クライン工房へようこそ!【第15部まで公開】

雨宮ソウスケ

文字の大きさ
128 / 499
第4部

第七章 怨讐の魔神②

しおりを挟む
「……おっ、あれが大型鎧機兵って奴か」

 飛翔する鎧機兵――《鳳火》の足に掴まった《金剛》。
 その操縦席の中にてブライが、眼下の光景を見て呟く。
 そこは、皇都ディノス四番地。
 円形状に店舗や家屋が軒を連ね、中央部は大きな噴水がある憩いの広場だ。
 ただし、今は無残に崩れてだいぶ景観が変わってしまっているが。

「……デカブツ以外は大体片付いてるみてえだな」

 上空から確認する限り、二十機ほどの黒い鎧機兵が大破して白煙を上げている。ただ、所々には数機の白い鎧機兵――皇国騎士の機体も横たわっていた。
 流石に損害なしで敵勢力を無力化することは出来なかったようだ。

「けど、民衆の避難はやり遂げたか」

 ブライは目を細めて呟く。
 パッと見たところ、逃げ遅れた人間や死者の姿は見えない。
 さらに目を凝らしても血痕と思しきものもない。
 これだけの乱戦の中で民衆に死者を出さないのは誇るべきことだろう。
 願わくは、仲間にも戦死者がいないといいのだが……。

「……誰も死んでねえよな、お前ら」

 と、ブライが呟いた時、一機の騎士の鎧機兵がドンッと吹き飛んだ。
 白い鎧機兵は噴水にぶつかり、そのまま倒れて立ち上がる様子はない。

「……くそッ、あのデカブツが。好き勝手にやりやがって!」

 目の前で仲間を戦闘不能にされ、ブライは苛立ちを見せた。
 現在動ける鎧機兵は残りの敵機――黒い鎧装を纏い、頭部から大刀を生やした四足獣型の鎧機兵を取り囲んでいた。動きこそ鈍重だが、圧倒的な力で大刀を振り回す巨大な敵相手に騎士達も攻めあぐねているようだ。
 このままではまた仲間に被害者が出るかもしれない。

「こいつはオレもあんまのんびりしてられねえよな」

 戦況を見据えて、苦々しく呟くブライ。
 ここまで来ればもう充分な距離だ。いっそ飛び降りてしまおうか。
 と、考えていた時、上から声がかかってきた。

『ブライ! そろそろ落とすわよ! いいわよね!』

 《鳳火》に乗るミランシャの声だ。
 実にナイスなタイミングだ。ブライはニヤリと笑う。

『ああ、構わねえ! あのデカブツの前に近付けてくれや!』

『分かったわ! じゃあ行くわよ!』

 ミランシャがそう叫んだ直後、《鳳火》が滑空する。
 そして家屋の屋根と並ぶ高度まで下降した時、《金剛》は手を離した。
 ――ズウウゥン……。
 石畳を砕き、地響きを立てて着地する《金剛》。
 ガラガラと跳び散る石畳の欠片。濛々と浮き上がる砂埃。
 最硬を誇る城砦のごとき鎧機兵は、衝撃に揺らぐこともなく立ち上がった。
 そして《金剛》は敵機に向かってゆっくりと歩み出した。
 ズシン……と、一際大きい足音が広場に響く。
 その姿に、周囲の騎士達は歓声を上げた。

『おおッ! サントス様!』

『サントス隊長! 遅いっすよ!』

『やれやれ。どうせまたナンパでもしてたんでしょう』

 と、思わず呆れてしまいそうな声をかけてくる鎧機兵達。
 どうやらこの場にはブライの直属の部下もいるようだ。
 とりあえず部下の無事な姿を確認して、ブライは苦笑をこぼした。
 まったくもって、しぶとい連中だ。
 ブライはボリボリと頭をかき、

『ったく! はしゃぐんじゃねえよ、てめえら!』

 口角をわずかに緩ませつつ一喝した。
 それから敵機を見据える。超重量級の《金剛》でさえ見上げるほどの巨体だ。
 まるで魔獣を思わせる巨躯。流石に凄まじい威容だ。
 しかし、ブライは不敵に笑うだけだ。
 その程度で尻込む人間など《七星》にはいない。

『――はン。デカブツが』

 そう吐き捨て、ブライは猛々しく吠える!

『《七星》が第四座、《金剛》――《不落王城》ブライ=サントス! てめえをぼこらせてもらうぜ! 覚悟しな!』


       ◆


『さて。今度は僕の番だね』

 雄々しく吠える《金剛》を背に、アルフレッドは呟く。

『そうね! 急ぐわよ! しっかり掴まってなさい!』

 ミランシャの指示と同時に《鳳火》はさらに加速した。
 この移動速度は《七星》最速の《鬼刃》でさえ出せないだろう。
 そうしてハウル姉弟の乗る二機は、瞬く間に六番地に辿り着いた。
 ここは一般的な大通りであり、両脇には店舗や家屋、中央部は大きな水路で分断されている場所だ。
 眼下の戦況は四番地と大差はない。黒い鎧機兵の残骸と一機だけ残った巨大な機体。とんでもない大きさの鎚を持つ黒い鎧機兵だ。
 見たところ一瞬だけ二足歩行になって振り回しているらしい。
 桁違いの威力に、騎士達も迂闊に近付けない状況だ。

『だいぶ苦戦してるみたいだね。だけど……』

 アルフレッドは大通りのいくつかの家屋に目をやる。
 どうもこの地区には火を扱う店舗が多かったようだ。
 一部が燃え移り火事になりかけている。

『これは……あまり時間をかけられないね。早くあいつを片付けて鎮火しないと』

『ええ、そうね。アタシも手伝おうか?』

 なんだかんだ言っても弟には甘いミランシャがそう提案する。
 が、アルフレッドの乗る《雷公》はかぶりを振った。

『姉さんは一番地に戻って欲しい。まだ奴らには隠し玉があるかもしれない。団長達と一緒に皇女殿下を守って欲しいんだ』

 そんな弟の意見に、ミランシャはクスリと笑った。

『あらあら、正確には皇女殿下とユーリィちゃんでしょう。残念ねアルフ。折角ユーリィちゃんがいるのに、いいところを見せられなくて』

『……姉さん。戦場で不謹慎だよ』

 と、アルフレッドは一応姉を窘めるが、

『けど、まあ、確かにそうかもね』 

 事実でもあるので、結局苦笑を浮かべる。
 彼が想いを寄せる少女は、現在遠い異国の地で暮らしている。そのため、アピールする機会などそうそうないのだから、ここらでアピールしたかったのは本音だ。
 アルフレッドは《雷公》の中で、深々と溜息をついた。

『あなたも大変ね。ユーリィちゃんと付き合うにはアシュ君より強くならなきゃいけないのよ。それがどれだけ困難なのか、誰よりもあなたが知ってるでしょうに』

 するとそんな弟の心情を察したのか、ミランシャが同情じみた声をかけてくる。
 これにもアルフレッドは溜息をついた。

『……まあ、アシュ兄、ユーリィ様のことになると大人げないし……』

 これまで何度アッシュに挑み、返り討ちにあったことか。
 普段は気さくなあの良き兄貴分も、愛娘のことになると鬼と化す。
 アルフレッドは、それを嫌になるぐらいよく知っていた。

『けどさ、姉さんがアシュ兄と恋人にでもなってくれたら、僕の方のハードルも少しは下がると思うんだけど?』

『……うッ』

 アルフレッドの指摘に、ミランシャは言葉を詰まらす。
 そんな姉に対し、赤髪の少年はさらに言葉をたたみかける。

『大体姉さんもアシュ兄が折角帰ってきてるのに全然アピールしてないじゃないか。オトハさんに差をつけられて焦ってるんじゃなかったの?』

『そ、それはそうだけど……アシュ君の周りっていつも誰かいるじゃない? 中々二人っきりになれないのよ……』

 ミランシャの声にはまるで覇気がない。
 アルフレッドは普段は活発なくせに、奥手すぎる姉に対して嘆息する。

『はあ、僕も姉さんも前途多難ってことだね……』

『そうよねえ……ま、そろそろ雑談は終わりにしましょう。アルフ、落とすわよ!』

 そう告げられ、アルフレッドは頷いた。
 すでにその顔つきは騎士のものに変わっている。

『うん。頼むよ姉さん』 

 蒼い空を舞う《鳳火》は《雷公》をぶら下げたまま滑空する。
 そして、巨大すぎる鎚を持つ敵機の前で《雷公》は離脱した。
 落下の衝撃で石畳をはぎ取りつつ、《雷公》は着地する。

『――アルフレッド様! 来て下さったのですか!』

『きゃあああ! アルフ君だ!』

『やだッ! アルフ君が助けに来てくれたの!』

 どうやらこの地区の警護者には女性騎士が多かったらしい。
 ブライが聞いたら悔しがりそうな黄色い声援が飛び交う。
 アルフレッドは苦笑を浮かべつつ。

『……随分と好き勝手にやってくれたね。亡霊』

 そして《雷公》が突撃槍を突き出す!

『《七星》が第七座、《雷公》――《穿輝神槍》アルフレッド=ハウル! 我が槍にて皇国の敵を討つ!』
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞 ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。 そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

異世界から元の世界に派遣された僕は他の勇者たちとは別にのんびり暮らします【DNAの改修者ー外伝】

kujibiki
ファンタジー
異世界で第二の人生の大往生を迎えた僕は再びあの場所へ飛ばされていた。 ※これは『DNAの改修者』のアフターストーリーとなります。 『DNAの改修者』を読まなくても大丈夫だとは思いますが、気になる方はご覧ください。 ※表紙は生成AIで作ってみたイメージです。(シャルルが難しい…)

処理中です...