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第7部
第七章 それぞれの対峙①
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「……なん、だと?」
呆然と、呟かれる声。
急展開の事態に面を食らったのは、何もジルベールだけではなかった。
――そう。もう一人の老人も動揺していたのだ。
「何を考えている。あの女……」
奇しくも、ジルベールと全く同じ台詞を呟く老人――レオス=ボーダー。
「分かりません。いかが致しましょうか? 支部長」
部下も動揺を隠せないようだった。
声に困惑の色がある、
「不確定要素は望むところだったが、まさかこう出るとはな」
レオスは、皮肉気に笑った。
現在、彼らが潜伏している場所はハウル邸からそう遠くないホテルだった。
森に覆われたログハウス。そこがレオス達のいる場所だ。
実は、ここはホテルでこそあるが、観光人を客層にした宿ではない。
主な客層は皇都の貴族達だ。
水網都市で知られる皇都ディノスだが、水に恵まれた地であるからこそ『森の風景』に憧れる者も少なからずいる。そういった客向けにあるのがこの類のホテルだった。
貴族が休日などに、気軽に異国気分が味わえる施設である。蛇足ではあるが、皇都にはこういった施設が多かった。
今回、レオスはそこに目をつけた。
これまでの廃屋敷から一転、黒犬の追跡の目を欺くために選んだ場所だった。
さしもの黒犬の鼻もここまでは嗅ぎつけれまい。
そう考えていた矢先に、この事態だ。
レオスはしばし腕を組み、瞑想していた。
そして、
「……ふん。まあ、いいさ。折角だ。俺も乗ってやるさ。盟主殿」
そう嘯き、最古の《九妖星》は不敵に笑った。
「お前達は他の地区で潜伏している連中にも招集をかけろ。俺達も動くぞ」
◆
「まったく! 何ですの!」
その時、リーゼはとても不機嫌そうだった。
淑女である彼女らしくもなく、蹴り付けるような勢いで廊下を歩いている。
彼女の傍にはアイリとシャルロット。ジェイク。
そして三機のゴーレム達の姿があった。
「まあ、そうピリピリすんなよお嬢」
ジェイクが、頭をボリボリとかいて宥める。
すると、リーゼは足を止め、ムスッとした表情で振り向いた。
「昨日はたっぷり甘えさせて貰って、今日はデート。幾ら何でも不公平ですわ」
「……うん。私もそう思うよ」
と、リーゼほど憤懣は面に出さないが、アイリも不満そうな声を上げる。
それは今朝方の話だった。
メルティアの様子を見に、リーゼ達がメルティアの部屋に行ったところ、出てきたのは零号達で。
「……メルサマトコウタハ、デカケタ」
「……ヒルマデニハ、モドルト、デンゴン」
「……デート! デート!」
唐突な伝言にリーゼ達は目を丸くしたが、さらに驚いたのは着装型鎧機兵が部屋に残されていたことだ。零号達の話によるとメルティアはネコ耳だけを隠すフード付きパーカー姿で出かけたらしい。
「ですが」シャルロットが呟く。「メルティアお嬢さまが着装型鎧機兵を脱いで街中に出かけるとは一体どうされたのでしょうか」
「それはオレっちも気になりますね」
ジェイクはあごに手をやった。
「幾らコウタがいても、メル嬢が街中で無防備になるなんてよっぽどっすよ。そんな心境になるようなことがあったのかも知んねえっすね」
「……それはわたくしも気になるのですが……」
リーゼが嘆息した。
「少々不満を爆発させてしまったようですわね。むしろ何かしらの理由があったと思うべきですか。メルティア達が戻って来たらお話を伺いましょう」
「それがよろしいかと……あら?」
シャルロットがリーゼに同意しようとした時だった。
廊下の一角から一人の女性が出てきたことに気付いたのだ。
サーコートと騎士服を纏う赤い髪の美女。ミランシャ=ハウルだ。
リーゼ達も彼女に気付き、挨拶をしようするが、
「……ミランシャさま?」
リーゼが眉根を寄せる。
いつも陽気なミランシャが、今は随分と険しい表情をしていた。
「……あら?」
するとミランシャもリーゼ達に気付いたようだ。
体の向きを変えて近付いてくる。
「おはよう、皆」
「……おはようございます。ミランシャさま」
リーゼが頭を垂れる。ジェイク達もそれぞれ挨拶をした。
「あの、どうかされたのですか? どこか緊張されておられるようですが?」
親しさから素直に尋ねると、ミランシャは「え?」と呟いて、
「あ、ごめん。顔に出てた? 実はこれから来客があってね。あ、そうだ」
そこでシャルロットに目をやる。
「どうしようかと思ってたんだけど、ここで会ったのも縁ね。シャルロットさんもアタシと一緒に来てくれない?」
「私がですか?」
シャルロットはパチパチと瞳を瞬かせた。
「それはまたどうして?」
「どうもね。今回の来客はシャルロットさんとも縁が――」
と、言いかけた時だった。
「――まあ! サラさん!」
リーゼがポンと手を打った。
「……え?」
ミランシャは一瞬キョトンとしたが、すぐに表情を引き締めて後ろに振り向く。
そこには案内役の男性と、二人の女性の姿があった。
一人は、ミランシャと面識がある黒髪の女。
もう一人は黄色い髪の女。見覚えはないが立ち姿はプロのものだ。
「あら。リーゼちゃん。アイリちゃんとジェイク君も」
と、声を掛けるのは黒髪の女の方。
「へ? なんでサラさんがここに?」
ジェイクは目を丸くした。アイリも少し驚いているようだ。
「お嬢さま。お知り合いですか?」
と、唯一面識がないシャルロットが尋ねる。
リーゼは「ええ」と頷いた。
「初めてお会いしたのはパドロでしたわ。わたくしとオルバンが街中でお会いし、とても為になるお話をして頂きました。そしてつい先日に偶然再会しまして。その時はアイリと一緒に会っています」
「へえ~、何だ。お嬢、サラさんと再会してたのかよ」
ジェイクが、サラとリーゼを交互に見て呟く。
それから、何故か少し強張った顔をするミランシャの方も見やり、
「けど、サラさんがハウル邸にいるってことは、ミランシャさんとも知り合いだったってことっすか?」
ジェイクの問いかけにミランシャは一瞬沈黙した。
が、すぐにふっと口元を崩して。
「ええ。そうなるわね。彼女達が来客よ」
そして、ミランシャは表面的には友好の笑みを浮かべて告げた。
「ようこそサラさん。ご友人の方も。歓迎するわ」
呆然と、呟かれる声。
急展開の事態に面を食らったのは、何もジルベールだけではなかった。
――そう。もう一人の老人も動揺していたのだ。
「何を考えている。あの女……」
奇しくも、ジルベールと全く同じ台詞を呟く老人――レオス=ボーダー。
「分かりません。いかが致しましょうか? 支部長」
部下も動揺を隠せないようだった。
声に困惑の色がある、
「不確定要素は望むところだったが、まさかこう出るとはな」
レオスは、皮肉気に笑った。
現在、彼らが潜伏している場所はハウル邸からそう遠くないホテルだった。
森に覆われたログハウス。そこがレオス達のいる場所だ。
実は、ここはホテルでこそあるが、観光人を客層にした宿ではない。
主な客層は皇都の貴族達だ。
水網都市で知られる皇都ディノスだが、水に恵まれた地であるからこそ『森の風景』に憧れる者も少なからずいる。そういった客向けにあるのがこの類のホテルだった。
貴族が休日などに、気軽に異国気分が味わえる施設である。蛇足ではあるが、皇都にはこういった施設が多かった。
今回、レオスはそこに目をつけた。
これまでの廃屋敷から一転、黒犬の追跡の目を欺くために選んだ場所だった。
さしもの黒犬の鼻もここまでは嗅ぎつけれまい。
そう考えていた矢先に、この事態だ。
レオスはしばし腕を組み、瞑想していた。
そして、
「……ふん。まあ、いいさ。折角だ。俺も乗ってやるさ。盟主殿」
そう嘯き、最古の《九妖星》は不敵に笑った。
「お前達は他の地区で潜伏している連中にも招集をかけろ。俺達も動くぞ」
◆
「まったく! 何ですの!」
その時、リーゼはとても不機嫌そうだった。
淑女である彼女らしくもなく、蹴り付けるような勢いで廊下を歩いている。
彼女の傍にはアイリとシャルロット。ジェイク。
そして三機のゴーレム達の姿があった。
「まあ、そうピリピリすんなよお嬢」
ジェイクが、頭をボリボリとかいて宥める。
すると、リーゼは足を止め、ムスッとした表情で振り向いた。
「昨日はたっぷり甘えさせて貰って、今日はデート。幾ら何でも不公平ですわ」
「……うん。私もそう思うよ」
と、リーゼほど憤懣は面に出さないが、アイリも不満そうな声を上げる。
それは今朝方の話だった。
メルティアの様子を見に、リーゼ達がメルティアの部屋に行ったところ、出てきたのは零号達で。
「……メルサマトコウタハ、デカケタ」
「……ヒルマデニハ、モドルト、デンゴン」
「……デート! デート!」
唐突な伝言にリーゼ達は目を丸くしたが、さらに驚いたのは着装型鎧機兵が部屋に残されていたことだ。零号達の話によるとメルティアはネコ耳だけを隠すフード付きパーカー姿で出かけたらしい。
「ですが」シャルロットが呟く。「メルティアお嬢さまが着装型鎧機兵を脱いで街中に出かけるとは一体どうされたのでしょうか」
「それはオレっちも気になりますね」
ジェイクはあごに手をやった。
「幾らコウタがいても、メル嬢が街中で無防備になるなんてよっぽどっすよ。そんな心境になるようなことがあったのかも知んねえっすね」
「……それはわたくしも気になるのですが……」
リーゼが嘆息した。
「少々不満を爆発させてしまったようですわね。むしろ何かしらの理由があったと思うべきですか。メルティア達が戻って来たらお話を伺いましょう」
「それがよろしいかと……あら?」
シャルロットがリーゼに同意しようとした時だった。
廊下の一角から一人の女性が出てきたことに気付いたのだ。
サーコートと騎士服を纏う赤い髪の美女。ミランシャ=ハウルだ。
リーゼ達も彼女に気付き、挨拶をしようするが、
「……ミランシャさま?」
リーゼが眉根を寄せる。
いつも陽気なミランシャが、今は随分と険しい表情をしていた。
「……あら?」
するとミランシャもリーゼ達に気付いたようだ。
体の向きを変えて近付いてくる。
「おはよう、皆」
「……おはようございます。ミランシャさま」
リーゼが頭を垂れる。ジェイク達もそれぞれ挨拶をした。
「あの、どうかされたのですか? どこか緊張されておられるようですが?」
親しさから素直に尋ねると、ミランシャは「え?」と呟いて、
「あ、ごめん。顔に出てた? 実はこれから来客があってね。あ、そうだ」
そこでシャルロットに目をやる。
「どうしようかと思ってたんだけど、ここで会ったのも縁ね。シャルロットさんもアタシと一緒に来てくれない?」
「私がですか?」
シャルロットはパチパチと瞳を瞬かせた。
「それはまたどうして?」
「どうもね。今回の来客はシャルロットさんとも縁が――」
と、言いかけた時だった。
「――まあ! サラさん!」
リーゼがポンと手を打った。
「……え?」
ミランシャは一瞬キョトンとしたが、すぐに表情を引き締めて後ろに振り向く。
そこには案内役の男性と、二人の女性の姿があった。
一人は、ミランシャと面識がある黒髪の女。
もう一人は黄色い髪の女。見覚えはないが立ち姿はプロのものだ。
「あら。リーゼちゃん。アイリちゃんとジェイク君も」
と、声を掛けるのは黒髪の女の方。
「へ? なんでサラさんがここに?」
ジェイクは目を丸くした。アイリも少し驚いているようだ。
「お嬢さま。お知り合いですか?」
と、唯一面識がないシャルロットが尋ねる。
リーゼは「ええ」と頷いた。
「初めてお会いしたのはパドロでしたわ。わたくしとオルバンが街中でお会いし、とても為になるお話をして頂きました。そしてつい先日に偶然再会しまして。その時はアイリと一緒に会っています」
「へえ~、何だ。お嬢、サラさんと再会してたのかよ」
ジェイクが、サラとリーゼを交互に見て呟く。
それから、何故か少し強張った顔をするミランシャの方も見やり、
「けど、サラさんがハウル邸にいるってことは、ミランシャさんとも知り合いだったってことっすか?」
ジェイクの問いかけにミランシャは一瞬沈黙した。
が、すぐにふっと口元を崩して。
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