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第14部
第二章 レディース・サミット3③
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一方、第三会議室は、緊迫感に包まれていた。
原因は言うまでもなく、サクヤの強烈な一言にある。
全員がサクヤに注目していた。
そこへ、サクヤは、さらに畳みかける。
手をちょこんと上げて。
「ちなみに、先日、トウヤとはエッチもしました。一晩中……というより、丸一日レベルで愛を確かめ合いました」
「「「――ッ!?」」」
全員が息を呑む中、サクヤは素早く状況を見定めた。
全員の顔色を一瞥する。
激しく動揺しているのは四人。年少組だ。
年長者の二人は、不満げにサクヤを睨みつけている。
全く動揺していないのは一人だけだ。
オトハ=タチバナ。
やはり、彼女だけは、サクヤと同じ場所にいるのだと確信した。
「……ふん」
そして一番先に口を開いたのも、やはりオトハだった。
「クラインが貴様を愛していることなど、ここにいる者たちは全員知っている。その先にある行為など今さらだ。それよりも……」
オトハは、サクヤを睨みつけた。
「あいつのことは、『アッシュ』か、『クライン』と呼べ。あいつがどんな想いであの名前を名乗っていることは、貴様もよく理解しているだろう」
「………」
サクヤは沈黙した。
「……そうね」
そして首肯する。
「彼のことは、アッシュと呼ぶことにするわ。実は何度かは練習もしていたのだけど、まだ全然慣れなくて」
言って、サクヤは微笑んだ。
あまりにも穏やかな笑みに、少し空気も緩和する。
「……サクヤさんが」
続けて、口を開いたのはアリシアだった。
「アッシュさんに愛されていることは、よく知っています。それを踏まえた上で、お尋ねします。サクヤは……」
一拍おいて。
「これから、どうしたいんですか?」
シン、とした。
誰もが、サクヤに注目する。
それに対して、サクヤは、
「私は……」
自分の想いを語る。
「アッシュを愛しています。ここにいる誰よりも。だから宣言します。私は……」
一呼吸入れて、彼女は告げた。
すでにアッシュ自身にも言った台詞を。
「――私こそが、アッシュの『正妻』であると」
その宣言に、全員が目を剥いた。
全員が、驚きを隠せないようだった。
――『妻』ではなく、『正妻』。
その言い回しの差が意味することとは……。
「それで……いいの?」
そう呟くのは、ユーリィだった。
「サクヤさんは多分、一番アッシュに愛されている。アッシュに望めば……きっと、アッシュは応えると思う」
辛そうに呟く。
口惜しく思うが、自分はまだ『愛娘』から脱却しきれていない。
想いを告げて、ようやくスタートラインに立ったばかりだ。アッシュに『女』として見てもらうには、まだまだ時間がかかるだろう。
けれど、サクヤは――。
ユーリィが、下唇をキュッと噛みしめる。と、サクヤは双眸を細めた。
「トウ……アッシュにとって、あなたたちも大切なのよ。絶対に失いなくないと思えるぐらいに。本人はまだ、曖昧な自覚しかないみたいだけど……」
そこで、小さく息を吐きだした。
「私は、もう彼を苦しめるような真似はしたくない。それに、今の彼を作ってしまったのは私の責任よ。これも運命だわ。けど!」
サクヤは立ち上がって、自分の豊かな胸元に片手を当てた。
そして、もう一度宣言する。
「これだけは譲らないわ! 『正妻』は私! 一番は私なのよ!」
「……言ってくれるわね」
その宣言に青筋を立てたのは、ミランシャだった。
「少しだけ先にアシュ君と出会って、少しだけ先にアシュ君と実戦を経験したからって、ちょっと調子に乗りすぎじゃないかしら?」
立ち上がって、ポキポキと拳を鳴らした。
「あら。その差って結構大きいと思いますけど?」
サクヤはサクヤで、退く様子はない。
再び険悪になる空気。流石にオトハがミランシャを止めようとした時、
「……うんしょ」
不意にそう呟いて、ルカが動いた。
足元から大量の本を取り出して、ズドンと机の上に置いたのだ。
「……ルカ?」
ルカと一番親しいユーリィが、小首を傾げた。
ルカは、ポンと両手を叩いた。
「よかった、です。これで、みんな、仮面さんのお嫁さんに、なれます」
にっこりと笑う。
「え、えっと、ルカ?」「いや、そうなんだけど……」
姉貴分であるサーシャとアリシアは、困惑した顔で妹分を見た。
ルカの笑みは崩れない。
「色々と、調べました。アティスでは一夫多妻は、今でも認められて、います。必要なのは男爵位だけで。それは、賞与で得た人もいるけど、お金でも購入できる、そうです。過去の記録だと、ビラル金貨、百枚から百二十枚で。鎧機兵五、六機分の金額だから、決して安くはないけれど」
ポン、と書物の山に両手を乗せてルカが告げた。
本気で着々と話を進める王女さまに、全員が呆気に取られた。
「……私の、降嫁に、関しても、実例があるから、問題、ないです」
視線を落として少し恥ずかしそうだったが、ルカははっきりとそう告げた。
「お見事です。ルカさま」
と、声を掛けたのは、シャルロットだった。
「すでに準備は万端という訳ですね。では、後は……」
彼女は顔を少し赤くして、周囲に目をやった。
「サクヤさまとオトハさま。このお二人の除いた私たちが、どの順番であるじ――クライン君にしっかりと愛されるかですね」
一拍の間。
――ボンッ、と。
全員の顔が真っ赤になった。サクヤとオトハも含めてだ。
「――わ、私はっ!」
その時、ユーリィが立ち上がった。
「大丈夫っ! だって、アッシュに私を貰ってもらう言質を取っている! な、なんなら今からでも頑張るって伝えてあるからっ!」
完全に、目がグルグルと回った状態で、そんなことを叫んだ。
サクヤだけは「ええッ!?」と、愕然としていた。
彼女だけは、その話を知らなかった。
全員がユーリィに注目する中、次に動いたのはルカだった。
自分の顔をこするように両手を動かしながら、「あ、あう……」と口を開く。
「お、お母さんが、私を身籠ったのは、十代後半でした。だ、だから私も……」
溢れ出しそうな羞恥で目尻に涙を浮かべつつも、彼女ははっきりと意志を示した。
先陣を切る最年少二人に、負けじと思ったのか、
「――ア、アタシだってッ!」
ミランシャが、バンッと机の上を叩いた。
彼女の顔は、髪にも負けないぐらい真っ赤だった。
「アルフがいるから大丈夫よ! 家を出ても家名を捨てても大丈夫っ! 今すぐにだってアシュ君の元に翔んでみせるわ!」
「……私は」言い出した本人であり、比較的冷静なシャルロットが口を開く。
「元より孤児の身。リーゼお嬢さまからも進退の承諾を得ております。すべてにおいて彼に仕える覚悟も準備も出来ています」
自分の胸元に手を当てて、堂々たる声色で宣言した。
彼女たちの視線は、残る二人に向けられた。
アリシアと、サーシャだ。
アリシアは、コホンと喉を鳴らした。
「私も覚悟は出来ているわ」
そう切り出して。
「私はアッシュさんと出会って、初めて恋を知ったわ。だけど、それはとても淡い恋。時間が過ぎれば、ただの思い出になるような恋だった。多分、私はこの中で一番覚悟が出来ていなかったと思う」
だけど、と言葉を続ける。
「今の私は違うわ。もう思い出なんかにするつもりはない。そもそも私って負けず嫌いだったのを思い出したし。何もしないでくよくよするなんて馬鹿みたいだったわ」
アリシアは迷いを払いように長い髪をかき上げた。
「まあ、そうなると、それって今さらの話よね。だって、いつかはする必然的な行為なんだし。むしろ、私にとって最大の問題は、私の父親を納得させることなんだけど、そこは何とかするしかないわね」
そう告げて、最後に苦笑を浮かべた。
全員の視線が最後の一人に移る。
サーシャ=フラムだ。
彼女は微笑んだ。
「私は、アッシュを愛しています」
迷いなくそう告げる。
「私は、アッシュの強さも弱さも、傍で見てきました。その上で、私は彼の傍にいたいと思った。その想いに揺らぎはありません」
彼女は、机の上に置いてある自分のヘルムに、そっと手を置いた。
「彼が望むのなら、私は全力で応えたい。私は消えたりしないと彼に教えてあげたい。私はずっと彼の傍にいたい」
覚悟を込めて、サーシャはもう一度言う。
「私は、アッシュを愛しています。だからアリシアの言う通り、それは今さらです。流石に口にすると恥ずかしいけど」
まあ、お父さまの説得がしんどそうなのは私も同じかな。
そう言って、言葉を締めた。
すると、オトハが笑った。
「順番の話だったのだが、全員の覚悟を問うことになったか。ただ……」
そこで、少し気難しい顔をする。
「フラムとエイシスの話でふと思ったのだが、案外、最終的なハードルが一番高いのは私なのかもしれないな」
「「……え?」」
サーシャとアリシアが、キョトンとした。
オトハは、深い溜息をついてから、ボソリと告げた。
「私の父親の話だ。正直に言って、私の父さま……父は格が違う」
武の化身のような実父の姿を思い出して、オトハは冷や汗を流した。
「クラインのことだ。いつかは私の父に挨拶に行くつもりだろう。生真面目なのは変わらないからな。だが、流石にこの状況を知れば、父は……」
「うわあ……」
ミランシャが、顔を引きつらせた。
「オトハちゃんのお父さんって《黒蛇》の団長よね。《刀天覇王》とか呼ばれてる」
「……ああ。娘の私が言うのも何だが、正真正銘の化け物だ」
そんな人物に、娘さんを嫁の一人にくださいとお願いする訳だ。
いかに、アッシュであっても、こればかりは命がけかもしれない。
「まあ、その時は私も加勢すればいいことか」
オトハは、嘆息した。
そして、サクヤに視線を戻した。
「ともあれ、ここにいる全員は、すでに覚悟済みということだ」
「ええ。そうね……」
サクヤは、脱力するように微笑んだ。
「相変わらず、トウ……アッシュは恐ろしいわ。これだけの綺麗な子たちに、ここまで言わせるなんて。コウちゃんにもその傾向があるし。けど、それも、ここに至ってはどうしようもないことね」
そう呟いて、サクヤは、机の上を指先でなぞった。
それから、視線をオトハたちに向ける。
「ともかく。皆さんの覚悟は分かりました。では、ここでしなければならないことは」
サクヤはポケットの中から、一本のペンを取り出した。
そして、にっこり笑って告げるのだった。
「これまでのことと、これからのことを。順番の件も大事なことだけど、まずは私たちの状況を整理しましょうか」
原因は言うまでもなく、サクヤの強烈な一言にある。
全員がサクヤに注目していた。
そこへ、サクヤは、さらに畳みかける。
手をちょこんと上げて。
「ちなみに、先日、トウヤとはエッチもしました。一晩中……というより、丸一日レベルで愛を確かめ合いました」
「「「――ッ!?」」」
全員が息を呑む中、サクヤは素早く状況を見定めた。
全員の顔色を一瞥する。
激しく動揺しているのは四人。年少組だ。
年長者の二人は、不満げにサクヤを睨みつけている。
全く動揺していないのは一人だけだ。
オトハ=タチバナ。
やはり、彼女だけは、サクヤと同じ場所にいるのだと確信した。
「……ふん」
そして一番先に口を開いたのも、やはりオトハだった。
「クラインが貴様を愛していることなど、ここにいる者たちは全員知っている。その先にある行為など今さらだ。それよりも……」
オトハは、サクヤを睨みつけた。
「あいつのことは、『アッシュ』か、『クライン』と呼べ。あいつがどんな想いであの名前を名乗っていることは、貴様もよく理解しているだろう」
「………」
サクヤは沈黙した。
「……そうね」
そして首肯する。
「彼のことは、アッシュと呼ぶことにするわ。実は何度かは練習もしていたのだけど、まだ全然慣れなくて」
言って、サクヤは微笑んだ。
あまりにも穏やかな笑みに、少し空気も緩和する。
「……サクヤさんが」
続けて、口を開いたのはアリシアだった。
「アッシュさんに愛されていることは、よく知っています。それを踏まえた上で、お尋ねします。サクヤは……」
一拍おいて。
「これから、どうしたいんですか?」
シン、とした。
誰もが、サクヤに注目する。
それに対して、サクヤは、
「私は……」
自分の想いを語る。
「アッシュを愛しています。ここにいる誰よりも。だから宣言します。私は……」
一呼吸入れて、彼女は告げた。
すでにアッシュ自身にも言った台詞を。
「――私こそが、アッシュの『正妻』であると」
その宣言に、全員が目を剥いた。
全員が、驚きを隠せないようだった。
――『妻』ではなく、『正妻』。
その言い回しの差が意味することとは……。
「それで……いいの?」
そう呟くのは、ユーリィだった。
「サクヤさんは多分、一番アッシュに愛されている。アッシュに望めば……きっと、アッシュは応えると思う」
辛そうに呟く。
口惜しく思うが、自分はまだ『愛娘』から脱却しきれていない。
想いを告げて、ようやくスタートラインに立ったばかりだ。アッシュに『女』として見てもらうには、まだまだ時間がかかるだろう。
けれど、サクヤは――。
ユーリィが、下唇をキュッと噛みしめる。と、サクヤは双眸を細めた。
「トウ……アッシュにとって、あなたたちも大切なのよ。絶対に失いなくないと思えるぐらいに。本人はまだ、曖昧な自覚しかないみたいだけど……」
そこで、小さく息を吐きだした。
「私は、もう彼を苦しめるような真似はしたくない。それに、今の彼を作ってしまったのは私の責任よ。これも運命だわ。けど!」
サクヤは立ち上がって、自分の豊かな胸元に片手を当てた。
そして、もう一度宣言する。
「これだけは譲らないわ! 『正妻』は私! 一番は私なのよ!」
「……言ってくれるわね」
その宣言に青筋を立てたのは、ミランシャだった。
「少しだけ先にアシュ君と出会って、少しだけ先にアシュ君と実戦を経験したからって、ちょっと調子に乗りすぎじゃないかしら?」
立ち上がって、ポキポキと拳を鳴らした。
「あら。その差って結構大きいと思いますけど?」
サクヤはサクヤで、退く様子はない。
再び険悪になる空気。流石にオトハがミランシャを止めようとした時、
「……うんしょ」
不意にそう呟いて、ルカが動いた。
足元から大量の本を取り出して、ズドンと机の上に置いたのだ。
「……ルカ?」
ルカと一番親しいユーリィが、小首を傾げた。
ルカは、ポンと両手を叩いた。
「よかった、です。これで、みんな、仮面さんのお嫁さんに、なれます」
にっこりと笑う。
「え、えっと、ルカ?」「いや、そうなんだけど……」
姉貴分であるサーシャとアリシアは、困惑した顔で妹分を見た。
ルカの笑みは崩れない。
「色々と、調べました。アティスでは一夫多妻は、今でも認められて、います。必要なのは男爵位だけで。それは、賞与で得た人もいるけど、お金でも購入できる、そうです。過去の記録だと、ビラル金貨、百枚から百二十枚で。鎧機兵五、六機分の金額だから、決して安くはないけれど」
ポン、と書物の山に両手を乗せてルカが告げた。
本気で着々と話を進める王女さまに、全員が呆気に取られた。
「……私の、降嫁に、関しても、実例があるから、問題、ないです」
視線を落として少し恥ずかしそうだったが、ルカははっきりとそう告げた。
「お見事です。ルカさま」
と、声を掛けたのは、シャルロットだった。
「すでに準備は万端という訳ですね。では、後は……」
彼女は顔を少し赤くして、周囲に目をやった。
「サクヤさまとオトハさま。このお二人の除いた私たちが、どの順番であるじ――クライン君にしっかりと愛されるかですね」
一拍の間。
――ボンッ、と。
全員の顔が真っ赤になった。サクヤとオトハも含めてだ。
「――わ、私はっ!」
その時、ユーリィが立ち上がった。
「大丈夫っ! だって、アッシュに私を貰ってもらう言質を取っている! な、なんなら今からでも頑張るって伝えてあるからっ!」
完全に、目がグルグルと回った状態で、そんなことを叫んだ。
サクヤだけは「ええッ!?」と、愕然としていた。
彼女だけは、その話を知らなかった。
全員がユーリィに注目する中、次に動いたのはルカだった。
自分の顔をこするように両手を動かしながら、「あ、あう……」と口を開く。
「お、お母さんが、私を身籠ったのは、十代後半でした。だ、だから私も……」
溢れ出しそうな羞恥で目尻に涙を浮かべつつも、彼女ははっきりと意志を示した。
先陣を切る最年少二人に、負けじと思ったのか、
「――ア、アタシだってッ!」
ミランシャが、バンッと机の上を叩いた。
彼女の顔は、髪にも負けないぐらい真っ赤だった。
「アルフがいるから大丈夫よ! 家を出ても家名を捨てても大丈夫っ! 今すぐにだってアシュ君の元に翔んでみせるわ!」
「……私は」言い出した本人であり、比較的冷静なシャルロットが口を開く。
「元より孤児の身。リーゼお嬢さまからも進退の承諾を得ております。すべてにおいて彼に仕える覚悟も準備も出来ています」
自分の胸元に手を当てて、堂々たる声色で宣言した。
彼女たちの視線は、残る二人に向けられた。
アリシアと、サーシャだ。
アリシアは、コホンと喉を鳴らした。
「私も覚悟は出来ているわ」
そう切り出して。
「私はアッシュさんと出会って、初めて恋を知ったわ。だけど、それはとても淡い恋。時間が過ぎれば、ただの思い出になるような恋だった。多分、私はこの中で一番覚悟が出来ていなかったと思う」
だけど、と言葉を続ける。
「今の私は違うわ。もう思い出なんかにするつもりはない。そもそも私って負けず嫌いだったのを思い出したし。何もしないでくよくよするなんて馬鹿みたいだったわ」
アリシアは迷いを払いように長い髪をかき上げた。
「まあ、そうなると、それって今さらの話よね。だって、いつかはする必然的な行為なんだし。むしろ、私にとって最大の問題は、私の父親を納得させることなんだけど、そこは何とかするしかないわね」
そう告げて、最後に苦笑を浮かべた。
全員の視線が最後の一人に移る。
サーシャ=フラムだ。
彼女は微笑んだ。
「私は、アッシュを愛しています」
迷いなくそう告げる。
「私は、アッシュの強さも弱さも、傍で見てきました。その上で、私は彼の傍にいたいと思った。その想いに揺らぎはありません」
彼女は、机の上に置いてある自分のヘルムに、そっと手を置いた。
「彼が望むのなら、私は全力で応えたい。私は消えたりしないと彼に教えてあげたい。私はずっと彼の傍にいたい」
覚悟を込めて、サーシャはもう一度言う。
「私は、アッシュを愛しています。だからアリシアの言う通り、それは今さらです。流石に口にすると恥ずかしいけど」
まあ、お父さまの説得がしんどそうなのは私も同じかな。
そう言って、言葉を締めた。
すると、オトハが笑った。
「順番の話だったのだが、全員の覚悟を問うことになったか。ただ……」
そこで、少し気難しい顔をする。
「フラムとエイシスの話でふと思ったのだが、案外、最終的なハードルが一番高いのは私なのかもしれないな」
「「……え?」」
サーシャとアリシアが、キョトンとした。
オトハは、深い溜息をついてから、ボソリと告げた。
「私の父親の話だ。正直に言って、私の父さま……父は格が違う」
武の化身のような実父の姿を思い出して、オトハは冷や汗を流した。
「クラインのことだ。いつかは私の父に挨拶に行くつもりだろう。生真面目なのは変わらないからな。だが、流石にこの状況を知れば、父は……」
「うわあ……」
ミランシャが、顔を引きつらせた。
「オトハちゃんのお父さんって《黒蛇》の団長よね。《刀天覇王》とか呼ばれてる」
「……ああ。娘の私が言うのも何だが、正真正銘の化け物だ」
そんな人物に、娘さんを嫁の一人にくださいとお願いする訳だ。
いかに、アッシュであっても、こればかりは命がけかもしれない。
「まあ、その時は私も加勢すればいいことか」
オトハは、嘆息した。
そして、サクヤに視線を戻した。
「ともあれ、ここにいる全員は、すでに覚悟済みということだ」
「ええ。そうね……」
サクヤは、脱力するように微笑んだ。
「相変わらず、トウ……アッシュは恐ろしいわ。これだけの綺麗な子たちに、ここまで言わせるなんて。コウちゃんにもその傾向があるし。けど、それも、ここに至ってはどうしようもないことね」
そう呟いて、サクヤは、机の上を指先でなぞった。
それから、視線をオトハたちに向ける。
「ともかく。皆さんの覚悟は分かりました。では、ここでしなければならないことは」
サクヤはポケットの中から、一本のペンを取り出した。
そして、にっこり笑って告げるのだった。
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