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弟はどうしても世界を滅ぼしたい!(2021.3.29)/現代ドラマ
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「世界なんて、滅びてしまえばいいのに……」
「おい、なんだ急に、物騒なこと言うなよ……!」
弟が突然、そんなことを呟いた。
一体何があったのか、暗い表情で、背後に真っ黒なオーラが見えるような気さえしてくる。
「どうして、どうして俺が3日かけてやっと手に入れたものを、あいつらは、たった……たった1日で……それも、5時間で手に入れやがった……。やってらんねーよ。本当に……俺みたいな底辺には、上に行く希望すら与えないっていうのかよ」
「なんだよ、なにかゲームの話か?」
「確かに、これは運営からしたら、ただのイベントだ。ゲームのイベントでしかない。俺みたいな底辺は、せめて皆勤賞だけでも……そう思って始めたのに」
弟の様子は、今月特におかしかった。
いつも以上にスマホをチェックしているし、1日置きぐらいで12時になると部屋に引きこもって、俺が声をかけても返事がないのだ。
やっと部屋から出て来たと思えば、今度はスマホの通知を見てはニヤニヤニヤニヤして、正直気持ちが悪かった。
しかし、皆勤賞という言葉に、俺は一つ心当たりがあった。
「お前、まさか……まさかとは思うが……カクヨム?」
「は!? ど、どうして兄さんがそれを!?」
図星だったのか。
「いや、だってお前、今皆勤賞って————今やってるイベントだろう? お題10回分全部投稿したら300リワードもらえるやつだろう?」
「その通りだけど!! いや、その前に、なんで兄さんが、カクヨ●のこと知ってるんだよ!!?」
なんでと言われても、そんなもの、答えは一つしかないだろう……
「俺も参加してるからだよ。皆勤賞は別に狙ってはいないけど」
「はぁあああああ!?」
弟は、大声で固まった。
まさか、弟も参加しているとは思っていなかったが、俺は今回皆勤賞ではなく、単純に書けそうなお題があれば参加する程度。
家族の誰にも、俺がラブコメを書いているなんて、恥ずかしくて言えなかったから隠していたが、まさか……弟が……
「お前、作家名なにで登録してる?」
「えっ!?」
「俺が一度見てやるよ」
どんな作品を書いているかはわからないが、家族に見られるのは恥ずかしいだろう。
でも、弟は昔からSFアニメやRPGゲームが好きだから、きっと今流行りの異世界転生ものとかだ。
俺のような、ちょっと本当に、マジで書いているのが俺だとバレると引かれるようなラブコメではないはず。
明日は最後のお題が発表される日だ。
ここまで頑張って来たのだから、俺も読んでみて、何か助言しようと思った。
皆勤賞だけでも、頑張って来たんだから諦めずにとらせてやりたい。
評価の星が取れないというのなら、ちょうど読者が多い時間帯にレビューを書いてやろうとも思った。
「いやーその……」
「早く言えよ、レビュー書いてやるよ」
弟は渋ったが、よっぽどレビューが欲しかったようだ。
目の色が変わった。
わかるぞ。
その気持ちはわかる。
俺も自分の書いた作品にレビューがつくと最高に嬉しい。
応援のハートも感想コメントも、評価も、何の反応もなくPVだけが増えるより、嬉しいことだ。
本当に、読み専の人たちは、ただ応援ボタンを押されるだけでも、作者がどんなに嬉しいかわかってないだろう。
読まれているという実感は、作者のやる気に直結するのだ。
俺は比較的フォロワーが多い方だから、仲間の作家にも、弟の作品をすすめてやろうと思った。
読者の反応がないのは、本当に精神的に辛いことだ。
「どうする? レビュー、いい時間帯に書くぞ? なんなら、参加してる全作品に書いてやっても……」
「全作品!? そしたら俺、勝てるかな!? このあいにゃんにゃんこって、ずっと1位の人に!!」
ん?
今なんて言った?
「このあいにゃんにゃんこって人、ずっと1位にいるんだよ!! 俺が3日かけてやっと星100超えたのに、たった1日で————って、兄さん聞いてる?」
俺は膝をついて、額を床につけ、弟に土下座した。
「えっ!? なんで土下座!?」
「すまない、それ、俺だ」
「…………はっ!?」
弟は、俺がカクヨ●を利用していたこと自体にも驚いただろう。
しかし、それ以上に驚いただろう。
まさか、お前の情緒を不安定にさせていた張本人あいにゃんにゃんこが、目の前にいるこの兄だなんて。
俺は顔を上げることができなかった。
俺には2つアカウントがある。
家族に見られるのは恥ずかしすぎるラブコメのみのアカウントと、ファンタジーのみを書いているアカウントだ。
ファンタジーの方でレビューを書こうと思ったら、弟が憤りを感じていたのはあいにゃんにゃんこの方だったとは……!!
「兄さん……いや、あいにゃんにゃんこさん」
「やめろ、その名で俺を呼ぶな!」
弟は、きっと1位になっている俺の作品を読んでいるだろう。
恥ずかしすぎる……
俺は家族の前……というか、知り合いの前でも、男ならこうあるべき!
長男ならこうあるべき!という期待に応え続けて来た男なのだ。
そして、おっさんだ。
このおっさんが、あんなラブコメを書いているなんて、誰が想像できるだろう……
「あさちゅん……」
いま、なんて言った?
あさちゅん……?
それって————
「兄さん、俺の作家名は、あさちゅんだ……。だから、そんなに恥ずかしがらなくてもいいよ」
「お、お前が!? お前が、最近人気の!? あの、あさちゅん!?」
最近現れた俺のお気に入りの、ラブコメの作家の名前じゃないか!!!
「あぁ、そうだ。だから、安心して、あいにゃんにゃんことして、レビューをください」
「お、おう! もちろんだ、弟よ!」
俺たち兄弟は、お互いに肩を叩いた。
そして翌日、午後12時、第10回目のお題「ゴール」が発表される。
俺は無事に皆勤賞を獲得した弟に拍手を送る。
応援ボタンを押し、感想コメントを書き、星評価はもちろん最高だったので3つ、そして、レビューも書いた。
あいにゃんにゃんことして、兄として、最後まで走りきりゴールテープを切ったあさちゅんが、これからも、この先も、執筆を楽しく続けられるように、エールを送った。
それから、2日後————
「世界なんて、滅びてしまえばいいのに……」
「おいおい、またかよ。どうしたんだ?」
弟はまた、暗い顔でそう呟いている。
今回は結構いい順位にいたと思うんだけど……
「まただよ、また俺が2日かけてやっともらえた星100を…………こいつ、たった3時間で!!!!!!」
「3時間で星100!? なんだそれ、なんて名前だそいつは!!」
「世紀末カヲル」
「あぁ、ごめん、それ……俺の別アカウントだ」
「はあああああああああ!?」
すまない、弟よ……
まさか、締め切り間際に出した作品がこんなにバズるなんて、何が起きるかわからないな、この世界。
「もういい、こんな世界なんて滅びてしまえ! いや、俺が壊す! 見てろよ!! 次のKACまでに……俺は、絶対に兄さんを超えてやるからな!!」
弟は、この日から人から、努力し続けた。
「次は、皆勤賞と全部の回で5位以内に入ってやる!!!」
そうして、今日も、俺たち兄弟は、家族には見せられない、ラブコメを書いている。
—— 終 ——
「おい、なんだ急に、物騒なこと言うなよ……!」
弟が突然、そんなことを呟いた。
一体何があったのか、暗い表情で、背後に真っ黒なオーラが見えるような気さえしてくる。
「どうして、どうして俺が3日かけてやっと手に入れたものを、あいつらは、たった……たった1日で……それも、5時間で手に入れやがった……。やってらんねーよ。本当に……俺みたいな底辺には、上に行く希望すら与えないっていうのかよ」
「なんだよ、なにかゲームの話か?」
「確かに、これは運営からしたら、ただのイベントだ。ゲームのイベントでしかない。俺みたいな底辺は、せめて皆勤賞だけでも……そう思って始めたのに」
弟の様子は、今月特におかしかった。
いつも以上にスマホをチェックしているし、1日置きぐらいで12時になると部屋に引きこもって、俺が声をかけても返事がないのだ。
やっと部屋から出て来たと思えば、今度はスマホの通知を見てはニヤニヤニヤニヤして、正直気持ちが悪かった。
しかし、皆勤賞という言葉に、俺は一つ心当たりがあった。
「お前、まさか……まさかとは思うが……カクヨム?」
「は!? ど、どうして兄さんがそれを!?」
図星だったのか。
「いや、だってお前、今皆勤賞って————今やってるイベントだろう? お題10回分全部投稿したら300リワードもらえるやつだろう?」
「その通りだけど!! いや、その前に、なんで兄さんが、カクヨ●のこと知ってるんだよ!!?」
なんでと言われても、そんなもの、答えは一つしかないだろう……
「俺も参加してるからだよ。皆勤賞は別に狙ってはいないけど」
「はぁあああああ!?」
弟は、大声で固まった。
まさか、弟も参加しているとは思っていなかったが、俺は今回皆勤賞ではなく、単純に書けそうなお題があれば参加する程度。
家族の誰にも、俺がラブコメを書いているなんて、恥ずかしくて言えなかったから隠していたが、まさか……弟が……
「お前、作家名なにで登録してる?」
「えっ!?」
「俺が一度見てやるよ」
どんな作品を書いているかはわからないが、家族に見られるのは恥ずかしいだろう。
でも、弟は昔からSFアニメやRPGゲームが好きだから、きっと今流行りの異世界転生ものとかだ。
俺のような、ちょっと本当に、マジで書いているのが俺だとバレると引かれるようなラブコメではないはず。
明日は最後のお題が発表される日だ。
ここまで頑張って来たのだから、俺も読んでみて、何か助言しようと思った。
皆勤賞だけでも、頑張って来たんだから諦めずにとらせてやりたい。
評価の星が取れないというのなら、ちょうど読者が多い時間帯にレビューを書いてやろうとも思った。
「いやーその……」
「早く言えよ、レビュー書いてやるよ」
弟は渋ったが、よっぽどレビューが欲しかったようだ。
目の色が変わった。
わかるぞ。
その気持ちはわかる。
俺も自分の書いた作品にレビューがつくと最高に嬉しい。
応援のハートも感想コメントも、評価も、何の反応もなくPVだけが増えるより、嬉しいことだ。
本当に、読み専の人たちは、ただ応援ボタンを押されるだけでも、作者がどんなに嬉しいかわかってないだろう。
読まれているという実感は、作者のやる気に直結するのだ。
俺は比較的フォロワーが多い方だから、仲間の作家にも、弟の作品をすすめてやろうと思った。
読者の反応がないのは、本当に精神的に辛いことだ。
「どうする? レビュー、いい時間帯に書くぞ? なんなら、参加してる全作品に書いてやっても……」
「全作品!? そしたら俺、勝てるかな!? このあいにゃんにゃんこって、ずっと1位の人に!!」
ん?
今なんて言った?
「このあいにゃんにゃんこって人、ずっと1位にいるんだよ!! 俺が3日かけてやっと星100超えたのに、たった1日で————って、兄さん聞いてる?」
俺は膝をついて、額を床につけ、弟に土下座した。
「えっ!? なんで土下座!?」
「すまない、それ、俺だ」
「…………はっ!?」
弟は、俺がカクヨ●を利用していたこと自体にも驚いただろう。
しかし、それ以上に驚いただろう。
まさか、お前の情緒を不安定にさせていた張本人あいにゃんにゃんこが、目の前にいるこの兄だなんて。
俺は顔を上げることができなかった。
俺には2つアカウントがある。
家族に見られるのは恥ずかしすぎるラブコメのみのアカウントと、ファンタジーのみを書いているアカウントだ。
ファンタジーの方でレビューを書こうと思ったら、弟が憤りを感じていたのはあいにゃんにゃんこの方だったとは……!!
「兄さん……いや、あいにゃんにゃんこさん」
「やめろ、その名で俺を呼ぶな!」
弟は、きっと1位になっている俺の作品を読んでいるだろう。
恥ずかしすぎる……
俺は家族の前……というか、知り合いの前でも、男ならこうあるべき!
長男ならこうあるべき!という期待に応え続けて来た男なのだ。
そして、おっさんだ。
このおっさんが、あんなラブコメを書いているなんて、誰が想像できるだろう……
「あさちゅん……」
いま、なんて言った?
あさちゅん……?
それって————
「兄さん、俺の作家名は、あさちゅんだ……。だから、そんなに恥ずかしがらなくてもいいよ」
「お、お前が!? お前が、最近人気の!? あの、あさちゅん!?」
最近現れた俺のお気に入りの、ラブコメの作家の名前じゃないか!!!
「あぁ、そうだ。だから、安心して、あいにゃんにゃんことして、レビューをください」
「お、おう! もちろんだ、弟よ!」
俺たち兄弟は、お互いに肩を叩いた。
そして翌日、午後12時、第10回目のお題「ゴール」が発表される。
俺は無事に皆勤賞を獲得した弟に拍手を送る。
応援ボタンを押し、感想コメントを書き、星評価はもちろん最高だったので3つ、そして、レビューも書いた。
あいにゃんにゃんことして、兄として、最後まで走りきりゴールテープを切ったあさちゅんが、これからも、この先も、執筆を楽しく続けられるように、エールを送った。
それから、2日後————
「世界なんて、滅びてしまえばいいのに……」
「おいおい、またかよ。どうしたんだ?」
弟はまた、暗い顔でそう呟いている。
今回は結構いい順位にいたと思うんだけど……
「まただよ、また俺が2日かけてやっともらえた星100を…………こいつ、たった3時間で!!!!!!」
「3時間で星100!? なんだそれ、なんて名前だそいつは!!」
「世紀末カヲル」
「あぁ、ごめん、それ……俺の別アカウントだ」
「はあああああああああ!?」
すまない、弟よ……
まさか、締め切り間際に出した作品がこんなにバズるなんて、何が起きるかわからないな、この世界。
「もういい、こんな世界なんて滅びてしまえ! いや、俺が壊す! 見てろよ!! 次のKACまでに……俺は、絶対に兄さんを超えてやるからな!!」
弟は、この日から人から、努力し続けた。
「次は、皆勤賞と全部の回で5位以内に入ってやる!!!」
そうして、今日も、俺たち兄弟は、家族には見せられない、ラブコメを書いている。
—— 終 ——
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