不憫すぎる多喜さんの異世界漂流記 ~呪われた最弱パーティが意外と強かった件~

タキ マサト

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第2章 老婆の呪いと祠の謎

15話 マッチョと旅立ち(三日間ひたすら歩く地獄の予感の巻)

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 雨に濡れた神官をぺぺちゃんは、リャアリュウィアチェミュゥ・メィムア・ピレと紹介した。
 聞き取れない三人。
 慣れたものでバンダナは「ピレさん?」と言った。
 うなずくぺぺちゃん。
 
 ピレはまだ若く見えた。身長はバンダナと同じくらいだろうか。十代後半といったところか。
 ぺぺちゃんは本を開き山の麓に描かれた神殿の絵を指し、次にピレさんを指差した。 
 隣の神殿から来たということか。

——何かが起こっている?

「この人! この人がわたしをここに連れてきてくれたの!」
 おばちゃんが甲高い声で叫んだ。
 雨の降る中、お玉を握って泣き叫んでいたこの女性を発見し、導いてくれたのだろう。

 多喜彦はピレさんに自己紹介をした。この先ピレさんが道案内になると推測できた。 
 なるべく友好的な関係でいたいと多喜彦は思った。
「おれは、マッチョだ」
 腕をまくって盛り上がった上腕を誇示し白い歯を見せる。
「こっちがマスターさん、そしてこちらが……」
「おばちゃん」
 マスターが言ったとたん、頭をお玉で叩かれた。
「おばちゃんって何よ! おばちゃんて、わたしはスミレよ! スミレさんとお呼びなさい!」
 マスターは痛む頭を押さえ慌てて「スミレさん」と言い直す。

 自己紹介が終わったあと、村人の女性が四本ツノの焼いた肉とお茶を持ってきてくれた。

「これ何の肉?」
「ちょっと何か味づけはないの?」
 スミレはぺぺちゃんに身振り手振りで何か話しかけている。

「わたしはね。料理研究家なの! お教室のトイレで泣いてたらこんなとこに引っ張られたの!」
 聞いてもいないのに自分から情報を開示していくスミレ。

 シェフの元夫は若いソムリエールと不倫し渡仏後、音信不通。今月、料理教室もついに一人もいなくなった。始めたYoutubeの動画チャンネルは開設二年で登録者が二千五百人止まり。毎日のように出す動画は四桁に届かず収入は月に数万円。
 撮影、編集、ネタ探しと終わりの見えない毎日。
 今日は収録中に心が折れてしまったとのことだった。

「食いだおれ」のエプロンが急に切なくなる三人だった。

 暴風雨のようにまくし立てるとスミレはぺぺちゃんを連れて祭壇裏の扉の中に消えていった。
「お料理研究家スミレちゃんねるよ! チャンネル登録お願いねー!」
 三人はさらに居たたまれない気持ちになりため息をついた。

 しかし三十分もしないうちに、スミレとぺぺちゃんが神殿に戻ってきた。差し出された肉は見違えるほど食べやすくなっていた。

「岩塩の塊があったの。肉に切れ目を入れて漢方みたいな薬草をまぶして少し焼いたら臭みが消えたでしょ?」
 スミレはお玉を振り上げて力説している。確かに驚くほど食べやすい。あの芋虫のスープの元かと多喜彦は思ったが、使い方次第でこんなに変わるのかと感心した。
 ぺぺちゃんも一口食べると驚きの表情を見せた。

 スミレはぺぺちゃんと日本語とジェスチャーを交えて四本ツノの肉を食べながら何か話しあって笑っている。
 女の切り替えの早さとコミュニケーション能力の高さを垣間見た多喜彦だった。

 食べ終わるとぺぺちゃんはジェスチャーをした。
 食べる、目を閉じ寝るふり、起きるふり、そして歩くふり。

「ぺぺたん、かわいい……」
 マスターの鼻の下が伸びる。
「明日、出発ってことね」
 バンダナは頷いて親指を立てた。
 ぺぺちゃんも首を縦に振った。

 まだ雨は降り続いていた。
 裏手の倉庫に戻る。スミレはぺぺちゃんと神殿に残った。

 多喜彦はマスターを誘ってトレーニングをすることにした。
 次の敵は巨大なニワトリの化け物なのだ。
 二階に上がろうとするマスターの腕を引っ張りメイスをもたせ白い歯を見せる。

「さあ! 素振り百回だッ!」

「がんばれマスター」
 冷たく言ってバンダナは二階に上がっていく。手には神官の本を持っていた。

「違うッ! こうッ! こう持つッ!」
 多喜彦の熱血指導が始まる。しかし心の中では自分の両手の痣が気になって仕方がなかった。次に呪いが発動したら、この手は動くのか?

「いたたた、呪いが……」
 お腹をさするマスター。しかし多喜彦は騙されない。
「筋肉の緊張! 姿勢! 表情! 呼吸! 全然違うッ! 呪いじゃないッ!」
 断言し手に持つバトルアックスを振り上げる。
「ヒイイッ!」
 マスターの悲鳴が石壁に反響した。

 翌朝は朝から日が差していた。
 雑草の芽が太陽の光を待っていたかのように頭をもたげていく。
 荒野だった大地に緑の絨毯を広げようとしていた。

 一階には木のカゴが置かれそれぞれ着ていた服が洗濯されて畳まれていた。
 ぺぺちゃんが洗濯してくれていたのだ。

「もう着られないかと思った……ぺぺたんありがとう……」 
 洗濯された服を見た時、マスターが手を合わせた。
 あれだけ血まみれだったのだ。血を落とすのはどれだけ大変だっただろうかと多喜彦は思う。

「やっぱり痩せた! ボタンも留められる!」
 血で汚れたスーツは茶色のシミが残り、シャツはピンク色になっていたがマスターは笑みを浮かべて喜んでいた。
「最強装備スーツ! 着用っ!」
 マスターはメイスを持ちポーズをつけた。

 多喜彦もまだらのピンク色になったタンクトップと短パンを履き神官のローブを羽織る。バンダナがバンダナを巻き直しそれぞれ武器を取った。

 神殿に行くとぺぺちゃんはすでに旅装を整えていた。
 革の胸当てをつけ弓と矢筒を身につけている。大きな背嚢を背負っていた。
 スミレも濡れた服を神官の服に着替えて小さめの背嚢を背負っていた。
 お玉はしっかりと右手に握られている。

 ピレさんは神官の服に背嚢を背負い真面目な顔で杖を持っていた。

 バンダナは神官に本を返しお礼を言った。
 マスターは黒のリュックに布で包んだ割れた鏡を入れる。

 それぞれのペットボトルに井戸から汲んだ水を満たし神官より水が入った革袋が支給される。最後に縄で縛った毛布をリュックにくくりつけた。

 肉で簡単に朝食を済ませた後、旅立ちだった。
 ピレさんを先頭に神殿を出る。
 話を聞いていたのだろう。村人が神殿の前に大勢集まっていた。
「マッチョー!」
 一際高く叫ぶ声が聞こえる。農民の女性の一団が手をふる。
 多喜彦はそれに手を挙げて答える。
「バンダナー!」
 井戸で一緒に作業した村人たちだった。槍を掲げて見せるバンダナ。
 みんな泣いていた。
「俺は?」
 そういうマスターの声は二人に黙殺された。

「なんか三日くらいかかるらしいわよ」
 家に帰るためには神殿に行く必要があると覚悟を決めたようだった。
 昨日の不安気な表情は消えていた。
「えっ? なんで三日って知ってるんすか?」
 不思議そうな顔をするバンダナ。
「ぺぺちゃんが教えてくれたよ、ねー?」
 ぺぺちゃんと顔を合わせて微笑みあう。  

 いつの間にか二人は仲良しになっていた。
 お玉をふり回しつつ何かを言い合い笑っている。

 朝の柔らかい日差しの中、ぬかるんだ街道を山脈に向かって歩く六人。

 多喜彦は不安な表情で両手に刻まれた呪いの影を見る。

 不吉な予感とは裏腹に晴れ渡った雨上がりの空はどこまでも澄み渡っていた。

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