悪竜の騎士とゴーレム姫【第12部まで公開】

雨宮ソウスケ

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第9部

第八章 黄金の魔王①

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 さざ波の音が聞こえる。
 ラゴウは一人、夜の海岸で待っていた。
 月を照らす海。
 それを愛機の中で眺めている。
 牛頭に、蛇の頭部を持つ尾。獣のようにひしゃげた両脚。
 断頭台を思わせる巨大な斧槍を肩に担いだ、黄金の鎧機兵。
 恒力値は、圧巻の三万六千六百ジン。
 ――《金妖星》。
《黒陽社》が誇る最強の鎧機兵の一機だ。
 その気になれば一機で一国さえ落とせる怪物は静かに佇んでいた。
 今夜は月が明るい。
 照明などなくとも海が眺めれるほどの充分の光量があった。
 これならば戦闘に何の支障もないだろう。


(……やれやれ)


 ラゴウは苦笑を浮かべた。


(最初から戦闘が前提とはな)


 あの少年は、必ずこの場所に来る。
 そうして、姫を賭けて戦うことになる。
 ラゴウはそう確信していた。


(姫がお生まれになって、早十五年か)


 ラゴウは双眸を細めた。
 主君のただ一人のご息女。
 ラゴウにとっては、戦闘の指南もしたことのある少女だ。
 不敬ながら、彼女のことは娘同然にも思っている。


(……無論、姫には幸せになって頂きたい。だが……)


 ラゴウは、小さく嘆息した。


(それは、あくまで主君が望む形でだ)


 ラゴウにとって、忠誠を誓ったのは主君――《黒陽》。
 リノにも敬意をはらっているが、やはり主君とは明確な優先順位がある。
 主君は、愛娘を奪われることなど望んでいないだろう。
 下手すると、生涯、傍に置いておきたいとまで考えている可能性がある。


(……姫には迷惑な話であろうな)


 そこでまた苦笑を零す。
 彼女の母も、主君の溺愛ぶりには悩んでいたものだ。
 ただ、そんな主君の思惑も、今までは特に問題はなかった。
 何故なら、今まで姫のお眼鏡にかなうような男はいなかったからだ。

 ――《黒陽》の愛娘。加え、《九妖星》の一角。
 釣り合う男などいるはずもない。

 強いて挙げるならば他の《妖星》達だが、歳が離れすぎている。
 そのため、姫は恋とは無縁な人生を送っていた。
 傑出していたゆえの孤独である。
 その心は誰のモノにもなることはなく――。
 男女の恋や愛など鼻で笑うかのように、ただ美貌のみで男を……いや、世界で遊ぶような『傾国』へと育っていく。
 ラゴウのみならず《九妖星》達は全員、そう思っていた。
 しかし、今――。


(まさか、姫の心を奪う者が現れるとはな)


 ラゴウは月を見上げた。
 しかも、その人物はある意味、自分が見出した者である。
 その大いなる可能性に二つ名まで贈ったほどだ。
 その上、あの《双金葬守》の実弟。傑物であるのは疑いようもない。
 姫の伴侶に相応しいと言えないこともないが、流石にこればかりは想定外であった。


(まったく。あの少年はいつも吾輩を驚かせる)


 三度、苦笑を零す。
 と、その時だった。
 ――ズズウゥゥン……。
 突如、黒い影が浜辺に降り立ったのは。


(……来たか)


 ラゴウは、その黒い影に視線を向けた。


(悪竜の騎士よ)


 ――それは一機の鎧機兵だった。
 鋭利な甲鱗のような黒い鎧装に、竜頭を象る手甲。
 頭部には多関節の天を突くような二本角を持っている。手には処刑刀だ。
 竜の相貌を表すアギトはわずかに開いた状態で固定されており、赤い眼差しでラゴウを睨みつけている。


(相も変わらない威容であるな)


 ラゴウは、親しみさえも宿すような笑みを見せた。
 久方ぶりに見たその姿に、心が躍っている。
 戦士としての血が騒いでいた。
 夜の浜辺に顕現した悪竜の騎士は、黒い処刑刀を大きく振った。
 その一振りだけで、かつての頃より洗練されていることが理解できる。


(……ふふ)


 ラゴウの笑みが、ますます深まった。
 ただ、親しさは消えて、歓喜にも似た壮絶さが露になる。
 ――ズズン、と。
 斧槍の断頭台を地に下ろして。
 黄金の鎧機兵は、悪竜の騎士へと振り向いた。
 二機はそのまま対峙する。


『少年よ』


 ラゴウは問うた。


『覚悟は出来たようだな』
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