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結果的に良かったですわ
しおりを挟む「レティ。今日はコルデリア侯爵夫人のお茶会だったね」
「ええ、ソルディ様。あなたのご予定は?」
「私は陸軍将校のお供で五日間の軍部慰安だ」
「まあ、それはお疲れ様です」
今日から慰安のお供とはいえ、なぜ私の家に朝から来ているのでしょう。
支度だ何だと忙しいはずですよね。
チラリと脇に置かれた書類に目を向けるフリをして壁に立つ侍従侍女の様子を窺うと、侍従であるテッドがニヤリと口元をあげた。
「そろそろお帰りいただけますか? わたくしもそろそろ支度をしないとなりませんの」
「あ、いや……もう少し」
「皆さん、ソルディ様がお帰りです。お見送りして下さいな」
「ちょっと待って……なっ!」
慌てて立ち上がるソルディに近付いたのは私兵と近衛兵たち。
その中に見知った顔があったのだろう、驚きの表情をみせて私を振り返った。
「ソルディ様、どうやらわたくしの部屋にコソ泥が入り込んだようですの。その犯人を引き渡すために近衛兵にきていただいたのですわ。あら? お顔の色が悪いようですね」
「レ、レティ……きみは、まさか」
「ソルディ様、お引き取りを。婚約者でもないあなたに軽々しく愛称を呼ばれて不愉快でしたわ」
そう言って、脇に置いていた書類をソルディにみせる。
そこには婚約を白紙に戻す旨の文章が書かれている。
「わたくしという婚約者がおりながら平民の女性を二人も囲い。わたくしに金の無心をし、断られたら愛人たちにわたくしの部屋から金目のものを盗むように手引きなさるとは」
「まっまってくれ! それは何かの間違いだ!」
「あら? 王家およびその婚約者には影がついていることはご存知ですわよね? その方々が両陛下にご報告なされて、このように婚約はなかったことになりましたの」
ソルディは一昨日までは第六王子というお立場でした。
ですが、私との婚約がなくなった時点で王位継承権は剥奪されて王子ではなくなりました。
王城からも追放されて、女性たちの住む屋敷に転がり込んだようです。
私のところに転がり込まなかったのは、婚約者ではなくなった以上「住まわせてくれ」といっても門前払いされると考えたからでしょう。
「ソルディ、あなたは平民に落ちた上に元婚約者の屋敷に愛人を連れて乗り込み、窃盗の現行犯で逮捕となりました。平民が貴族の屋敷に入り込んで窃盗の現行犯で捕まった場合、どうなるかおわかりでしょう?」
「いやだ! 助けてくれ!」
「いやですわ。せっかく片付いてくれたのに」
「…………え?」
「わかりませんの? 成人をもって王子でなくなるはずのあなたを、私との結婚までお情けで王子でいさせていただいていたのに」
「わ、私は、王子で……私がこの侯爵家の当主に」
「冗談ではありませんわ。あなたは私の婿というだけの無能、いえただのヒモですわね。この屋敷で部屋をひとつあなたに貸し与え、死ぬまで監禁するための牢獄。王家の負債ですわ。その対価に、わたくしは公爵家女当主にお認めいただける約束でしたの。今回、婚約は白紙になりましたが、迷惑料として初の女公爵の誕生をお認めいただけることが決まっています」
あらあら、そのことは両陛下がお話しなさっているはずですのに。
「レティシア様、別宅の一室に幽閉する話は結婚後にするつもりだったのかもしれません。先に知れば逃げ出す可能性がございますので」
「バカですわね。結局愛人を二人もつくって婚約を白紙にした上、その愛人と犯罪に走ったんですから。ですが、わたくしも代わりの旦那様と正々堂々と結婚できることになりましたから。結果的に良かったですわ」
「代わり? どういうことだ。私はレティの夫になるはずじゃないのか」
「あら、先ほど申しませんでしたか? あなたの婿入りという名の幽閉先に選ばれただけですわ。犯罪者の血を引く男が子をなせるとでも?」
ソルディの表情から、本当に何も聞いていなかったことが窺えました。
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