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第一部
第19話 ゴールデンウィーク ~手伝い~ 2
一方、こちらは室内組。恵は食堂を綺麗に掃除し、丞は厨房内で洗い物を手伝っている。冷蔵庫の食材を確認していた律子が、卵や牛乳を見てふぅと溜息をついた。
「どうしたの? 伯母さん」
何か悩んでいる体に気付いて丞が尋ねる。伯母は彼を振り返り、苦笑しながら話し出した。
「実はね、デザートについて悩んでるの。今まで蒸しプリンやアイスクリームを出してきたけど、オーブンを使ったものとか、もっとレパートリーを増やしたいなと思って。でも、いろいろ試作してみてるんだけど、満足のいくものが出来なくて――」
と、そこであることを思い出す律子。
「そう言えば――。丞、貴方今もお菓子作りしているの?」
「え? ああ、うん。やってるよ」
丞はスイーツを作るのが好きだ。小学生の頃から、お菓子のレシピ本を片手にひたすら真似して作っていた。初めの内は、とても食べられたものでは無い焦げ焦げクッキーや、フォークで刺すことも難しいボロボロのスポンジケーキが出来上がっていたが、作る回数と年齢を重ねた今では『特技』と言ってもいいほどの腕前になっている。家族の誕生日などのイベント時には必ずケーキを焼き、その仕上がりと味の良さは食べた誰もが認めていた。
――その時、食堂のテーブルを拭いていた恵が厨房を覗き込んだ。中に入り、律子に歩み寄る。
「伯母さん、丞の作るお菓子は本当に美味しいですよ。その辺の洋菓子屋さんのものと比べても、引けは取らないと思うくらいです」
「本当? 昔は失敗も多かったみたいだけど、そんなに上手になったのね。凄いじゃないの」
手放しで褒められて、丞は照れ臭そうに笑った。
「別に…大したことねぇって」
「謙遜しなくていいよ、丞。甘いものが苦手な覓だって、丞のケーキは喜んで食べるじゃないか。勿論僕も皆も大好きだし」
「そんなに美味しいなら、伯母さんも食べてみたいわねぇ」
それから暫し、伯母と二人の甥はスイーツの話で盛り上がる。その途中、何かを思い付いた律子がポンと手を叩いた。
「そうだわ。丞、私にお菓子作りを教えてくれない?」
急な申し出に丞は目を見開く。
「へ?」
「一種類だけでもいいから、レシピを指南して欲しいの。伯母さんを助けると思って、ね?」
「でも……」
伯母に教えるということは、つまり、それがお客の口に入るということになる。プロでも無い、ただの高校生である自分の独学レシピでは、些か荷が重いような――。
躊躇っている丞に、恵が「気負わないで気楽に手伝ってあげたら」と優しく声を掛ける。それを聴いて、何となく胸のつかえが取れる丞。
(そうか。手伝いだって思えば、そんなに気にならないかも)
「分かったよ、伯母さん。じゃ、早速やろっか」
――薪割りを終え、屋外組が母屋内へと戻ってくる。間も無くチェックイン開始時刻の為、洋介はフロントで宿泊客を迎える準備をしていた。
「はぁー。伯父さん、疲れたぁ~」
永と覓がカウンターに突っ伏す。伯父はルームキーを確認していた手を止めて、はっはっはと鷹揚に笑った。
「三人ともご苦労さん。助かったよ」
洋介の言葉を聞きながらウダウダしている二人。その様子を見ていた龍利が、腕を組み呆れたように言った。
「変に数なんか競うから余計に疲れるんだ。小父さんの邪魔になるから、そこで伸びるのはやめろ」
「んなこと言ってっけど、終わりの方は龍も結構ムキになってたじゃねぇか」
突っ伏したままチラリと龍利に目線を投げた覓の指摘を、幼馴染は咳払いで誤魔化す。ふと頭を上げた永が、クンクンと辺りの匂いを嗅いだ。
「ん? なんか、いい匂いがする」
覓も身体を起こして嗅いでみる。仄かに焦がしバターのような香りが漂っていた。夕食の仕込みをしているのかとも思ったが、この甘い感じはどう考えても洋菓子の香りだ。はてな顔の三人に気付いて洋介が答えた。
「ああ。律子がな、丞にお菓子の作り方を習ってるらしいんだ」
「えっ、ホント?」
飛び起きる永。
「じゃ、試食させて貰えるかも♪ 行ってみようぜ」
言いざま食堂へと駆け出す彼の後ろ姿に、覓と龍利は半眼の顔を見合わせた。
「甘いモンとなると即行復活するんだな、あいつは……」
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