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2章 聖地の守護者

花。

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「ほらっ!」

走るゴディンは魔力を発し、多量の丸い氷を作り出したっ!

それがノーティスを襲うっ!

彼女はからくも、それを避けるも――。

「上かっ!?」

またすぐに、ゴディンが手を上げただけで、氷の雨が上空に現れるっ!

一度なら避けれなくもない。だが――。

「クソっ!?」

何度も何度でもっ!

上から横から埋め尽くす氷っ!

そして……。


「お前が悪いんだっ! そんな顔で神を冒涜するからっ!」

「うあぁっ!?」

ノーティスは避け切る事が難しくなり、必死に地面にへばりついて小さくなり、雨を逃れようとするっ!

ガガガっ!

成人男性の、コブシ大の氷の殴打っ!

いくつもの大きなつぶてに乱打され、そのまま転がる彼女っ!

「うぅう……」

滅多打ちになったノーティスが、痛みに震えながら立とうとするとっ!

「ほらっ、捕まえたっ!」

ついにゴディンが、ノーティスの胸ぐらをつかむ。そして……。


「くっ。放せっ!」

「ほぉ。やはり美しい……。神が私に与えたもうた、私の〝器〟になるにふさわしい女だなっ!」

ノーティスの顎を掴み上げるゴディン。

ノーティスを観察するように、美しい銀の髪を触る。

そして――。

バリっ!

ノーティスの服を破り、胸をあらわにさせるっ!

「……ぐぅっ!?」

「へぇっ!? 体は小さいのに、この大きさっ! 素晴らしいじゃないかっ。ふふ。お前が水の民じゃないのが本当に……。そう、実に実に残念でならないよ」

とても気に入ったようだ。

満悦の顔で、むき出しになったその胸。

大きく丸い放物線を描き、汗で濡れたノーティスの柔肌に舌なめずりし、ゴディンが揉みしだく。

「ぐっ……。やめなさいっ!」

「名前は確か、ノーティスか? あの捨て子の下民がそう、叫んでいたな。遠目では分からなかったが、髪もきれいだし、肌もきれいだ。良くやった。あぁ……ふふっ」

笑って大きな乳房を揉みしだきながら、ノーティスの〝具合″を調べまわるゴディン。

「はっ、離しなさいっ!」

ノーティスが嫌悪をあらわにしながら、ゴディンの腕を掴み、それに抵抗するが……。

全く揺るぎそうにない。

「ぐぅっ!? 触るな……このっ!」

べたべたと触ってくるゴディンに嫌悪を示し、暴れるノーティスっ!


「あまり騒ぐなっ!」

バシンッ!

「ぐぅ……」

ゴディンに平手を打たれ、ノーティスがうめくっ!

体にはアザが数十とあり、動くだけでも痛むのだ。

ゴディンは、ノーティスの銀色の髪を愛おしそうに触る。

「しかしノーティス。お前は見れば見る程やはり……。運命を感じるよ。私への神からの贈り物だ。喜べノーティスっ! 私の物になれと、神がおっしゃっているっ。お前は運命を得たのだっ!」

「嘘の臭い」

ゴディンの言葉を聞いた瞬間ノーティスの顔が、今までにない程の嫌悪と憎悪、そして憤怒の顔に変わるっ!

「神威(カムイ)を軽々と口にするとは本当に、腹に据えかねる奴らですねっ! あなた達水の民はっ!」

「何を言うんだい、私の〝器″よ? 神威(カムイ)を私が口にして、当然じゃないか。私は水の神に最も近くでお仕えし、神の声を〝ただの″人間共に聞かせてやる、神直々のしもべ。私が〝神威(カムイ)″を語らねば、君たち人間はどうやって、神のお声を聴くんだと思っている?」


「だがあなたは、神ではないっ! あなたに私達が、頭を垂れる筋合いはないはずっ!」

「何を言っている。〝ソレスティアル・ドゥーエン(予言者)″の言葉は、神のお声と同義。いなくなれば、人間共は神を失ったも同然さ。敬うべきだろうに。私は父上の跡を継ぎ、〝ソレスティアル・ドゥーエン(予言者)″になる。神に最も近い男になるのさ」

(神の言葉を伝える〝ソレスティアル・ドゥーエン(予言者)〟、か。そいつが、神と話をつける為の鍵か。父上だとか言いやがったなこの、ボーフラっ! だったらこのボンボンを何とかして、おびき寄せるしかねえ。だがしかし……、ちっ。気に食わねえ顔しやがってっ! まずはその顔ゆがむ位、痛い目見せてやんよっ!)

ジキムートが血の混じったツバを吐き、手に力をこめるっ!

ノーティスに集中して、隙だらけのゴディンに対して、どうやって攻撃しようか目線を這わせていく。

「神のお言葉を聞かせてやるですって……? 傲慢なっ。〝ソレスティアル・ドゥーエン(予言者)″も何も、あなたはただの神の雑務係でしょうがっ!」

「……っ!」

その瞬間――。


ザスッ!


「ぐぁっ!?」

深々と刺さる、ノーティスの足への一撃っ!

だが、肌は血を噴出させない。

血は凍り付き、肌は冷気で凍てついていたっ!

「そのような侮辱も戯言も、今後一切口にするなっ! 特に父上の前ではなっ! ここがお前の分岐点さっ! 私の子を世界に与えてやる為の、私専用の〝器〟になって、貴族よりも素晴らしい存在になるか。ただの死体になるかのなっ!」

ノーティスの間近に近づく、ゴディンの顔。

「ふぅ……ふぅ……っ!」

凍り付く傷口に、寒気をもよおすノーティス。

白い息を漏らし、歯をカタカタと鳴らす。

すると――。

「傷をつけたくも本当は……ないんだよ」

そう言って優しく顔を……。

白く美しいノーティスの顔を撫でる、ゴディン。

「はぁ……はぁ……。ふふっ」

ゴディンの様子に笑うノーティス。

するとやおらゴディンが、ノーティスの髪の毛を触り……。


「気になってたんだけど、お前のその髪飾り。黄色の花か……」

「……っ!」

その瞬間、目を見開くノーティスっ!

「ノーティスは花が好きなのかい? 私は好きだよ、花が。青はどうだ?」

「それに触るなっ、人々をあざむく悪魔めっ! 私はあなたの――。ゴミ共の人形じゃないんだっ!」

「なっ!? どうしたと言うのか……?」

いきなり暴れ出したノーティスに驚き、彼女を観察するゴディン。

そして――。

ビキキっ。

ノーティスに刺さった氷が増殖するっ!

「あぁ……っ!? ぐっ!」

身震いするノーティスっ!

今彼女の血は、異様な速さで冷えている。

だがそれでも――。

「その手をどけろっ! 髪飾りに触るなっ。ふぅ、ふぅっ! お前の様なゴミが触れて良い物じゃないっ!」

ノーティスは憤怒の表情で、暴れ続けているっ!

「やれやれ……。だがこればかりは、手を抜けない。きちんと言いつけを、言葉に気を付けさせないといけないんだからな。特にお父上の前。二度とあんな事にならないようにしないとっ!」


ガズッ!

バキッ!

「グッ!?」

脇腹を殴られ、嗚咽を噴き出すノーティスっ!

どうやら肋骨が折れたらしい。

「痛みは続くぞ、ノーティス。いい加減にしないと、苦しいだけさ。これだけは譲れないからな。きちんと言葉に気を付けられないようなら、連れてはいけない。ココで消す」

「ふぅ……。ふぅっ! くそっ!」

悔しそうに唇を噛むノーティス。

今まで見せた中で最も、彼女の感情的な顔であった。


「だが安心しろ。しっかりと改心すれば、この傷もすぐ治してあげるさ。我らには〝ブルーブラッド(蒼白の生き血)″がある。奇麗な肌と、そしてその顔――。それは決して汚れない」

陰鬱そうに、ノーティスを諭すゴディン。

そして美しい乳房を弄びながら、ノーティスの――。

自分の所有物の髪の飾りへと、手を伸ばすゴディン。

「ならそいつは、人質ではないなっ!」

突如ジキムートが、ナイフで斬りかかるっ!


「ん? まだいたの? まったく。ムードを読みなよっ!」

ジキムートの声に目を細め、不機嫌にな顔で障壁を張るゴディンっ!

氷の盾を展開されてしまうと、ジキムートが持つナイフでは崩せないっ!

だが――。

「あいにく俺は、〝ムードブレイカー(自己中)″なんでねっ! ノーティースっ!」

上を指さすジキムートっ!

するとノーティスは、そのジキムートの意図に気づいて上を見たっ!

「はいっ!」

すぐに応じて彼女は、自分のショートソードを力いっぱい、上に投げてやるっ!

「ちぃっ!」

ゴディンがその小刀に気づき、行方を目で追うっ!

「おらあぁあっ!」

ジキムートは壁を蹴り、その小刀を受け取……らなかったっ!

そして小刀は剣にぶち当たり、ゴディンの前方に音を立てて落ちるっ!


カランっ! ガラランっ!


「……っ!?」

ぴくっ!?

ゴディンは体を小さく震わせたっ!


小刀に完全に、視線を奪われたゴディン。

訳が分からず、眼が泳いでいるっ!

「おれ、よっっと!」

その間にジキムートが、壁に刺さった自分のバスタードソードを取り返したっ!

そしてがら空きの、ゴディンの真後ろへと着地し……っ!

「くっ……」

危険を察知しゴディンが、自分の体付近にある水分、それを一瞬で水蒸気に変更したっ!


ブシャアアー!


白む一帯っ!

一気に水蒸気が、爆発的にあふれ出した。

「ぐあぁっ!?」

霞に巻き込まれ、弾き飛ばされるジキムートっ!

ドンっ!

「がはっ!?」

ジキムートを壁まで吹き飛ばす水蒸気っ!

壁にぶち当たり、ジキムートが倒れるっ!


「ふふっ。小細工で惑わせ、私のスキをついても無駄だぞ愚民っ! 傭兵でもこれ程違うとは。久しぶりに外に出たが……戦うだけが取り柄のゴミでも、天と地の差があるとよく分かる。だがやめろ、鬱陶しいだけの大道芸人めっ!」

(アイツはノーティスが、ショートソードを投げただけでも反応してた。ペテンは完全に効くってのにっ。魔力ぶん回されてるだけで、どうにもなんねえっ! クソっ!)

白む世界に、悪態をつくジキムートっ!

完全にゴディンは、ショートソードに気を取られていた。

最大限のミスリードを誘ったのだ。

ペテンは確かに効いている。

がしかし、傭兵の小細工の前に立ちはだかる、大きな大きな魔力差っ!

「はぁ……はぁ。くそっ、まだだ。こんな所であんな……あの程度の奴に」

血で視界がゆがむジキムート。

唇をかみしめ、へし折れた剣を持ち、立ち上がるっ!





一方こちらも血を流し、苦しむ男がいた。

「おいっ、おいネィン」

小声で呼ぶ者。
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