらに花が咲いたような笑顔を向けた。


「ふふっ、ありがとう!」

「どういたしまして」
 
 
 どうやら、うちの料理長はちょっぴり元気を取り戻してくれたらしい。
 なら、こっちも頑張らないとな。

 俺は深呼吸をして気合を入れると、再び客を捌(さば)き始めた。








◆◆◆◆◆




 


「あー疲れたー」


 昼もすっかり終わり、一時的に客がいなくなったタイミングで遥さんが机にへばりついた。
 とてもだらしない姿ではあるが、気持ちはとてもよく分かる。


「ははっ。ホント疲れましたね。いつもこんな感じなんですか?」

「いや、ここまでじゃない。料理が出るのが明らかに早かったのと美味かったからだと思う。こんだけ人の距離が近いと口コミなんて一瞬で広がるし、行列出来ると余計客も寄ってくるしな」

「そういうもんなんですか。すごいですね」

「まっ、この調子でいけばバイト代は期待してくれていいよ」

「ほんとですか?ラッキー」
 

 お店の場所代や材料費もあるのだろうが、意外に儲かるなというのが正直なところだった。
 どれくらい貰えるかは分からないが、ある程度儲けを上乗せしてくれそうなのはとても有難い。


「おーい、透!なんか作ってくれよ。その後は休憩してくれていいし」

「やった!じゃあ、パパっと作っちゃうよ。誠君は何がいい?」

「えー、私が一番じゃないのかよ。これでも店主なんだけどな~」

「どうせいつものなんでしょ?」

「そうそう!私のは透スペシャルでよろしく」

「はいはい」


 何やら面白そうなフレーズが出てきて気になる。そんなものはメニューに無いので特別なものなんだろう。


「その透スペシャルってなに?」

「冷やし担々麺みたいなやつかなー。ひき肉とかは無いから、なんちゃって坦々みたいな感じなんだけど」

「冷やし担々麺か……響きだけでもうなんか美味そう。じゃあ、俺もそれにしようかな」

「わかった。ちょっと待っててね」

  
 そして、透が厨房に戻って遅めの昼食を作っている間、俺と遥さんは椅子に座ってぼーっとして過ごす。
 気づくと、入り口には一時閉店という看板が立てられており完全に休憩時間にするようだった。


「あー、ビール飲みたい。ちょっとだけ飲んでもいい?」

「ははっ、ダメですよ。どうやって帰るつもりなんですか」

「だよなー。早く帰って一杯やりてー」


 まだお酒というものはわからないが、親父も疲れて帰ってくると飲んでたりするのでそんだけ美味しいものなのかもしれない。
 母さんはジュースのが美味しいというので個人差はあるのだろうけど。


「でも、七時まで営業するんですよね?」

「まぁ、そうなんだけどさ。悪いな、夜まで手伝って貰って」

「いえ、ぜんぜんいいですよ。おばあさんには少し申し訳ないですが」

「まぁな。でも、透が行くって伝えても特に何も言わなかったんだろ?」

「そうなんですけどね」

「なら、いいんだよ。あのばあさんは自分が気に入らないことは絶対ダメだって言うからな」


 そこだけがちょっと気になっていたが、ずっと昔から関わりのあるらしい遥さんが言うならそうなのだろう。なんとなく、安心した。


「けど、誠も大変だな。ばあさん、めっちゃ面倒くさいだろ?」

「そうですか?すごく優しい良い人だと思いますけど」

「いや、そりゃ優しいには優しいんだけどさ。ぜんぜん平気なのか?けっこー口悪いし、キツイこと言うだろ。ずっと不機嫌そうな顔してるし」

「あー確かに、それはあるかもしれません。でも、ほとんど気にならないですね」

「お前ほんと変わってんなぁ。大人びているというか、達観してるというのか。今日も初日なのに淡々と仕事こなしてたし」

「自分じゃよくわかりませんけど、もしかしたら、家族に変わった人がいるからかもしれません」


 我が家は親父と早希が無茶苦茶やるので並大抵のことでは驚かない気がする。
 なんだかんだ止めきれず、母さんと二人で呆れるというのがデフォなとこもあるし。


「へー、そうなのか?」

「はい。急に飛行機に乗りたいとか言いだして北海道行ったり、家に帰ると突然ハロウィン仕様になっていたりとハチャメチャなことやる人が二人もいるので」

「あははっ、そりゃ面白い。でも、それならちょっとやそっとじゃ動揺しなくなるのかもな」

「そうなんですよ。ある意味英才教育ですよね」

「あははははっ。英才教育!確かにそうだ」


 そうやって二人で笑いながら話しているうちにどうやら、透は昼食を作り終えていたらしい。
 少し大きな音を立てて皿が机に置かれる。


「ありがとうな」

「………………」


 どうやら、透だけ働かせて喋っていたことを少し怒っているようだ。
 遥さんを一応見るが、彼女はやはりというべきか、私の担当ではないとでもいうようにそのまま箸に手を付けてしまった。


「いただきます!うはぁ、最高!!」

 
 麺を啜る美味しそうな音が反対側から響く。俺も早く食べ始めたいのだが、不機嫌そうな透がこちらをジッと見つめてくるので何かしら対応しなくてはいけないのだろう。


「あー…………そうだ。声、ちゃんと聞こえたか?」

 
 何を話すか悩んだが、気になっていたことを透に尋ねることにする。
 どのように心の声が聞こえているかわからなかったので、注文を頭に思い浮かべながら仕事していたのだがちゃんと伝わっていたのだろうか。


「…………うん。ちゃんと、届いてたよ」


 どうやら、その質問は悪くなかったようだ。透はふっと思い出したように微笑むと、優しい声でそう答えてくれた。


「そうか。それなら良かった」

「うん」

「じゃあ、美味そうだし食べてもいいか?」
 
「どうぞ」

「いただきます」

 
 目の前からは胡麻の香ばしい匂いが薄っすらと漂っている。
 そのまま、箸で麺を摘まみ、一口啜ると、程よい辛さのスープが口の中に染みわたり、さらに食欲は増していった。
 
 
「美味い!!」

「ふふっ。ありがとう」
 
 
 小気味のよい感触のもやし、味の染み込んだほうれん草、それに辛みに小休止を入れるさっぱりとした鶏肉。

 スープはピリッとした辛味とまろやかな甘みが高次元で調和しており、正に旨辛というのが相応しい表現だろう。
 
 気づくと皿には何も残っておらず、スープまで飲み干してしまっていた。
 
 
「ごちそうさま。ほんとに美味かったよ」

「お粗末様でした。あはっ、口に胡麻が付いてるよ」

「え?どこ?」

「あ!ちょっとじっとしてて」

 
 自分の顔に手をやろうとした瞬間、透の白魚のような指先が俺の口元をなぞるようにゆっくりと動いていき、最後に彼女の口に辿りつく。
 

「ふふふっ。うん、ちゃんと美味しいね」
 
「あ、ああ」


 同じものを食べているはずの透は、何故かその味を確かめるように自分の唇を舌で舐め取っている。

 俺は、その光景に何とも言えない胸のざわめきを感じつつ、ただそう答えることしかできなかった。
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