軽四駆 × 異世界疾風録   season2 〜今度は家族全員で異世界へ! ランエボ乗りの妻がジムニーで無双する件〜

タキ マサト

文字の大きさ
9 / 49
第一章 家族で異世界へ

7話 光の紋様

しおりを挟む
 田崎と未来がジムニーの足回りを掃除していると、ケイが顔を出した。
『おはよう。ケイ』
 田崎が声をかける。ケイは物珍しそうにジムニーを見ている。すでに旅立ちの支度は整えていた。
「おはよう。パパ、ママ、ケイ兄ちゃん」
 碧も目をこすりながら起きてくる。

「パパ……やっぱり碧はお留守番?」
 期待と不安が入り混じった目で見つめられ、田崎は言葉に詰まった。
 この里も安全かどうかは、分からない。
 だが、連れて行けば間違いなく危険に晒すことになる。
 どちらが正解なのか、田崎の中で答えは出ていなかった。

「チョーローに相談してから……かな?」
 かろうじてそれだけ伝えると、未来が横から口を挟んだ。
「わたしも行きたいんだけど?」 
 田崎は頭を抱えた。
「これは家族旅行じゃない。どれだけ危険か分かってて言ってる?」
 やっぱり二人は置いていこう、田崎は心に決めた。
「運転手も二人いた方が良いでしょ?」
 未来が畳みかける。
「碧も連れていくのか?」
「当たり前でしょ? この子を置いていけるなんて、そんなわけないでしょ?」
「それもチョーローの判断を仰ごうか……」
 チョーローだったら止めてくれるはず、田崎は最後の望みを長老の分別に託した。

 朝食は石畳の広場で取ることになった。未来と碧はキノコのような小人の家や、小人の歌うような朝の挨拶に目を丸くしている。
 碧はすかさずスマホを取り出すと写真を撮り始めた。
「すぐ充電なくなっちゃうよ、碧」
「いいの! その前にたくさん撮るの!」
「わんわんわん!」
 ケイは四角い板を向ける碧に、不思議な視線を向けている。
 やがて広場に着くと、イリナとモーイがチョーローの傍に控えていた。

「タサキよ……わしは奥方と娘さんを里に残すべきだとは思う。常識で考えればな」
 チョーローは静かに切り出した。
「だが、奥方と娘さんが、おぬしを置いて里に残ることを望んでいないのは分かっておろう」
 チョーローは首を振った。
「影の制御が難しくなっているのも事実。わしがいない時に、この里もしばしば結界を破られた……何が起こるかは、正直分からん……わしらでは守りきれぬかもしれん」
――やはり、小人の里も安全ではないか……田崎は目を閉じた。
 ここが安全地帯でない以上、置いていくという選択肢は消える。
「タサキ。家族がバラバラになることこそが、この旅の大きな隙となる。おぬしの妻と娘は、この旅の弱点ではない。力になりうる。わしは止めぬぞ」
 田崎はチョーローの予想外の言葉に、覚悟を決めたように深く息を吐いた。
「……やっぱり不安だけどな」

 イリナが地図を広げた。
「……ここが聖都で、さらに東……。峠を越えて……この海の入江? ここが王都か……三、四百キロといったところか……」
 田崎は十二年前の経験を経て、ガソリン携行缶は常に車に積んでいた。
「ガソリン、持ちそうね。ダートでしょ? 血が騒ぐわ」
 未来も地図を覗き込む。その目はすでに、ランエボ乗りの鋭い目つきになっていた。
「……危険だぞ。昨日の羽猿だけじゃない。豹みたいな奴とか熊みたいな奴、ドラゴンみたいなのもいるんだぞ」
「あんたは逃げ切ったんでしょ? ジムニーとわたしを信じなさい」
 未来が言い出したら聞かないことはわかっていた。
「それに、リューシャさんにも会いたいしね」
 田崎は降参だとばかりにうなだれた。
「さあ! 小屋に戻って準備よ。あの工具箱は使えそうね」
 田崎は恨めしそうにチョーローを見た。
「ほっほっ。さあモーイよ。真面目に働かないと分かっておろうな?」
「ったく、チョーローには敵わないね」
 モーイはリーに飛び乗ると、リーに何事かを話しかけた。驚いたリーだったがすぐに大人しくなる。
 イリナも立ち上がり、田崎一家に話しかける。
 モーイがめんどうくさそうに通訳を始めた。
「わたしは、イリナ。十二年前、タサキに命を救われた。このご恩は聖戒にかけて必ず返します。そしてリューシャさんを助けにいってもらえることに深い感謝を」
 イリナは手を組み合わせてお辞儀をした。
「イリナの光の術は猿の獣どもに有効じゃ。ホーガイと聖都にもおぬしたちの知らせを送っておいた。役に立つじゃろう」
「……お人形さんみたい。かわいい……」
 碧がつぶやいた。そしてはっとしたように自己紹介した。
「わたし、アオ。よろしくね」
「わたしはミクよ。イリナよろしく」
 イリナは碧の肩ほどしかない背丈ながらも、凛とした存在感を放っていた。
 
「碧とケイとリューシャとオムカを助けて、大人三人。子ども三人……とリー。小人はいいとして……ジムニーに全員乗れるか?」
 田崎の心配は尽きない。
「警察もいないし、なんとかなるでしょ?」
 そこには大人しそうな未来はもういなかった。まるでこのために結婚したといわんばかりに腕をまくった。


  *


「チョーロー? あの薬は使えるわね。このジップロックとタッパーに山ほど詰めて頂戴、あと葉っぱも」
 未来がチョーローに話しかけたと思ったら、田崎に振り向いた。
「あと圭一? 軽トラの工具箱丸ごと車に積んでおいて。あと食料ね。買い出しの分だけじゃ足りない。この里の食材もクーラーボックスに突っ込んどいて」
 矢継ぎ早に指示を出す未来。
「お? おう」
 急に忙しくなる田崎。

 碧はリュックを背負ってスマホで写真を撮っていた。ケイに撮った写真を見せては、その驚く表情を見て得意顔をしていた。
 小屋を写真に収めた時だった。
「碧。写真ばっか撮ってないで手伝え」
「……なに、これ綺麗……」
 田崎が画面を覗き込む。
「なんだろう? 何かの模様みたいだけど」
 小屋の写真の背景に、ぼんやりと赤い模様のような光が浮かんでいる。スマホから目を離し、森を見るが肉眼では見えない。
「耳鳴り……? なにか聞こえる……」
 その模様を食い入るように見つめる碧の表情が、次第にぼんやりとしてくる。
「……呼んでる」
 碧の瞳から光が消え、虚ろな色が浮かんだ。
 吸い寄せられるように、碧は森へ駆け出した。
『アオ!?』
 虚をつかれたケイが叫び追いかける。碧は森の中に躊躇なく入っていく。まだ午前中とはいえ森の中は暗い。
「碧?」
「碧ッ!!」
 田崎は嫌な予感がして手に持つクーラーボックスを放り出すと、ケイを追うように走り出した。
「圭一?」
 後ろで未来が異変を感じ取った。
「未来ッ、チョーローを呼んできて!」

 まるで操られているかのように木々の間を抜けていく碧は、時折立ち止まっては首を振る。何かに耳を澄ませるようにして駆け出していく。
『アオ! ***!』
 ケイの声が届いているのかいないのか、森の奥に入っていく。
「碧ーっ! ケーイっ!」
 田崎がケイの後ろを捉えたとき、ケイの左手の紋様が脈打つように光り始めた。
 その顔が苦痛に歪み、左手を押さえる。
 それでもケイは碧の後を追った。田崎がその後に続く。
 碧は立ち止まっていた。そこはぽっかり開いた円状の広場だった。
「この辺……」
 碧はスマホのカメラを向ける。広場の中心にある大木の切り株の洞が、赤く脈動するように光っているのがスクリーンに映し出された。
『アオ……?』
 無表情のまま碧は木の洞に両手を突っ込んだ。両手が出てきたとき、手に持っていたのは石板だった。
「あった……」
『アオ…… ****!』
 ケイが息を飲み、石板を碧の手から取ろうとしたとき、石板がカッ、と光り始めた。
 それはまばゆい光となり視界が白く染まった。
「まぶしい……」
 碧が目を塞いだとき、ケイの左手の紋様も光りだした。
 ペキッ……石板が割れる音とともに、石板の紋様が碧の左手の甲に浮かび上がる。
 ケイの左手の光は止まらない。
 ケイは顔をしかめ苦しみ出す。
 田崎もまぶしさに目がくらんだ。
「痛いよお……」
 碧がうめいて、意識が飛んだように崩れ落ちた。
「碧?!」
 その碧の倒れる音を耳が捉えたとき、

 チリン…… 鈴の音が鳴った。

 バサバサッ!! 上空に亀裂が入り、どんよりとした空がそこだけ不気味に覗いていた。
 空気を切り裂く翼の音が広場に響く。
 数匹の羽猿が急降下してきた。

 田崎はその鈴の音と羽ばたきに、心臓が冷たい何かに鷲掴みにされた。
「碧ッ!! ケイ!!」
 光の中に黒い影が降り立ち、倒れた碧とケイに覆い被さる。
 碧とケイをその太い足でがっしりと掴んだ二匹の羽猿と、それを守るように数匹の姿があった。
「碧ーッ!! ケーイッ!!」
 田崎の頭に一瞬にして血が上った。
「うおおおおおッ!!」
 羽猿に猛然と突進した。

「碧ーーーッ!!!」
 一匹の羽猿を突き飛ばすと、碧を掴んで飛び立とうとしている羽猿に手を伸ばす。
 碧のだらりとした手に田崎の手が届いた。

 冷たい……!?

 その手を掴もうとしたとき、後ろに羽猿が迫っていた。あっと思った瞬間、田崎は後頭部に鈍い衝撃を受けた。
 一瞬遅れて激痛が走り、視界が霞んだ。
 気がつかないうちに膝をついていた。次いで上半身が倒れ、口が土を噛む。

「碧……」
 手を伸ばした先に、ケイと碧を掴んだまま上昇していく羽猿の姿があった。

 ぐんぐんと小さくなる羽猿の姿がぼやけていく。

「碧……、ケイ……」

 田崎は意識を失った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

『三度目の滅びを阻止せよ ―サラリーマン係長の異世界再建記―』

KAORUwithAI
ファンタジー
45歳、胃薬が手放せない大手総合商社営業部係長・佐藤悠真。 ある日、横断歩道で子供を助け、トラックに轢かれて死んでしまう。 目を覚ますと、目の前に現れたのは“おじさんっぽい神”。 「この世界を何とかしてほしい」と頼まれるが、悠真は「ただのサラリーマンに何ができる」と拒否。 しかし神は、「ならこの世界は三度目の滅びで終わりだな」と冷徹に突き放す。 結局、悠真は渋々承諾。 与えられたのは“現実知識”と“ワールドサーチ”――地球の知識すら検索できる探索魔法。 さらに肉体は20歳に若返り、滅びかけの異世界に送り込まれた。 衛生観念もなく、食糧も乏しく、二度の滅びで人々は絶望の淵にある。 だが、係長として培った経験と知識を武器に、悠真は人々をまとめ、再び世界を立て直そうと奮闘する。 ――これは、“三度目の滅び”を阻止するために挑む、ひとりの中年係長の異世界再建記である。

処理中です...