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第5部
第五章 それぞれのお仕事①
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チュンチュン、と雀の声を聞き、アッシュはむくりと起き上がった。
それから、ボリボリと頭をかきながら辺りを見渡して――。
「……ん?」
寝ぼけた顔で眉をしかめる。
そこは見知らぬ部屋だった。自分が今乗っているベッドや、机などの最低限の家具しかないような簡素な部屋である。はて、ここは……。
「……ああ、そっか」
ここは鉱山街グランゾ。
そして自分がいる部屋は、その街の宿の一室だ。
アッシュはおもむろに立ち上がると、窓辺に寄って窓を開ける。
「……うぅ、さむ」
少し肌寒い冷気が部屋に入り込むが、おかげで完全に目が覚めた。
澄み渡る青空には鳥達が羽ばたき、眼下にはまばらだが通行人の姿がある。すでに働き始めようとしているのか、業務用の鎧機兵を整備している者もいた。
「……頑張ってんな。俺も負けてらんねえか」
言って、アッシュは大きく背伸びした。
と、その時、コンコンとドアがノックされる。
アッシュが振り向くと同時に、ドアの向こうから声が掛けられた。
「……アッシュ。起きてる?」
ユーリィの声だ。
アッシュはドアに向かうと、カチャリと開けた。
「おはようユーリィ」
「うん。おはようアッシュ」
廊下に立っていたのは、やはりユーリィだった。
今起きたばかりのアッシュと違い、彼女はすでに身支度している。この街に向かう時に着ていた私服ではなく、クライン工房の白いつなぎを着ていた。
すぐにでも坑道に向かえる気構えだ。
「……悪りいな、ユーリィ。いま起きたところなんだ。すぐに準備するから、一階の食堂で少し待っていてくれ」
言って、アッシュはユーリィの頭を撫でた。
ユーリィはこくんと頷くと、「先に行く」と告げて一階に降りていった。
それを見送ってから、アッシュはドアを閉じる。
そして部屋の中央辺りまで移動すると、再び大きな伸びをして、
「さあ、いよいよ探索といくか!」
と、自分自身を激励するのだった。
鉱山街グランゾに到着して二日目。
こうして、アッシュの本格的な坑道探索が幕を開けたのである。
――そして、およそ一時間後。
食堂で朝食を済ませたアッシュとユーリィは、召喚器で喚び出した非武装状態の《朱天》に乗り、第一坑道内を進んでいた。
ズシンズシン、と鎧機兵の足音が響く。
《朱天》は今、この街の工房から借りた巨大な鉄製の箱を背負っていた。
この中に発掘した《星導石》を乗せて運ぶための装備である。
余談だが、この鉱山においては乱獲によるトラブルを避けるため、一人が一日に発掘する《星導石》は鉄箱一つ分までと定められていた。
「流石にしっかりとした造りの坑道だな」
ふと、アッシュは周囲の岩壁に目をやった。
一定間隔でランプが吊るされた坑道は鉄骨で補強されており、鎧機兵二機程度なら通れるほど広い。すでに鉄箱一杯まで発掘し終えた鉱員もいて時々すれ違った。
そんな坑道をアッシュとユーリィを乗せた《朱天》は黙々と進み……。
「……凄い。これが《星導石》の鉱山……」
と、ユーリィが感嘆の声をもらす。
一本道だった坑道を抜け、大きな空洞に出たのだ。
そこは筒状の大空洞であり、壁には螺旋状に道がある。現在アッシュ達は空洞の高さで言うと、およそ中間辺りにいた。
「凄くキラキラしている」
操縦シートの後方に座っていたユーリィが、アッシュの肩を掴んで立ち上がる。
眼下の大広場には、赤い水晶のような《星導石》が乱立しており、それらを多くの鎧機兵達が回収している。ユーリィは珍しい物を見たように目を丸くした。
「《星導石》って地面に埋まってるものじゃなかったの?」
「ん? ああ、ユーリィは原石の発掘現場を見んのは初めてか」
と、ユーリィの質問に対し、アッシュが答える。
「《星導石》はこういう洞窟みたいな場所によく生えるんだよ。その根元に楔を打ち込んで折って回収するんだ。だから厳密に言うと発掘とは違うかもな」
そう告げると同時に、アッシュは周囲を見渡した。
この広場は第一坑道の一角だ。壁沿いの道にはまだ幾つかの坑道があり、他にも似たような広場へと続いているのだろう。
「さて、そんじゃあ俺達も作業にかかるか」
「うん。けど奥には行かないの? 奥の方が良質の《星導石》がありそうだけど」
「まあ、とりあえずここを見て回ってからだな。それに……」
と、そこでアッシュはふっと笑う。
「あんまり奥に行くと『暗人』が出てくるかも知んねえしな」
《朱天》を歩かせながら、アッシュがそんなことを嘯いた。
ユーリィは訝しげな表情で眉根を寄せる。
「……『暗人』? なにそれ?」
対し、アッシュは少し意地悪そうに笑った。
「ああ、昨日出会った奴に聞いたんだが、なんでも『お化け』らしいぞ」
「……え?」
アッシュの台詞に、小さく肩を震わせ硬直するユーリィ。
アッシュはさらに続ける。
「全身が真っ黒な奴ららしくてな。夜間の坑道内で何度も確認され、噂によると偶然遭遇して威嚇された人間もいるそうだ」
「こ、この坑道ってお化けが出るの……?」
ユーリィが愕然とした表情で呟く。
アッシュの肩を掴む手も心なしか震えていた。
それに対し、アッシュが陽気な声で尋ねる。
「ははっ、何だ、怖いのか? ユーリィ」
すると、ユーリィは少しムッとした表情を見せて、
「……別に怖くなんて……」
と、言いかけたところでやめた。
そして一瞬だけ考えてから、か細い声で呟く。
「やっぱり怖い」
それからささやかな胸を精一杯押し当てて、アッシュの首に抱きついた。
「だから今日の夜はアッシュと一緒に寝る」
「いや、ユーリィ。頼むからそういう冗談はやめてくれ。本当にやめてくれ」
アッシュは顔を引きつらせてそう告げる。
恥ずかしがっているのではなく、心底困り果てた表情だった。
「……むう」
何気に勇気を振り絞った台詞だったのに一蹴され、ユーリィは不貞腐れた。
そして、ドスンと操縦シートに座り直した。
「まあ、冗談はさておき、そろそろ仕事といくか」
「…………うん」
それからしばらくは、二人は《朱天》に乗って広場のあちこちへと赴いた。
《星導石》に近付くと《朱天》から降り、ユーリィが原石を鑑定する。しかし、いきなり都合よく良質のものは見つからず、それを繰り返してばかりだった。
「う~ん、この広場は外れかあ……」
「うん。C級ぐらいなら稀にあったけど、出来ればB級以上の方がいいんでしょう?」
「まあな。稼がなきゃいけねえ額が額だからな」
《朱天》に乗ったままそう会話するアッシュとユーリィは、しばし相談した後、この広場に見切りをつけることにした。
発掘場は他にもあるし、一旦外に出れば、この第一坑道以外の坑道もある。
大物がなさそうなこの広場にこだわる必要もないだろう。
「とりあえず奥に向かうか」
「うん」
アッシュは操縦棍を通じて《朱天》に意志を送ろうとした。
と、その時。
(……ん?)
ふと、視界の端に知り合いの姿が映る。
業務用の鎧機兵に乗って、《星導石》を回収している青年。
昨日知り合い、この街のことを色々と教えてくれたライザーの姿だ。
(……ライザーか)
一瞬、アッシュは声をかけようかと思ったが……。
「どうしたの? アッシュ」
「……いや、何でもねえよ。行くか」
ユーリィにそう問われてやめた。
見る限りライザーの表情は真剣そのものだ。邪魔するのも悪いだろう。
(……それにしても『暗人』か)
ライザー繋がりで昨日の話題を思い出すアッシュ。ライザーは「ただの都市伝説さ」と鼻で笑い、一方、親方は大陸方面に集落を持つという獣人族の一種か、もしくは人型の魔獣ではないかと語っていたのだが……。
アッシュはふっと口角を緩めた。
(……仮にいたとして、本当に獣人や魔獣なのか)
《朱天》を動かしながら無言になる青年に、ユーリィは眉根を寄せた。
「……本当にどうしたのアッシュ?」
「ん? ああ、少し考えごとをな」
アッシュは一度振り向き、笑みを見せる。
そしてキョトンとするユーリィの頭をポンと叩き、
「さて、時間もあんまねえことだし……」
と、前置きしてから、アッシュは前を見据えて声を上げた。
「そんじゃあ、次の広場に行くか!」
それから、ボリボリと頭をかきながら辺りを見渡して――。
「……ん?」
寝ぼけた顔で眉をしかめる。
そこは見知らぬ部屋だった。自分が今乗っているベッドや、机などの最低限の家具しかないような簡素な部屋である。はて、ここは……。
「……ああ、そっか」
ここは鉱山街グランゾ。
そして自分がいる部屋は、その街の宿の一室だ。
アッシュはおもむろに立ち上がると、窓辺に寄って窓を開ける。
「……うぅ、さむ」
少し肌寒い冷気が部屋に入り込むが、おかげで完全に目が覚めた。
澄み渡る青空には鳥達が羽ばたき、眼下にはまばらだが通行人の姿がある。すでに働き始めようとしているのか、業務用の鎧機兵を整備している者もいた。
「……頑張ってんな。俺も負けてらんねえか」
言って、アッシュは大きく背伸びした。
と、その時、コンコンとドアがノックされる。
アッシュが振り向くと同時に、ドアの向こうから声が掛けられた。
「……アッシュ。起きてる?」
ユーリィの声だ。
アッシュはドアに向かうと、カチャリと開けた。
「おはようユーリィ」
「うん。おはようアッシュ」
廊下に立っていたのは、やはりユーリィだった。
今起きたばかりのアッシュと違い、彼女はすでに身支度している。この街に向かう時に着ていた私服ではなく、クライン工房の白いつなぎを着ていた。
すぐにでも坑道に向かえる気構えだ。
「……悪りいな、ユーリィ。いま起きたところなんだ。すぐに準備するから、一階の食堂で少し待っていてくれ」
言って、アッシュはユーリィの頭を撫でた。
ユーリィはこくんと頷くと、「先に行く」と告げて一階に降りていった。
それを見送ってから、アッシュはドアを閉じる。
そして部屋の中央辺りまで移動すると、再び大きな伸びをして、
「さあ、いよいよ探索といくか!」
と、自分自身を激励するのだった。
鉱山街グランゾに到着して二日目。
こうして、アッシュの本格的な坑道探索が幕を開けたのである。
――そして、およそ一時間後。
食堂で朝食を済ませたアッシュとユーリィは、召喚器で喚び出した非武装状態の《朱天》に乗り、第一坑道内を進んでいた。
ズシンズシン、と鎧機兵の足音が響く。
《朱天》は今、この街の工房から借りた巨大な鉄製の箱を背負っていた。
この中に発掘した《星導石》を乗せて運ぶための装備である。
余談だが、この鉱山においては乱獲によるトラブルを避けるため、一人が一日に発掘する《星導石》は鉄箱一つ分までと定められていた。
「流石にしっかりとした造りの坑道だな」
ふと、アッシュは周囲の岩壁に目をやった。
一定間隔でランプが吊るされた坑道は鉄骨で補強されており、鎧機兵二機程度なら通れるほど広い。すでに鉄箱一杯まで発掘し終えた鉱員もいて時々すれ違った。
そんな坑道をアッシュとユーリィを乗せた《朱天》は黙々と進み……。
「……凄い。これが《星導石》の鉱山……」
と、ユーリィが感嘆の声をもらす。
一本道だった坑道を抜け、大きな空洞に出たのだ。
そこは筒状の大空洞であり、壁には螺旋状に道がある。現在アッシュ達は空洞の高さで言うと、およそ中間辺りにいた。
「凄くキラキラしている」
操縦シートの後方に座っていたユーリィが、アッシュの肩を掴んで立ち上がる。
眼下の大広場には、赤い水晶のような《星導石》が乱立しており、それらを多くの鎧機兵達が回収している。ユーリィは珍しい物を見たように目を丸くした。
「《星導石》って地面に埋まってるものじゃなかったの?」
「ん? ああ、ユーリィは原石の発掘現場を見んのは初めてか」
と、ユーリィの質問に対し、アッシュが答える。
「《星導石》はこういう洞窟みたいな場所によく生えるんだよ。その根元に楔を打ち込んで折って回収するんだ。だから厳密に言うと発掘とは違うかもな」
そう告げると同時に、アッシュは周囲を見渡した。
この広場は第一坑道の一角だ。壁沿いの道にはまだ幾つかの坑道があり、他にも似たような広場へと続いているのだろう。
「さて、そんじゃあ俺達も作業にかかるか」
「うん。けど奥には行かないの? 奥の方が良質の《星導石》がありそうだけど」
「まあ、とりあえずここを見て回ってからだな。それに……」
と、そこでアッシュはふっと笑う。
「あんまり奥に行くと『暗人』が出てくるかも知んねえしな」
《朱天》を歩かせながら、アッシュがそんなことを嘯いた。
ユーリィは訝しげな表情で眉根を寄せる。
「……『暗人』? なにそれ?」
対し、アッシュは少し意地悪そうに笑った。
「ああ、昨日出会った奴に聞いたんだが、なんでも『お化け』らしいぞ」
「……え?」
アッシュの台詞に、小さく肩を震わせ硬直するユーリィ。
アッシュはさらに続ける。
「全身が真っ黒な奴ららしくてな。夜間の坑道内で何度も確認され、噂によると偶然遭遇して威嚇された人間もいるそうだ」
「こ、この坑道ってお化けが出るの……?」
ユーリィが愕然とした表情で呟く。
アッシュの肩を掴む手も心なしか震えていた。
それに対し、アッシュが陽気な声で尋ねる。
「ははっ、何だ、怖いのか? ユーリィ」
すると、ユーリィは少しムッとした表情を見せて、
「……別に怖くなんて……」
と、言いかけたところでやめた。
そして一瞬だけ考えてから、か細い声で呟く。
「やっぱり怖い」
それからささやかな胸を精一杯押し当てて、アッシュの首に抱きついた。
「だから今日の夜はアッシュと一緒に寝る」
「いや、ユーリィ。頼むからそういう冗談はやめてくれ。本当にやめてくれ」
アッシュは顔を引きつらせてそう告げる。
恥ずかしがっているのではなく、心底困り果てた表情だった。
「……むう」
何気に勇気を振り絞った台詞だったのに一蹴され、ユーリィは不貞腐れた。
そして、ドスンと操縦シートに座り直した。
「まあ、冗談はさておき、そろそろ仕事といくか」
「…………うん」
それからしばらくは、二人は《朱天》に乗って広場のあちこちへと赴いた。
《星導石》に近付くと《朱天》から降り、ユーリィが原石を鑑定する。しかし、いきなり都合よく良質のものは見つからず、それを繰り返してばかりだった。
「う~ん、この広場は外れかあ……」
「うん。C級ぐらいなら稀にあったけど、出来ればB級以上の方がいいんでしょう?」
「まあな。稼がなきゃいけねえ額が額だからな」
《朱天》に乗ったままそう会話するアッシュとユーリィは、しばし相談した後、この広場に見切りをつけることにした。
発掘場は他にもあるし、一旦外に出れば、この第一坑道以外の坑道もある。
大物がなさそうなこの広場にこだわる必要もないだろう。
「とりあえず奥に向かうか」
「うん」
アッシュは操縦棍を通じて《朱天》に意志を送ろうとした。
と、その時。
(……ん?)
ふと、視界の端に知り合いの姿が映る。
業務用の鎧機兵に乗って、《星導石》を回収している青年。
昨日知り合い、この街のことを色々と教えてくれたライザーの姿だ。
(……ライザーか)
一瞬、アッシュは声をかけようかと思ったが……。
「どうしたの? アッシュ」
「……いや、何でもねえよ。行くか」
ユーリィにそう問われてやめた。
見る限りライザーの表情は真剣そのものだ。邪魔するのも悪いだろう。
(……それにしても『暗人』か)
ライザー繋がりで昨日の話題を思い出すアッシュ。ライザーは「ただの都市伝説さ」と鼻で笑い、一方、親方は大陸方面に集落を持つという獣人族の一種か、もしくは人型の魔獣ではないかと語っていたのだが……。
アッシュはふっと口角を緩めた。
(……仮にいたとして、本当に獣人や魔獣なのか)
《朱天》を動かしながら無言になる青年に、ユーリィは眉根を寄せた。
「……本当にどうしたのアッシュ?」
「ん? ああ、少し考えごとをな」
アッシュは一度振り向き、笑みを見せる。
そしてキョトンとするユーリィの頭をポンと叩き、
「さて、時間もあんまねえことだし……」
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「そんじゃあ、次の広場に行くか!」
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