クライン工房へようこそ!【第15部まで公開】

雨宮ソウスケ

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第14部

第八章 譲れない願い➄

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「――来なさい。《アトス》」

 最初に愛機を召喚したのは、シャルロットの方だった。
 大腿部の短剣に触れ、囁いた彼女の声に応じて、転移陣が展開される。
 そうして出て来たのは、片膝をつく薄い藍色の機体だった。
 全高は五・三セージルほど。鎧装は速度を重視した軽装型だ。
 背中からはバランサーである竜尾を生やし、右腕には大剣を一振り抱えている。《ホルン》並みに、これといった特徴のないオーソドックスな鎧機兵だ。
 学生時代からのシャルロットの愛機・《アトス》である。

「おお~、改めて見ると、やっぱ懐かしいよな」

 観戦席で、アッシュがあごに手にやった。

「シャルの《アトス》か。あの頃と変わんねえな」

 シャルロットと初めて出会った頃を思い出しつつ呟く。
 記憶の頃とほとんど変わらない藍色の機体。
 開会式を除けば、シャルロットが鎧機兵を召喚するのは、この国では初めてだった。

「……むう」

 改めて《アトス》を見て、ユーリィがつまらなさそうに頬を膨らませた。

「あれから結構経つのに、結局メイドさん型に進化しなかった」

「いやいや。あの真面目なシャルが、そんなイロモノ機体に乗る訳ねえだろ。どっかの筋肉公爵じゃあるまいし」

 アッシュが苦笑を浮かべる。と、

「――来なさい。《白牙》」

 今度は、ミランシャの方が鎧機兵を召喚した。
 ミランシャの前方に転移陣が展開される。
 そうして現れたのは、開会式でも見た白い機体だった。
 全体的に流線的なイメージを持つ軽装型の鎧装。武器は長剣と盾。白狼兵団で支給される騎士タイプの鎧機兵だ。肩当てと盾には何やらペンキを塗りつけたような跡がある。
 ミランシャが、白狼兵団の団員の一人から拝借してきた機体だった。

「あれが白狼兵団の機体か」

 オトハが呟く。
 次いでアッシュの方に視線を向けた。

「確か、ハウル公爵家の白狼兵団の鎧機兵は、皇国騎士団の上級騎士の機体にも劣らないと聞いたことがあるが……」

「ああ、確かにな」

 アッシュは、ポリポリと頬をかいた。

「性能も恒力値もな。あの爺さん、自分の団には金をかけまくってるからな。《アトス》が俺の知っている頃と同じなら、性能差は歴然だな」

「……う~ん、とことんシャルロットさんって不利なのね」

 流石に少し気の毒に思ったか、サクヤが眉をひそめて呟いた。

「まあ、そうなんだが……」

 アッシュは双眸を細めた。

「別に、機体や技量が格上なら常に勝てるって訳じゃねえからな。相性や作戦の妙ってのもある。どうなるかは蓋を開けるまで分かんねえよ」

 言って、対峙する二機を見据える。
 二機にはすでに、シャルロットとミランシャが搭乗していた。
 ビッグモニターにも、彼女たちの姿が映し出される。
 アッシュは面持ちを鋭くした。
 果たして、どちらに勝利の女神が微笑むのか……。
 ――と、

『では、試合開始と参りましょう!』

 司会者が声を張り上げて叫んだ。

『左の青き門より現れるのは、異国の地で咲き誇りし、可憐なる碧き華! 駆る鎧機兵は紺碧の騎士 《アトス》! 恒力値は四千百ジン! すべてを絶つ大剣で勝利を掴め! シャァァァルロット=スコラ―――ッッ!!』

「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお―――ッッ!」」」

 会場が歓声で揺れた。

「おおっ! 最後の姉ちゃんまで無っ茶苦茶レベルが高けえな!」「すげえよ! マジですげえ! 今年の《夜の女神杯》は大当たりばっかじゃねえか!」「つうか司会者! どうせならスリーサイズも紹介しろよ!」

 と、戦闘と関係ない声も多いのはご愛嬌か。

『右の赤き門より現れるのは、その正体は誰も知らず! 白刃振るいし真紅の薔薇! 駆る鎧機兵は白夜の餓狼 《白牙》! 恒力値は大会第二位の六千八百ジン! 無双の牙で戦場を蹂躙せよ! ミズ・プロミネンスゥ―――ッッ!!』

「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお―――ッッ!」」」

 ミランシャに対しても観客は沸いた。
 仮面で顔を隠しているが、彼女が美女であることは疑いようもない。
 そしてボーガン社製の操手衣ハンドラースーツは、シャルロットのような『たゆんたゆん』さんにはもちろんのこと、スレンダーな女性にもよく似合うのだ。観客が沸くもの当然だった。
 まあ、それ以前に、

「「「ミランシャちゃああああああああああああんッッ!」」」

 野太い声援が響く。
 気付けば、三十人近い男性客が立ち上がっていた。
 彼らは一心不乱にミランシャの名を叫んでいる。
 実は、ミランシャには、しばらくの間、この国で働いていた時期があった。
 鳥型鎧機兵である《鳳火》をフル活用して、恐らく世界で初となる空輸業をやっていたのである。要はアティス王国内を飛び回っていた訳だ。
 しかも、その美貌と特殊すぎる職種で、かなり有名にもなっていたりする。
 その頃に出会った者にとっては、彼女の正体は一目瞭然だった。

「おっ帰りいいィ! ミランシャちゃああああん!」「俺らのミランシャちゃんが帰ってきたぞおおおおお!」「待ってたよおオオオ!」「ミランシャちゃああああん!」

 次々と轟く声援。すると、

『――御来客の皆さま!』

 司会者が、一際大きな声で叫ぶ。

『どうか、どうか彼女の正体を暴露するのはお止めください! 本名を連呼するのをお控えください! 彼女はミズ・プロミネンスです! ミランシャちゃんではございません! 空飛ぶ看板娘、ハウル特急便のミランシャちゃんではございませんから!』

 司会者までが彼女の正体を知っていた。

「「「……………」」」

 アッシュたちも、コウタたちも遠い目で白い機体を見つめていた。
 警備中のライザーは「え? え?」と動揺していた。
 目を皿のようにして、立ち上がって叫ぶ男性客たちを凝視する。
 これだけの大人数が、どうして公爵令嬢であるミランシャのことを知っているのか?
 ライザーは、ミランシャの前回の滞在を知らない人間だった。
 ちなみに、ビッグモニターに映ったミランシャは、両手で顔を覆って震えている。
 手からはみ出した耳は、真っ赤に染まっていた。
 その様子は、対戦相手であるシャルロットも確認できる。

『……ミランシャさま』

 シャルロットは嘆息した。

『……だから、もう少しクオリティを上げるべきだと言ったのです』

『う、うっさいわね! 流石にここまでバレバレだとは思わなかったのよ!』

 シャルロットのツッコミに、赤い顔で反論するミランシャ。
 ここに至っては、仮面はもう全く意味がないので投げ捨てていた。
 堂々と素顔を晒したため、会場が割れんばかりに自分の名前を叫ばれることになったが、それはもう無視することにした。
 ともあれ、これで戦闘準備は整った。
 唯一舞台にいる審判が、ゆっくりとした足取りで安全圏まで移動する。
 そして――。
 すっと腕を上げた。
 途端、あれほど騒がしかった会場が静かになる。
 二機は互いに武器を構えた。
《アトス》は大剣を下段の構えに。
《白牙》は長剣をすっと前に突き出した。

『……それでは』

 司会者も神妙な声で告げる。

『第一回戦。最終試合。開始いたします!』

 その声と同時に雷音が轟く。
 二機は共に《雷歩》を使って跳躍していた。
 そして瞬間移動にも近い速度で正面から激突する!
 ――ガァギィンッッ!
 大剣と長剣の刃が交差した。
 強い衝撃に、二機とも機体を大きく震わせる。
 ビッグモニターの二人も、必死に機体を抑え込んでいた。
 二機は、そのまま鍔迫り合いに入る。

『――ふっ!』

 シャルロットが小さく呼気を吐いた。
 ――ギシギシギシ、と。
 膂力では劣る《アトス》だが、武器の重量で押し込んでいく。
 ミランシャは双眸を細めた。このままでは押し込まれる。

『やらせないわよ! シャルロット!』

 ミランシャがそう叫び、《白牙》は盾を振るって大剣を殴打した。《アトス》がバランスを崩して仰け反った。シャルロットは『くッ』と呻き、後方に跳躍した。
 そうして二機は互いに距離を取った。
 が、それも一瞬だけのことだ。

『さあ! かかってきなさい!』

『――望むところです!』

 再び正面からぶつかり合う刃。
 盛大な火花が散った。
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