悪竜の騎士とゴーレム姫【第12部まで公開】

雨宮ソウスケ

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第11部

第四章 炎と風の姫③

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 一方、その頃。
 グラウンドは、静寂に包まれていた。
 とは言え、人が少ない訳ではない。
 むしろ、普段よりも、さらに多くの人間が集まっていた。
 グラウンドの中央に立つのは、二人の少女だ。

 アンジェリカと、リーゼである。
 互いに劣らぬ美貌を持つ二人だが、その雰囲気は対照的だった。

 絢爛たる姫君。
 それは、燃え上がる炎のごとく。
 右手に長剣型の木剣を。腰左手を当てて佇むアンジェリカ=コースウッド。

 煌めく心の姫。
 その立ち姿は、涼やかなる風のよう。
 切っ先を下に、両手で細剣型の木剣を握りしめるリーゼ=レイハート。

 二人の姫君は、共に制服姿だった。
 彼女たちに限らず、この場にいる生徒たちは全員が制服姿だ。
 多くの騎士学校がそうなのだが、対人戦闘訓練には専用の衣服はない。
 常在戦場が、各校共通の方針だからだ。
 まあ、汚れた場合の代えの制服はあるのだが。
 ともあれ、二人は互いを見据えて、静かに対峙していた。

「……ふむ」

 彼女たちの中央には、四十代の男性がいた。
 アノースログ学園側の教師の一人だ。

「では、そろそろ始めるか」

 これから行うのは、アンジェリカとリーゼによる一対一の模擬戦闘だ。
 初めての合同実技。
 両校の力量を知るためにも、代表生徒たちの模擬戦闘を許可したのである。
 まあ、リーゼの方はともかく、アンジェリカの方にはそれ以外の思惑もあったが。

(……リーゼ=レイハート)

 アンジェリカは、双眸を細めた。
 数セージルほど先で、静かに佇む少女。
 エリーズ国騎士学校の代表生徒。
 確かに、その佇まいは実に洗練されている。
 自分に次ぐ実力者であるアヤメには届かないかもしれないが、三番手のフラン相手ならば、互角に渡り合えるかもしれない。

(……中々の実力者みたいね)

 これは侮れない相手だ。それを肌で感じた。
 しかし、それ以上に気になるのは、やはり彼女の美貌だった。
 まるで黄金を思わせるような、蜂蜜色の髪と瞳。
 顔立ちは精緻な人形のように整っている。
 両腕、特に両足は腰辺りからすらりとしており、まさに美脚だった。
 それに、何よりもおっぱいだ。
 運動をほとんど阻害しないであろう胸。
 しかし、ぺったんこではない。
 アヤメよりも少し大きいぐらいのサイズ。ギリギリ手の平に納まるぐらいか。
 確実に女性としての膨らみはあるサイズだ。
 あの聖女さまと同じである。

(……むむ)

 一瞬だけ足元を遮る自分の胸に視線を落とし、アンジェリカは呻いた。
 自分とは、明らかに違うタイプのおっぱいだった。
 アルフレッドが気に掛ける女。
 まさに、彼好みの容姿の少女であった。
 どうして、アルフレッドが異国の公爵令嬢と面識があったのか。
 そこまではまだ調べきれてはいないが、剣は、時に言葉よりも遥かに雄弁に相手のことを教えてくれるものだ。

 ――そう。恋敵を知るために、あえてこの試合を申し出たのである。

 それに気付いているのは、フランとアヤメだけだった。
 フランは青ざめており、アヤメは相変わらずの無表情だった。
 いや、時折、別の方向に視線を向けている。

(……アヤメ?)

 たまたまそれに気付き、アンジェリカは微かに眉をひそめた。
 珍しい。アヤメが、ほんの少しだけそわそわしているように見える。
 アンジェリカは、彼女の視線の先を追った。
 そこには、黒髪の少年の姿があった。

(えっと、彼は……)

 見覚えがある。確か、リーゼ=レイハートの補佐という生徒だ。
 今日も彼女の隣にいた。
 ただ、アンジェリカとしては、

(アヤメと同じ、アロンの出身者かしら?)

 といったぐらいの印象しかなかった。
 見たところ、貴族出身とは思えないので、アノースログ学園でおける、従生徒のような立場なのかもしれない。

(あ、もしかして)

 無表情、無感情を貫くアヤメだが、少女であることには変わらない。
 珍しい同郷の少年に、強い興味を抱いたのかもしれない。
 それこそ、恋心にも似た想いを。

(もし、そうなら応援しなくちゃね)

 そんなことを考えて、微かに口元を綻ばせる。
 アヤメは友人だ。もし初恋ならば成就させてあげたい。

(後で聞いてみましょう。けど、今は……)

 アンジェリカは、グッと木剣を握りしめた。
 改めて、リーゼ=レイハートを見据える。
 彼女は、ゆっくりと木剣を動かし、刺突の構えを取った。
 それだけで覇気が大きく変わる。

(……へえ)

 アンジェリカは、炎が揺れるように双眸を細めた。

(これは凄いわね)

 ――隙がまるでない。
 切っ先は、真っ直ぐアンジェリカの喉元に。
 重心は揺らがず、余計な力みもない。このまま棒立ちのままならば、あの刺突は最速の動きで、アンジェリカの喉を捉えることだろう。
 それが、強くイメージさせられる。

(これは前言撤回だわ。フラン以上、もしかするとアヤメにだって届くかも。ただのお嬢さまじゃないって訳ね)

 まあ、家柄と美貌だけで代表生徒になれるはずもない。
 それ以前に、アルフレッドに見初められるほどの女が、只者であるはずがなかったか。

(けどね)

 ――すうっと。
 アンジェリカは、木剣を横に薙いだ。
 その動作に、リーゼが、ピクリと片眉を上げた。
 今の動きだけで、リーゼもアンジェリカの力量を理解したのだろう。
 油断できない相手だと。
 わずかだが、切っ先に緊張が宿るのを感じ取った。

(私は、アンジェリカ=コースウッド)

 炎のごとき、双眸を細める。

(アノースログ学園生徒会長。そして――)

 アンジェリカは、一歩踏み出した。

(《七星》が第七座。アルフレッド=ハウル。私はアル君の妻となる女なのよ)

 静かな足取りで、間合いを詰めていく。

「……リーゼ」

 彼女は告げる。

「それじゃあ始めよっか」

「ええ。そうですわね」

 リーゼも、不敵な笑みを見せて答えた。

「……ふむ。では」

 審判である教師が、おもむろに腕を上げて、

「これより模擬戦を行う!」

 振り下ろす!
 同時に、アンジェリカが駆け出した。
 リーゼはそれを迎え撃つ。

 かくして。
 炎と風の姫君たち。
 武芸を誇る二人の令嬢の戦いが始まった――。
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