クライン工房へようこそ!【第15部まで公開】

雨宮ソウスケ

文字の大きさ
21 / 499
第1部

幕間二 雨の日の約束

しおりを挟む
 グレイシア皇国・皇都ディノスの中心に位置するラスティアン宮殿――。
 皇国の権威の象徴であり、天へと掲げた無数の槍を彷彿させる美しき巨城。皇都に訪れたのなら一度は見ないと損をするとまで言われるほど有名な城だ。

 そんな宮殿の七階。将官と上級騎士のみに与えられる個室の前にて。
 白い法衣を着た少女――ユーリィは、躊躇うような表情を浮かべて佇んでいた。
 迷うこと三分。
 彼女は意を決し目の前のドアをノックする。しかし、返事はない。
 ユーリィはしばし考え込んだ後、ドアノブを掴みドアを開いた。
 部屋の中には一人の青年がいた。
 二十歳を迎えたばかりの白髪の青年。その身体には白いサーコートを纏っている。彼はこちらに背を向け、大きな窓の外を眺めていた。
 窓の外では、ぽつぽつと雨が降り始めている。


「……灰色さん……」


 ユーリィの呼びかけに、彼――アッシュは振り向いた。


「……お前な。だから、灰色さんはやめろって。もうじき三年だぞ」


 いつもの軽い口調だ。顔色もいい。
 しかし、それでもユーリィは尋ねた。


「そんなことより……体はもう大丈夫?」

「おい待て。そんなことよりはないだろ。それが転じて、団内で俺のことを『ハイロさん』って呼ぶ奴らがいんだぞ。意味は『ハイエンドロリコン』の略だそうだ。泣くぞオイ」


 肩をすくめてそう抗議するアッシュ。明らかにわざとおどけている。ユーリィは睨むような視線で青年を見据えた。
 すると白い髪の青年は、ポリポリと頭をかいて、


「……まあ、体はもう大丈夫だよ。お前のお陰だ。ありがとな」

「…………そう」

「ああ、そうだよ。……しかし、怪我を治してもらったのは、ガキの頃以来だな」


 ユーリィの眉がピクリと上がる。ガキの頃以来。この台詞が出てくるということはどうやら自分の推測は当たっているようだ。
 少しだけ逡巡してから、ユーリィは最も知りたいことを尋ねた。


「……ねえ、灰色さん。一つだけ教えて欲しい。三日前のあの日、あなたが戦ったあの人は――あの《黄金の聖骸主》は……」


 あなたの知り合いなの……と言う前に、青年が口を開いた。


「《黄金死姫》」

「―――え」

の通り名。皇国はそう名付けたそうだ。物騒な名前だろ? には全然似合わねえよ」

「…………灰色さん」

「……大体、お前の想像通りだよ。は俺の知り合いの成れの果て……いや」


 アッシュはわずかに視線を落とし、


「俺の幼馴染で――恋人だった」

「――――――」


 それは、ある程度予想していた返答だった。三日前、ボロボロになるまで《彼女》に挑み、そして敗れ、慟哭する彼の姿を鑑みれば当然の帰結だった。
 しかし、予想していてもなお、少女の小さな胸はちくりと痛んだ。


「……もう五年近くも前のことだ。を拉致しようと目論んだ《黒陽社》の連中に、俺の村――クライン村は襲撃された」


 白い髪の青年は語る。


「俺はその時一度――死んだんだ」

「――――――え?」


 アッシュは、自分の前髪を一房触り、


「俺の髪の色って変だろ? これは一度死んで生き返ったら変わってたんだ」

「……生き、返るって……それって……」


 死者の蘇生。そんな事が出来るとしたらただ一つ――《最後の祈り》しかない。
 そして、その場には《星神》が一人いたはず。
 だとしたら――。


「あなたの家族が、その、《彼女》に、あなたの蘇生を願ったの?」


 アッシュは首を横に振る。


「……違う。その時にはもうみんな死んでいる。俺の蘇生を願ったのは俺自身だ」

「…………?」


 意味が分からずユーリィが眉を寄せると、アッシュは肩をすくめて告げた。


「奴らに殺されそうになった時、俺は心底ブルっちまってな。思わず口走ったんだよ」


 すうっと目を細め、


「『イヤだ。死にたくない』ってな」

「……………」

「それをが聞き届けちまって、今に至るってことだ」


 ……ユーリィは、何も言えなかった。


「馬鹿だよな。俺なんかのためにあんな姿になって今も人を殺して……」

「……だから、《彼女》を止めるの? たとえ殺してでも……」


 ユーリィの問いに、アッシュは皮肉気に笑った。


「せめてそれぐらいはな。もう、してやれることなんて何もないから……」


 再び、窓の外を見つめるアッシュ。雨は大分きつくなっていた。
 そんな景色を、青年は無表情に眺めながら、


「……なあ、ユーリィ」

「……なに?」

「……お前は大丈夫だよな? お前まで《最後の祈り》を使ったりしねえよな?」


 それは、出会ってから初めて聞く、あまりにも弱々しい声だった。
 その声を聞いた時、ユーリィは悟った。
 何故彼が自分を引き取ったのか。その理由を。
 正直ショックだった。要するに、自分が《彼女》と同じだったから――。
 しかし、ユーリィはかぶりを振った。
 そんなショックも些細なことだ。些細なことにしか思えなかった。
 同時に生まれたこの想いに比べれば。


「―――……」


 ユーリィは無言のまま歩を進め、アッシュの右隣に立つ。
 そして青年のコートの裾を、キュッと握りしめて、


「大丈夫。私は《最後の祈り》なんて使わない。約束する。だから安心して、アッシュ」


 と、初めて彼の名を呼ぶのだった。

 以降、彼女はアッシュを名で呼ぶようになる。
 ずっと傍にいることを心に誓って。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞 ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。 そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

異世界転移から始まるハーレム生活〜チートスキルを貰った俺は、妹と共に無双する〜

昼寝部
ファンタジー
 2XXX年、X月。  俺、水瀬アキトは戦争の絶えない地球で『戦場の悪魔』と呼ばれ、数多の戦で活躍していた。  そんな日々を過ごしていた俺は、ひょんなことから妹と一緒に異世界へ転移することになった。  その世界にはダンジョンが存在しており、ライトノベルなどで登場する世界観と類似していた。  俺たちはその世界で過ごすため女神様からチートスキルを貰い、冒険者となって異世界での生活を満喫することにした。  これは主人公の水瀬アキトと妹のカナデが異世界へ転移し、美少女たちに囲まれながら異世界で無双するお話し。

処理中です...