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第三章 新月の夜
第24話 式神
しおりを挟む「それは、戻り湯ですね。以前、飛鳥様がいらした時に、置いて行った式神の仕業です」
狛六はずぶ濡れで震えていた俺たちを、神社の奥にある温泉に浸かるように案内してくれた。
もちろん、男湯だ。
しかも、狛六は手厚く俺たちを歓迎してくれて、桶に汲んだお湯を肩からかけ流してくれている。
天国にいる気分だった。
「殺生石に男が近づくことはできないようにしていたのです。男が近づくと、あの岩場にいる式神たちが邪魔をするんですよ。…………飛鳥様がお亡くなりになってしまっても、式神たちは忠実にその任を全うしているのです」
狛六の話を聞いていると、俺の知らないばあちゃんの話が出て来た。
「正確な年月は忘れましたが、飛鳥様は突然この神社に来て、殺生石の封印を強めるためにその式神たちを置いて、ぼくに言いました。時折結界が弱まる瞬間があると。もしもその瞬間に、男の人が殺生石の近くにいたら、あの狐に化かされて、何をするかわからない……と。身動きは取れなくても、あの狐は男を誘惑して、騙して封印の札を破かせるだろうと……」
「僕は初めて聞いたな……そんな話。その話、お祖母様も知らないんじゃないか?」
ユウヤはここへ来る前に青龍の平原について、祖母である春日様に聞いていたそうだが、その時そんな話は聞かなかったらしい。
「……詳しいことはボクも知りませんが、まずはあの式神たちの任を解いてあげないと、お二人は先へ進むことができませんよ? おそらく、式神たちは飛鳥様がお亡くなりになっていることを知らないのでしょう」
狛六は桶を一旦置くと、いつのまに用意していたのか、別の桶に徳利を乗せてそれを俺たちに渡して来た。
「呑まないのですか?」
「いや、これ酒だろ? 俺たちまだ未成年だから」
「未成年……?」
狛六は小首をかしげる。
「あー……えーとつまり、酒を飲んではいけない年齢なんだよ。法律で決まってるんだ」
「法律……? うーん、よくわかりませんが、呑まないのですね。では、着替えを用意して来ますので、のぼせる前に出て来てくださいね。ごゆっくり」
* * *
温泉から出て、脱衣所へ行くと、タオルと浴衣が用意されていた。
「さっきまでの女湯での扱いが嘘みたいだな……」
「そうだね、さすがの僕も、神社の中に温泉があるとは聞いていたけど、まさか狛犬が至れり尽くせりしてくれるとは思ってなかったよ」
なんども流されて、女湯で変態扱いされて、逃げてはまた戻されて……
大変だった数時間前を思い出していると、脱衣所のドアを勢いよく開ける音がする。
「いつまで入ってるのよ!!……————あ、ごめん」
「刹那!?」
俺たちはまだ、着替えている途中だった。
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