クライン工房へようこそ!【第15部まで公開】

雨宮ソウスケ

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第11部

第二章 鋼の騎士、アティスに立つ②

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「え? 何の騒ぎですの?」


 その時、次の人物が船から降りてきた。
 アリシア達の注目が幼児達から、その人物に移る。


「……おお」

「……凄え美少女」


 ロックとエドワードが、思わず感嘆する。
 歳の頃は十五ぐらいか。
 凛々しく美しい顔立ちに、しなやかさを持つスレンダーな肢体。瞳の色は黄金にも似た蜂蜜色であり、髪の色も同色だ。毛先の部分にきつめのカールがかかっている長い髪は、後頭部当たりで紅いリボンを使って結ばれており、歩く度に揺れていた。
 身に纏うのは、恐らくはエリーズ国騎士学校の制服か。襟までを締める黒い服だ。足には軍靴。腰辺りには白い布を纏っており、短剣も差している。
 少年達の視線に気付き、彼女はニコッと微笑んだ。


「――おおっ!」

「凄えッ! 本物だ! 本物の令嬢だ! パチモンのエイシスとは違う!」


 ロックとエドワードは興奮した。


「……誰がパチモンよ」


 ただし、すぐさまアリシアに肘を打ちつけれて沈静化するが。


「リーゼ先輩!」


 ルカが、彼女が降りてきたことに気付き、満面の笑みを見せた。


「元気そうですわね。ルカ」


 彼女は微笑む。それから、腰に着けた白布ケープをスカートのようにたくし上げて、アリシア達とガハルドに、優雅に礼をする。


「初めまして皆さま。エリーズ国・レイハート公爵家の長女、リーゼ=レイハートと申します。以後お見知りおきを」


 年下とは思えない堂々とした挨拶に、サーシャ達はたじろいた。
 しかし、ガハルドだけは流石なもので。


「これはご丁寧な挨拶、恐れ入ります」


 言って、彼女――リーゼの前で片膝をついた。


「レイハートさま。私の名はガハルド=エイシスと申します。アティス王国・第三騎士団の団長を務める者です。本日は殿下と共にお迎えに上がりました」


 そう名乗ってから、彼女の手を取り、甲に口付けをする。
 それを見て、アリシア達は焦った。


「(おい! お前の父ちゃん、凄え真面目な挨拶してんぞ!?)」

「(え!? ど、どうしよう、私達もした方がいいの!?)」

「(と、とりあえず、ハルトとオニキスは倣った方がいいのかな?)」

「(ぬ、ぬう!)」

「(まあ、私は関係ないけど)」


 と、ユーリィだけを除いて混乱している内に、事態は変化する。
 彼らが何かをする前に、リーゼの後ろから、さらに二人の人物が現れたのだ。


「おう。早速挨拶してんのか? お嬢」


 そう告げるのは、リーゼと同じ制服を着た少年だった。
 短く刈った濃い緑色の髪が特徴的な人物であり、背中には大きなサックを担いでいる。恐らく、年齢もリーゼと同じだろう。


「おっす! オレっちの名前はジェイク=オルバン。よろしくな!」


 陽気な雰囲気を持つ少年は、拳を突き出して笑った。


「え、えっと」「は、はい」


 アリシアとサーシャは少し躊躇ったが、


「ああ。よろしく。俺の名前はロック=ハルトだ」

「よろしくな。俺の名前はエドワード=オニキスだ。長いから、エドでいいぜ。ロックの方も名前で呼んでやってくれ」

「おう。よろしくな、エドにロック。オレっちはジェイクって呼んでくれ」


 ロックとエドワードは、ジェイクに同じ少年として身近さを感じたのか、特に緊張する様子もなく、すぐに応えた。
 アリシアとサーシャも、小さな声で名乗った。
 ただ、ユーリィだけは名乗らない。
 何故なら、彼女は彼女で別の相手に困惑していたからだ。


「……あの」


 ユーリィは、躊躇いがちに尋ねた。


「どうして、さっきから私を見つめているの?」


 今、ユーリィの前には一人の少女がいた。
 ジェイクと共に船から降りてきた少女――いや幼女だ。
 歳の頃は九歳ぐらいか。
 ユーリィと並んでも、そう劣らない整った顔立ち。髪は腰まで伸ばしており、色は薄い緑色。瞳の色も同色だ。若干、表情が乏しいところもユーリィに似ている。
 だが、彼女の最大の特徴は身につけたその服だった。
 彼女は、銀色の小さな王冠付きカチューシャを付けた、メイド幼女だったのだ。


「……他の人の話も色々と聞いてはいたけど」


 メイド幼女は語る。


「……私はあなたに一番興味があったの。だって、あなたは私が目指す場所に先にいて、今も頑張ってる先輩で、私のお手本だから」

「……どういう意味?」


 ユーリィが眉根を寄せた。
 しかし、幼女は答えてくれない。「……また後で。先輩」とだけ告げて、今度はサーシャとアリシアの元に駆け寄った。
 そして、ユーリィの時と同じようにじいっと見つめる。


「あ、あの?」

「私達の顔に何か付いている?」


 幼女の不可解な行動に、幼馴染コンビは困惑する。と、


「……先輩もそうだけど、本当にみんな、凄い美人さんばかりだよ。けど、誰が本命なんだろ? ううん、だと考えるとやっぱり全員なのかな?」


 幼女は、そんなことを独白していた。
 サーシャとアリシア。そしてユーリィとしては首を傾げるばかりだ。
 と、その時だった。


「――アイリちゃん!」


 ぎゅむうと、豊満な胸で幼女の頭を捕縛する者がいた。
 ルカである。


「……相変わらずのおっぱいだね。ううん。また少し大きくなった?」

「ひ、ひゥ! そ、それほど大きくはなってないよ!」


 言って、ルカはアイリと呼んだ幼女を離した。
 幼女は振り向き、ルカを見上げて柔らかに微笑む。


「……久しぶり。元気そうで何よりだよ。ルカ」

「うん。アイリちゃんも元気そうで良かった」


 つられるようにルカも笑った。
 そこで幼女は改めてサーシャ達に目を向けて。


「……アイリ=ラストンだよ。アシュレイ家のメイドをしているの。よろしく」

「あ、うん。アリシア=エイシスよ」

「私は、サーシャ=フラム」

「……知ってるよ。特徴ですぐに分かったし」

「え?」「特徴?」


 サーシャ達は、再び眉根を寄せた。
 ――一体、彼女は何を言っているのだろうか?
 二人してそう考えた、その瞬間だった。
 ――ズン!
 桟橋が軽く揺れた。
 同時に鎧を着た幼児達も騒ぎ出す。


「……メルサマダ!」

「……メルサマガ、オイデニナラレタ!」

「……シズマレイ! モノドモ!」


 ――ズン!
 再び揺れる桟橋。全員が桟橋に視線を向けた。
 そして彼らの反応は様々だった。
 ルカは、その水色の瞳を輝かせて。
 サーシャとアリシア。ユーリィは蒼い顔で桟橋を見つめて。


「「……お、おおおおー……」」


 ロックとエドワードは、ただただ声を上げていた。
 ガハルドは表情こそ変えなかったが、頬に微かな汗が伝っていた。
 ――ズン!
 三度、響く足音。
 アリシア達は凝視した。

 ――その姿は、古の騎士が如く。

 佇む姿は巌の如し。踏み出す一歩は大地を揺らす。
 アティスの地に降り立ったは、あまりにも雄々しかった。


『ルカ! お久しぶりです』


 ただ、その声は意外にも可愛らしかったが。
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