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第6部
第三章 その女、気まぐれにつき①
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「ふふ~ん」
鼻歌が響く。
そこはとあるホテルの一室。
彼女は双眼鏡を片手に、街の門を見張っていた。
多くの人々と馬車が行き交う大きな正門。特に街に入ってくる馬車に注視する。
そして、
「あら、あれかしら?」
一台の馬車に注目した。
それは一際大きな白い馬車だった。造りもかなり豪華だ。明らかに貴族仕様。あれほど立派な馬車も他にはない。
彼女は赤い髪をゆらゆら揺らしながら、馬車の後を視線で追った。
そうして五分ほど進み、馬車は大きなホテルの前で停車した。
まず御者が降りてキャビンのドアを開く。
すると次々と人が降りてきた。
制服らしき黒い騎士服を着た黒髪の少年に、大柄な少年。
流行の玩具なのか鎧を着た子供達。
恐らく護衛なのだろう。重厚な足音が聞こえてきそうな巨漢の甲冑騎士。
そして愛らしい小さなメイドと共に、騎士服を着た少女が出てきた。
「うん。当たり。あれがリーゼ=レイハートちゃんね」
蜂蜜色の長い髪と同色の瞳。美麗な顔立ちに加え、スレンダーな肢体。
報告にあった容姿と一致する。
何よりも足取りがとても優雅だ。紛うことなき令嬢だった。
「へえ。すっごい綺麗な子じゃない。けど、あれでも我が弟はなびかない訳ね」
望遠鏡に目を当てたまま苦笑を零す。
弟はとても一途だった。
遠い異国で暮らすようになった想い人を、今もなお思い続けている。
まあ、それについては自分も人のことは言えないが。
「けど、もう一人のメルティアちゃんって子はどこにいるのかしら? 病弱って言ってたからもしかして今回は……」
と、呟いたところで彼女の唇の動きが止まった。
馬車から降りてきた新たな人物に目がいったのだ。
その人物はメイドだった。
歳の頃は自分よりも少し上ぐらいか。
藍色の髪と深い蒼の瞳が印象的な美しい女性だった。
「……………」
赤毛の女性は双眼鏡を握りしめて沈黙する。
……何故だろうか?
初めて見る女性なのに、何やら危機感を覚える。
女の直感と言えばいいのか、とても嫌な予感がした。
(何なのかしら? これって?)
違和感は消えないが、赤毛の女性はかぶりを振った。
いくら考えても仕方がないことだ。
単純に、自分とは違う見事なプロポーションにムッとしただけかも知れない。
(……むう)
が、それはそれで純粋にムカついてきた。
――まったく。まったくもってあのメイドさんといい、自分の最大の恋敵といい、世の中には不公平ばかり蔓延っているのだろうか。
改めてメイドさんの胸を凝視する。
彼女が馬車の階段を歩くたびに、豊かな胸が微かに揺れていた。
拘束具を着けてなおあの動きとは……。
まるで奇跡でも目の当たりにした気分だ。
(ムムゥ)
ググッと双眼鏡を握る手に力が込もる。
……何故、どうして……。
何が違うのか。どうしてこうも個人差が出るのだろう……。
無意識のうちに、片手が自分の胸に触れていた。
(――嗚呼、なんて不条理なの!)
唇をギュッと噛みしめる。
しかし、当然ながらあのメイドさんが悪い訳ではないのだ。
(うん。落ち着けアタシ。彼女は何も悪くない。悪くなんてないのよ)
無念は噛み砕いて、彼女は思考を前向きに切り替えた。
――大丈夫。おっぱいが何だ。『彼』は性格重視の人だ。
そして自分は嫌われていないし、それどころかとても大切にされている。
こないだだって家出騒動で散々迷惑をかけてしまったが、それでも『彼』はいつも通りに優しくて、たっぷりと甘えさせてもらった。
「うん。大丈夫。アタシは愛されているし」
気を取り直して、彼女は瞳から双眼鏡を外した。
と、その時だった。
――コンコン、と。
不意にドアがノックされたのだ。
彼女は振り向き、「入ってもいいわよ」とノックの主に答える。
するとドアは開かれ、三人の男が入室してきた。
一人目は顎髭を持つ大男。二人目は額に大きな傷。三人目は眼帯を付けた優男だ。
赤毛の女性は三人をまじまじと見つめ、
「うん! グッドよ!」
親指を立てて、にぱっと笑った。
「三人とも見事な仕上げっぷりね! 特にベッグは、小道具もなしなのに大したものだわ! 流石は山賊上がりだけあるわね!」
「いや姐さん。俺は傭兵上がりで山賊はやったことねえんすが……」
と、ベッグと呼ばれた顎髭の大男が嘆息する。
彼は今、毛皮や革製のズボン。腕輪などで着飾った荒々しい格好――要するに山賊ルックを着込んでいた。他の二人も似たような姿だ。
「……隊長代理」
ふと、優男風の青年が肩を落とした。
手持ち無沙汰の様子で小道具にすぎない眼帯に触る。
「……俺達、一体何をしてるんですか?」
「言うんじゃねえよ。俺だって何してんのか分かんねえよ」
と、ベッグが返す。それから小声で二人に告げる。
「(とにかく今は堪えるんだ。姐さんの機嫌を取るんだよ。機嫌が悪い時の『女王』の恐ろしさはてめえらもよく知ってんだろ。ここには不機嫌になった姐さんを無害な子猫に変えてくれる旦那もいねえんだぞ)」
「(ううゥ、なんで隊長は騎士団辞めたんすか)」
と、額に傷(※手書きで作成)を持つ男も嘆く。
「(仕方がねえだろ。旦那には旦那の都合があんだ。いずれは戻ってきてくれるさ。それまでは耐えるんだ)」
ベッグは部下二人を激励した。
しかし、そんな彼らの心情など知る由もなく――。
「これで準備は万端ね」
言って、赤毛の女性は腰に手を当てた。
慎ましい大いに胸も反らすのだが、全く揺れないのは悲しいところか。
「さあ、あなた達!」
そして彼女は堂々と宣言した。
「いよいよ行くわよ!」
鼻歌が響く。
そこはとあるホテルの一室。
彼女は双眼鏡を片手に、街の門を見張っていた。
多くの人々と馬車が行き交う大きな正門。特に街に入ってくる馬車に注視する。
そして、
「あら、あれかしら?」
一台の馬車に注目した。
それは一際大きな白い馬車だった。造りもかなり豪華だ。明らかに貴族仕様。あれほど立派な馬車も他にはない。
彼女は赤い髪をゆらゆら揺らしながら、馬車の後を視線で追った。
そうして五分ほど進み、馬車は大きなホテルの前で停車した。
まず御者が降りてキャビンのドアを開く。
すると次々と人が降りてきた。
制服らしき黒い騎士服を着た黒髪の少年に、大柄な少年。
流行の玩具なのか鎧を着た子供達。
恐らく護衛なのだろう。重厚な足音が聞こえてきそうな巨漢の甲冑騎士。
そして愛らしい小さなメイドと共に、騎士服を着た少女が出てきた。
「うん。当たり。あれがリーゼ=レイハートちゃんね」
蜂蜜色の長い髪と同色の瞳。美麗な顔立ちに加え、スレンダーな肢体。
報告にあった容姿と一致する。
何よりも足取りがとても優雅だ。紛うことなき令嬢だった。
「へえ。すっごい綺麗な子じゃない。けど、あれでも我が弟はなびかない訳ね」
望遠鏡に目を当てたまま苦笑を零す。
弟はとても一途だった。
遠い異国で暮らすようになった想い人を、今もなお思い続けている。
まあ、それについては自分も人のことは言えないが。
「けど、もう一人のメルティアちゃんって子はどこにいるのかしら? 病弱って言ってたからもしかして今回は……」
と、呟いたところで彼女の唇の動きが止まった。
馬車から降りてきた新たな人物に目がいったのだ。
その人物はメイドだった。
歳の頃は自分よりも少し上ぐらいか。
藍色の髪と深い蒼の瞳が印象的な美しい女性だった。
「……………」
赤毛の女性は双眼鏡を握りしめて沈黙する。
……何故だろうか?
初めて見る女性なのに、何やら危機感を覚える。
女の直感と言えばいいのか、とても嫌な予感がした。
(何なのかしら? これって?)
違和感は消えないが、赤毛の女性はかぶりを振った。
いくら考えても仕方がないことだ。
単純に、自分とは違う見事なプロポーションにムッとしただけかも知れない。
(……むう)
が、それはそれで純粋にムカついてきた。
――まったく。まったくもってあのメイドさんといい、自分の最大の恋敵といい、世の中には不公平ばかり蔓延っているのだろうか。
改めてメイドさんの胸を凝視する。
彼女が馬車の階段を歩くたびに、豊かな胸が微かに揺れていた。
拘束具を着けてなおあの動きとは……。
まるで奇跡でも目の当たりにした気分だ。
(ムムゥ)
ググッと双眼鏡を握る手に力が込もる。
……何故、どうして……。
何が違うのか。どうしてこうも個人差が出るのだろう……。
無意識のうちに、片手が自分の胸に触れていた。
(――嗚呼、なんて不条理なの!)
唇をギュッと噛みしめる。
しかし、当然ながらあのメイドさんが悪い訳ではないのだ。
(うん。落ち着けアタシ。彼女は何も悪くない。悪くなんてないのよ)
無念は噛み砕いて、彼女は思考を前向きに切り替えた。
――大丈夫。おっぱいが何だ。『彼』は性格重視の人だ。
そして自分は嫌われていないし、それどころかとても大切にされている。
こないだだって家出騒動で散々迷惑をかけてしまったが、それでも『彼』はいつも通りに優しくて、たっぷりと甘えさせてもらった。
「うん。大丈夫。アタシは愛されているし」
気を取り直して、彼女は瞳から双眼鏡を外した。
と、その時だった。
――コンコン、と。
不意にドアがノックされたのだ。
彼女は振り向き、「入ってもいいわよ」とノックの主に答える。
するとドアは開かれ、三人の男が入室してきた。
一人目は顎髭を持つ大男。二人目は額に大きな傷。三人目は眼帯を付けた優男だ。
赤毛の女性は三人をまじまじと見つめ、
「うん! グッドよ!」
親指を立てて、にぱっと笑った。
「三人とも見事な仕上げっぷりね! 特にベッグは、小道具もなしなのに大したものだわ! 流石は山賊上がりだけあるわね!」
「いや姐さん。俺は傭兵上がりで山賊はやったことねえんすが……」
と、ベッグと呼ばれた顎髭の大男が嘆息する。
彼は今、毛皮や革製のズボン。腕輪などで着飾った荒々しい格好――要するに山賊ルックを着込んでいた。他の二人も似たような姿だ。
「……隊長代理」
ふと、優男風の青年が肩を落とした。
手持ち無沙汰の様子で小道具にすぎない眼帯に触る。
「……俺達、一体何をしてるんですか?」
「言うんじゃねえよ。俺だって何してんのか分かんねえよ」
と、ベッグが返す。それから小声で二人に告げる。
「(とにかく今は堪えるんだ。姐さんの機嫌を取るんだよ。機嫌が悪い時の『女王』の恐ろしさはてめえらもよく知ってんだろ。ここには不機嫌になった姐さんを無害な子猫に変えてくれる旦那もいねえんだぞ)」
「(ううゥ、なんで隊長は騎士団辞めたんすか)」
と、額に傷(※手書きで作成)を持つ男も嘆く。
「(仕方がねえだろ。旦那には旦那の都合があんだ。いずれは戻ってきてくれるさ。それまでは耐えるんだ)」
ベッグは部下二人を激励した。
しかし、そんな彼らの心情など知る由もなく――。
「これで準備は万端ね」
言って、赤毛の女性は腰に手を当てた。
慎ましい大いに胸も反らすのだが、全く揺れないのは悲しいところか。
「さあ、あなた達!」
そして彼女は堂々と宣言した。
「いよいよ行くわよ!」
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