青草BL物語

いっぺい

文字の大きさ
19 / 30
第一部

第19話 ゴールデンウィーク ~手伝い~ 2


 一方、こちらは室内組。恵は食堂を綺麗に掃除し、丞は厨房内で洗い物を手伝っている。冷蔵庫の食材を確認していた律子が、卵や牛乳を見てふぅと溜息をついた。

「どうしたの? 伯母さん」

 何か悩んでいるていに気付いて丞が尋ねる。伯母は彼を振り返り、苦笑しながら話し出した。

「実はね、デザートについて悩んでるの。今まで蒸しプリンやアイスクリームを出してきたけど、オーブンを使ったものとか、もっとレパートリーを増やしたいなと思って。でも、いろいろ試作してみてるんだけど、満足のいくものが出来なくて――」

 と、そこであることを思い出す律子。

「そう言えば――。丞、貴方今もお菓子作りしているの?」

「え? ああ、うん。やってるよ」



 丞はスイーツを作るのが好きだ。小学生の頃から、お菓子のレシピ本を片手にひたすら真似して作っていた。初めの内は、とても食べられたものでは無い焦げ焦げクッキーや、フォークで刺すことも難しいボロボロのスポンジケーキが出来上がっていたが、作る回数と年齢を重ねた今では『特技』と言ってもいいほどの腕前になっている。家族の誕生日などのイベント時には必ずケーキを焼き、その仕上がりと味の良さは食べた誰もが認めていた。



 ――その時、食堂のテーブルを拭いていた恵が厨房を覗き込んだ。中に入り、律子に歩み寄る。

「伯母さん、丞の作るお菓子は本当に美味しいですよ。その辺の洋菓子屋さんのものと比べても、引けは取らないと思うくらいです」

「本当? 昔は失敗も多かったみたいだけど、そんなに上手になったのね。凄いじゃないの」

 手放しで褒められて、丞は照れ臭そうに笑った。

「別に…大したことねぇって」

「謙遜しなくていいよ、丞。甘いものが苦手な覓だって、丞のケーキは喜んで食べるじゃないか。勿論僕も皆も大好きだし」

「そんなに美味しいなら、伯母さんも食べてみたいわねぇ」

 それから暫し、伯母と二人の甥はスイーツの話で盛り上がる。その途中、何かを思い付いた律子がポンと手を叩いた。

「そうだわ。丞、私にお菓子作りを教えてくれない?」

 急な申し出に丞は目を見開く。

「へ?」

「一種類だけでもいいから、レシピを指南して欲しいの。伯母さんを助けると思って、ね?」

「でも……」

 伯母に教えるということは、つまり、それがお客の口に入るということになる。プロでも無い、ただの高校生である自分の独学レシピでは、些か荷が重いような――。
 躊躇っている丞に、あにが「気負わないで気楽に手伝ってあげたら」と優しく声を掛ける。それを聴いて、何となく胸のつかえが取れる丞。

(そうか。手伝いだって思えば、そんなに気にならないかも)

「分かったよ、伯母さん。じゃ、早速やろっか」





 ――薪割りを終え、屋外組が母屋内へと戻ってくる。間も無くチェックイン開始時刻の為、洋介はフロントで宿泊客を迎える準備をしていた。

「はぁー。伯父さん、疲れたぁ~」

 永と覓がカウンターに突っ伏す。伯父はルームキーを確認していた手を止めて、はっはっはと鷹揚に笑った。

「三人ともご苦労さん。助かったよ」

 洋介の言葉を聞きながらウダウダしている二人。その様子を見ていた龍利が、腕を組み呆れたように言った。

「変に数なんか競うから余計に疲れるんだ。小父さんの邪魔になるから、そこで伸びるのはやめろ」

「んなこと言ってっけど、終わりの方は龍も結構ムキになってたじゃねぇか」

 突っ伏したままチラリと龍利に目線を投げた覓の指摘を、幼馴染は咳払いで誤魔化す。ふと頭を上げた永が、クンクンと辺りの匂いを嗅いだ。

「ん? なんか、いい匂いがする」

 覓も身体を起こして嗅いでみる。仄かに焦がしバターのような香りが漂っていた。夕食の仕込みをしているのかとも思ったが、この甘い感じはどう考えても洋菓子の香りだ。はてな顔の三人に気付いて洋介が答えた。

「ああ。律子がな、丞にお菓子の作り方を習ってるらしいんだ」

「えっ、ホント?」

 飛び起きる永。

「じゃ、試食させて貰えるかも♪ 行ってみようぜ」

 言いざま食堂へと駆け出す彼の後ろ姿に、覓と龍利は半眼の顔を見合わせた。

「甘いモンとなると即行復活するんだな、あいつは……」

感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 【花言葉】 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただければ嬉しいです! 【異世界短編】単発ネタ殴り書き随時掲載。 ◻︎お付きくんは反社ボスから逃げ出したい!:お馬鹿主人公くんと傲慢ボス

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

田中家の男たち…

B
BL
田中家… ごく普通のどこにでもいる5人家族… そんな田中家の男たち… 父親-田中駿-Shunー in one's 40s businessman 長男-田中慎二-Sinjiー in one's 10s 男子高校生 次男-田中守-Mamoruー in one's 10s男子中学生 祖父-田中昂-Noboruー in one's 60s free-lance

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科 空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する 高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体 それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった 至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する 意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク” 消える教師 山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。