短編・ショートショート集2

てるてる

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未来の法律

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ある山奥の研究所でパーティが催された。
主役は大内正之助。つい先日タイムマシンを完成させた大博士だ。
今夜はその祝杯として家族親戚部下友人諸々を研究所に招待したのだ。
その場ではただ二人を除いて彼の偉業を称えないものはいなかった。
その二人とは彼の弟妹。
象之助と兼子だ。
二人も同じく博士だったが、長男の正之助ほど優秀でなく、また、性根も悪かった。
「まったく不愉快だ。あのクソ兄貴を祝うためにわざわざこんな山奥まで来る羽目になるとは…」
「ええ、まったくね。タイムマシンなんか発明したくらいで得意になっちゃって…」
そうは言うものの二人は長男の偉業と名声を心底羨ましがった。
「今じゃあいつは新世紀のエジソンだなんて呼ばれていやがる。俺だって本気を出せばタイムマシンの一つや二つ作れたんだ。
それもこれも俺たちにも分けられるはずだった親父の遺産をあいつが独り占めして、研究が遅れたせいなんだ。」
…実際のところ、象之助はタイムマシンの研究などしていなかったし、そもそもまともな研究をしていなかった。
それは兼子も同様。
人類のため、己が身を投じて研究に没頭していた正之助に遺産を全額譲りたいと考えるのは自明の理だろう。
「あたしたちもなにか世間をあっと言わせるものを作って兄貴の鼻を明かしたいものね。」
正之助に野心などない。ただ純粋なる好奇心と、生まれ持った才能を世のため活かさねばならぬという義務感から研究を続けているにすぎない。
しかし私欲にまみれた二人にとってそんなことはどうでも良かった。
会話がエスカレートするうちに象之助がこんなことを言い出した。
「そうだ。俺たちでタイムマシンをお借りして、未来の技術を盗んでくるっていうのはどうだ。」
「あらいいわね。現代よりはるかに高等な技術があるでしょうし、なにより未来の技術なら盗んだことは誰にもばれないものね。」
兄へのコンプレックスが彼らを悪魔の道へと誘った。
パーティ会場を出て一番奥の扉、そこが正之助の研究室だ。
「ちょっと外の空気吸ってくる。」
友人や部下に囲まれ上機嫌な正之助には聞こえなかったらしい。
二人はそそくさと会場を抜け出し扉へ向かった。
「おい、あったぞ。」
扉を開けると目の前に、車ほどのサイズの巨大な靴型の機械が目に入った。
「なんだか変な形ね。」
「まったくだ。これが本当のタイム【スリッパ】ーってか。」
象之助が寒いギャグをかまし、若干空気が冷えたところで兼子が言った。
「でも、いったいいつの時代に行けば良いのかしら。あまり近いと現代の研究と被っちゃうかもしれないし。」
「ふむ、そうだな。」
少し考える。
「いっそ1000年くらい未来に行ってみるか。」
「1000年後に人類っているのかしら。」
「知るか。」
タイムマシンに乗りこみ、ダイヤルを1000に合わせ、プラスのボタンを押す。
「とにかく行ってみよう。どうせ行くだけタダだ。」

マシンが小さく振動し、ふっと地面に落ちる感覚がした。
気づくと見目麗しい装飾が施された建物が目に入る。
「本当にタイムスリップできたわね。」
「ああ、どうやら兄貴の研究所があった山は開発され、駐車場になったみたいだな。」
向かいにはプロペラのついた車のような乗り物が二台ほど停まっていた。
中に人はおらず、どこかへ出かけているようだ。
象之助がタイムマシンに取り付けられた時計のような機器を確認すると、それの針は12を指している。
「おそらくこの針が一周したらエネルギー切れ、あるいは時間切れということだろうが、この機械の仕組みは俺たちにはわからんからな。あまりゆっくりもできん。さっさとめぼしいものを手に入れてずらかるぞ。」
「ええ、そうね。」
兼子も同意する。
「でもこの建物、なんで綺麗なのかしら。まさに芸術。未来人もさぞお美しいのでしょうねぇ。」
兼子は初めて見る未来の世界に興奮しっぱなしで、しきりにスマホのシャッターボタンを連打している。
「でも、いったい何をどうやってこの時代の技術を持って帰ればよいのかしら。技術といってもこの時代の先端技術の資料なんて簡単に手に入らないでしょうし。」
「なに、心配はいらない。子供のおもちゃでもなんでも、とにかく現代に無さそうで盗みやすいものを探せばよい。そうだな。今お前が持っているスマホの進化版でも持って帰るとしよう。」
「逃げる前につかまっちゃったら?」
「確かにそうしたら大変だ。」
象之助は腕組みをして考える。
「それならこうしよう。お前はこの駐車場で待機して、俺の帰りを待っていろ。もし針が再び12を指すまでに俺が帰って来なかったらお前は先に帰り、兄貴に報告して一緒に助けに来てくれ。タイムマシンを悪用したことはばれるが、まさか見殺しにはするまい。」
目の前の車を撮影しながら兼子が答える。
「ええ、わかったわ。でも兄貴にばれないに越したことはないわ。くれぐれも気を付けてね。」
「ああ、もちろんだ。」
黒い野望を胸に、象之助は未来の街へと繰り出した。
・・・・・・・・・・・・
約二時間後。
象之助は見事未来の品々の収集に成功した。ゴミ捨て場に置かれた炊飯器型の立体映像機、道に落ちていたカエル型ロボット、それにベンチで眠りこけていた老人のポケットから抜き取った携帯型端末…
「これは大収穫だ。さっさと帰って分析してみよう。」
兄貴よりも大きな名声、地位 財産…夢見心地で駐車場に戻ると何やら様子がおかしい。
見ると兼子が大勢の人物に取り囲まれているではないか。
慌てて逃げ出そうとするが、それより先に気づかれてしまい、一緒に取り押さえられてしまった。
目の前の男は言う。
「お前もこいつの仲間だろう。」
「いいえ、違いま...」
「はいそうですわ。すべてこの人の指示でやりましたの。私は悪くありませんわ。」
とっさに否定しようとしたが、性根の悪さはお互い様。
「おい、余計なことを言うな。そもそもお前はどうして捕まるなんてへまをしたんだ。」
「知らないわよ。私はただ車や建物の写真を撮っていただけなのに、この人たちがいきなりやってきて逮捕するって...」
「捕まる前に帰ればよかったじゃないか。」
「それが動かないのよ。」
兼子は恨みがましい目で象之助をにらみつける。
「このタイムマシン、一定の時間がたたないと操作できないみたいよ。」
針は10と11の間を指している。
黙ってこちらの様子をうかがっていた男の一人が言った。
「ふん、さっきから黙って聞いていればタイムマシンやらなにやらと訳の分からないことを。」
「本当なんです。信じてください。」
「そんなことはどうでもよろしい。」
背後に立つ男が横柄な口調で言う。
「問題は貴様らが犯した重罪のことだ。」
「重罪?一体何のことです。」
ポケットに入った品々を思い出しどきりとする。
一番背の高い男が反り返って言う。
「肖像権侵害罪だ。」
「は、はあ?」
聞いたことのない罪だ。
「そこの女はこの古臭いカメラで街やビルの撮影を執拗に続けた。」
「それが何か?」
「その写真の中には通行人やビルの住人も写っているだろう。」
見てみると、確かに麗しい美男美女が写っている。
「このご時世無断で他者の顔を撮影するなど言語道断だ。他人の顔を悪用した犯罪を起こし放題ではないか。」
そんなことは無いように思えるが、未来の世界では他人の写真一つで簡単に他人に成りすませる技術があるのかもしれない。
「ごめんなさい。知らなかったの。全てのこの人に命令されてやっただけ。どうか私だけは許して。」
この期に及んで責任の押し付け合いとは、何と情けない。
「何を言ってる。お前が勝手にカシャカシャ撮りまくっていただけだろうが。」
弟妹の醜い言い争いは続く。
背の高い男が咳払いをし、こう告げる。
「本来肖像権を侵した者は問答無用で死刑なのだが…」
首を捻りながら続ける。
「どうもお前達はおかしいのかな。こんな常識も知らずに人の肖像権を侵害し、素知らぬ顔でブレーンフォンの盗みを働いている。そのうえスリッパのような奇妙な乗り物を持っているし、何より不細工だ。普通は生まれる前に遺伝子操作でそれなりの顔に仕上がるはずなのに…」
不細工と呼ばれたことはさておき、象之助は自身の窃盗が当然の如くばれていることに驚くと同時に、思いがけぬ成り行きに唾を飲む。
隣の兼子も同様だ。
「もしや、本当にタイムスリッパーなのか?」
「そうです!そうです!」
「そうなの!私たち1000年前から来たの。だから知らなかったの!お願い許して!」
ここぞとばかりに二人は声を上げるが、男達の顔は晴れない。
「しかしそれではおかしい。なぜならこの時代にタイムマシンなどないではないか。
貴様らの話が本当ならこの時代にタイムマシンが存在しなければおかしいだろう。」
男達は長い話し合いの末こう告げた。
「貴様らの話には一貫性がないうえに、貴様ら自身の常識が著しく欠如している。」
咳払いをして言う。
「よって貴様らを精神異常者とし、死刑は免除する。ただし、」
男が手のひらサイズのテレビカメラのような物を向ける。
「貴様らの肖像権を剥奪する。」
眩い光と共に、タイムマシンの針は再び12を指した。
・・・・・・
共に努力した部下、家族に囲まれて幸福な時を過ごしていた正之助。
「そろそろタイムマシン見せてくださいよ。」
出版関係の友人がこう声をかける。
「おお、そうだ忘れていた。そろそろ例のタイムマシンをお披露目するとしよう。みなさん私についてきてください。」
皆ふらふらとした足取りでタイムマシンのある部屋へ向かう。
「そういえば、私の弟妹が見当たりませんね。まあいいか。みなさん。こちらがタイムマシンです。」
扉を開けた瞬間皆の酔いは一瞬にして冷めたことだろう。
なぜなら肖像権を剥奪された象之助と兼子が、モザイクを施された顔を必死に地面に擦り付けていたのだから。
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