短編集(2020~2024)

星来香文子

文字の大きさ
29 / 36

人型戦闘機操縦士キサラギ~20XX年~(2024.2.29)/SF

しおりを挟む
 キサラギ少佐には三分以内にやらなければならないことがあった。

「くそっ! 今かよ!! よりによって、カップ麺にお湯を注いだ直後に現れなくても!!」

 地球防衛軍第三小隊。
 三ヶ月前、この地球に突如現れた地球外生命体・IMACAYOイマカヨと戦う彼らが駐在していたこの施設に鳴り響いた警報。
 昼食くらいしか楽しみがなく、期間限定のカップラーメンを食べることを唯一の趣味としていたキサラギ少佐は、休憩室でお湯を注いでしまったカップ麺の上に皿と割り箸を置いて、人型戦闘機ロボット・ドイテロの操縦席コックピットに飛び乗った。

 お湯を入れて三分で出来上がり。
 説明書に書かれている調理法にこだわるこの男は、なんとしてでも残り二分二十八秒以内に敵を倒さなければならない。

「なんで今日に限って……!!」

 他の隊員たちは、十二時の昼休憩になってすぐに近くにある食堂に行ってしまった。
 キサラギ少佐は、どうせまた今日もカップ麺だろうと誘われてもいない。

『イイイイイ……ママママカカカ……カヨヨヨヨ』

 イマカヨは『イマカヨ』の四文字しか喋らない。
 これに意味があるのかどうかは現在解析中だが、とにかく彼らが地球に住む者たちにとって脅威であることに変わりはない。
 月基地ができてから今年で三十年。
 同じ銀河系の星に生息していた生命体とは友好関係を結んでいるが、イマカヨはそのどこの生命体にも属していない未知の生命体だ。
 彼らは、身長五メートル。
 目のような緑に光る円から、光線を発射し、街を破壊する。

 知能があるのか、なんの目的があってこんなことをするのか不明である。
 まだまだわからないことが多すぎるが、とにかくキサラギ少佐は三分以内にこいつを一人で倒さなければならなかった。

「どりゃあああああああ!!」

 管制室の指示なんて待っていられない。
 さっさと倒して、麺が伸びる前に、最高の状態のうちに食べなければ……!!

『イママカカカカカヨヨヨ』

 残り二分。
 キサラギ少佐の動きに合わせて、ドイテロの腕が強烈なパンチをイマカヨの目らしき円に一発入る。

『イマカカ……ヨヨ』

 イマカヨは後方に倒れ、爆炎とともに粉々に散った。
 響く轟音。
 被害状況もろくに確認せず、キサラギ少佐は急いで休憩室に戻った。

「残り、一分十秒!! 間に合えええええ!!」

 ドイテロを元の位置に戻し、操縦席から降りると、必死に走る。
 途中滑って転びそうになったが、なんとか持ちこたえて、ちょうど三分。
 セットしていたタイマーが鳴り響いた。

「間に合ったぜ!」

 すぐに蓋を開けて、麺をすする。

「戦闘後のラーメンは格別だなぁ……ん?」

 ところが、またもや鳴り響く警報。

「おいおい、ちょっとまて……まだ一口しか食ってないぞ?」

 どうか聞き間違いであって欲しいと、キサラギ少佐は願う。
 もう一度麺をすする。
 しかし、やはり警報が鳴り響いている。

「今かよ……くそっ!!」

 再びドイテロの操縦席に乗り込み、今度は蹴り一発でイマカヨを退治してきたキサラギ少佐。
 休憩中に二体のイマカヨを倒したなんてすごいと、戻ってきた他の隊員たちに褒められる。

「少佐、今度こそ昇級するんじゃないんすか?」
「そ、そうか?」

 キサラギ少佐もまんざらではなさそうだったが、整備責任者・ハセガワが眉間に深いシワを寄せながらやってきた。

「キサラギ少佐、操縦席がにんにく臭いんですが……あなた、ここでラーメン食べましたよね? あと、スープが溢れて、タッチパネルが破損しましてます。どうしてくれるんですか?」
「す、すまん。その、だって、あいつら、今かよってタイミングで出現するから————」

 操縦席に指定外食品であるカップ麺の持ち込みは禁止されている。
 結局、キサラギ少佐は、今日も昇級のチャンスを逃した。

「だからって、ラーメンすすりながら戦うなんて!! 何を考えてるんですか!! 今すぐ書いてください」
「な、なにを……?」
「報告書と反省文です!」
「え、今から……?」
「早く!! 三分以内!!」

 キサラギ少佐には三分以内にやらなければならないことが増えた。


《おわり》

 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...