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第一部
第1話 町田家の日常 1
――瞼越しに感じる暖かな陽光。辺りに漂う朝の気配。
小鳥のさえずりと表を走る自転車のベルの音を聞きながら、丞は寝返りを打った。
『春眠暁を覚えず』とはよく言ったもので、ボンヤリした頭が一応は「起きなければ」と思うのに、まるで縫い合わされたようにきっちりと閉じた瞼は全く開いてくれない。午前7時にセットしていた目覚まし時計は、とっくに止めてしまっている。これ以上寝こけていたら遅刻だなーなどと人ごとのように考えながら、それでも古人の教えに従順であろうとする身体は一向に覚醒してはくれなかった。更に潜り込もうと掛け布団を引き上げ掛けて、ふと気付く。
(? なんか…寒い…)
半分眠りの世界に浸ったままの意識では、ちゃんと布団に包まっている筈の身体の何処が寒いのか、そしてそれが何故なのか全く判断出来ない。
仕方なく目を開けてだるそうに首だけ起こした丞の顔が、足元の光景を目にして凍り付いた。
――捲られた掛け布団。パジャマのズボンと下着は膝まで下ろされ、己の中心が露わになっている。僅かに勃ち上がった――いわゆる朝勃ち――状態のそれに、邪心たっぷりの手を伸ばそうとしていたのは――。
「永ーーーっっ!!!」
絶叫一番、春の眠気も何処へやら。飛び起きて布団で前を隠した丞は、マットレスに膝立ちしている学ラン姿の小悪魔を睨み付けた。
「なぁんだ、つまんねーの。もうちょいだったのに」
如何にも残念そうに口を尖らせる永の目が怪しげに笑っている。邪悪な笑みとはこういうもののことを言うのだろう――と考える余裕など、今の丞には無かった。
「おまっ、お前な、毎度毎度いい加減にしろよ! 何が楽しくてこんなことばっか…」
「だって、起こしに来たら丞の寝顔がすっげぇ可愛かったんだもん♪」
可愛けりゃ兄のナニに手を出すのか、弟よ。
「可愛いとか言うなっつってんだろ! 仮にも俺はお前の兄貴だぞ!!」
怒鳴りながら布団の中でズボンと下着を引っ張り上げる。悪びれた様子も無く、永はへらりと笑んだ。
「兄貴だろうが何だろうが、可愛いもんは可愛いんだからしょうがないだろ? 丞って、俺のクラスでも結構モテるんだぜ? 男にも女にも。スマホの写真見せたら、紹介してくれって奴が山ほど来てさ。いやー、あん時は断るのに苦労したよ、うん」
言いつつ顔を寄せてくる末弟の胸を、丞は布団から出した右足で思い切り蹴り飛ばす。派手にベッドから転がり落ちた永が、後頭部を摩りながら起き上がった。
「痛ってぇよ! いきなり何すんだ」
「そりゃ、こっちのセリフだ! 人の写真を相手構わず見せてんじゃねぇ!」
しかめっ面を緩めて、永は唇の片端を上げる。
「ああ、それなら別に心配要らねぇから。プリントして配ったら、皆引き下がってくれたし」
「配っ…?!」
目眩がする。何だか呼吸困難まで起こしそうだ。再びベッドに沈みそうになる丞の意識に、今朝初めて発せられた永の『まとも』な言葉が飛び込んだ。
「ところでさ、マジで時間、ヤバいんじゃねぇの?」
枕元の目覚ましは既に7時40分を指していた。あと十分で隣の幼馴染が迎えに来てしまう。
「それを早く言えーーーっ!!!」
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