懲りない

ちゃん

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懲りない

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一応概要欄を読んで頂くことをおすすめします。




「雨宮ぁー、」
同好会が終わった教室で、ぼんやりうとうとしてたら、あいつが来た。
何気ない挨拶と共に、薄い色素の、亜麻色の髪と、明るい赤の目が揺れた。
思わず口元の不織布マスクを少し触ってなおしながら、小憎たらしくも御付き合いし、好いている美男子を見つめ返す。
「…なんだ、早瀬くんか、」
「なんだとはなんだよぉ。」
「補習終わったの?」
「楽勝~」
「…キミ、最初からやれば補習テストなんかいらないんだから、サボらなきゃいいのに。僕も、まあ、具合悪かった時とか補習するけど、うちの高校がそこら辺なんとかなる私立だからとはいえ、」
「地味に真面目モードやめろよ~」
その気になれば相応に勉強出来るの、知ってるぞ、付き合いそこそこ長いし。
なんて飲み込んだボヤキの代わりに、じっと視線を向けても、全くもってあっけらかん。

「なあ、俺を甘やかせよぉ、こないだ貧血で具合悪いお前を保健室連れてったげたお礼も兼ねてさぁ、」
「ちょっ、急に抱きつくとか、ちょっと!」

僕が小声で苦言を呈してもどこ吹く風。スキンシップの片手間みたいにひっつかれてベタベタされる。
僕は百六十五かそこらの身長を、百八十はある早瀬くんが、頬や頭、腕まで好きに撫で回す。
彼の手付きはいつも、花弁を触るみたいな、硝子細工を触るみたいな、そんな感じの癖に、主導権はいつもあっちなのは、少しムカムカする。
「おい、早瀬く、ここ一応同好会で使ってる教室、学校!」
「え~、よそよそしくひそひそするとか、俺苦手なの、な?」
「な、じゃない!」
「中等部からの俺とお前の仲じゃん~」
「だから、そういう問題じゃなくて、」
「ここら辺なら他の部活やってる奴らはあんまり通らないって…ねえ、また二人きりだしマスクとってよ、恥ずかしがらないで。」
こっちの羞恥心無視して、いつものおねだりをするなよ。
「…わかった、」
結局また折れて、顔は見せてあげるけど。

「あらーいつ見てもかわいいお顔、ありがと。」
「…色白以外そこまで特徴なくない?」
「えー、全体的にちんまりしてかわいいのに~ちっちぇ顔~」
「だから、ベタベタしすぎ!それに、…」
「それに?」
「…恥ずかしいから、こういうのは、どっちかの家、部屋とか、で、したい、かも、」
早瀬くんは僕の言葉に一瞬黙って、目を丸くして固まったと思ったら、すぐニヤニヤ顔になって、
「へー、俺の事好きなんだね、あおいちゃんはさぁ。」
「ちょ、下の名前、からかうな!」
「からかってねぇよ、可愛いなあ、ほれ」
おまけに僕の頬をつついてくる早瀬くんの手首を握ると、何かの引力がはたらいたみたいに、彼が顔を近づけてきて、ぼんやり柔らかい感触を唇に感じた。

「…はは、不意打ち、びっくりした?」
キスされた、学校で、何回目だよ。呆気に取られて、顔が赤い僕のことなんか、お見通しな顔して。
「…ルカくん、」
思わずこちらも下の名前が出たけど、乗せられているのがわかっても、さすがに怒る。
「ちょっとは懲りなよ!」

まあ、こうやって僕が言ったって、またヘラヘラしてくるし、どうせ、好きなままだけど。
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