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六章 -交わる関係-
Day1⑤育つ青葉
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ホテルへの帰り道、少しだけ歩くペースを落とすと、一番後ろを歩くお兄さんの方に近づき、話しかける。
「大丈夫ですか?」
「……え?なにが?」(もしかして、この子気づいてる?)
「お腹、苦しそうだなって思ったので」
「あっ、はは。バレてたか。ちょっと、食い意地を張り過ぎた」(ほんと、カッコ悪いよなぁ)
残ってしまった食材をこの人がかきこむようにして食べていたのには気づいていた。
そしてそれが、お腹が空いていたからしていた行為ではないことにも。
「すいません。私も、もう少し手伝えるとよかったんですけど」
「…………いや、いいよ。これは、どちらかというと俺の意地みたいなもんだからさ」(無理するくらいなら、捨てたほうがいいとは分かってるんだけどな)
「そう、ですか」
「ああ。バカみたいな意地だろ?」(分かっててもやめられないとこが、ほんと俺らしい)
「…………私は、そういう意地は嫌いじゃないですよ」
前の方から聞こえる微かな話し声と、虫達の鳴き声だけが夏の夜に響く。
そして、そのまま黙って前を向いていたお兄さんは、しばらくしてこちらに苦笑しながら口を開いた。
「君は、本当に大人っぽいね。正直、高校生とは思えないよ」(はぁ、こんな子供にときめくなんて、不甲斐ない)
「…………そうでもないですよ」
仄かな好意の変化。
思っていたことを言ううちにそうなっていってしまうのはやはり少し寂しい。
「そっか」
「はい」
さっきまでは何も考えずとも話すことができていたのに、お互いに生まれた緊張感がそれを阻んでいるかのように感じる。
そして、そのまま無言でしばらく歩いていると、すぐにホテルに到着した。
「じゃあ、ゆっくり休んでね」(海ではしゃいでたし、たぶん今日はみんな疲れてるだろ)
「はい、ありがとうございます」
心の内に浮かんでいるものが、明確な好意では無いことに安心する。
奢《おご》った自意識過剰かもしれないけど、そんな光景を何度も見せられてきたから。
◆◆◆◆◆
寝る支度を整えて、ベッドに入ると二人が待っていたとでもいうように話しかけてきた。
「それでそれで?透ちゃんの好きな人ってどんな人なの?」
「優しい人なんだっけ?」
疲れているはずなのに、それを感じさせないほどの高いテンションに思わず苦笑してしまう。
でも、私自身も誠君のことをつい話したくなってしまっているのでそう変わりはしないのかもしれない。
「ふふっ。優しさなら誰にも負けないと思うよ?」
「「あははっ。自信満々すぎ」」
「いや、本当にこの世界で一番優しい人だからね」
「えー、ほんとかなー?」
「ほんとだからっ!」
「「あははははっ。必死すぎでしょ」」
「………………信じて貰えるまで、寝かさないから」
そして、私は誠君との思い出を話していった。
心が読めることや、彼の名前、それは言えないけど、たくさんの幸せな思い出を。
「でね、その後にね」
「ちょっストップ。わかったっ!わかったから」
「え?」
「もう、お腹いっぱい。甘すぎて死にそう」
「……まだ、あるんだけどな」
「いや、もう十分伝わったから大丈夫!だから、透ちゃんのラブガトリングはもうやめて」
そう言われると途中から一人でずっと話していたことに気づく。
ふと時計を見ると、十時を指していた時計の針は既に天頂を越え、反対側に傾きを変えていた。
「でも、透ちゃんの意外な一面知れてよかったかも。なんか、話してるとき子供みたいだったし」
「あーそれめっちゃわかる。いつも大人っぽいのに、さっきは別人みたいだったよね」
「そう、かな?」
「「うん」」
別に、変なことを言っていたわけではないけれど、なんだか恥ずかしくなってきてしまう。
今後は、こういったことを話すときは少し気を付けなくてはいけないかもしれない。
「あっ!照れてるでしょ」
「……そんなことないよ」
「あははっ、わかりやすいなー」
「もうっ、揶揄わないでよ」
恥ずかしさを隠そうとしてるのに、それをまた指摘されて言い返す。
でも、それに対して返されたのは押し殺したような笑い声で、怒れてきてしまった。
「ごめん、拗ねないでよー。ほら、透ちゃんの照れてる姿ってめちゃレアだったらからさ」
「そうそう。こんだけわかりやすいのも珍しいし」
「…………そう、だったかな?」
確かに、学校ではいつも周りの話に合わせて愛想笑いや頷きを返すばかりだったはずだ。
中身の無い言葉に、張り付けた表情、それが私にとっての身を守るための処世術だったから。
「透ちゃん、大人びてて、気遣いの神だけど逆に何考えてるのかわかんなかったんだよね」
「そそ。何言っても笑ってるけど、テンションの上がり下がりが伝わってこないというか」
思うところがあっても、言わなかった。
踏み込んで、得られるものよりも、失う怖さの方が大きかった。
これ以上悪くなるのが嫌で、現状維持を望んで、自分の世界をただ守り続けていた。
「…………ごめんね?」
「いや、ぜんぜんいいよ。私達も真面目でつまらないとか勝手に思ってたし」
「あははっ、千佳。それはさすがにぶっちゃけすぎでしょ」
「え?ダメだった?じゃあ、やっぱなし」
私と違って、本当に思ったことを口にする子だなと若干の羨ましさとともに思う。
それが、もしかしたら人との軋轢を生む可能性はあるけれど、少なくとも今の私には好ましいものに映った。
「ふふっ。ぜんぜんいいのに」
「あれ?もしかして、透ちゃんってドМ?」
「それは、違うからね?」
「ちなみに、私はMだけど」
「それ、自分で言っちゃうんだ」
「あははっ。二人とも面白すぎでしょ」
軽いノリや、男性との関わり方。
それらが合わないなと感じる部分はある。
だけど、それでも今の私は彼女たちと話していて楽しいし、もっと話していたいと思う。
なら、きっとそれでいいのだろう。
私のしたいことをする、それが一番いいと誠君が教えてくれたから。
「大丈夫ですか?」
「……え?なにが?」(もしかして、この子気づいてる?)
「お腹、苦しそうだなって思ったので」
「あっ、はは。バレてたか。ちょっと、食い意地を張り過ぎた」(ほんと、カッコ悪いよなぁ)
残ってしまった食材をこの人がかきこむようにして食べていたのには気づいていた。
そしてそれが、お腹が空いていたからしていた行為ではないことにも。
「すいません。私も、もう少し手伝えるとよかったんですけど」
「…………いや、いいよ。これは、どちらかというと俺の意地みたいなもんだからさ」(無理するくらいなら、捨てたほうがいいとは分かってるんだけどな)
「そう、ですか」
「ああ。バカみたいな意地だろ?」(分かっててもやめられないとこが、ほんと俺らしい)
「…………私は、そういう意地は嫌いじゃないですよ」
前の方から聞こえる微かな話し声と、虫達の鳴き声だけが夏の夜に響く。
そして、そのまま黙って前を向いていたお兄さんは、しばらくしてこちらに苦笑しながら口を開いた。
「君は、本当に大人っぽいね。正直、高校生とは思えないよ」(はぁ、こんな子供にときめくなんて、不甲斐ない)
「…………そうでもないですよ」
仄かな好意の変化。
思っていたことを言ううちにそうなっていってしまうのはやはり少し寂しい。
「そっか」
「はい」
さっきまでは何も考えずとも話すことができていたのに、お互いに生まれた緊張感がそれを阻んでいるかのように感じる。
そして、そのまま無言でしばらく歩いていると、すぐにホテルに到着した。
「じゃあ、ゆっくり休んでね」(海ではしゃいでたし、たぶん今日はみんな疲れてるだろ)
「はい、ありがとうございます」
心の内に浮かんでいるものが、明確な好意では無いことに安心する。
奢《おご》った自意識過剰かもしれないけど、そんな光景を何度も見せられてきたから。
◆◆◆◆◆
寝る支度を整えて、ベッドに入ると二人が待っていたとでもいうように話しかけてきた。
「それでそれで?透ちゃんの好きな人ってどんな人なの?」
「優しい人なんだっけ?」
疲れているはずなのに、それを感じさせないほどの高いテンションに思わず苦笑してしまう。
でも、私自身も誠君のことをつい話したくなってしまっているのでそう変わりはしないのかもしれない。
「ふふっ。優しさなら誰にも負けないと思うよ?」
「「あははっ。自信満々すぎ」」
「いや、本当にこの世界で一番優しい人だからね」
「えー、ほんとかなー?」
「ほんとだからっ!」
「「あははははっ。必死すぎでしょ」」
「………………信じて貰えるまで、寝かさないから」
そして、私は誠君との思い出を話していった。
心が読めることや、彼の名前、それは言えないけど、たくさんの幸せな思い出を。
「でね、その後にね」
「ちょっストップ。わかったっ!わかったから」
「え?」
「もう、お腹いっぱい。甘すぎて死にそう」
「……まだ、あるんだけどな」
「いや、もう十分伝わったから大丈夫!だから、透ちゃんのラブガトリングはもうやめて」
そう言われると途中から一人でずっと話していたことに気づく。
ふと時計を見ると、十時を指していた時計の針は既に天頂を越え、反対側に傾きを変えていた。
「でも、透ちゃんの意外な一面知れてよかったかも。なんか、話してるとき子供みたいだったし」
「あーそれめっちゃわかる。いつも大人っぽいのに、さっきは別人みたいだったよね」
「そう、かな?」
「「うん」」
別に、変なことを言っていたわけではないけれど、なんだか恥ずかしくなってきてしまう。
今後は、こういったことを話すときは少し気を付けなくてはいけないかもしれない。
「あっ!照れてるでしょ」
「……そんなことないよ」
「あははっ、わかりやすいなー」
「もうっ、揶揄わないでよ」
恥ずかしさを隠そうとしてるのに、それをまた指摘されて言い返す。
でも、それに対して返されたのは押し殺したような笑い声で、怒れてきてしまった。
「ごめん、拗ねないでよー。ほら、透ちゃんの照れてる姿ってめちゃレアだったらからさ」
「そうそう。こんだけわかりやすいのも珍しいし」
「…………そう、だったかな?」
確かに、学校ではいつも周りの話に合わせて愛想笑いや頷きを返すばかりだったはずだ。
中身の無い言葉に、張り付けた表情、それが私にとっての身を守るための処世術だったから。
「透ちゃん、大人びてて、気遣いの神だけど逆に何考えてるのかわかんなかったんだよね」
「そそ。何言っても笑ってるけど、テンションの上がり下がりが伝わってこないというか」
思うところがあっても、言わなかった。
踏み込んで、得られるものよりも、失う怖さの方が大きかった。
これ以上悪くなるのが嫌で、現状維持を望んで、自分の世界をただ守り続けていた。
「…………ごめんね?」
「いや、ぜんぜんいいよ。私達も真面目でつまらないとか勝手に思ってたし」
「あははっ、千佳。それはさすがにぶっちゃけすぎでしょ」
「え?ダメだった?じゃあ、やっぱなし」
私と違って、本当に思ったことを口にする子だなと若干の羨ましさとともに思う。
それが、もしかしたら人との軋轢を生む可能性はあるけれど、少なくとも今の私には好ましいものに映った。
「ふふっ。ぜんぜんいいのに」
「あれ?もしかして、透ちゃんってドМ?」
「それは、違うからね?」
「ちなみに、私はMだけど」
「それ、自分で言っちゃうんだ」
「あははっ。二人とも面白すぎでしょ」
軽いノリや、男性との関わり方。
それらが合わないなと感じる部分はある。
だけど、それでも今の私は彼女たちと話していて楽しいし、もっと話していたいと思う。
なら、きっとそれでいいのだろう。
私のしたいことをする、それが一番いいと誠君が教えてくれたから。
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