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第一部
第3話 町田家の日常 3
「あーあ。何とかなんないのかね、うちの馬鹿どもは」
「何だ、また覓か?」
「んー、アレはいつものことだけど…。今朝は永まで調子こいてたから」
アスファルトの歩道を学校へ向かって歩きながら、丞は盛大に溜息をつく。その横で笑っているのは、緑髪紅顔の幼馴染だった。
桜庭龍利――町田家の隣で合気道の道場を営む桜庭家の一人息子だ。親同士が昔から親しい付き合いをしていたこともあり、丞達とはまるで五兄弟のようにして育ってきた。勿論互いの家への出入りなど自由で、町田家と桜庭家共通の家が二軒あるようなものだ。
同い年の為、兄弟の中でも取分け丞と接することが多く、丞にとっては幼馴染でもあり親友とも呼べる存在だった。現在、二人は同じ高校に通っている。しかもクラスまで一緒。朝稽古で早起きの龍利が丞を迎えに来るのは、もう小学校からの習慣だった。
使い古してだいぶ傷みのきた学生鞄を肩に引っ掛け、龍利が言う。
「永は、お前に甘えてるんじゃないのか?」
「えー? あのクソガキに限って、それはねぇよ。…まぁ、違う意味での『甘え』ってんなら分かんねぇこともねぇけど……」
大袈裟に首を横に振りながら、ふと思い付く。
「寧ろ俺は、龍に甘えてるように見えるけどな。俺等は皆名前でしか呼び合わねぇのに、あいつ龍にだけは『兄ちゃん』て付けて呼ぶし」
「そりゃ、さすがに境界敷いてるんだろ。兄弟と他人の」
「よく言うぜ。冷蔵庫に入れてた俺の昼飯勝手に食ってくのが、他人のやることかよ?」
「なんだ。日曜のこと、まだ根に持ってるのか? ちゃんと謝ったろう。いつまでもイジイジ考えてると、折角の可愛い顔が台無しだぞ?」
そう言いつつクシャリとこちらの髪を掻き上げる龍利に言い返そうとして、逆に極上の笑顔を向けられた丞は口籠る。
――艶やかな漆黒の髪。母からの遺伝で兄弟揃って色素の薄い頭髪しか持たぬ丞が、羨ましくなる程の濃い色合い。それに相俟った精悍な面差しと武術で鍛えられた体躯は、同性の目から見ても「格好良い」と言わしめて余りあるものだった。
四兄弟の誰よりも高い位置から見下ろされると、小柄な自分がより一層小さく見えてくる。頭に載った手を払って、丞は不貞腐れたように言い放った。
「小せぇからって、ガキ扱いすんな」
「? そんなつもりないけど?」
キョトンと目を丸くしている龍利に、丞は再び溜息をついた。
「覓はまた遅刻かな」
漸く前方に見えてきた校門。そこに陣取る生活指導の厳つい教師――通称ヒゲゴジラ――を見止めた龍利が、諦め気味に言う。
「いい加減、回数ヤバいんだ、あいつ。起きるのは早いくせに、例によってモタモタするもんだから…。一週間に二、三回は必ず遅刻してっから、目ぇ付けられてるしさ」
覓も二人と同じ高校だ。初めの内は一緒に行こうと誘っていたのだが、全く聞く耳持たずの彼に呆れ果て、最近は放置状態になっている。一年の頃から積み重なったそれに対する処分を辛うじて抑えているのは、覓の成績の良さだった。
「幾ら勉強で問題ねぇっつっても、今年から生活指導に変わったあのヒゲゴジラが相手じゃなー。絶対そのうち吊し上げられるぜ」
言いながら半眼で校門を見遣る丞。あだ名通りのゴジラ顔を苦々しげに睨む。
「やれやれ。手の掛かる弟に想われて、恵も大変だな。――確か、去年の今頃だったっけ?」
「ああ、あいつの入学式ん時だから――」
昨年の春。実家に急用の出来た母の代わりに、恵は仕事を休んで覓の入学式に出席した。穏やかな美貌がお母様方の目を釘付けにしていたのにも気付くこと無く、式後の保護者説明会を終えた恵は待っていた覓と家路を辿る。その途中、何を思ったのか突然覓が告白してきたのだ。「ずっと好きだった」と。いきなり実弟から想いを告げられて戸惑った彼は、その時何とも答えられずに返事を濁した。それ以来、毎日のように覓のあの求愛攻撃を受ける羽目になってしまったのである。
あまりにおかしい弟の様子を訝しんだ丞は、言い淀む恵に詰め寄って漸く事情を聞き出したのだった――。
「一年間もよく続くもんだ。ある意味、敬嘆に値するよな」
「お前な…。余所ごとだと思って気楽なこと言ってんじゃねぇよ」
幼馴染の腹を鞄で軽く叩いて、丞はヒゲゴジラを一瞥しつつ校門を潜った。
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