不憫すぎる多喜さんの異世界漂流記 ~呪われた最弱パーティが意外と強かった件~

タキ マサト

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第4章 三人の多喜さんとぺぺちゃんの最後の戦い

29 話 多喜さんの逆襲(奇跡のバックドロップ)

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 光の中から、力強い腕が現れた。

「マッチョマン……」
 その腕が山田多喜とぺぺちゃんを掴む。

 その時、

『逃さぬ!!』
 老婆が多喜の足を掴んだ。

『お前だけは許さぬ! 呪い殺す!』
 強い力で締めあげられた足首は黒く染まっていく。

『バアサン! 変だよ!! 待って!!!』
 子どもが老婆の足にしがみついた——

 その時——
 外の世界では、鏡が割れた。

 多喜は、見た。

 最初に子どもの体に無数にヒビが入った。
 次に老婆の体がバラバラに割れる。
 そして——自分の足にも亀裂が走った。

「うわあああああ!!!」
「きゃあああああ!!!」
 視界が、暗転と光の点滅を繰り返した。


  *


 多喜彦と多喜二は、割れた鏡から黒いモヤが湧き立つのを目撃した。
 次いで、光が発せられる。

 次の瞬間——
 光に包まれた、神々しい筋肉をまとった大男が現れた。

 その逞しい腕には多喜とぺぺちゃん、
 そして多喜の足元にしがみついているのは老婆。
 その老婆に腕を回しているのはあの子どもだった。

『……鏡の外?』
 子どもが呟いた。

『時間がない……』
 マッチョマンの口から、言葉が漏れた。

「おおお……」
 多喜彦は目を見開いていた。

 これが——ギリシャマッチョマン?

 とんでもない!!

 多喜彦は、今までその逞しい腕と神官の本に描かれた絵しか見たことがなかった。

 だが——
 その盛り上がった筋肉、均整の取れた肉体美、神々しいオーラは、神官の本とはまるで違った。

 それは——
 ギリシャ神話から抜け出してきた、ヘラクレスのようであった。

「す、すげえ……」
 多喜彦が、呆然とつぶやく。

 雨と風がさらに激しくなり、具現化した鏡の住人と多喜一行を打ちつけた。

 竜のような光が、雷鳴とともにいくつも大地に突き立つ。

 その中、
 ドラゴンが咆哮を上げ、翼を広げた。
 腹の底を響かすような落雷とともに。

『山田多喜。お前の体を一時、貸してくれ』
 ヘラクレスの思念が、響いてきた。
「へっ?」
『鏡の外で力を発揮するにはこれしか方法がない!』
「……」
『お前の体は、この力に耐えられないかもしれない』
「……」
「わかった! みんなを助ける!!」
 多喜が、叫ぶ。
「俺に力をくれ!!!」
 その言葉を待っていたかのように多喜の体にヘラクレスの体が溶け合うように融合していく。

 光に包まれる多喜。

「痛い……か、体が……引っぱられる……」
 激痛が、多喜を襲う。
 意識が、薄れかけていく。

『もう限界だ! 急げ! 意識を保て!!』
 ヘラクレスの思念が響く。

 その体は見る間に巨大化し——
 ドラゴンと同じ背丈になった。
 顔は多喜のまま、体は逞しいヘラクレスのものになっていた。

「おぎゃああ!!!」
 今まさに——山田ヘラクレス多喜が、産声を上げた。

 稲光が、そのヘラクレスの筋骨隆々とした体を金色に染め上げる。

 ヘラクレスと融合した体は、痛みが消失し、力が湧き上がってくるのを感じた。

『あああ、ワシの山田多喜が……』
 老婆はしわくちゃの体を丸め、泣き叫ぶように空を見上げる。

『おじさん……かっこいいよ……』
 子どもが、悲しげな顔で多喜の背中を見た。

「あそこが安全だ! みんなあちらに!」
 山田ヘラクレス多喜が振り返り、神殿裏の蔵を指差す。

「ぺぺちゃん!!」
 多喜二がぺぺちゃんを抱きしめる。

「タキジッ!!」
 ぺぺちゃんは泣いていた。

 無事だった。
 二人は、強く抱き合った。

「マスター!! 頼んだ!」
 多喜彦が叫び、神官に蔵を指差す。

「お前らも来い!!」
 多喜彦が、多喜二とぺぺちゃんに腕を回し、老婆のマントの襟元を掴んだ。
『バアサン! 待ってえ!!』
 子どもが慌てて老婆の背中に飛び乗った。


「気をつけろ!」
 石屋根が崩落して足場が悪い床を、多喜彦が先導して蔵を目指す。


  *


 子どもの頃見た、あの夢の光景が——
 目の前に広がっていた。

 嵐の中の荒野と目の前にうずくまる巨大な影。

——そうか、正夢だったんだな。

「させるかっ」
 ドラゴンが地表を逃げる一行に目をつけた時、山田ヘラクレス多喜の手刀がドラゴンの頭を叩いた。

ガンッ!

 金属音が響く。

「硬え!」
 さらに張り手がドラゴンの顔面を打つ。
 ドラゴンの顔が横に弾かれる。

 だが、致命傷には程遠い。

「グアアアア!!」
 ドラゴンの反撃、尻尾の一撃が山田ヘラクレス多喜を吹き飛ばす。

「うおっ!」
 突き飛ばされ、崩れた神殿の瓦礫に叩きつけられた。
 しかし、山田ヘラクレス多喜はすぐさま、立ち上がる。

 その時、ドラゴンが口を開いた。
 山田ヘラクレス多喜の目前で、ドラゴンの喉の奥で水蒸気と炎が覗くのが見えた。
 硫黄の匂いが鼻をつく。
 炎の予感に山田ヘラクレス多喜が身構える。
 しかしその瞬間——
 ドラゴンの背中に稲妻が突き刺さった。

ガアアアアッ!!!

 灼熱が、山田ヘラクレス多喜の頭上を駆け抜けた。
 薄くなった髪の毛が、焦げる。

 落雷がドラゴンの頭部を揺らし、わずかにブレスの軌道を変えていた。
 それは大理石の柱を一瞬にして泡立たせ、轟音を立てて崩れさせていた。

 雷鳴と光が、一瞬遅れて瞬いた。

「ついてるッ!!」
 巨大な体を震わせ、叩き付ける雨の中、叫ぶ山田ヘラクレス多喜。
「不運なんかじゃない! 類い稀なる幸運体質だ! 俺はッ!!」

「おまえなんか、こうだ!!」
 ドラゴンの首根っこを片腕で締め上げるとヘッドロックから翼を掴み、持ち上げた。
 その勢いのまま後方に、投げ飛ばす。

「バックドロップ?!」
 多喜彦が、振り返り叫んだ。

 地響きを立てて、ひっくり返るドラゴンに、山田ヘラクレス多喜は突進した。
 
「山田多喜! 翼を潰せ!」
 ヘラクレスが指示を出す。

「分かった!!」
 ドラゴンが飛び立とうと翼を広げた瞬間——
 山田ヘラクレス多喜はドラゴンの背中に飛び乗る。

「させるかッ!!」
 翼の付け根を両腕で掴み、体重をかけてドラゴンの背中に押しつける。

「チキンウィング・アームロック!!」
 多喜彦が身を乗り出して叫んだ。

「ギャアアアア!!」
 ドラゴンが暴れ、地面を転げ回り、山田ヘラクレス多喜を振り落とそうとする。

「離すかあぁぁ!!」
 山田ヘラクレス多喜の腕が、ドラゴンの翼をメキメキと押さえ込み、

バキッ!!

 翼の骨が折れた。

「やった!」
 多喜彦が、夢中で両拳を突き上げた。
「ッ! 危ない!!」
 しかし、その拳はすぐに下ろされ、祈るように多喜に向けられた。

 片翼を破壊されたドラゴンの体が一瞬にして熱くなる。
 長い首を山田ヘラクレス多喜に向けて、口を大きく開いた。
 喉奥から水蒸気が上がり、炎がチラチラと覗いた。
 ドラゴンが、炎を吐こうと大きく息を吸い込んだ時、

「させねぇッ!!」

 山田ヘラクレス多喜の腕がドラゴンの首に回り、
 その巨体を持ち上げざま、その場で飛んだ。

 そのまま頭を地面に叩きつける。

ズドォォン!!!

「DDTだあああ!!!」
 多喜彦が、興奮して絶叫した。
 
 地面が抉られ、ドラゴンの頭が地面に突き刺さり、吐こうとした炎が口の中で爆発した。

「まだだ!!」
 背後からドラゴンの頭を掴み、
 全身全霊で首を締め上げる。

「ゴ……ゴボ……」
 ドラゴンの動きが鈍る。
 酸素を絶たれ、巨体が揺らぐ。

「「スリーパーホールドッ! からのッ!!」」
 山田ヘラクレス多喜はドラゴンの前面に体をずらすと、
 首根っこを掴んだままドラゴンをそのまま持ち上げる。

 固唾を呑んで見守る多喜彦。

「うおおおおおお!!」
 筋肉が、膨れ上がる。

 ヘラクレスの体と多喜の不遇を乗り越えた意志が、融合した。

 高々と持ち上げられるドラゴンの体。

「いっっけえええッ!!!」
 多喜彦は両手を上げて声を限りに絶叫する。

 そして、

「「ジャーマンスープレックスゥゥゥ!!」」

 ドガアアアアアン!!!

 大地が割れ、衝撃波が村を襲った。
 自重で首があらぬ方向に曲がっている。
 完全に折れていた。

 ドラゴンは地面に大の字になって動かなくなった。

 雨が、静かに降り続いている。
 山田ヘラクレス多喜は、荒い息をついていた。

「やった……やったぞ……」
 その声は、震えていた。

 蔵の影から、多喜二とぺぺちゃんが姿を表した。

「マスター!!」
 三人が、叫ぶ。

 山田ヘラクレス多喜は、ゆっくりと振り返った。

 その顔には、笑顔が浮かんでいた。
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