【R-18】虐げられたメイドが、永遠の深愛を刻まれ幸せになるまで。

yori

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ep.2

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 眠りについてからどれくらい時間が経っただろう。
 なぜだか私の名前を繰り返し呼ばれ、意識が浮上していく。名前でなんて公爵さま以外に呼ばれないのに。

「イラ……エイラ! おい、こんなところで寝たら死んでしまうぞ」

 幻聴だろうか。耳をすませば、いつも平静な公爵さまの焦りを滲ませた声が聞こえた。
 こんなところにいるはずがないのに、私の願望が見せるのだろうか。
 ゆっくり頭を上げて、目を開けば、今後は幻覚が見えた。

「……エイラ? しっかりしろ。意識はあるか?」

 肩までさらりと伸びた白金髪。空のような瞳と目が合う。
 そして次に、高級そうな石けんのにおい。
 公爵ともあろうお方が、こんな道端で膝を折って私の肩を抱き、揺すっている。

「公爵、さま……?」
「私は君を迎えに来たんだよ」

 ――私にとって、なんと都合の良い台詞だ。
 期待しようにも、突き落とされるのが怖くて素直に舞い上がれない。

「……生きる術がないので、もういいのです……」
「エイラ、もしかして君は死にたがっているのか」

 きっと私の瞳が淀んでいたのだろう。途端に公爵さまの声が固くなった。
 彼の目を見ていられなくなって、視線を地面に落とす。
 すると次の瞬間、きつくきつく抱きしめられた。

「こんなに冷えて、もっと早く救えなくてすまない……」

 ――あたたかい。
 公爵さまに抱きしめられて初めて、身体の芯から冷え切っているのが感じ取れた。

 途端に、身体が震え出す。

 私のことを名前で呼んでくれて、気遣ってくれているだけで充分救われている。
 そう告げようとしても、唇が冷え固まって動かない。

「エイラを、死なせてやることはできない。私は君を……」
「(公爵、さま……)」

 口を動かそうにも、声に言葉がのらない。
 次の瞬間、口元に布が当てられ、ツンとした臭いが鼻奥を刺激する。
 そしてまもなく、再び意識がどこか遠いところに行った。




 ◇




 ふと陽だまりのような暖かさを感じながら微睡む。
 さっきまで雪がちらついていたのに、ここはもしかして天国と呼ばれる、女神さまの麓……?

 期待と不安が入り混じり、ゆっくりと瞼を開ける。
 まず視界に移ったのは、金色の装飾が施されている天井。
 私は何故か寝心地の良いリネンが敷かれたベッドの上にいるようだ。
 ベッドの四隅に柱が立っており、白いカーテンが纏められている。

 清掃でしか触ったことのない、天蓋つきのベッド……?

 ――っ、こ、こんな高価なベッドに寝てしまうなんて、もしかしたら酷い罰を受けてしまうかもしれない。

 慌てて起き上がって飛び降りた瞬間、じゃらりと金属の音がして身体が一時停止した。

「ひっ」

 ベッドに再び沈んで、違和感を感じた手首に視線をやれば、枷がつけられており、枕側のベッドの柱の金具に繋がれていた。

 それに寒さは感じず、部屋は暖かいが、服を纏っていない。一糸も纏わぬ状態だった。

 慌てて足首を見遣ると、同じように枷がはめられている。
 つまりは、天蓋の四つの柱にある金具に、私の両手両足がそれぞれ繋ぎ止められていたのだ。

 鎖は随分と長いため起き上がることはできるが、ベッドからは出られない。

 ここはどうやら貴族が使う広い部屋のようだが、ドアは閉まっており、アイアン調の格子窓からは逃げられそうもない。

 一気に心臓が嫌な音を立てる。
 どうして私は、裸の状態で拘束され、囚われているの……?

 以前メイド長から罰を受ける際に手錠をはめられたことはあるが、その時とは違って今私を捕らえている枷は、肌に触れる部分が柔らかいふわふわとした毛足の長い皮で覆われている。
 まるで拘束する相手への、配慮の感じる枷で違和感を覚えた。

 すると突然、ドアがガチャリと開く音がした。
 反射的に、音のする方を見ると、そこにいたのは……。

「っ、え……?」
「おや、起きたかな」

 この状況でいつも通りの笑みを浮かべている、オリヴェル・ティッカネン公爵さま、その人だった。
 何故か手には複数の魔法薬瓶を持っていて、ベッドの脇にあるテーブルへ置き、こちらに近づく。

 綺麗な空色の瞳と視線が交差したところで、今自分が裸であることを思い出した。

「いやっ……見ないで、ください……!」

 腕を交差して胸を隠せば、鎖の音がじゃらりと鳴った。

 その音を聞いて、改めて私は今、特別に想う人の目の前で、一糸も纏っていない状態でベッドに拘束されていると自覚し青ざめる。

 誠実な公爵さまのことだ。きっとこの状況は何か理由があるに違いないけれど、私の身体はあまりに貧相で、傷跡も多くお目汚しになってしまう。

 じわじわ湧き上がる、羞恥心と恐怖心が、交ざって震え始める。

「エイラ、大丈夫だ。君は綺麗だから隠さなくてもいい」

 公爵さまから紡がれる優しい声色に、首を横に振ることしかできない。
 すると、彼が隣に腰掛けて、私の頭をゆっくり撫ででくださる。

「……ただ、そうだね。この傷は全て、あのメイド長がやったのかな」

 その通りなのでこくりと頷く。
 公爵さまは、テーブルに置いた薬瓶を一つ手に取り、低い声で呟いた。

「そうか。君の身体にこの傷は相応しくない。消してしまおうか」
「……っ!? それは、高価なポーションなのでは……? ――少しお待ちください公爵さまっ!」

 無礼を承知で公爵さまの手首を掴み、静止した。
 だって私の頭の中は今の状況を理解していないのだ。

「……あの、公爵さま。ところで、なぜ私は、裸で……? あとここはどこなのでしょうか……? それに、先ほどまで私路上で……っ」


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