青草BL物語

いっぺい

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第一部

第27話 ゴールデンウィーク ~第二夜~ 2


 すぐに離される温もり。目が点状態の丞は、固まったまま、自分に何が起きたのか把握出来ないでいた。

「……な…ん……?」

 放心したように動かない彼を、龍利は熱の籠った眼差しで見詰める。

「――いつからなのかはよく分からない。でも、高校に入ってからはずっと好きだった。お前に嫌われるのが怖くて、いつも気持ちを隠していたんだ」

 龍利の右手が丞の頬に触れる。長い指で横髪を梳かれ、その肩がピクリと揺れた。漸くフリーズの解けた彼がぎこちなく声を発する。

「……俺…? …なんで?」

 親友だと思っていた相手から前フリも無く告白された事実と、いきなり奪われたファーストキスに、頭の中が混乱する。助けを求めて龍利を見たが、彼は真顔で愛しげな目線をこちらに向けていた。その瞳に、丞は自室での出来事を思い出す。

「あっ、俺が風呂で溺れて熱出した時、あん時もお前、なんか変だったよな。寝てる俺に顔くっ付けてきてたけど、ひょっとしてあれも…キ、キスするつもりだった、とか…?」

「ああ…。あれは、あんまり可愛かったから気が緩んで――」

「可愛いとか言うな」というセリフも、今の丞の口からは出てこない。そういうことにイラつく余裕も無いほど、心にゆとりが無くなっていた。

「……嫌か?」

「え…?」

「幼馴染で親友のお前を、恋愛対象として見ている。――こんな俺は嫌いか…? 気持ち悪いか?」

「……べ、別に嫌いじゃねぇけど……じゃなくてっ。龍、一旦落ち着け。早まらずによ~く考えろ」

 自分の方があたふたしながら彼を諭そうとする。「嫌いじゃない」という言葉にホッと安堵したらしい龍利は、目を閉じ首を横に振った。

「考えたさ。何日も何日も、嫌になるほど考えたよ。――けど、どれだけ考えても、悩んでも、意味なんかなかった。辿り着く答えは、やっぱり俺は丞が好きなんだって、その一択しかなかったから――。それが分かってからは、お前に気付かれないようにひたすら我慢の日々さ。なのに……一昨日お前を負ぶって帰ってから、タガが外れたみたいになって――」

 苦しかった胸の内を明かす龍利。丞は、昨日からの彼らしからぬ様子に思い当たった。

「……じゃ、ここに来る時から、お前がどっかボーッとしてたのは……」

「ずっと丞のことを考えてたからだよ。一昨日の晩もそれで眠れなかったし、昨夜だって――。でも、今朝までで俺はもう悩むのやめたんだ。あとはどのタイミングで告ろうかって迷って――うわの空で、射的外したのもその所為だった。やっと、この旅行を終えてからって決めたところだったのに、お前が余計なことを訊くから……」

 膝の上に置いた己の手を見詰め、軽く嘆息した龍利だったが、語調と視線を上げて更に言葉を続けた。

「――だけど、そのお蔭で俺も決心がついた。お前に質問されたのも、一緒に二人部屋になったのも、今が『その時』だからなんだって」

 再びゆっくりと寄ってくる龍利の面。丞は反射的に上体を反らす。

「一人で勝手に納得してるみてぇだけど、『その時』って何? いきなりスッパリ悩むのやめたっつーのも、なんでなんだ?」

 龍利の言動一つ一つに困惑しつつ訊く。すると、思ってもみない返事が返ってきた。

「動く時ってことだ。昨夜、悠さんに背中押されたから……」

「…は? 悠が何したって?」

 話している間にも、ますます龍利の顔は近付いてくる。このままボサーッとセカンドキスまで奪われるわけにはいかない。丞はわたわたしながら更に身を反らした。

「自分で動かないと、望むものは手に入らないって諭してくれたんだ。その言葉が、悩みを吹き飛ばしてくれた」

(……要するに、龍を焚き付けたってことか? …って、痛てっ!)

 反らし過ぎていた腹筋が限界を迎え、上体がベッドに倒れ込む。瞬間閉じた目を開くと、一気に間を詰めた龍利の相貌が眼前にあった。細身に、長身の身体が伸し掛かる。



「……丞、俺…したい……」



 保安灯のオレンジ色の光の中ではよく分からなかったが、息が掛かるほど傍に寄った彼の面は赤く紅潮していた。

「へっ?! いや、待て待て待て待て! 展開が急過ぎだろ! つーか俺、男だって!!」

「関係ない」

 即行、斬って捨てられる。まぁ、身近に覓や悠がいる環境では、そんな理由は何の説得力も無く、苦しい言い訳にしかならない。

「たっ、龍っっ。お前、人格変わり過ぎ! いつもはこんなキャラじゃねぇだろ!」

 落ち着いていてストイックで、皆の憧れの的である龍利が、今は男の本能そのままにこの自分を求めている。丞の頭は既に混乱を極め、パンクしそうになっていた。

「今の俺が本当の俺だ。聖人君子でも何でもない、ただの青臭い男子ガキさ。一度キスしたら、我慢出来なくなった。――ほら、もうこんなになってる」

 そう言うと、丞の腰に自らの下腹を押し付けてくる。掛け布団越しにも分かるほど、彼のそれは硬く大きくなっており――そのリアルな状況に青ざめる丞。

「ひぇっ! …い、いや……お前の気持ちは分かった。分かったけどっ、俺は、龍のこと親友だとしか思えねぇんだ。だからお前も、サカってるのはなんとか収めて――」

 言った途端、両腕でギュッと抱き締められる。丞の首筋に顔を埋めて、龍利はその匂いを思い切り嗅いだ。

「ボディソープの良い匂い…。――分かってる。でも、嫌いじゃないって聞いて安心したんだ。…大丈夫。今はそう思えなくても、必ず俺のこと好きにさせてみせるから。丞に、『龍が大好きだ』って言わせてみせるから。だから今夜は、俺を信じて身を預けてくれ。つらい思いをさせないように頑張るよ」

「だーーーっ!! だからなんでそうなる! ってか、何してんだよっ。脱がそうとすんな!」

 パジャマのボタンを外しにかかる龍利の手を、振り払おうとする丞。すったもんだの末、彼の両腕は龍利の左手でいとも容易く頭上に縫い留められてしまう。なんとかして解こうと試みたが無駄だった。細い身体が恨めしい。


「出来るだけ優しくするから……」


 龍利の毅顔が徐々に下りてくる。間近で直視したその瞳は、熱さを孕み潤んでいた。上唇を軽く食まれる。あにの心配をするどころでは無かったのだと今更ながら気付いたが、時既に遅かった。

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