人の心が読める少女の物語 -貴方が救ってくれたから-

A

文字の大きさ
65 / 106
五章 -触れ合う関係-

これからも、よろしく

しおりを挟む
 電車を乗り継いで会場へ向かう。
 最初は俺達だけといってもいいほどだった車内は、途中大きな駅で乗り換えると入口から押し返されてしまうほどに混雑していた。
 

「すごい人だな」

「うん。ここらへんじゃ一番大きい花火大会だしね」

 
 透と同じように女性のほとんどが浴衣姿なので目的地は一緒なのだろう。
 俺が思っていた以上に大きなお祭りなのかもしれない。


「人混みは大丈夫か?」


 壁際に透を立たせ、出来る限りそちらに圧力がかからないように体を踏ん張る。
 しかし、揺れる度に人にぶつかるような車内では、元々人混みが苦手な透にとっては辛いかもしれないと思った。


「ふふっ。そんなに心配そうな顔しなくても大丈夫だよ」

「そうか?」

「うん。それに、私だけのナイト様が守ってくれてるからね」

 
 そう言って逆に抱き着いてくる透に体が少し強張る。
 視線を下に向けているとうなじがどうしても目に入ってしまうこともあり、斜め上を何となく見つつその言葉に答える。


「ナイトって柄じゃないと思うけどな」

「ふふふっ。じゃあ、ヒーローだね」


 俺が照れているのが伝わったのだろう。楽し気な声が胸のあたりから聞こえてくる。
 揶揄われているようだが、人混みは大丈夫なようなので安心した。


「余計似合わなくなってないか?」 
 
「そんなことないよ。私にとってはずっとそうなの」


 あまりにも真剣そうな声が気になって思わず下を見ると、潤んだような瞳が刺すような強い視線をこちらに向けている。
 それは、透が本当にそう思ってくれていることが手に取るように伝わってくるようなもので、不相応なものではあると思いながらも、すごく嬉しかった。
  
 それだけ、透の中で俺という存在が大きいということだと思ったから。
 

「……もっと、頑張るよ。少なくとも、透にだけはそう思い続けて貰えるように」

「…………うん。でも、無理はしないでね。それに私は、誠君にただ貰うだけの子になるのは絶対に嫌だから」


 背に這わせられた手が痛くない程度に力強く握られる。
 だけど、そんなことは絶対に無い。むしろ、一緒に入れるだけで俺は幸せなのだ。
 貰い過ぎてしまうことはあっても、そうなることはあり得ない。


「俺は、もう十分過ぎるくらい貰ってるよ。だから、そんなことは気にしなくていい」


 近しい人を大事にする姿に好感を覚えた。
 すぐに拗ねたり、いたずら好きな子供っぽいところに、可愛らしさを感じた。
 こちらの気持ちを察して、さり気なく労ってくれるところに、愛おしさを感じた。 

 本当に、知れば知るほど、彼女の魅力に気づかされる。
 どれだけ知っても、もっと知りたいと思うほどに。

 まるで幸せの底なし沼のようにどんどんと彼女にのめり込んでいってしまう。


「本当に、いつもありがとう。あんまり伝わってないかもしれないけど、言葉では言い表せないくらい、感謝してるんだ」


 当然、すごい透と一緒にいることで自分の無力さや、未熟さ。見たくはないようなことに気づかされることも多い。
 だけど、それはある意味成長できている証拠だろう。 
 
 一人では気づけなかったことを気づかせてくれた。
 それは、俺達が共有した時間があるからこその結果であって、それすらも掛け替えのないものに感じられてしまう。


「俺は、透に会えて本当によかった。だから、これからも、よろしくな?」
 
  
 ありふれた言葉に、これ以上無いほどの気持ちを乗せて伝える。
 大きすぎる透に置いていかれないように努力し続けるという覚悟を、そして、彼女の中で一番になりたいという想いを込めて。
 

「…………………………本当に、誠君はズルいなぁ」


 そして、しばらく黙っていた透が不意に動き出し、これ以上無いほどに抱き着いてきた。


「暑くないか?」

「暑いよ」


 空調は効いているはずだが、周囲の熱気もあり汗が滲んでくる。
 透は、暑いとは言いながらも全く離れる気は無いようでむしろさらに体を密着させてきているようだ。


「まぁ、いいか」


 こうなった透は、自分が満足するまで離れることは無いだろうと諦める。
 
 まるで一人の人であるかのような近すぎる距離。
 
 だけど、減速し、先ほどまでよりも揺れる車内の中、二本ずつの足がそれぞれを支え合っていることがなんとなく俺には嬉しかった。







◆◆◆◆◆



 

 電車の扉が開くと、暑いながらも新鮮な空気が外から流れ込んでくる。
 

「行こ!」


 先ほどまで、くっついて離れなかった透が、駅に着くや否や俺の手を握って先導を始める。


「そんなに急いでも変わらないだろ。ほら、何から巡るか話しながらゆっくり行こう」


 楽しそうにはしゃいでいる透には悪いが、人の流れに沿ってしか進めないのでそう言って宥める。


「うー。確かに、そうだよね。わかった」

 
 久しぶりだから嬉しいのだろうか。いつも以上に子供っぽい表情をする透が可愛らしかった。


「けど、こんだけ人がいる祭りだと何でもありそうだな」

「うん。昔の記憶だけど、食べ物系は大体あるし、遊びも射的、輪投げ、金魚すくい、紐くじとかいろいろあったよ」

「なるほど。透はだいたいどれでもうまそうだよな」

「ふふっ。けっこー自信あるよ」


 なんでも器用にこなす透は恐らく店主泣かせの実力だろう。
 さすがに大人げなく遊ぶつもりは無いが、俺も祭りは久しぶりなのでそこそこ心惹かれるものがある。


「射的はちょっとやってみたいな。シューティングゲームとか好きだし」
 
「じゃあ、あったらやってみよっか。ふふっ、誠君の実力を見させてもらおう」

「あんまり期待しないでくれよ?いや、むしろ透のお手本を見たいくらいだ」

「そう?でもなー、私、間違えて誠君に当てちゃうかも」


 そう言って透がニヤニヤとした顔でこちらを下から覗き込んでくるので、呆れたようなジト目を返す。 


「銃は人に向けちゃいけません」

「でも、欲しい景品に向けるんでしょ?」

「……銃は人に向けちゃいけません」

「あははっ。照れてる」

 
 直接的な言葉に照れていると、今まで以上に楽しそうな声が透の方から響く。

 体温が上がり汗ばみつつある繋いだ手を、それでも俺達はどちらとも離さず繋ぎ続けていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

【完結】社畜が溺愛スローライフを手に入れるまで

たまこ
恋愛
恋愛にも結婚にも程遠い、アラサー社畜女子が、溺愛×スローライフを手に入れるまでの軌跡。

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

女性が少ない世界でVTuberやります!

dekoma26+ブル
恋愛
ある日朝起きてキッチンに行くとそこには知らない男性たちが! …え、お父さん⁉ なぜか突然女性の少ない世界に来てしまった少女がVTuberをしたり、学校に通ったりするお話。 ※恋愛大賞ラストスパートなので24日火曜~27日金曜日まで連日投稿予定! 参加してるみんな!あと少しだよ頑張ろう!(>▽<)/作者ブル

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

【完結】付き合ってもいないのに、幼なじみの佐藤がプロポーズしてきた

ぽぽよ
恋愛
「俺らさ、結婚しない?」 三十二歳、独身同士。 幼なじみの佐藤が、たこ焼きパーティの最中に突然言い出した。 付き合ってもないのに。 夢見てた甘いプロポーズじゃないけれど、佐藤となら居心地いいし、給料もあるし、嫁姑問題もないし、性格も知ってる。 断る理由が、ない。 こうして、交際0日で結婚することが決まった。 「とりあえず同棲すっか」 軽いノリで決まってゆく未来。 ゆるっとだらっと流れていく物語。 ※本編は全7話。 ※スパダリは一人もいません笑

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

【完結】言いつけ通り、夫となる人を自力で見つけました!

まりぃべる
恋愛
エーファ=バルヒェットは、父から十七歳になったからお見合い話を持ってこようかと提案された。 人に決められた人とより、自分が見定めた人と結婚したい! そう思ったエーファは考え抜いた結果、引き籠もっていた侯爵領から人の行き交いが多い王都へと出向く事とした。 そして、思わぬ形で友人が出来、様々な人と出会い結婚相手も無事に見つかって新しい生活をしていくエーファのお話。 ☆まりぃべるの世界観です。現実世界とは似ているもの、違うものもあります。 ☆現実世界で似たもしくは同じ人名、地名があるかもしれませんが、全く関係ありません。 ☆現実世界とは似ているようで違う世界です。常識も現実世界と似ているようで違います。それをご理解いただいた上で、楽しんでいただけると幸いです。 ☆この世界でも季節はありますが、現実世界と似ているところと少し違うところもあります。まりぃべるの世界だと思って楽しんでいただけると幸いです。 ☆書き上げています。 その途中間違えて投稿してしまいました…すぐ取り下げたのですがお気に入り入れてくれた方、ありがとうございます。ずいぶんとお待たせいたしました。

処理中です...