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予言
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---私の予感が外れたことなんてないんだから。知ってるでしょ?---
Iの言葉が脳内で再生される。
確かにそうだ。
彼女の予感、というより予言は私が知る限り的中率100%だ。
彼女が「雨が降るかも」と言えば必ず降るし、「なんか、乗りたくない」と言ったバスは衝突事故を起こした。
○社製パンの新作メロンパンを買おうとした時も彼女に止められた。
気にせず買って、彼女の目の前で網目の入った大きなメロンパンに齧り付くと、ガチンと硬いものが歯に当たった。
後日新作パンは異物混入により回収された。
一番衝撃だったのは高校の頃、下校中彼女が「あ、あの子…」
と言って指差した小柄な子供が、死角に入ってしまったのか、横断歩道を左折した大型トラックに轢かれる瞬間を見てしまった時だ。
その時はまるで彼女の指が子供とトラックを引き寄せたように錯覚した。
それ以来私は子供の悲鳴と体が潰れる音が耳から離れず、彼女の予言に畏れを抱くようになった。
神がかりのような彼女の予言は基本的に良くないことに特化しており、そのせいか彼女は友達が少なかった。
高校を卒業し、Iは役所に就職、私は大学へ進学し、別々の道を歩んでいる。
今日は授業もバイトもサボり、家に引きこもってゲーム三昧のつもりだったのだが、そのIから突然「今すぐ会いたい」とスマホに連絡があり、予定を変更して隣の駅前の喫茶店で待ち合わせたのが数十分前のことだ。開口一番「Uちゃん大丈夫?死なないように気をつけて!」
とのことだった。支離滅裂だが要するに、私の命に危険が迫っている気がするのだという。
それを伝えるためだけに仕事の合間を縫ってわざわざ呼び出したのだ。
「とにかくやばい気がするから、とりあえず大学休みな。本当は一緒にいてあげたいんだけど…」
そう聞いた途端私まで嫌な予感を錯覚した。喫茶店の店員が突然熱湯をぶっかけてくるんじゃないか、客が刃物をもって突進してくるんじゃないか、まさかIの気が狂って…
恐怖に耐えきれず店を飛び出した。
その勢いで電車に乗り、乗ってから、
隣の人に襲われるんじゃ…
電車が横転するんじゃ…
駅に着くまで生きた心地がしなかった。
電車を降り、家路を急ぐ。
小さな肩掛けバッグを前に構えて盾のようにして足早に道を進む。もちろん信号は守り、青になっても右左を確認し、両手を振りまわしながら渡った。元々トラック事故を目撃してから横断歩道は慎重に歩くようにしていた。
大丈夫なんだ。大丈夫。
いや、大丈夫じゃない。
彼女の予言は絶対だ。
歩道橋の階段は手すりにしがみつき、
万が一にも転ばないように降りた。
すれ違った老爺に妙な目で見られたが、人目を憚る余裕はない。
予感一つでこんなに怯えるなんてまるで馬鹿みたいだが、それだけ彼女の予言は信頼できるのだ。
早く帰ろう。
家までもう数メートルだ。
家に入れば人に会わなくて済む。
車に怯える必要もなくなる。
そもそもIもIだ。
危険が迫ってるというのにどうしてわざわざ私を外出させたんだ。
「家から出るな」と電話で一言伝えるだけで充分なのに。
家の前に着いた。
鍵を差し込み、ドアノブを回す。
もう大丈夫、大丈夫。
ドアを開け、素早く家に入る。
鍵を閉めると、思わずその場に座り込んだ。
生き延びた。
そういえば、
彼女は今日大学を休めと言った。
考えてみれば本来なら私は大学にいるはずだったのだ。私が家でゲーム三昧を計画していたことなんて知らないんだ。
どっと疲れが押し寄せる。
まったく、Iのおせっかいのせいで酷い目に遭った。
初めから何もしなくてよかったんだ。
安心すると、お腹が空いていることに気付いた。
とりあえずご飯食べよう。
その後予定通りゲームして、お風呂入ってさっさと寝よう。
冷凍ご飯は…ないか。
菓子パンとカップ麺でいいか。
お湯を沸かす間にパンは食べちゃおう。
○社製パンの新作チョコクロワッサン。
---それ、止めといたほうがいいよ---
口とパンの距離数ミリのところで思い出す。
そういえばあのメロンパンも○社製パンのやつだったな…
Iの予言は今まで一度も外れていない。
本当に危機は去ったのか?
確かに彼女は大学を休めとは言っていたけど、
それで事態が解決するとは言っていない。
とにかく気を付けてと言っていた。
そもそも大学を休めば解決する事なら、
元から大学を休んでいた私の命がやばいはずがないだろう。私が大学をサボっていたことは知らなくても、そんな予感はしないはずだ。
彼女の予言は絶対だ。
外れるなんてあり得ない。
---私の予感が外れたことなんてないんだから---
家だって安全とは限らない。そもそも安全とも言われていない。
背後で沸かしてるお湯が何かの間違いでコンセントにかかって、気付かず触って感電するかも。
急な地震で冷蔵庫に押しつぶされるか、その前に家ごと潰されるかも。
あるいは今手に持ってるチョコクロワッサンに毒が…
カチッ
ケトルが音を立て、お湯が沸いたことを伝える。
反射的にチョコクロを投げ捨てキッチンを飛び出す。
どこが安全?どこが危険?
どうすればいいの?
Iに電話するが繋がらない。仕事に戻ったの?
友達がやばいってわかっててどうしてそんなことできるの?
---予感だから、根拠もなくふと思ったことがたまたま当たってるだけ---
喫茶店を飛び出す直前にそんな事を言っていた気がする。
そうだ。その通り。何の根拠も無い。
それは分かってる。
でもその言葉が気休めでしか無いと言うことも嫌と言うほど分かってる。
予言はことごとく当たっているのだ。
例外は一度もなかった。
私の命に危険が迫っていると彼女が言うならその通りなんだ。
家も危険だ。早く逃げないと。
でもどこに?
外が危険なことはよく知ってる。
子供とトラックがフラッシュバックし、外は危険と警告している。
家も外も、この世は危険な事が多すぎる。
この世には安全な場所なんてどこにも…
……「この世」には?
Iの言葉が脳内で再生される。
確かにそうだ。
彼女の予感、というより予言は私が知る限り的中率100%だ。
彼女が「雨が降るかも」と言えば必ず降るし、「なんか、乗りたくない」と言ったバスは衝突事故を起こした。
○社製パンの新作メロンパンを買おうとした時も彼女に止められた。
気にせず買って、彼女の目の前で網目の入った大きなメロンパンに齧り付くと、ガチンと硬いものが歯に当たった。
後日新作パンは異物混入により回収された。
一番衝撃だったのは高校の頃、下校中彼女が「あ、あの子…」
と言って指差した小柄な子供が、死角に入ってしまったのか、横断歩道を左折した大型トラックに轢かれる瞬間を見てしまった時だ。
その時はまるで彼女の指が子供とトラックを引き寄せたように錯覚した。
それ以来私は子供の悲鳴と体が潰れる音が耳から離れず、彼女の予言に畏れを抱くようになった。
神がかりのような彼女の予言は基本的に良くないことに特化しており、そのせいか彼女は友達が少なかった。
高校を卒業し、Iは役所に就職、私は大学へ進学し、別々の道を歩んでいる。
今日は授業もバイトもサボり、家に引きこもってゲーム三昧のつもりだったのだが、そのIから突然「今すぐ会いたい」とスマホに連絡があり、予定を変更して隣の駅前の喫茶店で待ち合わせたのが数十分前のことだ。開口一番「Uちゃん大丈夫?死なないように気をつけて!」
とのことだった。支離滅裂だが要するに、私の命に危険が迫っている気がするのだという。
それを伝えるためだけに仕事の合間を縫ってわざわざ呼び出したのだ。
「とにかくやばい気がするから、とりあえず大学休みな。本当は一緒にいてあげたいんだけど…」
そう聞いた途端私まで嫌な予感を錯覚した。喫茶店の店員が突然熱湯をぶっかけてくるんじゃないか、客が刃物をもって突進してくるんじゃないか、まさかIの気が狂って…
恐怖に耐えきれず店を飛び出した。
その勢いで電車に乗り、乗ってから、
隣の人に襲われるんじゃ…
電車が横転するんじゃ…
駅に着くまで生きた心地がしなかった。
電車を降り、家路を急ぐ。
小さな肩掛けバッグを前に構えて盾のようにして足早に道を進む。もちろん信号は守り、青になっても右左を確認し、両手を振りまわしながら渡った。元々トラック事故を目撃してから横断歩道は慎重に歩くようにしていた。
大丈夫なんだ。大丈夫。
いや、大丈夫じゃない。
彼女の予言は絶対だ。
歩道橋の階段は手すりにしがみつき、
万が一にも転ばないように降りた。
すれ違った老爺に妙な目で見られたが、人目を憚る余裕はない。
予感一つでこんなに怯えるなんてまるで馬鹿みたいだが、それだけ彼女の予言は信頼できるのだ。
早く帰ろう。
家までもう数メートルだ。
家に入れば人に会わなくて済む。
車に怯える必要もなくなる。
そもそもIもIだ。
危険が迫ってるというのにどうしてわざわざ私を外出させたんだ。
「家から出るな」と電話で一言伝えるだけで充分なのに。
家の前に着いた。
鍵を差し込み、ドアノブを回す。
もう大丈夫、大丈夫。
ドアを開け、素早く家に入る。
鍵を閉めると、思わずその場に座り込んだ。
生き延びた。
そういえば、
彼女は今日大学を休めと言った。
考えてみれば本来なら私は大学にいるはずだったのだ。私が家でゲーム三昧を計画していたことなんて知らないんだ。
どっと疲れが押し寄せる。
まったく、Iのおせっかいのせいで酷い目に遭った。
初めから何もしなくてよかったんだ。
安心すると、お腹が空いていることに気付いた。
とりあえずご飯食べよう。
その後予定通りゲームして、お風呂入ってさっさと寝よう。
冷凍ご飯は…ないか。
菓子パンとカップ麺でいいか。
お湯を沸かす間にパンは食べちゃおう。
○社製パンの新作チョコクロワッサン。
---それ、止めといたほうがいいよ---
口とパンの距離数ミリのところで思い出す。
そういえばあのメロンパンも○社製パンのやつだったな…
Iの予言は今まで一度も外れていない。
本当に危機は去ったのか?
確かに彼女は大学を休めとは言っていたけど、
それで事態が解決するとは言っていない。
とにかく気を付けてと言っていた。
そもそも大学を休めば解決する事なら、
元から大学を休んでいた私の命がやばいはずがないだろう。私が大学をサボっていたことは知らなくても、そんな予感はしないはずだ。
彼女の予言は絶対だ。
外れるなんてあり得ない。
---私の予感が外れたことなんてないんだから---
家だって安全とは限らない。そもそも安全とも言われていない。
背後で沸かしてるお湯が何かの間違いでコンセントにかかって、気付かず触って感電するかも。
急な地震で冷蔵庫に押しつぶされるか、その前に家ごと潰されるかも。
あるいは今手に持ってるチョコクロワッサンに毒が…
カチッ
ケトルが音を立て、お湯が沸いたことを伝える。
反射的にチョコクロを投げ捨てキッチンを飛び出す。
どこが安全?どこが危険?
どうすればいいの?
Iに電話するが繋がらない。仕事に戻ったの?
友達がやばいってわかっててどうしてそんなことできるの?
---予感だから、根拠もなくふと思ったことがたまたま当たってるだけ---
喫茶店を飛び出す直前にそんな事を言っていた気がする。
そうだ。その通り。何の根拠も無い。
それは分かってる。
でもその言葉が気休めでしか無いと言うことも嫌と言うほど分かってる。
予言はことごとく当たっているのだ。
例外は一度もなかった。
私の命に危険が迫っていると彼女が言うならその通りなんだ。
家も危険だ。早く逃げないと。
でもどこに?
外が危険なことはよく知ってる。
子供とトラックがフラッシュバックし、外は危険と警告している。
家も外も、この世は危険な事が多すぎる。
この世には安全な場所なんてどこにも…
……「この世」には?
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