短編集(2020~2024)

星来香文子

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タマ様の言うとおり(2022.3.23)/その他

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「にゃにか、おにゃやみかにゃ?」
「…………あぁ、そうだな」

 悩みといえば悩みだ。
 俺は完全におかしくなっている。
 現に、今急に現れたこの猫の声が聞こえている……————ような気がするのだから。

「それにゃら、このタマ様に話してみるにゃ! 貴様のようにゃ人間の一人くらいの悩みなら、このタマ様が解決してやるにゃ!」
「…………できるのか?」
「ああ、にゃぜにゃらタマ様だからにゃ!」

 これで明らかになった。
 俺は多分、動物の声が聞こえるようになったんだ。
 何がどうして、そうなったのかわからないけど、多分、さっき車に轢かれそうになって避けて転んだ時、頭を打ったのが原因だと思う。
 なんで車に轢かれそうになったかは、よく思い出せないけど……

 とりあえず病院に向かって歩いている途中で、上の方から誰か女の子たちの声がすると思って見上げてみたら、それは電線の上で恋話をしてるカラスの声だった。
 今度は下の方から声がすると、視線を落とすと散歩中のポメラニアンがずっと飼い主に向かって
「早くおやつよこせ! おやつ! おやつ! さっさと出すんだワン!!」
 ……と訴えている声だった。

 ペットショップの前を通った時なんて最悪で……

「さっさと俺様を飼いやがれ人間!!」
「なんで……なんであの子は売れて、私は売れないの?」
「見せもんじゃねーぞこらあああ!!」
「うるさい!! 私寝たいの!! 黙ってて!!」

 子犬たちがそう叫んでいてすごいうるさかった。


 やっと病院について、症状を訴えたら、医者が変な顔をして……
 色々検査してみたけど、脳には異常ないからって精神科に連れていかれた。
 でも、その精神科の先生も俺が動物の声が聞こえるようになったなんて全然信じてくれなくて……
 俺、やっぱりおかしくなってるのかと悩んでたんだ。

 で、今、目の前にいるこの猫のおかげで確信できた。
 猫と会話が成立しているのだ。
 聞こえているに決まってる。
 病院を出て、公園のベンチでぼーっとしていた俺の膝の上に勝手に乗っかって、悩みを解決してくれるというのだ、このタマは。

「にゃるほど……急に動物の声が聞こえるようににゃってしまったんだにゃ?」
「あぁ、もうどうしたらいいかわからなくて……こんな状態で、普通に日常生活を送れないだろ? いくらここがそれなりに都会だとしても、カラスやスズメ、鳩もいるし、猫や犬を飼っている人がたくさんいる。厄介なことに、動画とかでも聞こえるんだ……」

 癒し系もふもふ動画の可愛らしい犬や猫たちが、実は飼い主に対して暴言を吐きまくってる……なんてのもあって、ショックだった。
 いつか俺も犬か猫を飼ってみたいと思っていたから————

「にゃるほど……では、このタマ様が手を貸してやるにゃ!」
「手を……?」
「ほら、よくいうあれにゃ! ってやつにゃ!!」
「……いや、でもそれ、確か忙しいときに使う言葉だろ? 俺は別に忙しくはない……ただどうしたらいいかわからなくて困ってるだけで……」
「細かいことは気にするにゃ! とにかく!! ついてくるにゃ!」

 タマはぴょんと俺の膝から飛び降りると、のそのそと歩き出した。
 よくわからないけど、確かに、猫の手も借りたいと思うくらいどうしようもなくなっている俺は、おとなしくタマの後をついていく。

 公園を出て、青信号の横断歩道を渡り、牛丼屋を通り過ぎるとコンビニの前でタマは立ち止まった。

「ほら、ここにゃ! 先ずは、ここで売ってるチュールを買ってくるにゃ!」
「…………は??」
「だから、チュールを買ってくるにゃ! あのスティック状の袋に入ってる例のやつにゃ!!」
「え、なんで?」
「つべこべ言わずに行くにゃ!! お前の悩みを解決するために必要にゃん!!」

 俺の悩みの解決と、一体何が関係あるんだ?
 わけがわからん。
 でもまぁ、とりあえずタマの言う通りにするしかないか……
 それでこの声が聞こえなくなるなら、安いもんだ。
 このまま治らないようなら、入院が必要だって医者に言われてるし。

 俺はタマに言われた通り、コンビニでチュールを買ってタマに見せる。

「うん、これでいいにゃ。じゃぁ、次は隣のあの店で『とびきりニャンコMIX』ってやつを買ってくるにゃ!」
「とびきり……なんだって?」
「『とびきりニャンコMIX』にゃ!! にゃーに、店に入ってすぐのところにあるから簡単にゃ! ほら、さっさと行くにゃ! 悩みを解決したいんにゃら!」
「わ……わかったよ」

 タマの言う通り、隣の店に入るとすぐに『とびきりニャンコMIX』と書かれた猫用のフードが置いてあった。
 この店限定の商品のようで、ポップに『猫ちゃんが喜ぶ成分がいっぱい!』『うちの子もこれなら残さず美味しそうに食べています!』などと書かれていた。

「おい、買ってきたけど……これって——……」
「おお! 『とびきりニャンコMIX』!! これぞ至極の一品!! まさしくこのタマ様が食すべき一品にゃ……——!」

 やっぱり……お前が食べるのかよ!!

「おい、こら! なんでお前の餌を俺が買わねばならないんだよ!! 俺を騙したな!!!」
「騙してにゃどと……失礼にゃ男にゃ!! お前の悩みを解決するために必要にゃんだと言ったじゃにゃいか!!」
「これのどこが解決なんだよ!!」

 俺は、このタマに騙されたようだ。
 よだれを垂らしながら、『とびきりニャンコMIX』を見つめていたのが何よりの証拠だ。

「よいか、人間!! このタマ様にも、お前のその声の消し方はわからにゃい。でも、聞こえるものは仕方がにゃい!! その聞こえる生活ににゃれるのが一番にゃ!!」
「……————ようするに、どういうことだ?」
「このタマ様が常にお前の側にいてやると、そういうことにゃ!! このタマ様の飼い主ににゃれるのにゃ! ありがたく思って、『とびきりニャンコMIX』を献上するのは当然のことにゃん」
「はぁぁぁぁっ!?」


 こうして俺は、猫の手を借りた結果、この猫、タマを飼うことになった。

 だけど不思議なことに、タマと過ごしているうちに、動物の声は聞こえなくなった。
 タマの声だけは、今でもはっきりと聞こえているのに……


「おい、早くチュールをよこせ!」
「わかったよ、全く……ところで、タマ————」
「なんにゃ?」
「お前、本当は何者なんだ?」
「にゃーに、お前に助けられた、ただの化け猫にゃん」



 終
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