ガランドゥ『仮想現代戦記』

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ガランドゥ 9話 『西の国から』

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【7】

 並走しながら睨みあう藍川とカバラ。藍川とほぼ互角の身体能力の彼にはまだ余裕があり、戦況は膠着していた。カバラの起こす空間転移があまりにも厄介な上、もう一つの懸念が藍川の動きを鈍らせていたのだ。
「素の状態で中々やるな!」
 次の瞬間、藍川の体が転移させられ壁の中にめり込んでしまう。一瞬身動きができなくなった隙にカバラは手のひらで触れようとするものの、彼はすぐに壁を壊して抜け出し腕で弾く。手のひらで触れられないように完全に警戒していた。
『自滅!』
 藍川が権能を使ってカバラの心を操り、その手で自分の顔に触るように操作する。しかし、権能の効きが悪いのかその動きはガタついており、抵抗して彼がのけ反ったことで手のひらが触れることはなかった。舌打ちをしながら距離を取る藍川。
 元に戻ったカバラは自ら転移すると藍川の背後からチョップを仕掛ける。
呼縛散宣こばくさんせん!」
「ぬおっ!?」
 途端に現れた鉄の輪がカバラを締め付け動きを封じ、藍川は振り向きざまに結鎖を絡み付けると振り回す。そして、地面に何度も彼を叩き付けると放り投げた。結鎖が砕け散っても体を締め付ける呼縛散宣は砕けない。
「あっ、これ外れねえじゃねえか」
「呼縛散宣は膂力で拘束の強さが変わる。お前の場合、難儀だぞ」
 法術、呼縛散宣は習得難易度が高く使用する法力の量が多いものの強力だ。相手の膂力が高ければ高いほど硬くなり、弱ければ弱いほど柔らかくなっていく。Ω並みの司祭が呼縛散宣を受けた場合、これから脱出するのはかなりの時間を要してしまう。
 壊すには時間が掛かるが、藍川はその時間を渡さない。
「というかお前、俺の権能分かってるのか?」
「十四メートルの空間転移と、手のひらで触れた物を沸騰させる。だろ?」
「ますますギョロ目みたいだな……勘弁してくれよ」
 カバラの権能『ツーソン・ツーマン』の能力は十四メートルの空間転移と、手のひらで触れた物を沸騰させることの二種類。一人の司祭が二つの権能を持つケースは少ないがないこともないのだ。凶悪過ぎる二つの権能に敵わず敗北した者は数知れない。両腕を封じれば権能の一つは封じたも同然、藍川の戦いはここからだ。
 彼の発言が気になっていた藍川が問い掛ける。
「ギョロ目はどこに居る……どこで奴と会った」
「その様子だと、あんたの心を読む権能はそんなに便利じゃないみたいだな?」
 その時、遅れて権能を使った副作用がやってくる。脳裏に浮かぶ嫌なイメージと激痛に少し頭を抱えたものの、気合いでそれを乗り切り男を見る。腕を拘束されているというのに余裕を見せて笑う彼は、藍川の弱点を見抜いて勝ち筋を見出そうとしているようだった。そこに、欠片も諦めはない。
「どうかな。お前を倒す分には便利だぞ」
「じゃあ不便だな。あと、ギョロ目を探るのは辞めた方がいい」
「消されるほどヤワじゃないさ」
「よく知らんが、怪物なのは確かだ。俺を簡単に切り捨てるくらいには」
「そうか。話は倒した後で心を読んどく」
 権能の反動が落ち着いたのを確認し、息を整えた藍川は距離を詰め追い打ちをかけに向かう。自分にも他人にも使える空間転移が健在とは言え隙を突けば戦いようはいくらでもある。ギョロ目について知る為に倒そうと急ぐ藍川。
 そして、カバラは口角を吊り上げた。
「そうは行かない。司祭第六形態」
「……は?」
 Ωの本気は伊達ではない。彼の権能は強いが最強と呼べるレベルのものではない。他のΩの司祭と比べれば大したものではなく、そこだけを見れば彼はΩというよりもΩ-だった。しかし、司祭には無視できない別の要素がある。形態変化という捨て身の技が。
 結晶化するレベルまで高まった概念防御がカバラの全身を突き破り、結晶の鎧と仮面が身を包む。紫色の光を放つ怪物と化した彼は一瞬で最高速度に達し、反射的に防御した彼の両腕を貫いて胸を突き刺す。あまりの衝撃に周囲の建物を倒壊させながら吹き飛ばされていく藍川。呼縛散宣は砕けていた。
「がはっ!?」
「あまりやりたくないんだ、形態変化は!」
 自分の中の概念を擦り減らす代わりに絶大な力を得る司祭の形態変化。限界を超えて高まった概念防御が結晶化し鎧となり、遂に仮面すらも獲得した異形の姿。怪物となったカバラを止められる者はそう居ない。
 藍川は空中で姿勢を直すと足でブレーキをかけ始め、空間転移してきたカバラに自分の権能を使おうとする。
『停止!』
「効くかよォ!」
 カバラに搦目心中は通用しなかった。その心に一切触れることができず、代わりに藍川は手のひらで触れられてしまう。途端に体内の血液や水分が沸騰し始め、全身の細胞が悲鳴を上げ深刻な損傷を受けた。高まった概念防御と強化された権能による攻撃はあまりにも圧倒的だ。
「がああああっ!?」
 藍川は咄嗟に回し蹴りを放ち、彼から離れようと全速力でその場を離れる。比較すれば大したことがないとはいえ藍川の概念防御は高い部類であり、肉体の耐久値も並の司祭とはレベルが違う。体中の血と水分を沸騰させられてもまだ動くことができる。しかし、そう何度も攻撃を受けてはいられない。
 逃げる藍川がカバラの下に転移させられる。逃げようがない。
「随分と頑丈だなおい!」
「化け物か!」
 藍川は概念防御を限界まで高めるとカバラの拳をギリギリで受け流し、彼と比べて劣る反射神経とスピードで何とか捌き切ろうとする。しかし、次第に追いつけなくなっていき拳を何度か受けてしまい、体が裂けて血が溢れ出していった。トドメに腹に強烈な蹴りが叩き込まれ藍川は吹き飛ぶ。だが、カバラから十四メートルも離れない内に空間転移させられ、二回目の手のひらを受けた。蒸気が舞う。
「があああっ!?」
「形態変化なしで何でここまでやれるんだよ!」
『停止ッ!』
 血を吐き出しながら叫び権能を発動する藍川。限界を超えた無理やりな権能の行使でほんの少しカバラの動きを止め、その隙に彼は権能の効果範囲から逃げ出して姿を隠す。体の自由を得たカバラは彼を探す為にその腕を振ると、巻き起こる爆風で周囲が更地になった。
「ああクソ、何で俺は止まろうと思ったんだ。で、どこに隠れた?」
 現状、藍川に勝ち目はない。奇跡的に権能が一度だけ通用し足止めをすることができたが、奇跡は滅多に起きないが故に奇跡と言うのだ。動きを止めることができても自害まではできない。格闘戦ではカバラに分配が上がっており、権能を一方的に使えるという点でもレベルが違う。
 物陰に寝転び隠れる藍川。腹に穴が開いただけはあり出血量は相当だ。
「万事……休すか……はあ」
 彼と同様に司祭第六形態まで形態変化できれば同じ土俵に上がることができるだろうが、残念なことに今の藍川では到底敵わない。見方を変えれば第六形態の相手によくやれているものである。
 その時、突然訪れた弱点の反動で頭を抱える藍川。嫌な記憶が脳裏に過ぎり、彼の精神がじわじわと追い詰められていく。
「おえっ……くそっ……反動がっ……!」
「難儀な弱点だな」
 カバラが一瞬で距離を詰めると藍川を勢いよく蹴り飛ばし、空間転移で自分の側に移動させる。重体の藍川は自分がいつどこに移動するのかを瞬時に判断しながら、手のひらで触れられることだけは避けて捌き続けた。だがしかし、次々と藍川と彼の位置が変わることに対応できなくなっていく。
 全身の骨のヒビが限界に近付いていった。
三伝漆柱さんでんしっちゅう!」
 死にかけの体で法術を発動する。それはラジオが使った単芯漆柱たんしんしっちゅうの上位の技。地面から生えた三つの赤い柱がカバラを飲み込み、彼の体力と法力を少しずつ奪っていく。司祭を止められる程の効果がない単芯漆柱と違い、強化された三伝漆柱は司祭にも通用する。しかし、それは長くは持たない。
 腕を伸ばす藍川。
「呼縛散宣!結鎖!」
 自分の中の法力を全て出し切る勢いで拘束用の法術を使用し、いくつも拘束を重ねて封印を強固にしていく藍川。まともに戦って勝てない以上、倒さないやり方で止めるにはこれしかない。柱を鉄の輪が締め付け、その上を光の鎖で縛り上げて絶対に出られないように封印する。
「はあ……はあ……三伝漆柱は単芯漆柱の強化、効果は倍だ」
 ここまでやれば少しだけ時間を稼ぐことができ、その間にラジオを呼んで封印を更に強固にすれば戦わずとも勝てるかもしれない。少しだけ気を抜いた藍川は疲労からか瓦礫に座り大きく息を吐く。
 しかし、全ての拘束を破壊して中からカバラが現れる。
「なっ!?」
「よくやるよ。一体どんな給料貰ってんだ?」
「……月に六万七千ドルくらいだ」
 それは一ドルを九十円とした場合の計算である。
「俺より多いが……楽しくなさそうだな?」
「楽しいわけねえだろ。こんな風にボコボコにされてるわけだからな」
「その点ウチはいいぞ?ギョロ目の簡単な指示に従えばいいだけだ」
「ふっ……弱者を蹂躙してか」
 藍川にとって金は重要な問題ではない。自ら給料を減らして仕事を減らす程なのだから、この仕事を嫌っているのは確かだ。しかし、それでも彼は蓮向かいに所属している。ならばそこには意味がある。
 カバラの仮面の奥は見えない。
「強者なんだ、当然だろ?一方的だと楽しいじゃないか」
「……確かに、ギョロ目とお前を牢屋にぶち込めたら気は晴れそうだ」
「おや、ぶち込めたら……って、もしかしてもう諦めてんのか?」
「ああ、このままじゃ勝てないのは分かってるからな」
 拘束が何の意味も為さない相手、膂力も速度も権能も敵わず状況は詰み。粳部達の状況が分からない以上は援護は期待できない。このままタイマンを続けても勝機はゼロだ。しかし、そう何度も逃走の機会はない。
 その刹那、カバラの空間転移で藍川が彼の目の前に移動する。それに合わせて殴りかかる藍川だったが拳は空を切り、背後に回った彼が肩を掴む。
「物分かりが良くて助かるよ」
 三度目の血液の沸騰。藍川でも耐えきれる筈がなかった。
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