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第9部
第五章 レディース・サミット③
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一方、その頃。
ホテルの一階。客人用のソファーが並ぶロビーの一角にて三人の男が集まっていた。
いつものカウボーイハットに登山服を着たゴドーと、旅行のため、動きやすいラフなシャツとズボンという装いのエドワードとロックの三人だ。
彼らは向かい合わせのソファーに座っていた。
「マ、マジでやるんすか!」
エドワードがソファーから身を乗り出して声を荒らげた。
「うむ。そうだ」
と、向かい側のソファーにどっしりと構えたゴドーが言う。
「作戦決行は今夜八時。この時間が彼女達の動く時間帯だ」
「スゲえ、ゴドーさん、どうやって時間まで……」
「蛇の道は蛇よ。調べようと思えばいくらでも手はあるさ」
そう言って、ゴドーはカウボーイハットを深く被り直し、口角を崩した。
傍で横になる愛犬ランドは大きな欠伸をした。
「じゃあ、その時間に行けば!」
エドワードが瞳を輝かせてゴドーを見つめる。
「うむ。すでに絶好のポイントも抑えている。抜かりはない! 必ず見れるはずだ! オトハ達の麗しき裸体を!」
「うおおおおっ!」
グッと両の拳を握りしめてエドワードが興奮の声を上げる。
ゴドー自身も何度も顎髭をさすって、ムフーと鼻息を荒くしていた。
一方、一人だけ冷静な者もいた。
「いや、待ってくれ二人とも」
真面目で知られるロックである。彼もまたこの会合に参加していた。
「到着するなり、いきなり呼び出されたと思えば、覗きってなんですか」
両腕を組んでソファーに座るロックは少しばかりご立腹だった。
覗きなど男らしくない愚劣な行為と考えているからだ。
「それも知り合いの女の子達相手になんて……何よりタチバナ教官に気付かれでもしたら間違いなく殺されますよ」
「ふん。妻の怒りなど甘えていると思えば可愛らしいものよ」
「いや、教官はゴドーさんの奥さんじゃないでしょう」
「ふはははっ、何を言うか。ロック少年よ。俺はやると言ったら実行する男だぞ。オトハは必ず俺の女にしてみせようぞ。うむ。そうだな。差し当たり今夜にでも夜這いをかけてみるか。少しばかり手荒になってしまうが、ここで一気にオトハを俺色に染めておくのも悪くはない。しかし――」
ゴドーは「う~ん」と呻きつつ、顎髭をさすった。
「流石にアリシアちゃんやサーシャちゃんの同室で夜戦を仕掛けるのはどう考えても教育上悪いか。後でアラン達に何を言われるのか分からん。その上もっと幼いルカくんやユーリィくんまでいることだしな。……ふむ。ならばここは別に一部屋でも借りておくか。あとは眠るオトハだけをこっそりとお持ち帰りして……」
そこでムフフと笑う。
何やらもう犯罪の匂いしかしない別の計画を考え始めるゴドーに対し、ロックは深々と溜息をついた。あの鬼のように恐ろしい教官相手に夜這いなどすればその場で首が飛ぶイメージしか湧かなかった。流石に夜這いは冗談だと思いたい。
「……はぁ。それよりゴドーさん。覗きなんてやめてくださいよ。エド。お前もだ」
「何言ってんだよロック!」
エドワードは腕を振ってロックの制止を振り払った。
「分っかんねえのかよ! なんでゴドーさんが覗きを勧めるのか! 覗きってのは浪漫なんだよ! 最もメジャーで最も困難で最も有り難い浪漫なんだよ!」
「おい。落ち着けエド。何でもかんでも浪漫と言うな」
「いや違うぞロック少年! エドワード少年の言うことは事実だ!」
「いや、あなたももう少し自重してください」
と、そろそろゴドーにもツッコミを入れ始めるロック。
何やら歳をくったエドワードが増えたような気分だった。
が、そんな気苦労の絶えないロックをよそに、ゴドー達は会話を続けた。
「ところでエドワード少年。君はあの中で誰が狙いなのかね? 無論、俺はオトハだが」
「俺はユーリィさんの裸が見たいです!」
「ほう。ユーリィくんか。即答とは潔いではないかエドワード少年。しかし、あのメンバーの中で一番幼い少女をピンポイントで狙うのか。……それも潔いな」
「おい、エド。ガチでやめろ。いつぞやの『強くなるまでは』っていう誓いはどこに行った? 相手が妹さんの場合は師匠の逆鱗に触れるぞ」
「ふん! あんな白髪小僧に何が出来る!」
「いや、師匠は師匠で人間やめているレベルの人なんで色々ヤバいんですよ」
と、ロックが忠告するがゴドーは聞く耳を持たない。
「ふん。情けないな。ロック少年」
ゴドーは眼差しをロックに向けた。
「あの中には君の好きな女の子はいないのか! ぜひとも裸を見てみたい! そんな女の子はいないのか!」
「そ、それは……」
ロックが息を呑む。脳裏によぎるのは絹糸のような髪が美しい少女の姿だ。
「ほう。その反応。さてはエドワード少年同様、あの中にいるのだな」
ゴドーはロックの心の揺らぎを見逃さなかった。
「そうだな、ではその娘を思い浮かべてみよ。どんな些細な仕草でもよい。愛しさがこみ上げてこんか? 彼女の最も美しい姿を見たいとは思わんか!」
どーん、とばかりにロックの眉間に指を突き出すゴドー。
一方、ロックは言葉を失っていた。ゴドーに指摘されて思ってしまったからだ。
愛しい少女の最も美しい――生まれたままの姿を見てみたいと。
「お、俺はなんてことを――ッ!」
ロックは愕然として立ち上がり、そのままロビーに膝をついた。
すると、ゴドーは優しい眼差しを向けた。
「そう自分を責めるな。それは男の本能だ。そしてその本能を全肯定したのが覗き――男の浪漫なのだよ」
「ゴ、ゴドーさん……」
「まだ作戦決行まで時間はある。自分の心と向かい合うのだ。ロック少年よ。さすれば自ずと答えが見つかろう。覚悟を決めた時、決戦の地に来るがよい」
そう言ってゴドーは一人、ホテルのカウンターへと向かった。眠っていた愛犬ランドも付いていく。何やらロビー店員と交渉して空部屋の鍵を借りたようだ。
本当に夜這いのための部屋を借りたのだ。ゴドーはムフフと口角を崩すと、鍵をくるくると回しながらランドと共に二階へと消えていった。
ロックは顔色を青ざめさせる。
「あの人、本気だったのか……」
「ゴドーさんはいつだって本気さ」
と、ニヒルは笑みを見せるエドワード。
「だから俺らも本気で応えようぜ。ロック。必ず来るって信じているからな」
最後にそう言ってエドワードも去って行った。
これでロビーに残されたのはロックだけになった。
「お、俺は……」
真面目な少年は強く拳を握りしめた。
「俺は一体どうしたらいいんだああああああああああああああ――ッ!」
天を仰ぐロックの絶叫がロビーに響いた。
しかし、そんな悩む少年をよそに時間だけは刻々と流れて……。
遂に訪れるその日の夜。
「……う~ん、一度来たけど、何度来てもここは凄いね」
一枚のタオルを片手で抑えて、身体の前面を隠すサーシャが感嘆の声を上げた。
空には満天の星。遙かなる大海原は月明かりで輝いている。
そこはホテルが所有する高台にある露天風呂。
ここからはラッセルの街並みが一望できた。
「うん。相変わらず綺麗よね」「ここはいつ見ても絶景」
と、続けて呟いたのはアリシアとユーリィだった。彼女達もまたすでに服を脱ぎ、タオルで前を押さえている。が、夜景を楽しみつつも彼女達は不満そうだった。
「(夜景もそうだけど、サーシャも相変わらずよね)」
「(うん。正直あれはずるい)」
と、サーシャには聞こえない声で囁き合う。
久しぶりに見るサーシャの裸体。
タオルの上からも分かる見事なプロポーションは健在だった。その上、温泉の蒸気にあおられ、彼女の肌は少し火照っている。時折、銀色の髪をかき上げる仕草はどこか官能的であり、普段の清楚な彼女とはまた違うイメージを抱かせた。
これは同性であってもかなりグッとくる。
「(ううゥ……改めてポテンシャルの差を痛感するわ)」
と、比較すると悲しくなる自分の胸を押さえつつアリシアが呟いた。
ユーリィも同様の悲嘆の表情を浮かべている。
ただ、本来ならば二人ともそう卑下するほどでもなかった。
アリシアは今、長い髪を前側に垂らしていたのだが、そのため浮き出た背中のラインは美麗な彫刻を彷彿させるほどに滑らかだった。これはスレンダーな彼女だからこその美しさであり、サーシャやオトハでも再現できなかった。
そしてユーリィ。彼女の特筆すべき点は肌の白さときめ細かさだ。
温泉の蒸気の中であってもそれが際立っている。触れれば壊れてしまいそうな華奢な肢体も合わさり、まるで雪の妖精でも現出したような姿だった。幼いながらも充分すぎるぐらいの美しさを彼女は持っていた。
だが、それでも彼女達は自分が手に入れられない武器に打ちのめされていた。
するとその時、追い打ちまでやって来た。
「あっ、サーシャお姉ちゃん、待って」
そう言って、小走りで近付いてくるルカが現れたのだ。
彼女もタオル一枚なのだが、凹凸が少ないアリシア達とは明らかに違う。
「(うぐっ! あ、あれも反則よね……)」
「(なんて不条理……あれで私と同い年なんて)」
血の涙でも流しそうなぐらい落ち込むアリシアとユーリィ。
が、そこでアリシア達はさらに驚愕する。ルカが横を走り過ぎた時、小さなタオル程度では隠しきれない双丘部の白い肌を目の当たりにしてしまったからだ。
俗に言う『横チチ』である。
本当に愕然とした。
自分達のサイズでは絶対に露出しない部位だ。タオルで覆い隠されてしまう。
よもや齢十五であそこまでのポテンシャルを持とうとは――。
「(わ、私達ってやっぱり弱小勢力なのね)」
「(だ、大丈夫……アッシュは性格重視……のはず)」
ガクガクと両膝が震え出す二人。
が、その時だった。
まさしくトドメとも呼べる人物がやって来たのは。
「……なんだ。私達以外には客はいないのか」
タオルを掴んだまま、腰に片手を当てるオトハの登場である。
黒衣の女王は今や一糸まとわぬ姿となっていた。女湯であるがゆえにタオルで肌を隠そうともしない。堂々たる威容だ。
「「………………」」
アリシアとユーリィは、完全に言葉を失っていた。
実は前回ラッセルに来た時は何だかんだでオトハと一緒に温泉に入る機会はなく、彼女と共に入浴するのは今日が初だったのだ。
そして初めて見たオトハの裸体は、本当に別格だった。
しなやかさが窺える細い四肢に、きゅっとしたくびれ。服という支えがなくとも充分な張りを持ち、歩くたびに揺れる豊かな双丘。ユーリィほどではないが肌も白く、戦場に立つ傭兵でありながら傷一つない。見とれるほど完成された裸体だった。
流石に風呂場にまでは付けてこないのか、いつもの眼帯も外している。普段は眼帯によって隠されている銀色に輝く右目も解き放たれており、神秘的で美しい。
この姿を見て彼女が傭兵だと思う男などまずいないだろう。まあ、そもそも彼女の裸体を見たことがある男がまだいないのだが。
「(うわぁ、何なのあれ……)」
「(ば、化けもの……。なんで傭兵なんかしてるの?)」
もはやアリシア達は蒼白だった。
「……ん? どうした? お前達」
そんな硬直する二人に気付き、オトハが声をかける。
だが、アリシア達は答えられない。まるで山道を散策中いきなり魔獣にでも出くわしたかのように固まってしまっている。
「……本当にどうしたんだ?」
二人の態度に疑問を覚えつつもオトハは温泉へと向かった。
すでにサーシャ、ルカは温泉に浸かっている。オトハは近くの桶を取り、一度、二度湯を浴びると、つま先からゆっくりと温泉に浸かった。
その仕草一つ一つが何とも色っぽい。
アリシア達はただただ打ちのめされるが、
「(ア、アリシアさん!)」
「(わ、分かっているわ! 重要なのはサミットよ!)」
と、自分達を鼓舞し、アリシアとユーリィも温泉――戦場へと突入した。
そして五人の女性が出揃い……。
いよいよ、サミットが開催されるのである。
◆
――その同時刻。
場所は、ホテル近くの林の中。
今、そこには三人の戦士が集っていた。
「よくぞ集ってくれた。若き戦士達よ」
と、戦士長であるゴドーが告げた。
それから戦士として覚醒した少年を目やる。
「よく来てくれたロック少年。答えは見つかったのだな」
「………」
ロックは一瞬沈黙で返すが、
「まだ、分かりません。ただ俺は、一度ぐらいは自分に素直になって行動してみようと思ったんです」
ポツポツとそう答えた。
ゴドーは優しく笑い、「ああ、今はそれでいい」と言ってロックの肩に手を置いた。
「この時の判断が正しかったのか。それは君の長い人生で見極めるがいい」
「いや、十中八九黒歴史になるような気が……」
「――ははッ!」
と、その時、最後の一人――エドワードがバンとロックの背中を叩いた。
「俺は信じていたぜ! ロック!」
「……エド」
ロックが困り果てた表情を見せた。こんなことで信頼されても嬉しくもない。
だが、そんなロックの心情などお構いなしにエドワードは陽気に笑い、
「そんじゃあ全員揃ったんだ! 行こうぜ! ゴドーさん!」
「うむ。そうだな」
ゴドーは力強く頷いた。そして、
「では行こう! 出陣だ! 戦士達よ!」
拳を振り上げ、高らかに宣言する。
ザッザッザ……。
戦士達は進む。遙かなる理想郷を目指して――。
ホテルの一階。客人用のソファーが並ぶロビーの一角にて三人の男が集まっていた。
いつものカウボーイハットに登山服を着たゴドーと、旅行のため、動きやすいラフなシャツとズボンという装いのエドワードとロックの三人だ。
彼らは向かい合わせのソファーに座っていた。
「マ、マジでやるんすか!」
エドワードがソファーから身を乗り出して声を荒らげた。
「うむ。そうだ」
と、向かい側のソファーにどっしりと構えたゴドーが言う。
「作戦決行は今夜八時。この時間が彼女達の動く時間帯だ」
「スゲえ、ゴドーさん、どうやって時間まで……」
「蛇の道は蛇よ。調べようと思えばいくらでも手はあるさ」
そう言って、ゴドーはカウボーイハットを深く被り直し、口角を崩した。
傍で横になる愛犬ランドは大きな欠伸をした。
「じゃあ、その時間に行けば!」
エドワードが瞳を輝かせてゴドーを見つめる。
「うむ。すでに絶好のポイントも抑えている。抜かりはない! 必ず見れるはずだ! オトハ達の麗しき裸体を!」
「うおおおおっ!」
グッと両の拳を握りしめてエドワードが興奮の声を上げる。
ゴドー自身も何度も顎髭をさすって、ムフーと鼻息を荒くしていた。
一方、一人だけ冷静な者もいた。
「いや、待ってくれ二人とも」
真面目で知られるロックである。彼もまたこの会合に参加していた。
「到着するなり、いきなり呼び出されたと思えば、覗きってなんですか」
両腕を組んでソファーに座るロックは少しばかりご立腹だった。
覗きなど男らしくない愚劣な行為と考えているからだ。
「それも知り合いの女の子達相手になんて……何よりタチバナ教官に気付かれでもしたら間違いなく殺されますよ」
「ふん。妻の怒りなど甘えていると思えば可愛らしいものよ」
「いや、教官はゴドーさんの奥さんじゃないでしょう」
「ふはははっ、何を言うか。ロック少年よ。俺はやると言ったら実行する男だぞ。オトハは必ず俺の女にしてみせようぞ。うむ。そうだな。差し当たり今夜にでも夜這いをかけてみるか。少しばかり手荒になってしまうが、ここで一気にオトハを俺色に染めておくのも悪くはない。しかし――」
ゴドーは「う~ん」と呻きつつ、顎髭をさすった。
「流石にアリシアちゃんやサーシャちゃんの同室で夜戦を仕掛けるのはどう考えても教育上悪いか。後でアラン達に何を言われるのか分からん。その上もっと幼いルカくんやユーリィくんまでいることだしな。……ふむ。ならばここは別に一部屋でも借りておくか。あとは眠るオトハだけをこっそりとお持ち帰りして……」
そこでムフフと笑う。
何やらもう犯罪の匂いしかしない別の計画を考え始めるゴドーに対し、ロックは深々と溜息をついた。あの鬼のように恐ろしい教官相手に夜這いなどすればその場で首が飛ぶイメージしか湧かなかった。流石に夜這いは冗談だと思いたい。
「……はぁ。それよりゴドーさん。覗きなんてやめてくださいよ。エド。お前もだ」
「何言ってんだよロック!」
エドワードは腕を振ってロックの制止を振り払った。
「分っかんねえのかよ! なんでゴドーさんが覗きを勧めるのか! 覗きってのは浪漫なんだよ! 最もメジャーで最も困難で最も有り難い浪漫なんだよ!」
「おい。落ち着けエド。何でもかんでも浪漫と言うな」
「いや違うぞロック少年! エドワード少年の言うことは事実だ!」
「いや、あなたももう少し自重してください」
と、そろそろゴドーにもツッコミを入れ始めるロック。
何やら歳をくったエドワードが増えたような気分だった。
が、そんな気苦労の絶えないロックをよそに、ゴドー達は会話を続けた。
「ところでエドワード少年。君はあの中で誰が狙いなのかね? 無論、俺はオトハだが」
「俺はユーリィさんの裸が見たいです!」
「ほう。ユーリィくんか。即答とは潔いではないかエドワード少年。しかし、あのメンバーの中で一番幼い少女をピンポイントで狙うのか。……それも潔いな」
「おい、エド。ガチでやめろ。いつぞやの『強くなるまでは』っていう誓いはどこに行った? 相手が妹さんの場合は師匠の逆鱗に触れるぞ」
「ふん! あんな白髪小僧に何が出来る!」
「いや、師匠は師匠で人間やめているレベルの人なんで色々ヤバいんですよ」
と、ロックが忠告するがゴドーは聞く耳を持たない。
「ふん。情けないな。ロック少年」
ゴドーは眼差しをロックに向けた。
「あの中には君の好きな女の子はいないのか! ぜひとも裸を見てみたい! そんな女の子はいないのか!」
「そ、それは……」
ロックが息を呑む。脳裏によぎるのは絹糸のような髪が美しい少女の姿だ。
「ほう。その反応。さてはエドワード少年同様、あの中にいるのだな」
ゴドーはロックの心の揺らぎを見逃さなかった。
「そうだな、ではその娘を思い浮かべてみよ。どんな些細な仕草でもよい。愛しさがこみ上げてこんか? 彼女の最も美しい姿を見たいとは思わんか!」
どーん、とばかりにロックの眉間に指を突き出すゴドー。
一方、ロックは言葉を失っていた。ゴドーに指摘されて思ってしまったからだ。
愛しい少女の最も美しい――生まれたままの姿を見てみたいと。
「お、俺はなんてことを――ッ!」
ロックは愕然として立ち上がり、そのままロビーに膝をついた。
すると、ゴドーは優しい眼差しを向けた。
「そう自分を責めるな。それは男の本能だ。そしてその本能を全肯定したのが覗き――男の浪漫なのだよ」
「ゴ、ゴドーさん……」
「まだ作戦決行まで時間はある。自分の心と向かい合うのだ。ロック少年よ。さすれば自ずと答えが見つかろう。覚悟を決めた時、決戦の地に来るがよい」
そう言ってゴドーは一人、ホテルのカウンターへと向かった。眠っていた愛犬ランドも付いていく。何やらロビー店員と交渉して空部屋の鍵を借りたようだ。
本当に夜這いのための部屋を借りたのだ。ゴドーはムフフと口角を崩すと、鍵をくるくると回しながらランドと共に二階へと消えていった。
ロックは顔色を青ざめさせる。
「あの人、本気だったのか……」
「ゴドーさんはいつだって本気さ」
と、ニヒルは笑みを見せるエドワード。
「だから俺らも本気で応えようぜ。ロック。必ず来るって信じているからな」
最後にそう言ってエドワードも去って行った。
これでロビーに残されたのはロックだけになった。
「お、俺は……」
真面目な少年は強く拳を握りしめた。
「俺は一体どうしたらいいんだああああああああああああああ――ッ!」
天を仰ぐロックの絶叫がロビーに響いた。
しかし、そんな悩む少年をよそに時間だけは刻々と流れて……。
遂に訪れるその日の夜。
「……う~ん、一度来たけど、何度来てもここは凄いね」
一枚のタオルを片手で抑えて、身体の前面を隠すサーシャが感嘆の声を上げた。
空には満天の星。遙かなる大海原は月明かりで輝いている。
そこはホテルが所有する高台にある露天風呂。
ここからはラッセルの街並みが一望できた。
「うん。相変わらず綺麗よね」「ここはいつ見ても絶景」
と、続けて呟いたのはアリシアとユーリィだった。彼女達もまたすでに服を脱ぎ、タオルで前を押さえている。が、夜景を楽しみつつも彼女達は不満そうだった。
「(夜景もそうだけど、サーシャも相変わらずよね)」
「(うん。正直あれはずるい)」
と、サーシャには聞こえない声で囁き合う。
久しぶりに見るサーシャの裸体。
タオルの上からも分かる見事なプロポーションは健在だった。その上、温泉の蒸気にあおられ、彼女の肌は少し火照っている。時折、銀色の髪をかき上げる仕草はどこか官能的であり、普段の清楚な彼女とはまた違うイメージを抱かせた。
これは同性であってもかなりグッとくる。
「(ううゥ……改めてポテンシャルの差を痛感するわ)」
と、比較すると悲しくなる自分の胸を押さえつつアリシアが呟いた。
ユーリィも同様の悲嘆の表情を浮かべている。
ただ、本来ならば二人ともそう卑下するほどでもなかった。
アリシアは今、長い髪を前側に垂らしていたのだが、そのため浮き出た背中のラインは美麗な彫刻を彷彿させるほどに滑らかだった。これはスレンダーな彼女だからこその美しさであり、サーシャやオトハでも再現できなかった。
そしてユーリィ。彼女の特筆すべき点は肌の白さときめ細かさだ。
温泉の蒸気の中であってもそれが際立っている。触れれば壊れてしまいそうな華奢な肢体も合わさり、まるで雪の妖精でも現出したような姿だった。幼いながらも充分すぎるぐらいの美しさを彼女は持っていた。
だが、それでも彼女達は自分が手に入れられない武器に打ちのめされていた。
するとその時、追い打ちまでやって来た。
「あっ、サーシャお姉ちゃん、待って」
そう言って、小走りで近付いてくるルカが現れたのだ。
彼女もタオル一枚なのだが、凹凸が少ないアリシア達とは明らかに違う。
「(うぐっ! あ、あれも反則よね……)」
「(なんて不条理……あれで私と同い年なんて)」
血の涙でも流しそうなぐらい落ち込むアリシアとユーリィ。
が、そこでアリシア達はさらに驚愕する。ルカが横を走り過ぎた時、小さなタオル程度では隠しきれない双丘部の白い肌を目の当たりにしてしまったからだ。
俗に言う『横チチ』である。
本当に愕然とした。
自分達のサイズでは絶対に露出しない部位だ。タオルで覆い隠されてしまう。
よもや齢十五であそこまでのポテンシャルを持とうとは――。
「(わ、私達ってやっぱり弱小勢力なのね)」
「(だ、大丈夫……アッシュは性格重視……のはず)」
ガクガクと両膝が震え出す二人。
が、その時だった。
まさしくトドメとも呼べる人物がやって来たのは。
「……なんだ。私達以外には客はいないのか」
タオルを掴んだまま、腰に片手を当てるオトハの登場である。
黒衣の女王は今や一糸まとわぬ姿となっていた。女湯であるがゆえにタオルで肌を隠そうともしない。堂々たる威容だ。
「「………………」」
アリシアとユーリィは、完全に言葉を失っていた。
実は前回ラッセルに来た時は何だかんだでオトハと一緒に温泉に入る機会はなく、彼女と共に入浴するのは今日が初だったのだ。
そして初めて見たオトハの裸体は、本当に別格だった。
しなやかさが窺える細い四肢に、きゅっとしたくびれ。服という支えがなくとも充分な張りを持ち、歩くたびに揺れる豊かな双丘。ユーリィほどではないが肌も白く、戦場に立つ傭兵でありながら傷一つない。見とれるほど完成された裸体だった。
流石に風呂場にまでは付けてこないのか、いつもの眼帯も外している。普段は眼帯によって隠されている銀色に輝く右目も解き放たれており、神秘的で美しい。
この姿を見て彼女が傭兵だと思う男などまずいないだろう。まあ、そもそも彼女の裸体を見たことがある男がまだいないのだが。
「(うわぁ、何なのあれ……)」
「(ば、化けもの……。なんで傭兵なんかしてるの?)」
もはやアリシア達は蒼白だった。
「……ん? どうした? お前達」
そんな硬直する二人に気付き、オトハが声をかける。
だが、アリシア達は答えられない。まるで山道を散策中いきなり魔獣にでも出くわしたかのように固まってしまっている。
「……本当にどうしたんだ?」
二人の態度に疑問を覚えつつもオトハは温泉へと向かった。
すでにサーシャ、ルカは温泉に浸かっている。オトハは近くの桶を取り、一度、二度湯を浴びると、つま先からゆっくりと温泉に浸かった。
その仕草一つ一つが何とも色っぽい。
アリシア達はただただ打ちのめされるが、
「(ア、アリシアさん!)」
「(わ、分かっているわ! 重要なのはサミットよ!)」
と、自分達を鼓舞し、アリシアとユーリィも温泉――戦場へと突入した。
そして五人の女性が出揃い……。
いよいよ、サミットが開催されるのである。
◆
――その同時刻。
場所は、ホテル近くの林の中。
今、そこには三人の戦士が集っていた。
「よくぞ集ってくれた。若き戦士達よ」
と、戦士長であるゴドーが告げた。
それから戦士として覚醒した少年を目やる。
「よく来てくれたロック少年。答えは見つかったのだな」
「………」
ロックは一瞬沈黙で返すが、
「まだ、分かりません。ただ俺は、一度ぐらいは自分に素直になって行動してみようと思ったんです」
ポツポツとそう答えた。
ゴドーは優しく笑い、「ああ、今はそれでいい」と言ってロックの肩に手を置いた。
「この時の判断が正しかったのか。それは君の長い人生で見極めるがいい」
「いや、十中八九黒歴史になるような気が……」
「――ははッ!」
と、その時、最後の一人――エドワードがバンとロックの背中を叩いた。
「俺は信じていたぜ! ロック!」
「……エド」
ロックが困り果てた表情を見せた。こんなことで信頼されても嬉しくもない。
だが、そんなロックの心情などお構いなしにエドワードは陽気に笑い、
「そんじゃあ全員揃ったんだ! 行こうぜ! ゴドーさん!」
「うむ。そうだな」
ゴドーは力強く頷いた。そして、
「では行こう! 出陣だ! 戦士達よ!」
拳を振り上げ、高らかに宣言する。
ザッザッザ……。
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順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
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【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
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ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
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