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第一部
第21話 ゴールデンウィーク ~第一夜~ 1
――夜。
午後10時を回ったコテージのリビングで、恵と丞、龍利が談笑している。自分の腹を摩りながら、恵はふぅと息をついた。
「もうこんなに時間が経つのに、全然お腹がへこんだ気がしない。夕食、凄く美味しかったんだけど、量が多かったよね」
「ああ。確かにな」
「伯母さん、張り切って作ってたもんなー。たぶん、俺達がデカくなったから、食う量も多くなったんじゃないかと思ってのことなんだろうけど、恵は元々少食だからちょっとしんどかったよな。――まぁ、俺はその後のイライラでエネルギー消費したから、もう腹ん中空っぽだけどさ」
丞が『その後のイライラ』と言っているのは――
夕食後、食堂横の談話スペースでトランプでもしようということになった五人。神経衰弱や七並べ、大富豪などで楽しんでいたのだが、そこへ出先から戻った悠がなだれ込んできた。恵の左隣に無理やり陣取り、手札の使い方をアドバイスする素振りをしながら、しれっと彼の腰を抱く。片やそれを見過ごせないのが、右隣に座った覓。負けじと恵の肩を抱き、グッと胸元へ引き寄せて悠をジロリと睨む。二人が放つオーラはまるで竜虎の戦いのようで、雷雲でも呼び寄せそうな雰囲気を醸しつつ繰り広げられる静かなるバトルに、キレた丞が怒鳴ること数知れず。最終的に律子のひと声で萎縮した悠が座を離れ、丞のイライラは漸く収まったのである。
「――にしても、小母さん凄いな。『悠』ってひと言発しただけで、あの悠さんが戦意喪失するんだから」
ほとほと感服したと言わんばかりの龍利。丞はおかしそうにケラケラと笑う。
「ここで一番強いのは伯母さんだからな。伯父さんに対しては今朝みてぇな態度を取る悠でも、伯母さん相手だとてんでガキになっちまうんだ」
それから、兄に労りの声を掛けた。
「あれから気分悪くなったりしてねぇか? 恵。玩具の取り合いみてぇに、散々引っ張られてたけど」
「ううん、大丈夫。――でも、今日はなんだか疲れたね。ちょっと眠くなってきちゃった」
小さく欠伸をする恵を見て、丞も軽く目元を擦る。
「そうだな。精神的にグッタリ疲れた……」
恵は立ち上がって窓際へ行く。カーテンを捲って見た隣のコテージの灯りは、既に消えていた。
「覓達も、もう寝ちゃったみたいだよ」
若いとはいえ、慣れない薪割りで体力を消耗したからだろう。普段ならまだまだ起きている筈の時間にも関わらず、覓と永は床に着いている様子だ。まぁ、覓に至ってはふて寝の要素も多分にあっただろうが。
「じゃ、こっちもそろそろ寝るか。夕食前にシャワー浴びといて良かったな」
龍利の言葉に、恵と丞はコクリと頷いた。
歯磨きを済ませ、ベッドに入る。それぞれに「おやすみ」と声を掛け合ってから、丞が枕元のスイッチで部屋の照明を消した。保安灯の薄明かりの中、程無く聞こえ始める小さな寝息。しかし、それは三人分では無く二人分だ。残る一人はいつまでも寝返りを打ち、モゾモゾしていた。
二、三十分経った頃、「はぁ…」という溜息と共にその一人が起き上がる。ベッドを降り、そっとリビングへ行って椅子に腰を下ろしたのは龍利だった。
(やっぱり…眠れない……)
両手で顔を覆い、洗うようにゴシゴシと擦る。背凭れに凭れ無心で目を瞑ってみたが、眠気は一向に訪れなかった。
(ホント、何やってんだか……)
丞の部屋でキスしそうになったあの日。あれ以来、隠してきた想いを強く意識するようになり、昨日負ぶって帰った件で自分の神経は更に過敏になってしまった。日中は、他に誰かいれば気が紛れて平静を保てるのだが、夜、しかも同じ部屋で寝ているなどというシチュエーションでは、交感神経が優位になり過ぎて眠るどころでは無いのだ。
(ちょっと、外の空気でも吸ってくるか)
首を振り、立ち上がる。音を立てないように玄関ドアを開け外に出た。静かにドアを閉めると、ポーチの手摺に寄り掛かって思い切り深呼吸する。少しひんやりとした山の夜気が胸いっぱいに広がった。
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