覚醒呪伝-カクセイジュデン-

星来香文子

文字の大きさ
65 / 92
最終章 受け継がれるもの

第65話 狐火

しおりを挟む



「どうなってるんだ…………どうして、士郎さんが?」

「士郎? あぁ、あの洞窟で…………あれが、お前の師匠————」


 戸惑う俺の様子を見て、茜は刹那が戦っている相手が士郎さんだと……玉藻に殺された人物であることを把握したようだった。

 刹那は攻撃をかわしてはいるが、相手は叔父の士郎さんだ。
 反撃するにも、致命傷を負わせることができず、苦戦している。

「どうして、叔父さま……!! どうして叔父さまがこんな事————」


 刹那は涙を浮かべながら、士郎さんに話しかけるが、士郎さんは何も聞こえていないのか、その質問に答えることはなく、攻撃を続ける。

 刹那に加勢するべきだとわかっているが、相手が相手だけに戸惑う俺を見かねて、茜は士郎さんの体を指差して言った。

「颯真、あれは人間ではない……中身がない」

「え……?」


「周りをよく見てみろ……火の玉がある」


 茜の言う通り、確かに火の玉が1つぐるぐると士郎さんの周辺を動きに合わせて浮いていた。

「あの火の玉…………玉藻の周りを取り囲んでいたのと同じ————」

 玄武の湖畔で見た火の玉を思い出した。
 玉藻の影を守るように囲っていた7つの火の玉。
 それと全く同じだった。

「あの火の玉は、狐火と言って妖狐の子分みたいなもんさ……アレが操っているんだよ…………あの男自体は、もう死んでいる」

「そんな……」

 士郎さんの遺体を使って、姪である刹那と戦わせるなんて————

「酷い……どうして、そんな酷い事を————」

「あの女狐に、心なんてない。あいつは自分の意のままに人を動かし、苦しめ、殺すのが趣味なんだよ」


 士郎さんが既に亡くなっている事を知らない刹那は、裏切られたと思っているに違いない。
 それでも、刹那に身内を倒すことなんて……できるはずがない。
 刹那は、口は悪いけど、誰よりも里のことを大事に思っているんだ。


「刹那、下がれ……」

「えっ!? 颯真!? 何やって————」


 俺は刹那から毒の仕込まれた扇子を奪い取ると、その刃で襲いかかる士郎さんの体ごと、火の玉を斬った。

 刹那の扇子は悪いものだけに効く特殊なもの。
 火の玉だけにその効果が発揮され、真っ二つに切れた火の玉は滅せられて消えてゆく。

 火の玉が操っていた士郎さんの体は、ピタリと動かなくなる。
 士郎さんの体が前傾姿勢のまま力なく倒れてくるのを、俺は抱きとめた。


「颯真!! なんてことを……!!」

「操られていたものを助けたんだ。あの男は既に死んでいる」

 茜にそう言われて、刹那は状況を理解し、泣き崩れた。

「叔父さま…………叔父さま…………っ」


 俺はそっと、士郎さんの体を寝かせると、右手で見開いたままの瞼を伏せる。

「狛七、士郎さんの遺体を頼む。……刹那」

 泣いたままこちらを見た刹那に、俺は奪い取った扇子を返す。


「泣くのは後にしろ。玉藻を…………殺しに行くぞ」


 強く握りしめた掌に、青い炎が浮かび上がる。

( 絶対に許さない———— )


 夜明けまで、もう少し——————




しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

煙草屋さんと小説家

男鹿七海
キャラ文芸
※プラトニックな関係のBL要素を含む日常ものです。 商店街の片隅にある小さな煙草屋を営む霧弥。日々の暮らしは静かで穏やかだが、幼馴染であり売れっ子作家の龍二が店を訪れるたびに、心の奥はざわめく。幼馴染としてでも、客としてでもない――その存在は、言葉にできないほど特別だ。 ある日、龍二の周囲に仕事仲間の女性が現れ、霧弥は初めて嫉妬を自覚する。自分の感情を否定しようとしても、触れた手の温もりや視線の距離が、心を正直にさせる。日常の中で少しずつ近づく二人の距離は、言葉ではなく、ささやかな仕草や沈黙に宿る。 そして夜――霧弥の小さな煙草屋で、龍二は初めて自分の想いを口にし、霧弥は返事として告白する。互いの手の温もりと目の奥の真剣さが、これまで言葉にできなかった気持ちを伝える瞬間。静かな日常の向こうに、確かな愛が芽吹く。 小さな煙草屋に灯る、柔らかく温かな恋の物語。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...