短編集(2020~2024)

星来香文子

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赤と緑と白いアレ(2021.11.19)/現代ファンタジー

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「赤よ!!」
「緑だ!!」

 私はただ、悩んでいただけなのに……これは一体、どういう状況だろうか。
 目の前に、赤い法被はっぴを着たきつねと緑の法被を着たたぬきがいるのだ。
 ちなみに手のひらサイズくらいの大きさで、両方とも喋る。

「赤の方が美味いに決まってるでしょ!! うどんは小さい子供達から人気なんだから」
「いいや、緑だ!! 時代はそば!! うどんは引っ込んでな!!」

 どうしてこうなったんだろう……
 私はただ、今日スーパーでカップ麺の特売日のチラシを見て、1個97円と書かれたポップの前に山積みにされていた「赤いきつ●」と「緑のたぬ●」の前にいただけだ。
 どちらを買おうか、考えていただけだったのに……
 この二匹の妖怪か何かの論争に巻き込まれてしまった。

「失礼な! 赤だったら赤! 赤を買うべきよ!」
「いやいや、緑だ! サクサクの天ぷらとのどごしのよいそば! ほら、ビールだってのどごしが大事だっていうだろう!? 大人なら、そばを買うべきだ!」
「いいえ! カップ麺に年齢なんて関係ないわ! お揚げに染み込んだ甘さが溶け出すお出汁とコシのある麺が絡み合う……これぞまさに至極の1杯! うどんよ!!」

 きっと、悩みすぎたせいだろう。
 優柔不断すぎて、どちらか選べない私を哀れに思った神様が、見せている幻想に違いない。
 そうでなきゃ、何人もの人が行き交うこのスーパーの通路のど真ん中で、こんな変なものが見えるはずがない。

「——お客さん、あんたはどう思う!」
「……は、はい?」
「あんたがずーっと悩んでるから、わざわざアタシたちが出てきてやったのよ? 赤か緑かどっちがいいの?」
「いや……そのー……」

 話しかけられるんだ……!
 私も巻き込まれるんだ、この論争——!

「っていうか、今思ったんだけど、両方1個ずつ買うっていう選択肢はないわけ? 他のお客さんは迷ったら両方買っていくけど……もしかして、お金ないの?」
「えーと……いや、そうじゃなくて……どっちか一箱だから……」
「一箱!? 12個お買い上げで!? ありがとうございまーす!!」

 実は、なぜこんなにも悩んでいるかというと、関西に住む大学生の弟への仕送りだ。
 地方によって売っている商品が違うらしく、こちらで売られているカップ麺を何か一箱送ってくれないかと言われたのだ。
 同じ大学の友達にも配るからと……

 私のセンスでいいと言われたのだけど、いろいろ調べていたら、この「赤いきつ●」と「緑のたぬ●」も、地域によって味が違うらしい。
 どうせなら、関西との違いを食べ比べてみるなんて、いいんじゃないかと思っていたら、ちょうどスーパーの特売のチラシを見た。
 それで、ここまで来たわけなんだけど……

「なるほど! 食べるのは大学生! それも弟ってことは男だな! 男なら緑だ!」
「そんなの偏見よ! この多様性の時代に、何言ってるの!! お友達が全員男だども限らないでしょ!! もしかしたら、彼女と食べる可能性だってあるわ!」

 ——っと、まぁ、こんなことが小一時間ほど続いている。
 もういい加減、帰りたいんだけど、こんなものが目の前にいたら、余計どちらか決められないじゃない。

 だって、右手を伸ばして「赤いきつ●」を手に取ろうとしたら、たぬきが悲しそうな目でこちらをみるし、左手を伸ばして「緑のたぬ●」を手に取ろうとしたら、きつねが信じられない!と軽蔑したような目で私を見てくるのよ?

 だからって、予算的に両方一箱ずつは買えないし……

 私以外の、この二匹が全く見えていないお客さんはためらうことなく、次々と手にとってカゴに入れていくのに、私はずっとどちらも選べなかった。

「あの……お客様、何かお探しですか?」
「え……あ、その……」

 ずーっと突っ立っていた私を不審に思ったのか、店長と書かれたネームプレートをつけた背の高い店員さんに話しかけられた。
 きっとこの店長さんにも、この二匹は見えていないだろうし、この二匹の話なんてしたら、それこそ不審者だと思われてしまう……

 そう思って、私はこの二匹のことは言わずに事情を話し、どちらを買うべきか決められなくて迷っていると言ったのね。
 そしたら……

「なるほど、赤か緑かですか。このどちらかに決められないのであれば、こちらはいかがですか?」

 店長さんはひょいっと積まれた商品の上に手を伸ばして、奥から四角い白い商品を手に取った。
 私の位置からは見えなかったけど、この「赤いきつ●」と「緑のたぬ●」の裏にも商品が積まれていたのだ。

「地元の味を求めているのなら、こちらの方がいいんじゃないでしょうかね? 本日は特売日ですので、値段も同じ1つ97円です。地方の大学生なら、こちらの方が喜ぶと思いますよ?」
「……や、やき●ば弁当!!」

 北海道限定「やき●ば弁当」だ。
 これは……これは盲点だった!!

 やき●ば弁当といえば、道民のソウルフード!!
 付属のスープも美味しい、止まらない味!
 あの、やき●ば弁当!!

「お、おい、まさか、あんた、アタシたちを見捨てるつもり!?」
「おい、やめろよ……そいつはなしだろ!!?」

「————やき●ば弁当にします!!」

 私はすぐにやき●ば弁当の段ボールをカートに積んだ。

「ありがとうございます」

 店長さんにお辞儀をして、私はレジの方へ向かった。

 これで解決!
 スッキリした!!

 ————でも……

 振り返って、もう一度、「赤いきつ●」と「緑のたぬ●」の方を見ると、あの二匹が悲しそうな顔で落ち込んでいる。

「……まったく、そんな顔しないでよ」

 私は売り場に戻って、「赤いきつ●」と「緑のたぬ●」をそれぞれ一つずつ手にとって、カゴに入れた。

「やった!」
「ありがとう!」

 さっきまで言い争っていたきつねとたぬきが、抱き合って喜んでいる。
 嬉しそうに踊る二匹に手をふって、私はやっとレジの長い列に並んだ。

「ふー……これで一安心ね。もう見えなくなった。結局、なんだったんだろう? 妖怪? あやかし? 精霊とか?」

 まさかこの後、家に帰ってもどちらを先に食べるかで、また悩むことになるとも知らずに————



「赤が先よ!!」
「緑が先だ!!」




— 終 —





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