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<7/グロリアーナ>
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グロリアーナにとって、一人で入浴すると言うのは人生で初めての経験だったが、誰もいなくて良かったかもしれない。
とにかく、マクシミリアンの裸を目に入れない為に、人には見せられない形相で入浴を終えたからだ。
それでも、体を綺麗にするには全身を洗う必要があり、目を閉じているからこそ、掌に体の固さや筋肉の隆起や骨張った様子が如実に伝わってしまう。
女性の体とは全く違うそれに、グロリアーナの心臓はかつてない程にドキドキと音を立てて高鳴った。
これまで、できる限り感情を押さえて生活する事を心掛けていたグロリアーナにとって、経験のない刺激だ。
嫌でも、マクシミリアンが成熟した男性なのだと言う事を実感させられる。
一日の終わりの癒しの時間の筈が、ぐったりと疲労困憊したグロリアーナは、マクシミリアンの意識下にある自分の体の事を可能な限り忘れる事にして、普段よりもずっと遅くベッドに横になった。
一晩寝て、目が覚めて。
あれは夢だった、と言えれば良かったけれど、そうは都合よく行かず、入れ替わりは継続中だ。
火の曜日は、五学年合同、男女別の週替わりの授業がある。
馬術ならば、グロリアーナも嗜み程度に教わっているけれど、横乗り専用の鞍で常歩ができる位。
余暇の遊びにしかならず、障害飛越までする男子生徒の馬術の授業には、到底ついていく事はできない。
その上、今週は剣術の授業だ。
刃物など、果物を切る為のナイフにすら触れた事もないグロリアーナに、何ができる筈もない。
勿論、グロリアーナは公爵令嬢であり、彼女の身辺には専任の護衛がついているのだから、グロリアーナが剣を持てない事には何の問題もない。
ただ、剣術でも優れた実力を示すマクシミリアンの代理が務まる筈がない、と言うのが問題なだけで。
昨日、大神殿からの帰り、グロリアーナとマクシミリアンは、男女別授業をどのように乗り切るか、相談した。
その結果。
「ケビン…右手首に違和感がある」
朝食を運んで来た侍従のケビンに、グロリアーナはそう切り出した。
ケビンは朝食を配膳すると、素早くグロリアーナの右手首を取り、矯めつ眇めつ、検分する。
「特に、腫れているようではありませんが…」
「あぁ、違和感程度だからな。だが、剣術の授業は難しいかもしれない。授業を欠席する代わりに、仕事をしようと思うのだが、学園に持って行ける書類はあるか?」
「畏まりました。ご用意致します」
学園には、多忙な準成人王族が執務を執る為の部屋がある。
剣術の授業の間、その部屋に籠ってしまおう、と言うのが、二人が立てた作戦だった。
同時にグロリアーナには、少しでも執務を進めておいて、睡眠時間の確保に努めたい、と言う目的もある。
今のグロリアーナの体力はマクシミリアンのものだから、いつもと同じだけの睡眠時間が取れていなくとも特に倦怠感はない。
けれど、どう考えても、今の状況がマクシミリアンの体にとって、健康的なものだとも思えなかった。
(殿下は、働き過ぎだわ)
第一王子と言う立場上、マクシミリアンが多忙である事は知っていた。
知ってはいたけれど、現実に己の問題として身の上に降りかかってみて、真の意味で理解する事ができたのだ。
グロリアーナとの体力の違いを踏まえたにしても、分単位のスケジュールが詰まり過ぎている。
公爵令嬢として、王子の婚約者として、グロリアーナも多忙な方だと思っていたものの、マクシミリアンの比ではない。
妃として支えるとはどう言う事なのか、改めて考えるきっかけになった。
(分担できる執務はお任せ頂くとして…私に、他に何ができるのかしら)
マクシミリアンが、アシュリーのどのような発言を気に掛けていたのか、まだグロリアーナは聞いていない。
彼の様子を見るに、容易に明かせるものでもなさそうだ。
そして、グロリアーナも、マクシミリアンが打ち明けてくれるまで、問うつもりはなかった。
恐らくは、フローニカ王家に関わる内容なのだろうから。
けれど、周囲の噂のように、マクシミリアンにグロリアーナとの婚約を破棄する考えがないらしい事は判った。
――勿論、それは、アシュリーの言う『女神の愛し子』が何を指すのか次第で変わる事も、重々判っている。
フローニカ王国は、女神フロリーナを讃える国。
『女神の愛し子』が本当に王家に必要な存在ならば、グロリアーナとの婚約は簡単に破棄されるだろう。
その方が、国益に適うのだから。
それでも。
今は、グロリアーナが、マクシミリアンの婚約者なのだ。
彼の為に己ができる事を探す。
それこそが、グロリアーナの誇りであり、これまでの八年間の王子妃教育で得た決意でもあった。
剣術指南の教師に、授業を欠席し、執務に当たる旨を報告したグロリアーナは、鍛錬場で木刀を手に組み合っている生徒達を暫く眺めていた。
剣術の授業は男子生徒のみで行うものだから、グロリアーナが授業の様子を覗いた事はない。
辛うじて、学園祭の観覧試合を見た事があるだけだ。
だからこそ、間断なく木刀がぶつかり合い、汗が飛び散り、色で見える程の熱気の籠った様子に驚いた。
床と靴底の摩擦音、衣服の擦れあう音、木刀を繰り出す度に、彼等の口からは音とも言えない声が漏れる。
本来ならば、マクシミリアンもそこで、彼等に交じって汗を流していた。
時折、彼の手に包帯が巻かれていた記憶もあるから、怪我をした事もある筈だ。
そう考えると、キュッ、と心の奥が引き絞られる。
貴族令嬢に淑女教育が必須なように、剣術は貴族男性の必修科目としか考えていなかった筈なのに。
(…不安?心配?何かしら…)
「兄さん」
「…オズワルド」
入れ替わりに気づいてから、さり気なく顔を合わせる事を避けていた第二王子オズワルドが、額の汗を手の甲で拭いながら、グロリアーナに近づいて来る。
「珍しいね、兄さんが剣術の稽古を休むなんて」
「この所、書類の処理が追いついてなくてな」
「あぁ、忙しいとは聞いてたけど」
三学年下のオズワルドは、チェスターに似た橙色の髪を短く刈り揃え、マクシミリアンと同じく緑の瞳を持つ。
だが、マクシミリアンの翠瞳がエメラルドだとすれば、オズワルドのそれはペリドットのように黄色みが強い。
彼は剣が突出して得意で、全方面を平均以上にこなす万能型のマクシミリアンとはタイプが異なるが、第二王子と言う難しい立場ながら、真っ直ぐに育った好人物だとグロリアーナは思っている。
幼い頃から知っているからか、その成長が微笑ましい。
「最近、城でも顔を合わせないね?」
「さっきも言ったように忙しいんだ。何か話でもあったか?」
「ん~…ちょっとね。剣術の授業に出れば兄さんに会えるかなと思ったんだけど、今度、落ち着いた時でいいや」
「…そうか?」
付き合いが長いとは言え、マクシミリアンとオズワルドの兄弟間の会話など、想像もつかない。
適当に合わせる事も難しいだろうから、グロリアーナは内心、ホッとする。
「じゃあ、今度な」
「うん」
授業中の生徒達の下に戻るオズワルドの背を見送ると、グロリアーナは踵を返して書類を持ち込んだ小部屋へと移動した。
この小部屋の鍵を持っているのは、マクシミリアンだけ。
今は『マクシミリアン』である、グロリアーナだ。
そして、合鍵を、こっそりとマクシミリアンにも渡している。
学園では、常に人の目を意識して行動しなければならない。
ただでさえ、人々の注目を集める状況に陥っている上に、『自宅』ですら、今のグロリアーナとマクシミリアンにとっては、一瞬たりとも気が抜けない場所になってしまった。
今の所、ケビンとエイミーが主の様子に疑念を抱いた気配はないけれど、終わりの見えない今の状況で、一か所でも多く深呼吸のできる場所が必要だった。
「さて…」
ケビンに渡された書類を検分しながら、作業を進めていく。
事務的な仕事が、グロリアーナは嫌いではない。
王子妃にも、社交を得意とする妃と、実務を得意とする妃がいるが、グロリアーナは自身を、どちらかと言えば、後者だと思っていた。
政略で選ばれたマクシミリアンとの婚約だ。
多忙な彼を実利で支えるのが、己に求められている役割なのだろうから。
――けれど。
可能ならば、と思う。
可能ならば、多忙なマクシミリアンに、笑って欲しい。
執務に追われない、穏やかな時間を提供したい。
国を背負う重責を持つ彼を、癒したい。
仕事上のパートナーとしてだけではなく、彼のプライベートな時間を満たせる存在に…なりたい。
フローニカ王家では、側室を認めていない。
認めてはいないけれど、王子妃教育で、過去の国王には、政略で結ばれた王妃との間に子を儲けた後、恋人を作った人物もいるのだと知った。
少し前までのグロリアーナならば、それがマクシミリアンの心を癒し、フローニカ王国の為になるなら、恋人の存在を受け入れるのが、王妃の責務だと考えただろう。
何しろ、互いの好意で結ばれる関係ではないのだから。
けれど、今は。
ケビンの言葉で気がついた。
始まりは何であれ、想いを寄せる努力をするべきなのだ、と。
それからだろうか。
知っていたつもりで知らなかった彼の一面を見て、胸がざわざわと騒ぐ。
マクシミリアンに執着を見せるアシュリーの姿に、苛立ちが募る。
それがマクシミリアンの希望だとしても、相手が誰であろうと、恋人の存在を快く受け入れられると思えない。
この気持ちが、どういう感情に起因するものなのかは、まだよく判らない。
判らないけれど、王子の責務と真っ直ぐに向き合い、努力を続けているマクシミリアンに対して、これまでにない何かが芽生えたのは確かだ。
(尊敬…?いえ、尊敬ならば、以前からしていたわ)
アシュリーがマクシミリアンに笑い掛けるのを見て感じる、焦燥感。
隣に立つのは自分でありたい、と言う独善的な想い。
それらの気持ちが何に起因するのか、もう少しで掴めそうだけれど、気づいてしまうのは怖いような気もする。
一つ首を横に振って、グロリアーナは作業に没頭した。
とにかく、マクシミリアンの裸を目に入れない為に、人には見せられない形相で入浴を終えたからだ。
それでも、体を綺麗にするには全身を洗う必要があり、目を閉じているからこそ、掌に体の固さや筋肉の隆起や骨張った様子が如実に伝わってしまう。
女性の体とは全く違うそれに、グロリアーナの心臓はかつてない程にドキドキと音を立てて高鳴った。
これまで、できる限り感情を押さえて生活する事を心掛けていたグロリアーナにとって、経験のない刺激だ。
嫌でも、マクシミリアンが成熟した男性なのだと言う事を実感させられる。
一日の終わりの癒しの時間の筈が、ぐったりと疲労困憊したグロリアーナは、マクシミリアンの意識下にある自分の体の事を可能な限り忘れる事にして、普段よりもずっと遅くベッドに横になった。
一晩寝て、目が覚めて。
あれは夢だった、と言えれば良かったけれど、そうは都合よく行かず、入れ替わりは継続中だ。
火の曜日は、五学年合同、男女別の週替わりの授業がある。
馬術ならば、グロリアーナも嗜み程度に教わっているけれど、横乗り専用の鞍で常歩ができる位。
余暇の遊びにしかならず、障害飛越までする男子生徒の馬術の授業には、到底ついていく事はできない。
その上、今週は剣術の授業だ。
刃物など、果物を切る為のナイフにすら触れた事もないグロリアーナに、何ができる筈もない。
勿論、グロリアーナは公爵令嬢であり、彼女の身辺には専任の護衛がついているのだから、グロリアーナが剣を持てない事には何の問題もない。
ただ、剣術でも優れた実力を示すマクシミリアンの代理が務まる筈がない、と言うのが問題なだけで。
昨日、大神殿からの帰り、グロリアーナとマクシミリアンは、男女別授業をどのように乗り切るか、相談した。
その結果。
「ケビン…右手首に違和感がある」
朝食を運んで来た侍従のケビンに、グロリアーナはそう切り出した。
ケビンは朝食を配膳すると、素早くグロリアーナの右手首を取り、矯めつ眇めつ、検分する。
「特に、腫れているようではありませんが…」
「あぁ、違和感程度だからな。だが、剣術の授業は難しいかもしれない。授業を欠席する代わりに、仕事をしようと思うのだが、学園に持って行ける書類はあるか?」
「畏まりました。ご用意致します」
学園には、多忙な準成人王族が執務を執る為の部屋がある。
剣術の授業の間、その部屋に籠ってしまおう、と言うのが、二人が立てた作戦だった。
同時にグロリアーナには、少しでも執務を進めておいて、睡眠時間の確保に努めたい、と言う目的もある。
今のグロリアーナの体力はマクシミリアンのものだから、いつもと同じだけの睡眠時間が取れていなくとも特に倦怠感はない。
けれど、どう考えても、今の状況がマクシミリアンの体にとって、健康的なものだとも思えなかった。
(殿下は、働き過ぎだわ)
第一王子と言う立場上、マクシミリアンが多忙である事は知っていた。
知ってはいたけれど、現実に己の問題として身の上に降りかかってみて、真の意味で理解する事ができたのだ。
グロリアーナとの体力の違いを踏まえたにしても、分単位のスケジュールが詰まり過ぎている。
公爵令嬢として、王子の婚約者として、グロリアーナも多忙な方だと思っていたものの、マクシミリアンの比ではない。
妃として支えるとはどう言う事なのか、改めて考えるきっかけになった。
(分担できる執務はお任せ頂くとして…私に、他に何ができるのかしら)
マクシミリアンが、アシュリーのどのような発言を気に掛けていたのか、まだグロリアーナは聞いていない。
彼の様子を見るに、容易に明かせるものでもなさそうだ。
そして、グロリアーナも、マクシミリアンが打ち明けてくれるまで、問うつもりはなかった。
恐らくは、フローニカ王家に関わる内容なのだろうから。
けれど、周囲の噂のように、マクシミリアンにグロリアーナとの婚約を破棄する考えがないらしい事は判った。
――勿論、それは、アシュリーの言う『女神の愛し子』が何を指すのか次第で変わる事も、重々判っている。
フローニカ王国は、女神フロリーナを讃える国。
『女神の愛し子』が本当に王家に必要な存在ならば、グロリアーナとの婚約は簡単に破棄されるだろう。
その方が、国益に適うのだから。
それでも。
今は、グロリアーナが、マクシミリアンの婚約者なのだ。
彼の為に己ができる事を探す。
それこそが、グロリアーナの誇りであり、これまでの八年間の王子妃教育で得た決意でもあった。
剣術指南の教師に、授業を欠席し、執務に当たる旨を報告したグロリアーナは、鍛錬場で木刀を手に組み合っている生徒達を暫く眺めていた。
剣術の授業は男子生徒のみで行うものだから、グロリアーナが授業の様子を覗いた事はない。
辛うじて、学園祭の観覧試合を見た事があるだけだ。
だからこそ、間断なく木刀がぶつかり合い、汗が飛び散り、色で見える程の熱気の籠った様子に驚いた。
床と靴底の摩擦音、衣服の擦れあう音、木刀を繰り出す度に、彼等の口からは音とも言えない声が漏れる。
本来ならば、マクシミリアンもそこで、彼等に交じって汗を流していた。
時折、彼の手に包帯が巻かれていた記憶もあるから、怪我をした事もある筈だ。
そう考えると、キュッ、と心の奥が引き絞られる。
貴族令嬢に淑女教育が必須なように、剣術は貴族男性の必修科目としか考えていなかった筈なのに。
(…不安?心配?何かしら…)
「兄さん」
「…オズワルド」
入れ替わりに気づいてから、さり気なく顔を合わせる事を避けていた第二王子オズワルドが、額の汗を手の甲で拭いながら、グロリアーナに近づいて来る。
「珍しいね、兄さんが剣術の稽古を休むなんて」
「この所、書類の処理が追いついてなくてな」
「あぁ、忙しいとは聞いてたけど」
三学年下のオズワルドは、チェスターに似た橙色の髪を短く刈り揃え、マクシミリアンと同じく緑の瞳を持つ。
だが、マクシミリアンの翠瞳がエメラルドだとすれば、オズワルドのそれはペリドットのように黄色みが強い。
彼は剣が突出して得意で、全方面を平均以上にこなす万能型のマクシミリアンとはタイプが異なるが、第二王子と言う難しい立場ながら、真っ直ぐに育った好人物だとグロリアーナは思っている。
幼い頃から知っているからか、その成長が微笑ましい。
「最近、城でも顔を合わせないね?」
「さっきも言ったように忙しいんだ。何か話でもあったか?」
「ん~…ちょっとね。剣術の授業に出れば兄さんに会えるかなと思ったんだけど、今度、落ち着いた時でいいや」
「…そうか?」
付き合いが長いとは言え、マクシミリアンとオズワルドの兄弟間の会話など、想像もつかない。
適当に合わせる事も難しいだろうから、グロリアーナは内心、ホッとする。
「じゃあ、今度な」
「うん」
授業中の生徒達の下に戻るオズワルドの背を見送ると、グロリアーナは踵を返して書類を持ち込んだ小部屋へと移動した。
この小部屋の鍵を持っているのは、マクシミリアンだけ。
今は『マクシミリアン』である、グロリアーナだ。
そして、合鍵を、こっそりとマクシミリアンにも渡している。
学園では、常に人の目を意識して行動しなければならない。
ただでさえ、人々の注目を集める状況に陥っている上に、『自宅』ですら、今のグロリアーナとマクシミリアンにとっては、一瞬たりとも気が抜けない場所になってしまった。
今の所、ケビンとエイミーが主の様子に疑念を抱いた気配はないけれど、終わりの見えない今の状況で、一か所でも多く深呼吸のできる場所が必要だった。
「さて…」
ケビンに渡された書類を検分しながら、作業を進めていく。
事務的な仕事が、グロリアーナは嫌いではない。
王子妃にも、社交を得意とする妃と、実務を得意とする妃がいるが、グロリアーナは自身を、どちらかと言えば、後者だと思っていた。
政略で選ばれたマクシミリアンとの婚約だ。
多忙な彼を実利で支えるのが、己に求められている役割なのだろうから。
――けれど。
可能ならば、と思う。
可能ならば、多忙なマクシミリアンに、笑って欲しい。
執務に追われない、穏やかな時間を提供したい。
国を背負う重責を持つ彼を、癒したい。
仕事上のパートナーとしてだけではなく、彼のプライベートな時間を満たせる存在に…なりたい。
フローニカ王家では、側室を認めていない。
認めてはいないけれど、王子妃教育で、過去の国王には、政略で結ばれた王妃との間に子を儲けた後、恋人を作った人物もいるのだと知った。
少し前までのグロリアーナならば、それがマクシミリアンの心を癒し、フローニカ王国の為になるなら、恋人の存在を受け入れるのが、王妃の責務だと考えただろう。
何しろ、互いの好意で結ばれる関係ではないのだから。
けれど、今は。
ケビンの言葉で気がついた。
始まりは何であれ、想いを寄せる努力をするべきなのだ、と。
それからだろうか。
知っていたつもりで知らなかった彼の一面を見て、胸がざわざわと騒ぐ。
マクシミリアンに執着を見せるアシュリーの姿に、苛立ちが募る。
それがマクシミリアンの希望だとしても、相手が誰であろうと、恋人の存在を快く受け入れられると思えない。
この気持ちが、どういう感情に起因するものなのかは、まだよく判らない。
判らないけれど、王子の責務と真っ直ぐに向き合い、努力を続けているマクシミリアンに対して、これまでにない何かが芽生えたのは確かだ。
(尊敬…?いえ、尊敬ならば、以前からしていたわ)
アシュリーがマクシミリアンに笑い掛けるのを見て感じる、焦燥感。
隣に立つのは自分でありたい、と言う独善的な想い。
それらの気持ちが何に起因するのか、もう少しで掴めそうだけれど、気づいてしまうのは怖いような気もする。
一つ首を横に振って、グロリアーナは作業に没頭した。
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