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第4部
第二章 《星》が集いて卓袱台囲む①
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「へえ~。ミランシャさんは皇国騎士なんですか」
サーシャがポンと柏手を打ち、そう呟いた。
そこは乗合馬車の中。街外れにある停留所――要するにクライン工房の最寄りの停留所に向かう馬車の中である。
十人以上が座れる箱型の荷台の席には、現在六人の人間が座っていた。
荷台の両脇。右側にサーシャ、アリシア、ロック、そして右頬が大きく腫れ上がったエドワードの四人。対し、左側に座るのは綺麗にラッピングされた菓子折りを隣の席に置いたミランシャと、バラの花束を手に持つアルフレッドだ。
結局、あの後、ミランシャ自らが拳を一閃。エドワードにきついお仕置きをすることで騒動は収まった。野次馬達は少しばかり不満そうであったが、エドワードの見事な吹っ飛び具合に、拍手を持って解散となったのである。
そうして和解(?)した六人は、全員揃ってクライン工房に向かうことになったのだ。
ミランシャは、ふふっと温和な笑みを浮かべて。
「そう言えば、サーシャちゃん達って騎士候補生なのよね」
「はい。アティス王国騎士学校の一回生です。けど……」
サーシャは、ちらりとミランシャの隣に座る少年の方へと目をやり、
「あの、じゃあ、アルフレッドさんは皇国の騎士候補生なんですか?」
と尋ねる。一応互いに自己紹介程度は済ませているが詳細までは聞いていない。
二十代のミランシャはともかく、アルフレッドはどう見ても自分達と同じ世代だ。姉と同じ服装ではあるが、流石に騎士であるとは考えにくかった。
「グレイシア皇国の騎士学校の制服って、皇国騎士団と同じなんですか?」
アリシアも同じく疑問に思っていたのだろう。サーシャに続いて尋ねた。
すると、アルフレッドは苦笑を浮かべて、
「僕は騎士候補生じゃないよ。一応騎士さ。学校は飛び級で卒業したんだ」
「へえ~」
と、再び感嘆の声を上げるサーシャ。アリシアも少し驚いていた。
「それは凄いな。君はまだ十五、六ぐらいだろう。そんな歳でセラ大陸でも勇猛で知られるグレイシア皇国騎士団の一員とは……」
ロックも感心したように唸る。
しかし、エドワードは面白くないようで。
「けっ、あんな機体を持ってりゃあ、誰だって騎士団入り出来るぜ」
と、腫れ上がった頬を押さえながら悪態をつく。
級友の無礼な振る舞いに、アリシアは眉をしかめた。
「ちょっと。失礼よオニキス。けどまあ……確かに凄い鎧機兵だったわね」
「うん。まるで王様みたいに荘厳な機体だった」
サーシャも同意する。じっくりと見物した訳ではないがあの威圧感は凄かった。
対峙していた《アルゴス》が、まるで雑兵に見えたぐらいだ。
愛機を誉められ流石に嬉しくなったのだろう。アルフレッドが笑みをこぼす。
「ははっ、あの機体はハウル家に代々伝わるものなんだ」
と、どこか誇らしげに語るアルフレッドに、姉であるミランシャはいたずらっぽい笑みを浮かべて告げる。
「そうそう。我が家ご自慢の機体なのよ。けど、この子ったら、まだ全然使いこなせてなくてね。昔はよく、アシュ君に何度も挑んでは叩きのめされていたわ」
「ね、姉さん!? そんなの別に言わなくてもいいじゃないか!?」
クスクスと笑う姉に、詰め寄る弟。
それを横目にアリシアはサーシャの耳に囁く。
「(ねえ、サーシャ)」
「(ん? どうかしたの、アリシア?)」
サーシャは振り向き、小声で返す。
「(あのね、ミランシャさんのことなんだけどね……)」
「(ミランシャさん? うん。とっても気さくで良い人だよね!)」
と、呑気に宣う親友に、アリシアは渋面を浮かべた。
そして、はあっと小さく嘆息してから、
「(……サーシャ。彼女の髪の色を見て気付かないの?)」
「(……髪の色?)」
サーシャはキョトンとした顔を浮かべて、今も姉弟仲良くじゃれあっている二人に視線を向けた。二人とも目に映える見事なまでの赤い髪だ。
「(うん。綺麗な髪だね)」
「(いや、そうじゃないでしょう。忘れたのサーシャ。ユーリィちゃんの話を)」
「(ユーリィちゃんの話?)」
「(そう。以前言ってたでしょう? アッシュさんには凄く親しい女の人が二人いるって。一人はオトハさんだけど、もう一人の特徴は確か……)」
「(……え? あッ!?)」
そこまで説明され、ようやくサーシャは親友の言わんとしている事に気付いた。
慌てて、青ざめた顔でミランシャを見つめる。
そうか、この人は――。
と、蒼白となった少女達をよそに、馬車は粛々と進み、遂に停留所に到着する。
全員が銅貨一枚を払って停留所へと降り、馬車は来た道を戻っていった。
「なんかのどかな場所ね」
菓子折りを片手に、ミランシャは背筋を伸ばして辺りを見渡した。
ここら辺一帯は基本的に農耕地だ。道筋には街路樹が並び、農家が点在するような田舎の風景。賑やかな市街区から一変した閑静な場所である。
「けど、嫌いな雰囲気じゃないわ。ま、それはさておき。ねえ、サーシャちゃん。それでアシュ君とユーリィちゃんのお家はどこなのかな?」
「ふえっ!? は、はい。じゃ、じゃあ付いてきて下さい!」
いきなり声をかけられ、つい動揺してしまったサーシャだったが、ギクシャクとした動きで先頭を切って歩き出した。
そうして歩くこと三分。
ようやくクライン工房の前へと六人は辿り着いた。
ミランシャとアルフレッドは、まじまじとクライン工房を凝視する。
開けた場所に一軒だけぽつんと存在する二階建ての工房。一階部分は大きなガレージになっている。恐らく作業場兼、鎧機兵の搬入口なのだろう。
「へえ~、これがアシュ君の今のお家かぁ。中々綺麗じゃない」
「うん。けど、結構こじんまりしてるね」
と、感想を述べるハウル姉弟。
そしてミランシャは片手を胸元に当て、緊張をほぐすように小さく息を吐く。
アルフレッドもまた、かなり緊張した面持ちで息を吐いた。
「そ、それじゃあ、行きましょうかアルフ」
「う、うん。そうだね。姉さん」
と、姉弟揃って前に進もうとするが、ガチガチに硬直して上手く歩けていない。
見かねたサーシャが声をかける。
「あの、私が先生達を呼んできましょうか?」
「え? あ、お願いできるかしら」
ミランシャは反射的にそう返した。
サーシャはこくんと頷くと、工房のガレージへと向かい、
「先生~! こんにちは~!」
と、元気よく叫んだ。
すると、ガレージの奥から人影が現れた。
「おっ、メットさんか。遊びに来たのか?」
出て来たのは、白いつなぎを着た白髪の青年。
アッシュ=クライン。サーシャに鎧機兵の使い方を教えてくれる師であり、このクライン工房の主人でもある青年だ。
アッシュは出会うなり、サーシャの頭をくしゃくしゃと撫でた。もはや挨拶のようになっているアッシュの癖だ。
「今日は講習の日じゃねえだろ? ユーリィに会いに来たのか?」
「い、いえ、実は今日はお客さんの案内をして……」
「ん? 客って?」
と、アッシュが首を傾げたその時だった。
「ア、アシュ君ッ!」
突如響いた、どこか聞き慣れた声にアッシュは目を丸くした。
その直後、誰かが首に抱きついてくる。
鼻孔をくすぐる甘い香りに、押し当てられた控えめだが、柔らかい双丘の感触。
そして視界に映るのは、見覚えのある真紅の髪。
アッシュは唖然とした。
「え? お前、ミランシャか?」
「うええっ……アシュ君だぁ。会いたかったよぉ」
ミランシャは目尻に涙を溜めて、アッシュにしがみついてくる。
一方、アッシュはただただ困惑していた。
どうして遥か遠くにいるはずの友人がいきなりここにいるのだろうか。
すると、再び聞き慣れた別の声がする。
「……久しぶり。アシュ兄」
「へ? アルフ? なんでお前まで……」
また知り合いが出て来た。
アルフレッド=ハウル。アッシュにとって弟分のような少年だ。
彼もまた本来ならグレイシア皇国にいるはずなのだが……。
アッシュはサーシャ、そして少し離れた場所に立つアリシア達に目をやった。
しかし、彼女達も状況が掴めず困惑しているようだった。
アルフレッドは苦笑し、ミランシャはしがみついたまま、わんわん泣いている。
全くもって状況が分からない。アッシュは思わず呟いた。
「何なんだよ、これは……?」
サーシャがポンと柏手を打ち、そう呟いた。
そこは乗合馬車の中。街外れにある停留所――要するにクライン工房の最寄りの停留所に向かう馬車の中である。
十人以上が座れる箱型の荷台の席には、現在六人の人間が座っていた。
荷台の両脇。右側にサーシャ、アリシア、ロック、そして右頬が大きく腫れ上がったエドワードの四人。対し、左側に座るのは綺麗にラッピングされた菓子折りを隣の席に置いたミランシャと、バラの花束を手に持つアルフレッドだ。
結局、あの後、ミランシャ自らが拳を一閃。エドワードにきついお仕置きをすることで騒動は収まった。野次馬達は少しばかり不満そうであったが、エドワードの見事な吹っ飛び具合に、拍手を持って解散となったのである。
そうして和解(?)した六人は、全員揃ってクライン工房に向かうことになったのだ。
ミランシャは、ふふっと温和な笑みを浮かべて。
「そう言えば、サーシャちゃん達って騎士候補生なのよね」
「はい。アティス王国騎士学校の一回生です。けど……」
サーシャは、ちらりとミランシャの隣に座る少年の方へと目をやり、
「あの、じゃあ、アルフレッドさんは皇国の騎士候補生なんですか?」
と尋ねる。一応互いに自己紹介程度は済ませているが詳細までは聞いていない。
二十代のミランシャはともかく、アルフレッドはどう見ても自分達と同じ世代だ。姉と同じ服装ではあるが、流石に騎士であるとは考えにくかった。
「グレイシア皇国の騎士学校の制服って、皇国騎士団と同じなんですか?」
アリシアも同じく疑問に思っていたのだろう。サーシャに続いて尋ねた。
すると、アルフレッドは苦笑を浮かべて、
「僕は騎士候補生じゃないよ。一応騎士さ。学校は飛び級で卒業したんだ」
「へえ~」
と、再び感嘆の声を上げるサーシャ。アリシアも少し驚いていた。
「それは凄いな。君はまだ十五、六ぐらいだろう。そんな歳でセラ大陸でも勇猛で知られるグレイシア皇国騎士団の一員とは……」
ロックも感心したように唸る。
しかし、エドワードは面白くないようで。
「けっ、あんな機体を持ってりゃあ、誰だって騎士団入り出来るぜ」
と、腫れ上がった頬を押さえながら悪態をつく。
級友の無礼な振る舞いに、アリシアは眉をしかめた。
「ちょっと。失礼よオニキス。けどまあ……確かに凄い鎧機兵だったわね」
「うん。まるで王様みたいに荘厳な機体だった」
サーシャも同意する。じっくりと見物した訳ではないがあの威圧感は凄かった。
対峙していた《アルゴス》が、まるで雑兵に見えたぐらいだ。
愛機を誉められ流石に嬉しくなったのだろう。アルフレッドが笑みをこぼす。
「ははっ、あの機体はハウル家に代々伝わるものなんだ」
と、どこか誇らしげに語るアルフレッドに、姉であるミランシャはいたずらっぽい笑みを浮かべて告げる。
「そうそう。我が家ご自慢の機体なのよ。けど、この子ったら、まだ全然使いこなせてなくてね。昔はよく、アシュ君に何度も挑んでは叩きのめされていたわ」
「ね、姉さん!? そんなの別に言わなくてもいいじゃないか!?」
クスクスと笑う姉に、詰め寄る弟。
それを横目にアリシアはサーシャの耳に囁く。
「(ねえ、サーシャ)」
「(ん? どうかしたの、アリシア?)」
サーシャは振り向き、小声で返す。
「(あのね、ミランシャさんのことなんだけどね……)」
「(ミランシャさん? うん。とっても気さくで良い人だよね!)」
と、呑気に宣う親友に、アリシアは渋面を浮かべた。
そして、はあっと小さく嘆息してから、
「(……サーシャ。彼女の髪の色を見て気付かないの?)」
「(……髪の色?)」
サーシャはキョトンとした顔を浮かべて、今も姉弟仲良くじゃれあっている二人に視線を向けた。二人とも目に映える見事なまでの赤い髪だ。
「(うん。綺麗な髪だね)」
「(いや、そうじゃないでしょう。忘れたのサーシャ。ユーリィちゃんの話を)」
「(ユーリィちゃんの話?)」
「(そう。以前言ってたでしょう? アッシュさんには凄く親しい女の人が二人いるって。一人はオトハさんだけど、もう一人の特徴は確か……)」
「(……え? あッ!?)」
そこまで説明され、ようやくサーシャは親友の言わんとしている事に気付いた。
慌てて、青ざめた顔でミランシャを見つめる。
そうか、この人は――。
と、蒼白となった少女達をよそに、馬車は粛々と進み、遂に停留所に到着する。
全員が銅貨一枚を払って停留所へと降り、馬車は来た道を戻っていった。
「なんかのどかな場所ね」
菓子折りを片手に、ミランシャは背筋を伸ばして辺りを見渡した。
ここら辺一帯は基本的に農耕地だ。道筋には街路樹が並び、農家が点在するような田舎の風景。賑やかな市街区から一変した閑静な場所である。
「けど、嫌いな雰囲気じゃないわ。ま、それはさておき。ねえ、サーシャちゃん。それでアシュ君とユーリィちゃんのお家はどこなのかな?」
「ふえっ!? は、はい。じゃ、じゃあ付いてきて下さい!」
いきなり声をかけられ、つい動揺してしまったサーシャだったが、ギクシャクとした動きで先頭を切って歩き出した。
そうして歩くこと三分。
ようやくクライン工房の前へと六人は辿り着いた。
ミランシャとアルフレッドは、まじまじとクライン工房を凝視する。
開けた場所に一軒だけぽつんと存在する二階建ての工房。一階部分は大きなガレージになっている。恐らく作業場兼、鎧機兵の搬入口なのだろう。
「へえ~、これがアシュ君の今のお家かぁ。中々綺麗じゃない」
「うん。けど、結構こじんまりしてるね」
と、感想を述べるハウル姉弟。
そしてミランシャは片手を胸元に当て、緊張をほぐすように小さく息を吐く。
アルフレッドもまた、かなり緊張した面持ちで息を吐いた。
「そ、それじゃあ、行きましょうかアルフ」
「う、うん。そうだね。姉さん」
と、姉弟揃って前に進もうとするが、ガチガチに硬直して上手く歩けていない。
見かねたサーシャが声をかける。
「あの、私が先生達を呼んできましょうか?」
「え? あ、お願いできるかしら」
ミランシャは反射的にそう返した。
サーシャはこくんと頷くと、工房のガレージへと向かい、
「先生~! こんにちは~!」
と、元気よく叫んだ。
すると、ガレージの奥から人影が現れた。
「おっ、メットさんか。遊びに来たのか?」
出て来たのは、白いつなぎを着た白髪の青年。
アッシュ=クライン。サーシャに鎧機兵の使い方を教えてくれる師であり、このクライン工房の主人でもある青年だ。
アッシュは出会うなり、サーシャの頭をくしゃくしゃと撫でた。もはや挨拶のようになっているアッシュの癖だ。
「今日は講習の日じゃねえだろ? ユーリィに会いに来たのか?」
「い、いえ、実は今日はお客さんの案内をして……」
「ん? 客って?」
と、アッシュが首を傾げたその時だった。
「ア、アシュ君ッ!」
突如響いた、どこか聞き慣れた声にアッシュは目を丸くした。
その直後、誰かが首に抱きついてくる。
鼻孔をくすぐる甘い香りに、押し当てられた控えめだが、柔らかい双丘の感触。
そして視界に映るのは、見覚えのある真紅の髪。
アッシュは唖然とした。
「え? お前、ミランシャか?」
「うええっ……アシュ君だぁ。会いたかったよぉ」
ミランシャは目尻に涙を溜めて、アッシュにしがみついてくる。
一方、アッシュはただただ困惑していた。
どうして遥か遠くにいるはずの友人がいきなりここにいるのだろうか。
すると、再び聞き慣れた別の声がする。
「……久しぶり。アシュ兄」
「へ? アルフ? なんでお前まで……」
また知り合いが出て来た。
アルフレッド=ハウル。アッシュにとって弟分のような少年だ。
彼もまた本来ならグレイシア皇国にいるはずなのだが……。
アッシュはサーシャ、そして少し離れた場所に立つアリシア達に目をやった。
しかし、彼女達も状況が掴めず困惑しているようだった。
アルフレッドは苦笑し、ミランシャはしがみついたまま、わんわん泣いている。
全くもって状況が分からない。アッシュは思わず呟いた。
「何なんだよ、これは……?」
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