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番外編① 月下の憂鬱

月下の憂鬱(7)

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 男は驚いて、抱えていた茜を子供部屋の前で落とし、突進してきた少年からの攻撃を防ぐようにドアを閉めた。

 どうするべきか相談しようと一階に降りると、玄関先には近くの寺院から来た僧侶と、中年女性と高校生くらいの少年がいる。


「ちょっ……ちょっと、あんた何で降りてきたのさ!!」

 男は少年がいたことが予想外すぎて、うっかり降りて来てしまった。
 しかし、男は目刺し坊を被っている。
 どこからどう見ても、強盗にしか見えない。

 やばいと思い直して、男は急に手を離されて廊下に落とされた茜が子供部屋のドアを開けようとしているところをまた捕まえて、その首筋にナイフを突きつけながら、階段を降りた。

「お、お前ら、警察を呼んだら、この子の命はないからな!! そこから動くなよ!!」

 そう叫んで、進入時リビングの窓から、家政婦になりすましていた女と一緒に庭へ出て行った。

「茜ちゃんをはなせ!!!」


 そして、その後ろを、先ほどの少年が追いかけてくる。


「颯真!?」


 玄関でその光景を見た中年女性は、孫の名前を叫んだが、孫は犯人を追いかけるのに必死で気がついていなかった。


 * * *



 数時間前、ホテルで寝ていた颯真は、なんとなく目が覚めてしばらく窓の外を眺めていた。


(あれ? 茜ちゃんのおウチ?)

 ホテルの窓から、偶然にも茜の家が見える。

(あした、もう1回あいにいこうかな……)

 颯真は門の前で茜を見た時、とても寒そうだなと思って、純粋にただそう思っただけだったが、茜のその不思議な魅力に子供ながら惹かれるものがあったようだ。
 傷を治す力が不思議だったこともそうだが、何より、茜はとても可愛い顔をしていて、子役オーディションなんて受けたら一発合格するぐらいのレベル。

 颯真にとっては、まるでアニメやゲームのお姫様のように思えていた。

(あれ……?)


 そのお姫様が、窓から飛び降りた。

(え!?)

 そして、全身真っ黒な黒い男に捕まっている。

(た……たいへんだ!!!)


 颯真は茜を助けなければと、ホテルから抜け出して、茜の家へと向かった。
 タイミングよくホテルのフロントが、ちょうど見えない死角を通って行ったため、大人達は誰一人気づいていなかった。


 颯真が白い息を吐きながら、子供の足では割と時間のかかる距離にある上、少し道に迷いながらも、なんとか茜の家にたどり着いた時には、すっかり朝日が登っていた。
 どうやって入ろうかと、見渡していると、2階の部屋の窓が開いていることに気がつく。


 さらに、茜が用意していたハシゴが、その窓から垂れている。

(あれだ!!)

 颯真は懸命にハシゴを登って、2階の部屋に入った。
 そして、その直後、ドアが開いて、茜を抱えた男と出くわす。


「茜ちゃんをはなせ!!」



 そうして、まるで悪者に拐われたお姫様を助ける勇者のように、颯真は犯人を追いかけた。


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