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第6部
第五章 深く静かに①
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「――くそッ! あのクズ野郎は一体どこにいんだよッ!」
時刻は夕方の五時前。建国祭が間近に迫り、ますます盛況になる市街区。
騎士学校が終わるのと同時に、エドワード、ロック、アリシアの三人はその大通りの一つを歩いていた。先程の苛立ち混じりの台詞は、エドワードのものだ。
「……少しは落ち着け。エド」
と、ロックが宥めるが、エドワードの憤慨は収まらない。
「けどよ! ロック! あの野郎は!」
ブラウンの髪の少年は、ギリと歯を軋ませる。
「フラムだけじゃなく、ユーリィさんまであんな目に遭わせたんだぞ!」
「……エド」
ロックは神妙な顔つきで眉根を寄せた。
エドワードの気持ちはよく分かる。昨日、サーシャから聞いたアンディ=ジラール事件の本当の内容は、ロックにとっても衝撃的だった。
なにしろ、あの事件でユーリィは一度命を落としているのだ。
その後、サーシャとアッシュの奮闘でユーリィも助かり、事態は無事に解決したが、アンディ=ジラール自身の呆れ果てるような動機の幼稚さは別として、その実態は国家存亡クラスの大事件だったのである。
流石に聞かされた時点では、ロック達はただ唖然としていたが、三人の中で真っ先に怒りを爆発させたのはエドワードだった。
想いを寄せる少女が、事実上の自殺にまで追い詰められたのだ。
これで怒りを覚えない人間はいないだろう。
「くそったれがッ!」
まさに烈火のごとく、エドワードは怒り狂っていた。
「あの野郎は俺が見つけ出してぶっ殺す! 絶対にだッ!」
そう吐き捨て、ずんずんと大通りを進む友人に、ロックは再び嘆息した。
要するに、現在ロック達三人は、この王都に潜伏しているであろうアンディ=ジラールを当てもなく捜索しているのである。
まあ、流石に当事者であるサーシャだけは真直ぐ家に帰宅させたが。
そうして闇雲に市街区を回り、そろそろ一時間。
エドワードの殺る気と怒気は、一向に衰える様子はなかった。
(やれやれ、エドの奴……。本気で怒っているな)
ロックは心配そうな視線を、エドワードの背中に送った。
友人になって五年。そこそこ長い付き合いなのだが、ここまで激怒するエドワードの姿を見るのは初めてだった。
完全に冷静さを失っている。かなりまずい状態なのは明らかである。
ロックは小さく嘆息し、それから隣を歩くアリシアに目をやった。
「なあ、エイシス。お前もエドを止めてくれないか? ジラールは単独犯じゃないんだ。あんな頭に血が上った状態でもし遭遇したら洒落にもならん」
きっとエドワードは罠があろうが関係なく突進する。
それがあまりに容易に想像できるので、ロックは気が気でなかった。
しかし、アリシアは冷淡なもので――。
「それは無理よ」
抑揚のない声でそう答える。
予想に反したその言葉に、ロックは目を丸くした。
いつもの彼女なら、エドワードの暴走を一緒に諫めてくれるのだが……。
「いやエイシス。エドが危険な状態なのは分かるだろう?」
「ええ、分かるわ。けど、私だって冷静って訳じゃないのよ」
そう言って、アリシアは微笑む。
それは、彼女に想いを寄せるロックでさえ底冷えしそうな冷笑だった。
「私だって心底腹が立っているのよ。あの男は、ユーリィちゃんを文字通り死ぬほど追いつめ、サーシャを殺そうとしたのよ。許せるはずがないじゃない」
そう告げるアリシアの声は、実に平坦なものだった。
しかし、それこそが、彼女の怒りが尋常ではない証でもあった。
アリシアはとても静かに、触れれば火傷をする氷のような怒りを抱いていたのだ。
「エ、エイシス……」
ごくりと喉を鳴らすロック。
彼女の美貌も相まった冷酷さを肌で感じて少し怖い。
すると、そんなロックに対し、アリシアは微かに苦笑して。
「ごめんなさい。ハルト。危険な事は避けるべきなんでしょうけど、今回は無理。私もかなりテンパってるから、フォローお願いね」
「………ぬ、ぬうぅ」
思わずロックは呻き声を上げる。
アリシアはふっと笑い、
「ごめんね。と、オニキスの奴、どんどん進んでいくわよ。追いかけましょう。出来ればあのクズが見つかるといいんだけど……」
そう言って、蒼い瞳の少女は長い髪を揺らして歩みを早める。
ロックはしばしその光景を呆然と見つめていたが、
「……やれやれだな」
不意に目を細め、かぶりを振った。
どうやら冷静なのは自分だけのようだ。
「ジラールよ。頼むから大人しく騎士団に捕まってくれよ」
でなければあの二人に殺されかねない。
暴走する級友達の背を見つめて、ロックは深々と溜息をついた。
時刻は夕方の五時前。建国祭が間近に迫り、ますます盛況になる市街区。
騎士学校が終わるのと同時に、エドワード、ロック、アリシアの三人はその大通りの一つを歩いていた。先程の苛立ち混じりの台詞は、エドワードのものだ。
「……少しは落ち着け。エド」
と、ロックが宥めるが、エドワードの憤慨は収まらない。
「けどよ! ロック! あの野郎は!」
ブラウンの髪の少年は、ギリと歯を軋ませる。
「フラムだけじゃなく、ユーリィさんまであんな目に遭わせたんだぞ!」
「……エド」
ロックは神妙な顔つきで眉根を寄せた。
エドワードの気持ちはよく分かる。昨日、サーシャから聞いたアンディ=ジラール事件の本当の内容は、ロックにとっても衝撃的だった。
なにしろ、あの事件でユーリィは一度命を落としているのだ。
その後、サーシャとアッシュの奮闘でユーリィも助かり、事態は無事に解決したが、アンディ=ジラール自身の呆れ果てるような動機の幼稚さは別として、その実態は国家存亡クラスの大事件だったのである。
流石に聞かされた時点では、ロック達はただ唖然としていたが、三人の中で真っ先に怒りを爆発させたのはエドワードだった。
想いを寄せる少女が、事実上の自殺にまで追い詰められたのだ。
これで怒りを覚えない人間はいないだろう。
「くそったれがッ!」
まさに烈火のごとく、エドワードは怒り狂っていた。
「あの野郎は俺が見つけ出してぶっ殺す! 絶対にだッ!」
そう吐き捨て、ずんずんと大通りを進む友人に、ロックは再び嘆息した。
要するに、現在ロック達三人は、この王都に潜伏しているであろうアンディ=ジラールを当てもなく捜索しているのである。
まあ、流石に当事者であるサーシャだけは真直ぐ家に帰宅させたが。
そうして闇雲に市街区を回り、そろそろ一時間。
エドワードの殺る気と怒気は、一向に衰える様子はなかった。
(やれやれ、エドの奴……。本気で怒っているな)
ロックは心配そうな視線を、エドワードの背中に送った。
友人になって五年。そこそこ長い付き合いなのだが、ここまで激怒するエドワードの姿を見るのは初めてだった。
完全に冷静さを失っている。かなりまずい状態なのは明らかである。
ロックは小さく嘆息し、それから隣を歩くアリシアに目をやった。
「なあ、エイシス。お前もエドを止めてくれないか? ジラールは単独犯じゃないんだ。あんな頭に血が上った状態でもし遭遇したら洒落にもならん」
きっとエドワードは罠があろうが関係なく突進する。
それがあまりに容易に想像できるので、ロックは気が気でなかった。
しかし、アリシアは冷淡なもので――。
「それは無理よ」
抑揚のない声でそう答える。
予想に反したその言葉に、ロックは目を丸くした。
いつもの彼女なら、エドワードの暴走を一緒に諫めてくれるのだが……。
「いやエイシス。エドが危険な状態なのは分かるだろう?」
「ええ、分かるわ。けど、私だって冷静って訳じゃないのよ」
そう言って、アリシアは微笑む。
それは、彼女に想いを寄せるロックでさえ底冷えしそうな冷笑だった。
「私だって心底腹が立っているのよ。あの男は、ユーリィちゃんを文字通り死ぬほど追いつめ、サーシャを殺そうとしたのよ。許せるはずがないじゃない」
そう告げるアリシアの声は、実に平坦なものだった。
しかし、それこそが、彼女の怒りが尋常ではない証でもあった。
アリシアはとても静かに、触れれば火傷をする氷のような怒りを抱いていたのだ。
「エ、エイシス……」
ごくりと喉を鳴らすロック。
彼女の美貌も相まった冷酷さを肌で感じて少し怖い。
すると、そんなロックに対し、アリシアは微かに苦笑して。
「ごめんなさい。ハルト。危険な事は避けるべきなんでしょうけど、今回は無理。私もかなりテンパってるから、フォローお願いね」
「………ぬ、ぬうぅ」
思わずロックは呻き声を上げる。
アリシアはふっと笑い、
「ごめんね。と、オニキスの奴、どんどん進んでいくわよ。追いかけましょう。出来ればあのクズが見つかるといいんだけど……」
そう言って、蒼い瞳の少女は長い髪を揺らして歩みを早める。
ロックはしばしその光景を呆然と見つめていたが、
「……やれやれだな」
不意に目を細め、かぶりを振った。
どうやら冷静なのは自分だけのようだ。
「ジラールよ。頼むから大人しく騎士団に捕まってくれよ」
でなければあの二人に殺されかねない。
暴走する級友達の背を見つめて、ロックは深々と溜息をついた。
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