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五章 -触れ合う関係-
過去と今
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掃除を終え、縁側でせんべいをかじりながら麦茶を飲んで休んでいた時、特有のエンジン音が近づいてきていることに気づいた。
恐らく、透たちが買い物から帰ってきたのだろう。
「ただいま!」
そして、透の大きな声が玄関の方から響くのと同時に廊下を走るような音が聞こえ、透がこちらに抱き着いてきた。
「おっと!気をつけてくれよ?倒れそうだったじゃないか」
あまりの勢いに、思わずたたらを踏んでしまうもなんとか気合で踏ん張る。
だが、火照った体が密着して、正直かなり暑い。
「誠君!ただいま!!」
「……ああ、おかえり」
しかし、そのまま向日葵のような笑顔をこちらに向けてくる透を見ていると、文句を言う気持ちは全くなくなってしまい、苦笑だけが漏れ出る。
「楽しかったか?」
「うーん、あんまりかな。でも、ハル姉がバーベキューやろうって言いだして、いっぱいお肉とか買って来たよ」
バーベキュー、それはとてもいい。
昼間は素麺とか淡白なものが多かったので、正直物足りなかったのだ。
「いいな、それ」
「でしょ?たぶんおばあちゃんはまたなんか言うと思うけど」
「まぁ、いつものことじゃないか」
「ふふっ。だね」
なんだかんだ言いつつも、本当にダメなこと以外は大概許してくれる人だ。
恐らく、今回も遥さんがゴリ押してやることになるのだろう。
「じゃあ、とりあえず外行って準備するの手伝うかな」
俄然やる気が出てきた俺が、空いたグラスを台所に持っていくため歩き出すと隣を透がついてくる。暑いので距離を取ろうとするが、付かず離れずの距離を絶妙に維持してきて呆れてしまう。
本当に、無駄なことばかりうまくなるやつだ。
「まぁ、だいたいはハル姉がやっちゃうと思うけどね」
「そうなのか?」
「ハル姉こういうの大好きだから。それこそ、火おこしは誰にもやらせないよ」
確かに、遥さんがそういうことが好きだと言われると納得感がすごい。
今の車も、元々はサーフィンするために買ったとか言っていたし。
「ほんと、パワフルな人だよな」
「あははっ、ほんとにね。小さい頃は、まだ学校も一緒だったからよく外に連れ出されたなー」
「ん?そんなに歳近く無いだろ?」
「あー、そっか。ここらへんはね、子供なんてほとんどいないから小学生と中学生が同じ校舎だったの。まぁ私が中学生に上がるときに廃校になっちゃったんだけど」
「へぇ。そんなもんなんだな」
遥さんの具体的な年齢は聞いていないが、ビールを飲めるということだから二十歳は越えているはずだ。
計算が合わないことを疑問に思っていると、どうやら俺の通っていた学校とは事情が違ったらしい。
「ここらへんはほんと田舎だからね。教室も一つだけだったくらいなんだよ?」
「そりゃすごい。でも、それは人間関係も濃そうだよな」
それなら、学年全員はおろか、生徒全員を知っていてもおかしくないだろう。
勝手なイメージなのかもしれないが、田舎は人間関係が濃いイメージもある。
「うーん。そこまで子供も多くないし、私の場合はちょっと特殊だったから、ハル姉以外とそこまで話した記憶ないんだよね」
「ん?それは、どういう意味だ?」
「ほら、私の家ってなんか近づき難いみたいで。悪い意味じゃなくてね、昔ながらの考えが残ってて恐れ多いとかそういうことらしいんだけど」
確かに、今は慣れてきたものの、俺も最初この家を見た時はその大きさに圧倒された。
事情を知らなくても、その経済力や影響力というものが見てとれるような家だったから。
だが、それはこの辺の人にとっては俺以上にそう感じられているのだろう。それこそ、地元の名士のような存在なのかもしれない。
「それにね。その頃の私も、あんまり歳の近い子と話し合わなかったからしょうがないんだ」
玄関につくと、透がサンダルを履きながらこちらを見ずにそう言う。
淡々と、何の感情を感じさせない声で。
「まっ、そんな感じ。本読むの好きだったしね、ちょうどよかったんだよ」
都合がいいとでもいうような声色に、凪のような落ち着いた笑み。
まるで気にしていないような彼女の姿は、だけど、俺には少し寂しそうに見えた。
そして、その瞬間、あのポツンと一つだけ置かれた玉座のような椅子が脳裏に浮かぶ。
たぶん、透は早熟過ぎたんだろう。周囲の環境と本人の資質、それらが悲しいほどに合わさって、遥さん以外とは時間を共有できなかった。
多感で、一番輝くはずの時をほとんど一人ぼっちで過ごした。
「………………悪いけど。この夏は、本はお預けにさせてくれ」
「え?」
本当のところは分からない。透がそれを本当に気にしていないのかどうか。
それに、たとえ聞いたとしても彼女はそれをはぐらかそうとするだろう。俺が気にしないようにするために。
だったら、そんなことは考えるだけ無駄だ。
どうせ、何を知ったとしても過去は変えられないのだし。
「指切りしただろ?埋め合わせするって。俺は嘘つきにはなりたくない。だから、何としてでもそれに付き合ってもらう」
でも、今という時なら変えられる。
それに、過去の分まで埋め合わせちゃいけないなんて決まり事も無い。
「いろんなところに行って、いろんなことをしよう。透がそれを埋められたって思うまで」
「…………………………………………うん」
泣き笑いのような顔を浮かべ、口を震わせながら開き、閉じを繰り返していた透は、やがてそれだけを言うとこちらの胸に顔を隠した。
これは、泣き顔の弁明でも考えといたほうがいいかな。
俺は、服が濡れていくのをただなされるがままにしつつも、またおばあさんに殺気をぶつけられないため思考を割いていった。
恐らく、透たちが買い物から帰ってきたのだろう。
「ただいま!」
そして、透の大きな声が玄関の方から響くのと同時に廊下を走るような音が聞こえ、透がこちらに抱き着いてきた。
「おっと!気をつけてくれよ?倒れそうだったじゃないか」
あまりの勢いに、思わずたたらを踏んでしまうもなんとか気合で踏ん張る。
だが、火照った体が密着して、正直かなり暑い。
「誠君!ただいま!!」
「……ああ、おかえり」
しかし、そのまま向日葵のような笑顔をこちらに向けてくる透を見ていると、文句を言う気持ちは全くなくなってしまい、苦笑だけが漏れ出る。
「楽しかったか?」
「うーん、あんまりかな。でも、ハル姉がバーベキューやろうって言いだして、いっぱいお肉とか買って来たよ」
バーベキュー、それはとてもいい。
昼間は素麺とか淡白なものが多かったので、正直物足りなかったのだ。
「いいな、それ」
「でしょ?たぶんおばあちゃんはまたなんか言うと思うけど」
「まぁ、いつものことじゃないか」
「ふふっ。だね」
なんだかんだ言いつつも、本当にダメなこと以外は大概許してくれる人だ。
恐らく、今回も遥さんがゴリ押してやることになるのだろう。
「じゃあ、とりあえず外行って準備するの手伝うかな」
俄然やる気が出てきた俺が、空いたグラスを台所に持っていくため歩き出すと隣を透がついてくる。暑いので距離を取ろうとするが、付かず離れずの距離を絶妙に維持してきて呆れてしまう。
本当に、無駄なことばかりうまくなるやつだ。
「まぁ、だいたいはハル姉がやっちゃうと思うけどね」
「そうなのか?」
「ハル姉こういうの大好きだから。それこそ、火おこしは誰にもやらせないよ」
確かに、遥さんがそういうことが好きだと言われると納得感がすごい。
今の車も、元々はサーフィンするために買ったとか言っていたし。
「ほんと、パワフルな人だよな」
「あははっ、ほんとにね。小さい頃は、まだ学校も一緒だったからよく外に連れ出されたなー」
「ん?そんなに歳近く無いだろ?」
「あー、そっか。ここらへんはね、子供なんてほとんどいないから小学生と中学生が同じ校舎だったの。まぁ私が中学生に上がるときに廃校になっちゃったんだけど」
「へぇ。そんなもんなんだな」
遥さんの具体的な年齢は聞いていないが、ビールを飲めるということだから二十歳は越えているはずだ。
計算が合わないことを疑問に思っていると、どうやら俺の通っていた学校とは事情が違ったらしい。
「ここらへんはほんと田舎だからね。教室も一つだけだったくらいなんだよ?」
「そりゃすごい。でも、それは人間関係も濃そうだよな」
それなら、学年全員はおろか、生徒全員を知っていてもおかしくないだろう。
勝手なイメージなのかもしれないが、田舎は人間関係が濃いイメージもある。
「うーん。そこまで子供も多くないし、私の場合はちょっと特殊だったから、ハル姉以外とそこまで話した記憶ないんだよね」
「ん?それは、どういう意味だ?」
「ほら、私の家ってなんか近づき難いみたいで。悪い意味じゃなくてね、昔ながらの考えが残ってて恐れ多いとかそういうことらしいんだけど」
確かに、今は慣れてきたものの、俺も最初この家を見た時はその大きさに圧倒された。
事情を知らなくても、その経済力や影響力というものが見てとれるような家だったから。
だが、それはこの辺の人にとっては俺以上にそう感じられているのだろう。それこそ、地元の名士のような存在なのかもしれない。
「それにね。その頃の私も、あんまり歳の近い子と話し合わなかったからしょうがないんだ」
玄関につくと、透がサンダルを履きながらこちらを見ずにそう言う。
淡々と、何の感情を感じさせない声で。
「まっ、そんな感じ。本読むの好きだったしね、ちょうどよかったんだよ」
都合がいいとでもいうような声色に、凪のような落ち着いた笑み。
まるで気にしていないような彼女の姿は、だけど、俺には少し寂しそうに見えた。
そして、その瞬間、あのポツンと一つだけ置かれた玉座のような椅子が脳裏に浮かぶ。
たぶん、透は早熟過ぎたんだろう。周囲の環境と本人の資質、それらが悲しいほどに合わさって、遥さん以外とは時間を共有できなかった。
多感で、一番輝くはずの時をほとんど一人ぼっちで過ごした。
「………………悪いけど。この夏は、本はお預けにさせてくれ」
「え?」
本当のところは分からない。透がそれを本当に気にしていないのかどうか。
それに、たとえ聞いたとしても彼女はそれをはぐらかそうとするだろう。俺が気にしないようにするために。
だったら、そんなことは考えるだけ無駄だ。
どうせ、何を知ったとしても過去は変えられないのだし。
「指切りしただろ?埋め合わせするって。俺は嘘つきにはなりたくない。だから、何としてでもそれに付き合ってもらう」
でも、今という時なら変えられる。
それに、過去の分まで埋め合わせちゃいけないなんて決まり事も無い。
「いろんなところに行って、いろんなことをしよう。透がそれを埋められたって思うまで」
「…………………………………………うん」
泣き笑いのような顔を浮かべ、口を震わせながら開き、閉じを繰り返していた透は、やがてそれだけを言うとこちらの胸に顔を隠した。
これは、泣き顔の弁明でも考えといたほうがいいかな。
俺は、服が濡れていくのをただなされるがままにしつつも、またおばあさんに殺気をぶつけられないため思考を割いていった。
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