軽四駆X異世界疾風録 〜〜異世界転移したら愛車も一緒だったので、ボロボロになりながら帰ることにした

タキ マサト

文字の大きさ
26 / 61
第三章  道なき旅路 

2 闇は集い、光は細く

 夕闇が山肌を包み込もうとしていた。追跡部隊の指揮官は、燃え続ける屋敷の敷地の一角に急造された天幕の中で、地図を睨みつけていた。

「もう、これ以上は追えません。騎馬では岩場が多く、徒歩でも遭難の恐れが」
 部下の報告に、指揮官は眉を寄せた。

「……斥候と地元の狩人を呼べ。あの『鉄の箱車』の痕跡は、山の者たちなら見失わん」  
 疲労の色をにじませながらも命じると、すぐに伝令が駆け出していった。

 すでに夜気は冷たく、山からの風が火の粉を巻き上げる。残された炎は、証拠となる物の多くを灰にしようとしていた。


「消火を急げ。手がかりが焼け落ちる前に……」
 指揮官は小机に向かうと、ペンを取り続報の報告書をしたためた。


「鉄の箱車、山中に逃走。追跡は困難。斥候と狩人に交代。北西へ向かった模様」
 報告を筒に収めると、鳩の脚に巻きつける。


「聖都へ…飛べ」
 黒い鳩が夜空へと消えた。


 そのころ、さらに遠い北。

 濃い霧が立ちこめる巌窟の奥、闇の民の長老が座す祭壇の前では、影使いの長が両腕を掲げていた。封印の影の脈動を追い、黒い影が蛇のように地を這う。

 やがてそれは一つの像を結ぶ。森を越え、沢を渡ると鉄の箱車が浮かび上がった。

「……見つけた」
 影使いの口元が緩んだ。しかし、彼の額に皺が寄る。

「またか……!」
 影の像が裂けた。
 見えぬ障壁に断ち切られ、跡形もなく消えた。

「まじない……小人の力か」
 呪的な抵抗により、追跡は途絶えた。
 だが、鉄の箱車が向かっていた方角、それは北。

「北か……」
 影使いは立ち上がり、手を振ると部下の猿使いたちが現れた。

「羽猿、豹猿、鬼猿、熊猿を南に集めろ。森の南端だ。やつらを必ず仕留める」
 そしてその奥、影に紛れるようにして立つ長老が、低く呻くように呟いた。

「まだ……足りぬ。今度こそ確実に……葬らねばならぬ」
 闇の力はますます強い。
 影を操る封印を解かなければ、やがてわれらも闇に飲まれる。
 そうなれば、もう手遅れだ……あの一族のように……
 五年前の闇の民の暴走で我が子を失い、光の民に森を蹂躙された記憶が長老に蘇った。


 翌朝、聖都。


 聖戒寺院から西に伸びる回廊を抜けた先に騎士団の本部がある。
 その作戦室に聖戒騎士団総団長グリファスはいた。

 石造りの壁に張られた地図を前に、グリファスは両手を背に組み、じっと報告の書簡を見つめていた。

「この移動速度……常識では考えられん。南のアジトには、何か理由があって向かったのだろう。だがその後、北へ」
 指先が、地図の上をなぞる。

「南西の森での猿どもの死骸…」報告によると猿の死骸は百に迫り、その中には羽猿や豹猿、そして鬼猿の姿もあったという。
 聖典の中の鬼猿が現存していた。それをあの箱車の一行が退けた。

 恐るべき脅威だった。


「南のアジトから山を越えて北、闇の森の西、山岳地帯との境界線」
 グリファスは目を細めた。
 五年前、あの森で息子を失った……猿の牙に引き裂かれ、影に飲み込まれた姿が、今も夢に現れる。

「封印を森に近づけてはならん……」
 封印が解ければ、闇がこの世を覆う。
 五年前とは比べ物にならない災厄がこの世界を襲う。
 グリファスの額に冷たい汗が流れた。

「全軍に告げよ。闇の森南端、街道沿いに集結せよ。鉄の箱車とその一行…これを、最大脅威度の敵とみなす」
 命が下ると同時に、号令が鐘のように響き、聖都の騎士団が再び動き出した。

感想 0

あなたにおすすめの小説

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~

ヘッドホン侍
ファンタジー
◆異世界転移したサラリーマンがサンドボックスゲームのような魔法を使って、家をつくったり街をつくったりしながら、マイペースなスローライフを送っていたらいつの間にか世界を救います◆ ーーブラック企業戦士のマコトは気が付くと異世界の森にいた。しかし、使える魔法といえば念動力のような魔法だけ。戦うことにはめっぽう向いてない。なんとか森でサバイバルしているうちに第一異世界人と出会う。それもちょうどモンスターに襲われているときに、女の子に助けられて。普通逆じゃないのー!と凹むマコトであったが、彼は知らない。守るにはめっぽう強い能力であったことを。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。