クライン工房へようこそ!【第15部まで公開】

雨宮ソウスケ

文字の大きさ
361 / 499
第12部

第三章 迷い猫①

しおりを挟む
 その日、少年は焦っていた。


(うわあ、どうしよう……)


 腰に白布を巻き付けた黒い騎士服の少年。
 黒い髪と、同色の瞳が印象的な十代半ばの少年だ。
 ――コウタ=ヒラサカ。
 エリーズ国からの来訪者であり、アッシュの実の弟である。
 彼は今、一人だけで市街区を駆け足で走っていた。
 目的は、とある迷い猫を見つけるためなのだが、少々変わった事情を持つ子猫のため、王城の人員は勿論、一緒に来たメルティア達の助力も得られない状況だった。
 唯一、捜索に協力してくれているのは、親友であるジェイクだけだ。
 コウタは、本当に焦っていた。


(一体どこに行ったんだろ?)


 キョロキョロと辺りを見渡すが、街並みに彼女・・の姿はない。
 今朝までは、彼女はルカにお願いして用意してもらっていた個室にいた。
 彼女との再会は、本当に唐突だった。
 コウタは動揺し、とりあえず誰にも告げずに匿ったのだ。
 まあ、流石にジェイクにだけは後で相談したが。
 しかし、そんな相談も意味がなかったのか、彼女の部屋に戻ってみると、いなくなっていたのである。
 自由奔放な彼女を強引に部屋に押し込めたのはまずかったのかもしれない。


(本当にどうしよう……)


 コウタは、本当に困り果てた顔をしていた。
 実のところ、彼女の向かいそうな場所には心当たりがある。
 朝食の時、彼女がそれ・・をしたいと言っていたからだ。
 だが、それ・・は非常にまずいのだ。
 彼女の立場的には致命的ともいえる。
 出来れば、そんな事態に陥る前に彼女を確保したいのだが……。


(けど、こうも見つからないと、もうあそこに行ってる可能性が高いのか……)


 そう思うと、胃辺りが痛くなってくる。
 正直、今はまだ、あそこには行きたくはない。
 何故なら、姪っ子と、仲があまりよろしくないからだ。
 そのため、本来ならば、兄に伝えなければならない重要な話を、未だ告げられない状況になっているぐらいだ。本当に姪っ子には避けられている。
 そこへ彼女を連れて行けば、本格的に姪っ子に嫌われてしまうのは確実だ。
 だからこそ、彼女にはどうか自重して欲しいと頼んでいたのだが、彼女にとっては、半日が限界だったようだ。


(まあ、彼女も頑張ってくれたとは思うけど)


 コウタは駆け足の速度を落とし、深々と溜息をついた。
 色々と躊躇って、早々に姪っ子と仲を改善しようとしなかった自分のミスか。
 いずれにせよ、


「仕方がない。行くしかないか」


 コウタは、覚悟を決めて呟く。


「兄さんの所へ。クライン工房に」


       ◆


「結局、昨日はあまり情報を得られなかったわね」


 市街区の一角。飲食系の店舗の並ぶ大通りにて。
 学校帰りのアリシアとサーシャは、並んで歩いていた。
 今日は、ルカの姿はない。今日は、午前中しか学校の講習がなかったので、客人のために、早く帰城しているのだ。


「……先生の本当の名前か」


 サーシャが、眉を落として呟く。
 結局、昨日のルカとの話ではコウタの性格や、異国での生活。メルティアを筆頭に、彼の近くにいる女の子達の関係――しみじみ彼がアッシュの弟であると実感できた――などは聞けたが、アッシュの本当の名前については全く分からなかった。
 ルカにしても本当の名前があること以上に知らないのだから、仕方がないことだ。
 従って、今日こそはと講習が終わった直後にオトハの教官室に向かったのだが、残念ながら今日も行き違いになってしまった。
 どうもここ数日、オトハはミランシャ達と行動を共にしているらしい。


「あの三人って、何だかんだで仲が良いのよね」


 アリシアが歩きながら呟く。
 年長組の三人、オトハ、ミランシャ、シャルロット。
 オトハとミランシャは、犬猿の仲のようなところもあるのだが、何だかんだで意見が一致することが多い。シャルロットは険悪時の二人の間を取り持つことが多く、三人はそこで上手く機能していた。


「……オトハさん達って、全員、先生の本名を知っているのかな?」


 と、サーシャが呟いた。
 アリシアは、サーシャに視線を向ける。


「……多分ね」


 そして微かに嘆息した。


「メルちゃんが知っているぐらいなら、ミランシャさんも、シャルロットさんも知っているでしょうね。オトハさんだけは分からないけど……」

「けど、オトハさんって一番付き合いが長いんだよ。きっと知ってると思うよ」


 と、サーシャが答える。
 続けて、片手に持つ銀色のヘルムに触れながら、ポツリと。


「知らないのは、きっと私達、年少組の方だけだよ」

「……そうよね」


 アリシアが話を継いだ。


「一応、これから確認するけど、多分ユーリィちゃんも知らない気がするわ。これって、正直に言って私達って……」


 と、本来は活発な少女が表情を暗くする。
 どうしても、子供ゆえに蚊帳の外に置かれているような気がするのだ。


「結局のところ、アッシュさんにとって私達ってまだまだ子供なのよ。重要なことは教えてもらえない。対等に……まだ女として見られていないんだわ」

「……そうだよね」


 と、サーシャもまた暗い表情を見せた、その時だった。



「――いや、そうではなかろう」



 不意に後ろから声を掛けられる。
 サーシャとアリシアは「え?」と振り向いた。
 すると、そこには――。


「確かに相手は《七星》最強。対等と呼ぶのには無理があるのは事実じゃ」


 そう語る、一人の少女がいた。
 サーシャ達は、唖然として足を止める。
 不意に現れた彼女は、驚くほど美しい少女だった。
 年の頃は十四、五歳か。
 髪の色は淡い菫色。背中を覆うほど長く緩やかに波打っている。
 ちなみに、頭の上にはネコ耳を彷彿させるような癖毛も持っていた。
 首には蒼いチョーカーを巻き、かなり低身長でありながら、思わずアリシアが「ぐぬぬ」と小さく唸るほどにスタイルは抜群だ。少し大きめのワンピース型の蒼いドレスを纏っており、両足には紐付きの長いブーツを履いている。
 少女はなお語る。


「されど、お主らの美貌で女として見られないことにもまた無理があるぞ。仮にお主らがわらわの夫の愛人ならば、側室に認めるのもやむなしの美貌じゃな」


 随分と古風な口調の少女だった。


「え、えっと……」


 とりあえず容姿を褒められているようなので、アリシア達は少し頬を染めた。
 対し、菫色の髪の少女は、ふふっと笑う。


「よもや、このような場所で出会うとはのう。お主らがサーシャ=フラム殿。そしてアリシア=エイシス殿なのじゃろう?」


 言って、優雅に礼をした。名前まで呼ばれてアリシア達は困惑した。
 少女はまじまじとアリシア達を見つめた。


「ふふ、それにしても、二人とも見事な美貌じゃな。サーシャ殿も、アリシア殿もそれぞれの魅力に溢れておる。タイプが全く違うこれほどの美少女達を揃ってモノにするとは義兄上も中々どうして……」


 と、どこか微妙な表情を見せつつ、あごに手をやる少女。
 アリシア達はますます困惑する。


「え、えっと、あの……」


 やむをえず、アリシアは率直に訊いた。


「その、一応、褒めてくれてるみたいで嬉しいけど、あなたって誰なの?」


 どうも向こうは自分達のことを知っているようだが、アリシアにしてみれば、完全に初対面の少女だった。仮にどこかですれ違っていたとしても、これほど強い印象を持つ少女を忘れるとは思えない。面識はないはずだ。
 横を見ると、サーシャもまた眉根を寄せている。と、


「ああ、すまぬ。名乗り遅れたな」


 少女は、告げる。


「わらわの名はリノ=エヴァンシードじゃ。そしてこやつは――」

「……ワガナハ、サザンクロス、デアル!」


 言って、両腕を上げる少女の隣にいた物体。


「え?」「あなたって……」


 サーシャ達は目を見開いた。
 少女の印象が強すぎて気付くのが遅れたが、彼女の隣には小さな騎士がいたのだ。
 それも見覚えのある騎士だ。
 何やら竜を象ったようなお面を被り、全身の鎧は蒼いカラーリングではあるが、それは間違いなくメルティアのゴーレムだったのだ。


「いずれ会うつもりではあった。しかし、先程、偶然にも義姉上と再会したばかりだというのに、これは運命を感じるのう」


 リノと名乗った少女は口元を指先で押さえる。
 そして、満面の笑みでこう告げた。


「お会いできて光栄じゃ。そして以後よろしく頼む。わらわの――義姉上達よ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞 ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。 そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

異世界転移から始まるハーレム生活〜チートスキルを貰った俺は、妹と共に無双する〜

昼寝部
ファンタジー
 2XXX年、X月。  俺、水瀬アキトは戦争の絶えない地球で『戦場の悪魔』と呼ばれ、数多の戦で活躍していた。  そんな日々を過ごしていた俺は、ひょんなことから妹と一緒に異世界へ転移することになった。  その世界にはダンジョンが存在しており、ライトノベルなどで登場する世界観と類似していた。  俺たちはその世界で過ごすため女神様からチートスキルを貰い、冒険者となって異世界での生活を満喫することにした。  これは主人公の水瀬アキトと妹のカナデが異世界へ転移し、美少女たちに囲まれながら異世界で無双するお話し。

処理中です...