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五 白銀の龍
比翼連理【二】
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その夜、琥珀は風呂に入り、念入りに身体を洗った。いつもは周りが呆れるほどの烏の行水っぷりを発揮するのだが、今日は特別である。
紫嵐が使っている建物に務める女官は、何かに勘づいたのか、琥珀に「これは髪、こちらはお体、そしてお顔! しっかりと塗りこめてくださいましね!」と、初めて見る油やら乳液やら、手入れのためのもろもろを用意して手渡した。まさか紫嵐が言ったわけではないよな、と湯舟に浸かりながら考える。
――そういえば、王の閨事は監視されているんだっけ。
どの妃への御渡りが多いかはもちろん、交わった回数やその体位、気をやった回数などを、事細かに記録する係の役人がいるとかいないとか。
紫嵐は王ではないが、現状、王に一番近い場所にいる男だ。妊娠しない男の伴侶だからまさかとは思うが、覗かれていたら、どうしよう。
想像して羞恥に真っ赤になった琥珀は、湯の中に口までつかって、ぶくぶくと泡を吐き出した。どうしたものかと悩んでいたら、すっかり逆上せてしまい。
「お前はいったい、何をしているんだ……?」
どうにかこうにか浴槽から上がり、浴室から出ることはできたものの、琥珀はそこで力尽きた。いつまで経っても寝室に現れないことにしびれを切らした紫嵐が、風呂の支度をした女官に尋ねてやってきて、介抱されたというわけである。
「ううう、面目ない……」
たっぷり水分を摂り、扇で煽がれてようやくどうにか回復した琥珀は、己の愚かさに頭を抱え、紫嵐に謝罪した。
「そんなに私に抱かれるのが嫌だったか?」
声が拗ねているのを感じ取って、琥珀は「違う!」と、声を大にした。
「いや。前にあんなことをしたのは私だ。お前が怖くなって、嫌になったとしても仕方がない」
どうしてこういうときだけ、気遣いのできる物分かりのいい男になるのか。基本的には我が道を行く男だというのに。
琥珀は恥を忍んですべてを打ち明けた。誰かに房事を知られるのが嫌で、あれこれと考えていたらうっかり逆上せただけだと。それを聞いた紫嵐は、口元を綻ばせた。
「笑うなら笑えよ……」
「違うんだ。すまない。その、お前があまりにも可愛いものだから」
接近してきた紫嵐の身体で、影ができる。見上げると、慈しみ深き笑みを浮かべた愛おしい男がいる。
つい先ほどまで、そういう雰囲気ではなかった。男同士の、他愛のない馬鹿話だったのが、一気に引き締まる。琥珀は黙って、ぐっと唇を引き結んだ。
「最後に聞くぞ……いいか?」
悩む間はない。琥珀がこくりと頷くと、定石通りに唇を噛まれるに違いないと目を閉じる。しかし彼の牙がとらえたのは、己の首筋であった。急所である。思わず肩を竦め、身を縮こまらせると、ぺろりと舐められる。傷つけたいわけじゃないというのが動作に表れていて、琥珀は力を抜いた。
風呂上がりに彼の手で着せられていた夜着は、同じ手によってあっさりと剥ぎ取られていく。緩くしか結ばれていなかった帯は、琥珀の身体のことを気遣うゆえか、それとも交合の際にやりやすくするためか。後者であっても構わないと、琥珀は思いながら彼の愛撫を受け入れる。
口が、歯が、舌が、指が。同じ場所をなぞっても、肉の柔らかさや動かしやすさによって、感じ方が違うのだと初めて知る。特に顕著だったのは、胸に浮き出た乳首である。
歯を立てられてコリコリとされるのも、じゅっと吸いつかれた口の中で舌に弄ばれるのも、形が変わりそうなほどにきつく指で引っ張られるのも、異なる快感を得た。痛みが強い瞬間ももちろんあったものの、琥珀が一声、痛みを訴えれば紫嵐は止まる。そして、同じ動作をもう一度、今度は弱くして行い、「これは?」と、聞いてくるのだった。
もう二度と琥珀を傷つけたくないと思ってくれているのはありがたいし、嬉しい。けれど、度が過ぎてはいないだろうか。
こうされるのとこうされるの、どちらがいいか、なんて――……。
しかも、「そっち」や「さっきの方」という答えは許してくれないのだ。しっかりと言葉にするまで、散々に同じ部分を責めたてられ、怖いから直視できないけれど、見なくてもわかる。じんじんと痺れを訴えてくる乳首は、真っ赤に腫れているに違いない。
「あぅ……口ん中、で、ぺろぺろされて……ッ、ひぅ、たまに歯でごりっとされるの、イイ……!」
喘ぎ混じりの半泣きで、ようやく口にして解放されると思いきや、紫嵐は琥珀の言葉を確かめるごとく、「こうか?」と、実践してくるのだから、まったくたちが悪い。
ようやく唇が離れたと思ったら、最後にフゥ、とやられて、唾液に濡れた頂点は空気の冷たさを感じて、びくんと身を震わせてしまった。
紫嵐の指が腹筋をなぞり、すでに布を取り払った状態の琥珀の下半身に向かう。すでにがちがちに隆起しているそれに辿り着く前に、琥珀は紫嵐の手を引いた。
「琥珀?」
首を横に振って、呼吸を整える。
「俺ばっかり、嫌だ……俺もする」
そもそも、男相手の経験はないが、女相手ならば豊富とまではいかずとも、そこそこ場数を踏んでいる。すべて娼館で、玄人のお姉さん相手ではあったが、上手上手と言われてきた。男が初めてなのは紫嵐も同様のはずで、優劣なんてあるはずがない。琥珀が彼を喘がせたっていいではないか。
と、働かない頭と回らない口で一生懸命に説明した結果、
「あっ、ちょ! やっぱ、これ、恥ずかしい……ってぇ!?」
なぜか琥珀は紫嵐の上に乗ることになっていた。彼の頭に尻を向け、大極図の陰陽のようになることで、相互に愛撫することができる。紫嵐の提案に、「さすが紫嵐、合理的だな」と感心した数秒後には、琥珀は自分の選択を後悔していた。
目の前に紫嵐の陰茎がそそり立っているのは、いい。まだ彼に指一本触れていない状態なのに完全に勃起していて、早く触ってくれと、琥珀の頬にぺちぺちと当たるのも、可愛げがあって悪くない。
だがしかし、自分の格好を考えると死にたいくらい羞恥に駆られる。足を広げて彼の身体を跨ぎ、尻を晒しているのだ。視線が集中している部分のことを考えると、腰が震える。
「ほら、琥珀……」
促されて、琥珀は意を決して、紫嵐の雄に指を絡めた。
一瞬、自分の格好も忘れた。あまりにも熱く硬く、そして脈打っていて、ひとつの生き物のようだった。指先で先端を撫でると、ぬるりとした粘液が滲みだしてくる。なんだか可愛いと、夢中になって弄っている琥珀は、完全に忘れていた。
「ひぃ、あッ」
紫嵐の男根に集中していた意識が引き戻される。琥珀の雄は、熱を失っていなかった。紫嵐の指が少し触れただけで、あっという間に蜜を零し始める。悔しくて、手に力を籠めると、自分の股の間で紫嵐が息を詰めるのがわかった。
ざまみろ、と留飲を下げると同時に、今度はあらぬ場所に指が引っかかった。視線をびしばしと感じていた、尻の孔である。
「ぁ、や……だめ、そこはっ、あ!」
ぬめりを伴って、指は孔の縁を擽り、先端が出たり入ったりする。いくつもの花を混ぜたようないい匂いがして、女官が用意していた油と似たようなものを、手に取っているのだろう。痛みはなく、ただただ孔が収縮するのを自覚して、恥ずかしい。
「んあ、あ~……ッ」
ちゅぷちゅぷと浅いところを掘っていた指が、奥に進んでくる。きゅう、と締めつけると、嬉しそうに指が体内で動き回る。肉壁のあらゆる場所を押して、紫嵐は宝探しをしているつもりなのだろうが、初めて異物を受け入れたこちらは、たまったものじゃない。
「ら、ラン……やっ、うぅ……」
前回は、「ラン」と呼んだことで正気に戻った彼はすぐにやめたが、今回は違う。無理矢理ではなく、同意でしている行為だ。紫嵐は一度指を抜き、孔の周縁を弄ぶ。くるくると擽られると、すっかり敏感になった琥珀の身体は、ひくひくと震えた。
「嫌か?」
「や、じゃない……けどっ、やっぱりこの格好は……」
結局手がお留守になってしまった琥珀を見て、紫嵐は薄く笑い、どれ、と上体を起こした。琥珀が四つん這いになっているのは変わらず、尻をぺちぺちと触れられる。
「どんな格好でも、恥ずかしいことには変わりないと思うが……」
さらにたっぷりと香油を掬い取った指が、根本まで入れられる。回したり抉ったり、関節を器用に使って解していく。女であれば感じるところもある。実体験として知っている。だが、男は――……。
違和感に苛まれつつ、過去娼館でのあれこれを思い出して、感じている素振りでも見せた方がいいかと思い始めた矢先のことだった。
「アッ!?」
意図せず、甲高い声が出た。あまりの大きさに、紫嵐ですら驚いて手を止める。
なんだ今のは。
ふー、ふー、と荒い息を隠すべく、両手で口を押さえようとすると、二撃、三撃と襲いかかってくるのは、紛れもなく快感であった。陰茎を擦られるのとは質の違う、比べようもない身の内から湧き出す快楽に、琥珀は呼吸が上手くできなくなる。
「あっ、あああッ、や、あんっ、だ、め、なんで!?」
一点、押さえられると気持ちのいい場所がある。どころか、そこを中心に感じる場所がどんどん広がっていっている気すらした。
「あ~ッ、あ、ラン、紫嵐ッ! や、あっ、う……」
「いいか? 琥珀」
やはりここでも言葉を求められるらしい。ぐるりと反転させられて見上げる紫嵐の表情は、想像していたよりもずいぶんと余裕がなさそうで、逆に琥珀の胸は、笑うだけの落ち着きを取り戻した。
ああ、不安なのだ。前回は強姦未遂だったから、こうして琥珀の意志を言葉で確認しなければ、先に進めないのだ。
理解した琥珀は、ない頭を使って、紫嵐に自分の気持ちを伝えた。
「んんっ、中も、いい……気持ち、いひ、からァ……っ、もっと、強く押してっ、そこっ」
捕えられた快楽の種を、紫嵐はためらいつつも、「強く」と言われるごとに遠慮なく押さえつける。たったそれだけの動作だ。舐られたわけでもないのに、琥珀の肉茎は花を開く前に、ごぷりと大量の白き蜜を吐き出した。
「んぁ、あ、も、大丈夫、だか、ら……ラン、来て……ッ」
ひとり先に射精に至ったのが悔しくて、今度は自分が紫嵐を絶頂に追い上げてみせようと、琥珀は腕を伸ばして縋った。逞しい胸。首に浮かんだ鱗の一部ははがれていて、そこが逆鱗のありかだ。
琥珀は上手く動かない身体を叱咤して、首を伸ばし、逆鱗がかつて存在した傷のような場所に口づけた。愛している、抱いてくれ。言葉よりも雄弁で、紫嵐を煽ったらしい。
無言で荒々しく、琥珀の脚を抱え上げた。押し当てられた雄は、先ほど握っていたときよりも大きく太く、硬いような気がして、緊張に力が入る。
「琥珀……ゆっくりするから」
自分も限界だろうに、こちらのことを気遣って、紫嵐が腹を撫でてなだめてくれる。優しさを感じて、琥珀は深呼吸をして、脱力することを意識した。
「……うん。大丈夫。来いよ、紫嵐」
灼熱の肉棒が、突き刺さる。散々慣らされたと思った孔の入口は引き攣って、痛みを訴える。
「ぐ、ぅ……」
殺せなかった呻き声に紫嵐はハッとして、汗で張りつく琥珀の髪を払う。
「すまない。痛いか?」
「いた……い、けど、うん……」
中途半端なところで止まった状態は、紫嵐も辛い。男だからわかる。琥珀は意識的に呼吸をして、一思いに一気に貫いてほしいと懇願する。
「でも」
「いいからっ、来て……ッ!」
ガツン、と腹の奥を殴られた気がした。柔らかい内臓を直接抉られる衝撃に、琥珀は「かはっ」と苦しんだ。
「琥珀。やっぱり抜く……」
「抜くな! 平気だからっ、ちょっと、動かないで待ってて……」
琥珀は紫嵐の汗が浮く首筋、逆鱗のあたりを撫でた。今はそこにない、そして空気中に帰っていった癒しの力を秘めた鱗の残滓が、痛みを緩和してくれることを期待して。
その効果なのか、それとも紫嵐がじっと耐えてくれていたおかげかはわからないが、次第に琥珀の肉体はなじんでいった。慣れてみれば、雁が高く長大な紫嵐の陽物は的確に琥珀の弱い部分を刺激する構造になっていて、相性のいい身体同士である。
「ん……いい、よ、動いて……っ」
許可を出すと同時に、紫嵐は大きく腰を使った。浅瀬を、深奥をゆっくりと行き来して、息を上げる。
「ん、あ……好き、紫嵐……愛してる……ッ」
入っているのが気持ちいい。動かれるともっと気持ちいい。でも一番気持ちがいいのは。
琥珀は紫嵐の頬に手を伸ばす。驚いた顔の彼の唇が、琥珀の唇に下りてくる。
「愛してる」
紫嵐からの愛の言葉を全身で受け止めて、琥珀は体の中まで震わせて、恍惚の海の中へと飛び込んでいった。
紫嵐が使っている建物に務める女官は、何かに勘づいたのか、琥珀に「これは髪、こちらはお体、そしてお顔! しっかりと塗りこめてくださいましね!」と、初めて見る油やら乳液やら、手入れのためのもろもろを用意して手渡した。まさか紫嵐が言ったわけではないよな、と湯舟に浸かりながら考える。
――そういえば、王の閨事は監視されているんだっけ。
どの妃への御渡りが多いかはもちろん、交わった回数やその体位、気をやった回数などを、事細かに記録する係の役人がいるとかいないとか。
紫嵐は王ではないが、現状、王に一番近い場所にいる男だ。妊娠しない男の伴侶だからまさかとは思うが、覗かれていたら、どうしよう。
想像して羞恥に真っ赤になった琥珀は、湯の中に口までつかって、ぶくぶくと泡を吐き出した。どうしたものかと悩んでいたら、すっかり逆上せてしまい。
「お前はいったい、何をしているんだ……?」
どうにかこうにか浴槽から上がり、浴室から出ることはできたものの、琥珀はそこで力尽きた。いつまで経っても寝室に現れないことにしびれを切らした紫嵐が、風呂の支度をした女官に尋ねてやってきて、介抱されたというわけである。
「ううう、面目ない……」
たっぷり水分を摂り、扇で煽がれてようやくどうにか回復した琥珀は、己の愚かさに頭を抱え、紫嵐に謝罪した。
「そんなに私に抱かれるのが嫌だったか?」
声が拗ねているのを感じ取って、琥珀は「違う!」と、声を大にした。
「いや。前にあんなことをしたのは私だ。お前が怖くなって、嫌になったとしても仕方がない」
どうしてこういうときだけ、気遣いのできる物分かりのいい男になるのか。基本的には我が道を行く男だというのに。
琥珀は恥を忍んですべてを打ち明けた。誰かに房事を知られるのが嫌で、あれこれと考えていたらうっかり逆上せただけだと。それを聞いた紫嵐は、口元を綻ばせた。
「笑うなら笑えよ……」
「違うんだ。すまない。その、お前があまりにも可愛いものだから」
接近してきた紫嵐の身体で、影ができる。見上げると、慈しみ深き笑みを浮かべた愛おしい男がいる。
つい先ほどまで、そういう雰囲気ではなかった。男同士の、他愛のない馬鹿話だったのが、一気に引き締まる。琥珀は黙って、ぐっと唇を引き結んだ。
「最後に聞くぞ……いいか?」
悩む間はない。琥珀がこくりと頷くと、定石通りに唇を噛まれるに違いないと目を閉じる。しかし彼の牙がとらえたのは、己の首筋であった。急所である。思わず肩を竦め、身を縮こまらせると、ぺろりと舐められる。傷つけたいわけじゃないというのが動作に表れていて、琥珀は力を抜いた。
風呂上がりに彼の手で着せられていた夜着は、同じ手によってあっさりと剥ぎ取られていく。緩くしか結ばれていなかった帯は、琥珀の身体のことを気遣うゆえか、それとも交合の際にやりやすくするためか。後者であっても構わないと、琥珀は思いながら彼の愛撫を受け入れる。
口が、歯が、舌が、指が。同じ場所をなぞっても、肉の柔らかさや動かしやすさによって、感じ方が違うのだと初めて知る。特に顕著だったのは、胸に浮き出た乳首である。
歯を立てられてコリコリとされるのも、じゅっと吸いつかれた口の中で舌に弄ばれるのも、形が変わりそうなほどにきつく指で引っ張られるのも、異なる快感を得た。痛みが強い瞬間ももちろんあったものの、琥珀が一声、痛みを訴えれば紫嵐は止まる。そして、同じ動作をもう一度、今度は弱くして行い、「これは?」と、聞いてくるのだった。
もう二度と琥珀を傷つけたくないと思ってくれているのはありがたいし、嬉しい。けれど、度が過ぎてはいないだろうか。
こうされるのとこうされるの、どちらがいいか、なんて――……。
しかも、「そっち」や「さっきの方」という答えは許してくれないのだ。しっかりと言葉にするまで、散々に同じ部分を責めたてられ、怖いから直視できないけれど、見なくてもわかる。じんじんと痺れを訴えてくる乳首は、真っ赤に腫れているに違いない。
「あぅ……口ん中、で、ぺろぺろされて……ッ、ひぅ、たまに歯でごりっとされるの、イイ……!」
喘ぎ混じりの半泣きで、ようやく口にして解放されると思いきや、紫嵐は琥珀の言葉を確かめるごとく、「こうか?」と、実践してくるのだから、まったくたちが悪い。
ようやく唇が離れたと思ったら、最後にフゥ、とやられて、唾液に濡れた頂点は空気の冷たさを感じて、びくんと身を震わせてしまった。
紫嵐の指が腹筋をなぞり、すでに布を取り払った状態の琥珀の下半身に向かう。すでにがちがちに隆起しているそれに辿り着く前に、琥珀は紫嵐の手を引いた。
「琥珀?」
首を横に振って、呼吸を整える。
「俺ばっかり、嫌だ……俺もする」
そもそも、男相手の経験はないが、女相手ならば豊富とまではいかずとも、そこそこ場数を踏んでいる。すべて娼館で、玄人のお姉さん相手ではあったが、上手上手と言われてきた。男が初めてなのは紫嵐も同様のはずで、優劣なんてあるはずがない。琥珀が彼を喘がせたっていいではないか。
と、働かない頭と回らない口で一生懸命に説明した結果、
「あっ、ちょ! やっぱ、これ、恥ずかしい……ってぇ!?」
なぜか琥珀は紫嵐の上に乗ることになっていた。彼の頭に尻を向け、大極図の陰陽のようになることで、相互に愛撫することができる。紫嵐の提案に、「さすが紫嵐、合理的だな」と感心した数秒後には、琥珀は自分の選択を後悔していた。
目の前に紫嵐の陰茎がそそり立っているのは、いい。まだ彼に指一本触れていない状態なのに完全に勃起していて、早く触ってくれと、琥珀の頬にぺちぺちと当たるのも、可愛げがあって悪くない。
だがしかし、自分の格好を考えると死にたいくらい羞恥に駆られる。足を広げて彼の身体を跨ぎ、尻を晒しているのだ。視線が集中している部分のことを考えると、腰が震える。
「ほら、琥珀……」
促されて、琥珀は意を決して、紫嵐の雄に指を絡めた。
一瞬、自分の格好も忘れた。あまりにも熱く硬く、そして脈打っていて、ひとつの生き物のようだった。指先で先端を撫でると、ぬるりとした粘液が滲みだしてくる。なんだか可愛いと、夢中になって弄っている琥珀は、完全に忘れていた。
「ひぃ、あッ」
紫嵐の男根に集中していた意識が引き戻される。琥珀の雄は、熱を失っていなかった。紫嵐の指が少し触れただけで、あっという間に蜜を零し始める。悔しくて、手に力を籠めると、自分の股の間で紫嵐が息を詰めるのがわかった。
ざまみろ、と留飲を下げると同時に、今度はあらぬ場所に指が引っかかった。視線をびしばしと感じていた、尻の孔である。
「ぁ、や……だめ、そこはっ、あ!」
ぬめりを伴って、指は孔の縁を擽り、先端が出たり入ったりする。いくつもの花を混ぜたようないい匂いがして、女官が用意していた油と似たようなものを、手に取っているのだろう。痛みはなく、ただただ孔が収縮するのを自覚して、恥ずかしい。
「んあ、あ~……ッ」
ちゅぷちゅぷと浅いところを掘っていた指が、奥に進んでくる。きゅう、と締めつけると、嬉しそうに指が体内で動き回る。肉壁のあらゆる場所を押して、紫嵐は宝探しをしているつもりなのだろうが、初めて異物を受け入れたこちらは、たまったものじゃない。
「ら、ラン……やっ、うぅ……」
前回は、「ラン」と呼んだことで正気に戻った彼はすぐにやめたが、今回は違う。無理矢理ではなく、同意でしている行為だ。紫嵐は一度指を抜き、孔の周縁を弄ぶ。くるくると擽られると、すっかり敏感になった琥珀の身体は、ひくひくと震えた。
「嫌か?」
「や、じゃない……けどっ、やっぱりこの格好は……」
結局手がお留守になってしまった琥珀を見て、紫嵐は薄く笑い、どれ、と上体を起こした。琥珀が四つん這いになっているのは変わらず、尻をぺちぺちと触れられる。
「どんな格好でも、恥ずかしいことには変わりないと思うが……」
さらにたっぷりと香油を掬い取った指が、根本まで入れられる。回したり抉ったり、関節を器用に使って解していく。女であれば感じるところもある。実体験として知っている。だが、男は――……。
違和感に苛まれつつ、過去娼館でのあれこれを思い出して、感じている素振りでも見せた方がいいかと思い始めた矢先のことだった。
「アッ!?」
意図せず、甲高い声が出た。あまりの大きさに、紫嵐ですら驚いて手を止める。
なんだ今のは。
ふー、ふー、と荒い息を隠すべく、両手で口を押さえようとすると、二撃、三撃と襲いかかってくるのは、紛れもなく快感であった。陰茎を擦られるのとは質の違う、比べようもない身の内から湧き出す快楽に、琥珀は呼吸が上手くできなくなる。
「あっ、あああッ、や、あんっ、だ、め、なんで!?」
一点、押さえられると気持ちのいい場所がある。どころか、そこを中心に感じる場所がどんどん広がっていっている気すらした。
「あ~ッ、あ、ラン、紫嵐ッ! や、あっ、う……」
「いいか? 琥珀」
やはりここでも言葉を求められるらしい。ぐるりと反転させられて見上げる紫嵐の表情は、想像していたよりもずいぶんと余裕がなさそうで、逆に琥珀の胸は、笑うだけの落ち着きを取り戻した。
ああ、不安なのだ。前回は強姦未遂だったから、こうして琥珀の意志を言葉で確認しなければ、先に進めないのだ。
理解した琥珀は、ない頭を使って、紫嵐に自分の気持ちを伝えた。
「んんっ、中も、いい……気持ち、いひ、からァ……っ、もっと、強く押してっ、そこっ」
捕えられた快楽の種を、紫嵐はためらいつつも、「強く」と言われるごとに遠慮なく押さえつける。たったそれだけの動作だ。舐られたわけでもないのに、琥珀の肉茎は花を開く前に、ごぷりと大量の白き蜜を吐き出した。
「んぁ、あ、も、大丈夫、だか、ら……ラン、来て……ッ」
ひとり先に射精に至ったのが悔しくて、今度は自分が紫嵐を絶頂に追い上げてみせようと、琥珀は腕を伸ばして縋った。逞しい胸。首に浮かんだ鱗の一部ははがれていて、そこが逆鱗のありかだ。
琥珀は上手く動かない身体を叱咤して、首を伸ばし、逆鱗がかつて存在した傷のような場所に口づけた。愛している、抱いてくれ。言葉よりも雄弁で、紫嵐を煽ったらしい。
無言で荒々しく、琥珀の脚を抱え上げた。押し当てられた雄は、先ほど握っていたときよりも大きく太く、硬いような気がして、緊張に力が入る。
「琥珀……ゆっくりするから」
自分も限界だろうに、こちらのことを気遣って、紫嵐が腹を撫でてなだめてくれる。優しさを感じて、琥珀は深呼吸をして、脱力することを意識した。
「……うん。大丈夫。来いよ、紫嵐」
灼熱の肉棒が、突き刺さる。散々慣らされたと思った孔の入口は引き攣って、痛みを訴える。
「ぐ、ぅ……」
殺せなかった呻き声に紫嵐はハッとして、汗で張りつく琥珀の髪を払う。
「すまない。痛いか?」
「いた……い、けど、うん……」
中途半端なところで止まった状態は、紫嵐も辛い。男だからわかる。琥珀は意識的に呼吸をして、一思いに一気に貫いてほしいと懇願する。
「でも」
「いいからっ、来て……ッ!」
ガツン、と腹の奥を殴られた気がした。柔らかい内臓を直接抉られる衝撃に、琥珀は「かはっ」と苦しんだ。
「琥珀。やっぱり抜く……」
「抜くな! 平気だからっ、ちょっと、動かないで待ってて……」
琥珀は紫嵐の汗が浮く首筋、逆鱗のあたりを撫でた。今はそこにない、そして空気中に帰っていった癒しの力を秘めた鱗の残滓が、痛みを緩和してくれることを期待して。
その効果なのか、それとも紫嵐がじっと耐えてくれていたおかげかはわからないが、次第に琥珀の肉体はなじんでいった。慣れてみれば、雁が高く長大な紫嵐の陽物は的確に琥珀の弱い部分を刺激する構造になっていて、相性のいい身体同士である。
「ん……いい、よ、動いて……っ」
許可を出すと同時に、紫嵐は大きく腰を使った。浅瀬を、深奥をゆっくりと行き来して、息を上げる。
「ん、あ……好き、紫嵐……愛してる……ッ」
入っているのが気持ちいい。動かれるともっと気持ちいい。でも一番気持ちがいいのは。
琥珀は紫嵐の頬に手を伸ばす。驚いた顔の彼の唇が、琥珀の唇に下りてくる。
「愛してる」
紫嵐からの愛の言葉を全身で受け止めて、琥珀は体の中まで震わせて、恍惚の海の中へと飛び込んでいった。
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